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寅ンプ頑張論 そのニ ~ アメリカのそれどころではない現実

Posted by 高見鈴虫 on 13.2017 アメリカ爺時事   0 comments
「FACT 1 セントラルパークの水死体」

ご存じの方も多いかもしれない。
五番街に近いセントラルパークの池、
普段からの犬のお散歩コースでもあるこの池に、
水死体が上がった。

今月に入ってからこれで二人目である。
一人目はついこの間、お花見のパーティがあった貯水池であったっけ。

そうか、俺達は背後で水死体が浮かんでいるその前で、
飲めや歌えと馬鹿騒ぎをしていたのだな。
櫻の樹の下には死体が埋まっているとはよく言った物じゃないか。

まあそう、ニューヨークだから、春の水死体など日常茶飯事か、
というと実はそんなことはない。

ニューヨークはすでに、嘗ての凶悪都市ではない。
人口比率からの犯罪率で言ったら、
ともすれば、全米のどの都市よりも、
あるいは下手をすれば日本よりも、
安全であるかもしれない。
夜中に犬の散歩に出ることになんの抵抗もないし、
そんな散歩の途中に、やはり犬を連れたパジャマ姿のお姉さん、
なんてのとすれ違ったりもする。

そう、ニューヨークはいまやすっかりそんな街である。

やばい奴らがいなくなって刺激やハプニングが減った分、
確かに、安全にだけはなったようだ。

とそんなニューヨークにいまさら変死体?
いったいなにが?

警察の発表では、事件性はなし、
つまりは、他殺ではない、ということ。

ということは?

なんか気味悪いわね、と眉をしかめる犬の散歩の面々。

それはそうだ、普段から何の気なしに通り過ぎている池に、
数日間も死体が浮いていたのだ。
これが気味が悪くないわけがない。

ただ、そう、その原因、つまりは死因である。

死体は若い男性。上半身裸で、外傷はなし。

それだけ?それだけじゃさっぱり判らない、
とは言うものの、

むむむ、上半身裸?と聞いて、俺的にはすぐにピンと来た。

なんだ、そういうことか、馬鹿馬鹿しい。
尚も首を傾げる人々に、なに、心配ないよ、と一言。

ただのOD。不落下だよ、不落下。

そう、先日、夕暮れのお散歩時に遭遇した不落下さん。
-> 夕暮れの不落下さん ~ ニューヨークのありふれた春の風景

俗にゾンビー・℃ラッグ、と言われる、いま流行のパーティ℃ラッグである。
あの奇妙なパンカーねえちゃんを目撃したことから、
ちょっとそれなりに調べてみたのだが。
この不落下。
飲んだ途端にいきなり天国、ってのは良いのだが、
身体が火照って焼けるようで、
ついつい、往来の真ん中ですっぽんぽんでタコ踊り、
なんて人たちが続出している、という訳で、
そう、このセントラルパークの水死体も、
不落下熱にやられては、ひゃっほーとばかりに池に飛び込み。

なんだ、不落下か、と。だったら良かった、と。

ねえだったら、あの、ほら、この間の、と尚も誰かが話を蒸し返す。

ほら、先月、西の川沿いの公園でよく見かけた、あの若いホームレス。
あの子が、ベンチで冷たくなってたって言うじゃない?

そう、あのホームレス君。





「FACT 2 リーバーサイドのホームレス君」

あのホームレス。若い、言われてみればちょっとイケメンの、
ホームレスと言うよりはボンビー系のアーティスト風。

本人言わせるところの無類の犬好きということで、
近所の犬の散歩仲間たちからも慕われていた、
そんな気の良いあんちゃん風情ではあったのだが、
いったいどういう訳なのか、
我が家の犬に限って、このホームレス君が天敵の中の天敵。
目の敵とはまさにこのこととばかりに、
その姿を見かけるだけで、
いきなり手綱を振り千切っては我武者羅に襲いかかる。

え?どうして?あのホームレスがなにかしたの?

知らないわよ、そんなこと、というかみさんのその妙にそっけない態度に、
ははん、とすぐにピンと来る。

つまりはそういうことか。でかしたぞブーくん。

という訳でこの憐れなホームレス。
ブーくんに姿を見つけられたとたん、
このスケベ野郎、
僕のママを妙な目つきで見やがったら、今度こそ手加減はしねえぞ、
途端に絶望的な逃走を始めるホームレスと、
火の出るような吠え声を響かせながらその背後に襲いかかる我が家の犬、
この抱腹絶倒の追いかけっこが、
この近所ではちょっとした名物にさえなっていたのだ。

あのホームレスが死んだ。
川沿いのベンチにひとり座ったまま、
朝を待たずに冷たくなっていたそうだ。

で、死因は?
それが、判らないらしいのよ。
外傷はなく、金目のもの、
と言ってもまあなにも持っていないだろうけれどさ、
そう、強盗でも殺人でもなかったらしいの。
だから心配はいらない、って。

そんな話を聞くともなしに聞きながら、
普段から彼がよく座っていたベンチに添えられた花、
その前で、形だけでも手を合わせては、
ぶー、今更なんだが、きっちりと詫びを入れておけよ、
ということも忘れなかった。

今でも、深夜にひとりでドッグランなどにいると、
ふと暗い、フェンスの向こうからふと人の気配、
恨めしげに、と言うよりは、いまにも、ハローと手を振りそうな、
そんなあっけらかんとした妙な雰囲気で俺達を見つめている、
そんな気配には気がついてたのだ。

近づいてみれば誰もいないものの、
ふと見ると我が犬も、そっちの方向をじっと睨めつけては、
やにわにぐるぐる、と喉を鳴らしはじめていたり。
つまりはそういうことか。
どうも、綺麗さっぱりと成仏、という訳にはいかなかったようだ。
いや、待てよ、とふと思う。
もしかしてこいつ、まだ自分が死んだことに気がついていないのではないか?
そのあまりにもあっけらかんとした気配を感じながら、
思わずあの、抜けた歯を見せては、
おいおい、判った判った判ったから、もういい加減に勘弁してくれよ、
そう言っては笑うホームレス君の姿が、ありありと蘇ってくるような気もしたものだ。




「FACT-3 プリンスの死」

プリンスの死を知った時、
素直に心から悲しめなかったのは、
つまりはその死因によることろが大きい。

オピオイド?鎮痛剤?いったいなんだよそれ。

ロックスターである以上、℃ラッグのOD死は、
一種、ステイタス・シンボルのようなものでもあるのだろうが、
ヘ炉インでもコ毛インでもなく、ペインキラー?つまりは鎮痛剤・・・?

いったいなんのことだ?

プリンス、
これまで数々の珠玉の名曲を送り出してきた、
このアメリカ音楽史上最大の魔神。
一時期は、ヒットチャートの、
その何から何までが徹底的にプリンスばかり。
たまに聞きなれぬ名前が紛れ込んだとしても、
これもどうせ、偽名を使ったプリンスに違いない。

俺達の世代のミュージシャンたちにとっては、
まさに、神と並び称された、まさに、魔神の中の魔神。

一頃のクラブ・ブームの頃、
知る人ぞ知るのアンダーグラウンドの秘密クラブのVIPルームに、
巨漢のガードマンを引き連れて訪れるこのプリンスの姿があった。
その姿、まさに、ニューヨークの夜の貴公子、あるいは、帝王。
遊び人を自称するニューヨーカーたちの全てから、
これ以上無いほどの尊敬を集め続けたこの真の天才の中の天才。

ただ、そんな天才の最後を飾るにしては、
この、鎮痛剤の飲み過ぎによるショック死、という報道、
どうにも腑に落ちない、そんな曖昧さの中で、
いや、プリンスはまだ死んではいない、
あるいは、そう、またいつもの茶目っ気半分の隠れん坊。
手を変え品を変え名前を変えては、
珠玉の未発表曲の数々が、これからも尽きることなく、
流れ続けていくに違いないのだ、
そんな曖昧さを残したまま、
いまだに俺達は、このプリンスという巨人、
愛して止まなかったあの正真正銘の天才の死を、
いまだに受け入れることができないでいるのだ。







「FACT-4 マサチューセッツの悲劇」

その頃からだろうか、ニュースの片隅を、妙な記事が埋めるようになってきた。

中西部の中産階級社会における麻薬の蔓延。

今や、非常事態宣言:ステイト・オブ・エマージェンシー状態にあるという、
この簡素な地方都市を震撼させる℃ラッグ危機。

そう、そんなニュースは小耳に挟んだ覚えがある。

CNNの人気番組、
セレブリティ・シェフ:アンソニー・ボーダインによる紀行番組「パーツ・アンノウン」
勝手気ままに世界の街角を訪ねては、
そこに集う地元の人々との気の置けない世間話をしながら、ご当地グルメに舌鼓を打つ、
そんな呑気さが売りである筈のこの番組において紹介されたこの衝撃の事実。

東部マサチューセッツ州、フランクリン・カウンティ、
この山と川と湖と、その風光明媚な別天地、
緑の杜の中に、お菓子のおうちと教会が散在する、
それ以外、なにひとつとしてなにもないような、そんな簡素な田舎町。

白人住民たちばかりに囲まれた、
この一種アメリカの幸せな風景のその象徴とさえ見なされてきた、
そんな平和を絵に描いたようなWASP的別天地において、
いま、ヘ炉イン中毒患者が驚異的なまでに急増を続けているという。

マサチューセッツで、ヘ炉イン中毒?
いったいなんのことだ。

そのカラクリとはこうだ。
医者から処方された鎮痛剤、この中に強烈な中毒症状を伴うものが含まれていて、
腰痛やら胃痛やら、そして、ガンの長期療養を続けていた患者たちが、
一人残らず、知らぬうちに麻薬中毒の沼の中に引きずり込まれていた、という。

医者に処方された鎮痛剤で、田舎町の住人が一切合切ヘ炉イン・ジャンキー?

いったいなんのことだ?

アンソニー・ボーダインが苦渋に満ちた声でこう訴える。

これは忌忌しき事態である。
アメリカの医療機関、医者と製薬会社と保険会社のズブズブの癒着を、
早くどうにかしないと、そのうちアメリカ中がその根本から朽ち果ててしまうことになる。







「FACT-5 エイズ渦中以来の葬式ラッシュ」

早朝のセントラルパークでちょくちょく顔を合わせる寿司職人のヤスさん。
ニューヨークのアイコンとも言える有名人たちをお得意様に抱える、
知る人ぞ知るのセレブリティ・寿司屋さんである。

その口八丁手八丁の商売上手、
この街のことで知らないことはない、というほどの、
自他共認める地獄耳、の御仁である。

そんなやすさんの口から、思いも寄らぬ言葉を聞かされた。

いやもう、最近、葬式ラッシュで。
これだけ葬式がたて続くのは、あのエイズ・ラッシュ以来だな。

葬式?エイズ・ラッシュ?

つい先週もね、古くからの知り合いのさ、娘さんがね、ぽっくりと。

娘?おいくつの?

それがまだ、二十歳そこそこだって言うんだよ。
まあねえ、例によってシングル・マザーだったしさ。
そう、昔、うちの店でウエイトレスやってた、その娘。
あれだけ苦労して育てて来たってのにさ。
ただ、その娘ってのが、親の気持ち子知らずの不良娘。
高校をドロップアウトしてから、家出しては警察に補導されて、
そんなことばかりやっていたらしいんだがね。
まあそう、元々は頭の良い子だったし、
そのうちに落ち着いてくれるだろう、
なんて呑気なこと言っていたら、
いきなり、ぽっくりとね。

いきなり、ぽっくり?

まあねえ、親にしたって水商売だしさ。
住んでいるところだってブルックリン。
まあそう、ウエイトレス風情のシングル・マザーじゃあ、
そんなところにしか住めないのは仕方がないんだが、
あんなところに住んでいればねえ、
そりゃもう、子供だってギャングにでも入らなきゃ、
おちおち通りも歩けねえってもんでさ。
まあそう、リッチ・ジップって言うのかね、残酷なもんだよね。

で、その死因は?

さあねえ、ただ、こう言っちゃなんなんだが、
二十歳の娘さんのね、その死に顔が、見れたもんじゃなかったって。
まるでかぼちゃみたいに顔中がパンパンに腫れ上がってね、
その上から無理やり死化粧を塗りたくったもんだから、
まるでハロウィンのおばけのようだったってね、
悪いことはするもんじゃないやね。



「FACT-6 ニューヨークの底の底」

まあそう、それだけ聞いただけで、大抵の事情は判ってしまう。
つまりはそう、そういうことだろう。
お決まりの登校拒否から、
学校をさぼってぶらついているうちに妙な男に引っかかって、
その後はお決まりの転落のパターン。
いつしか薬に縛られては射たれて売られての繰り返し。
そう、俺だって知らない訳じゃない。
そしてそんな話は、いまに限ってのことでもない、その筈じゃなかったか。

ただ、とふと思う。

最近のガキども、正直、ちょっと可愛そうだな、とは常々思ってはいた。

嘗ての不良の王道であった、セックス・℃ラッグス&ロックンロール。
そして、ロックンロールが潰え、若者に残されたものはセックスと℃ラッグ、
そのばかり、その繰り返し。
先人の切り開いた轍の上をいとも簡単に駆け抜けては、
なんの抵抗もなく、その代わりに、葛藤も、軋轢も、反抗も、
それを裏打ちする気力も、知性も、信念さえもないままに、
その方法論、その結果ばかりをいとも簡単に手に入れてしまう子どもたち。

そしてロックンロールの代わりに若者たちの代名詞になったヒップホップ。
反体制や、反戦思想や、反権力は、
いつしか、ギャング同志の抗争に置き換えられ、
すべてがすべて、セックス・アンド・マネー。
その恐ろしいまでの短絡、その悲劇的なまでの反知性、
そんな希望を失った子どもたちに残されていたものが、
浪費だけを目的とする散財と、
そして、なんの意味さえも持ち得ない安易なセックス。
そんな時代の潮流に悪戯に流されるまま、
ロックンロールを失った子どもたち、
夢も希望も、ロマンも欲望さえも失ったまま、
セックスにも℃ラッグスにも飽きが来て、
そして落としどころもないままに、同じところをぐるぐるリフレイン。

で、この時代、その落とし所ってのは、いったいなんなのか。

ただ、それを指し示すのが、
ロックの、あるいは、表現者の使命、
その存在価値であった筈、じゃなかったのだろうか。

ただね、とヤスさんが繰り返す。
妙なんだよ、実はそんな話が、月に一度は、ひょこりひょこりとね。
そう言えば先月も、お客さんひとり、
なんか最近顔を出さないな、と思っていたら、
なんてこった、ぽっくり逝っちゃってたってさ。
テレビ関係の仕事をやっていた羽振りの良い人だったんだがね。
若い綺麗な愛人を連れ回しているかと思ったら、二人揃ってだってさ。

で、死因は?

それが、知らされないだよ。
事件性はない。外傷もなく物盗りの犯行でもない。

つまり?

さあ、そのへんのことは、あんたの方が詳しいんじゃないのかい?

つまりは、℃ラッグ?そんな良いおとなが?

ああ、今日び、また妙な薬が流行っているらしいね、
地下鉄の駅ですっぽんぽんになって転げ回っている奴らがいるって言うじゃないか。
そう言えばこの間もね・・・








「FACT-7 勉強メガネのOD死」

嘗てちょっと世話になった会社からひょっこりと連絡を貰った。
もしかして、まだ仕事を探しているようなことがあったら、
と思ってさ。
実は・・・
エドナが会社を休んでいる。
もしかすると、彼女のポジションが空くことになるかもしれないのだが、
あのポジションに、興味があったりするかな?

いったいなにがあったの?エドナ、まさか病気でも?
いや、と途端に口をつぐむ元上司。

いや、実はね、娘さんが、亡くなったんだ。

エドナさんは、嘗て場繋ぎ的に引き受けた突貫作業的なプロジェクト、
夜通しの作業の続く究極のやっつけ仕事にありついた際に、
そこで早番を担当していた女性社員であった。

朝六時から午後三時までの早朝シフト、
まだ暗い誰もいないオフィスにひとり出社しては、
大して面白いとも思えない機械的な事務仕事、
それをすでに10年以上に渡って続けている、
そんな見るからに薄幸の中年女性。

彼女はやはりシングルマザーであった。

嘗ては有名大学に在籍し、
決して馬鹿でもなく無能でもない筈の彼女が、
いったいどんな風の吹き回して、シングルマザーとなり、
それがためにこんなぱっとしない仕事を続けているのか。

夜勤仕事も終わりに近くなった頃、
やっほー、おはよう、と場違いに明るい声を響かせてやってくるエドナさんの手には、
いつもドーナッツの大箱とコーヒーの詰まったコンテナ。

みなさん、お疲れ様、さあさあ、遠慮なく召し上がって。

あの殺伐とした夜通しの突貫作業の末、
そんな女性らしい気遣いがいったいどれだけありがたかったことか。

へえ、シングルマザーなんだ、大変だね。

うん、でも、いいのよ。私には希望があるから。
観て、これが娘のソフィー、どう美人でしょ?

その贔屓目にも美人とは言えない、
土瓶メガネをかけたすきっ歯の少女。
16歳ということなのだが、どう見ても小学生にしか見えない、
まさに絶望的なまでにいけてない、勉強メガネの女の子。

ソフィーはね、数学の天才なの。
ありとあらゆる数字を暗記して、どんな計算でも一撃で答えるの。
行く行くは、MITか、あるいは、ハーバード、イェールでも、プリンストンでも。

そんな他愛もない娘の自慢話を聞かされながら、
その時ばかりはまるで存在自体が生き生きと輝いてさえ見える、
この中年女性の娘に賭ける思いだけは、ひしひしと伝わって来たものである。

その娘が死んだ?まさか・・・

その大してありがたくもない的外れなオファーに、
形だけでもお礼の言葉を返しながらも、
エドナの娘が死んだ?・・いったいなんてことだ・・

将来はMITか、ハーバードか、と目を輝かせていたエドナさん、
まさに人生のその全てであった筈の愛娘を失ったエドナの心中が、
いったいいかなるものであるのか、
そのあまりにもあまりある心痛の中で、
思わず言葉を失っては立ち尽くしてしまった。

いったい、なにがあったんだ?・・・

思い余って、嘗て夜勤作業を共にしたバディにテキマを送った。

よう、WHATSUPの挨拶の後、

で?エドナの娘、いったいなにがあったんだ?

それは予想に反して、あるいは、恐れていた予感通り、
残酷な二文字。

OD

まさか・・・








「FACT-8 人間の底の底」

嘗て、麻薬は無法者だけのステイタスであったその時代。
一端の悪を気取ったつもりになっていた俺もご多分に漏れず、
物は経験とばかりに、それなりにそれなりのものは一応試してみた覚えがある。
中学時代のアンパンから始まり、高校に入ってのシャブと、
そして米軍まわりから流れてくるマリファナに加え、
ピエロと呼ばれたあのアシッドを染み込ませた紙片から。
その後、日本を出た途端、津波のように押し寄せてきた℃ラッグの渦。
バンコックに到着してその夜から、たった一ヶ月にも満たない間に、
草からショコラから魔法茸から、
ア屁ンからブラ雲シュガー、そしてヘ炉イン。
そんな℃ラッグの王道を一挙に駆け抜けることになった訳なのだが、
そんなイニシエの知識を紐解く限り、
炙り、では、死なない。

錠剤であっても、スニフであったにしても、
酒やらなにやら、あるいは、相当に質の悪いものをちゃんぽんにするか、
あるいは、それこそ、死ぬ気で、それが目的でバカ食いするか、
それ以外に、ODで死ぬとしたら、
それはまさに、ポンプ、つまりは、静脈注射。

俺のような相当に悪を気取った覚えのある者にとってさえ、
初めて、あの注射針の先が血管にめり込んだ時、
一種、もう常人の世界には戻れない、
そんな、決意にも似た絶望が駆け抜けた覚えがある。

そう、炙りと、ポンプ、
同じヘ炉インでありながら、その間には、
一種、人生そのものをあり方が変わる、
そんな決意のようなものが必要であった筈だ。

それを俺達は、川に例えていた。

奴はやばい、もう、川を、渡ってしまった。

明らかに三途の川を想起する、その川なるもの。

そんな川をついに渡ってしまった時の、
あのなんとも途方もない絶望感と、
その代償として得られる、段違いの快楽。
そして、もう決して戻ることのない、さっきまでの川の向こう側の、
あの、一種精錬なまでの健康的な日常風景。

そんな他愛もない筈の日常風景が、
ふと堪らなく愛おしいものにも思えた、
そう、こんな俺でさえ、あの川を渡った時には、
それなりの決意が必要だった筈である。

あの川を、まさか、17歳の、
それも、MITだ、ハーバードだと言う、
そんな勉強メガネの高校生が、
いとも簡単に渡ってしまったというのか?

部屋の灯りを落とし、ランプシェイドにスカーフをかけて、
テーブルの上に点したろうそくの光に晒した、
あの、鈍く光るスプーン、そこで泡立つあの悪魔の雫。

そんな光景がまざまざと目の前に浮かんでは、
いや、ありえない、と思わず。

いや、ありえない。
あの三途の川は、もはや℃ラッグという℃ラッグ、
そしてそこに付随する、セックス、
その自堕落な快楽の中に溺れに溺れきった末に、
魂を悪魔に売り渡す、その決断なくしては渡るに渡り得ない深く広い川。

それはまさに三途の川だ。
一度渡ったが最後、もう後戻りもできないまま、
川の向こうの嘗て暮らした風景が、
眩しくも麗しくも、そんな憧憬の対象にさえなってしまう、
孤独と快楽の中、死と生の狭間に揺れる、それはまさにゾンビー気分。

あの絶望的なまでの孤独を、まさか高校生が、
それも、将来というものをいまだに固く信じていただろう、
そんな世間知らずの勉強メガネが?

改めて言えば、
℃ラッグによるOD死。
だがその殆どが、心臓麻痺や、混入した異物によるショック死、
などではなく、その死因としては窒息死。
血管に直接ぶち込んだヘ炉インのあの重い重い酩酊の底で、
無意識のうちに嘔吐した、
その吐瀉物が喉に詰まった末の事故死によるものがほとんどである筈だ。

ヤクのきまった輩をひとりにしないこと、
そして、仰向けに寝かさないことは、ジャンキー仲間の鉄則でもあった筈。

とそんな嘗ての苦い記憶を辿りながら、
いやしかし、と首を振る。

いや、あり得ない。
あの、世の自堕落、そのドブの底を這いずるようなあの世界と、
前途有望な世間知らずの勉強メガネ、
友達のところで、いっしょに宿題をしてくるね、と言い残した、
そんな少女が、捲り上げた腕に注射器を突き立てる、
そんな光景がどうしても一致しなかったのである。








「FACT-9 印象派の真理はモルヒネと見つけたり」

なあ長文のおっさん、
あんたいろいろやってきたそうだけど、
で、ちょっと教えてくれよ、この世で一番良かった℃ラッグ、
それって一体なんだい?

そんな無邪気なコメントを頂いた覚えがある。

さあな、まあそれって人によりけり。

そう、兎欲はシャブで砂浴ははっぱ、
佐渡はアッパーで真祖はダウナー、
人によりけりじゃねえのか?

とは言いながら、そう俺の味わった中で、
これだけは、絶対に誰にでもお勧めできる、
まさに当たり外れも、バッドトリップもない、
まさに、夢のような最高の℃ラッグ。

それはな、胃潰瘍・笑

いや、そう、以前、胃潰瘍でぶっ倒れては、
ER:救急病棟に担ぎ込まれた際、
病室のベッドに横たえられた途端に、
さあ待ってました、とばかりにぶっ刺された点滴の針。
その途端、ついさっきまでの七転八倒の激痛が、
まるでウソのように掻き消えては、
それはまるで、春の花園、その上をチョウチョちょうちょと飛び回る、
そんな気さえした、あの、甘く柔らかい薄紫の霧。

その薬を、医学用語で、モルヒネ、と言う。

モルヒネ。

そう言わずとしれた、ケシを原産とする、
阿片を筆頭に、ブラウン・シュガーを経てヘ炉インに至る、
その過程で抽出される、鎮痛剤である。

その絶対的なまでの安息感。

夢心地の俺を覗き込んだ若い医者がウインクを送ってよこす。

どうだい、気分は?

ははは、最高だなこれ、と冗談めかして答える。

そう、最高だろ、モルヒネ。

ああ、エックスよりもスピードよりも、下手すれば、ハッシシやヘ炉インよりもいいぜ。

そう、モルヒネ、最高だよ。世界最強の℃ラッグだ。
ま、胃潰瘍だな。胃にもう少しで穴が空きかけてたよ。
もう半日遅れてたら面倒なことになっていた。
まあ、そう、原因はストレスだな。
たまには、モルヒネで究極のリラックス。ゆっくりしていくのも良いさ。

そんなモルヒネ、いったいどう表現したら良いのだろう。

ただ、俺はそんな甘い霧の中で、ふと、モネ、
あの、深い森の中に沈む人知れぬ緑の池、そのさざ波の広がる蒼き水面と、
そして、ドビッシュー。月明かりの粒子が降り注ぐような静寂に満ちた凪いだ海の光景。

そうか、印象派の真髄とは、モルヒネと見つけたり、
そんなことを思っては、ひとりほくそ笑んでいたのだ。






「FACT-10 現代人の行き着く先、その安息の地とは」

それはあまりにも出来過ぎたまでの偶然であるのかもしれない。

このなにもかもが倍速再生のスピード社会、
始終、イライラと神経を逆立てては、息をつく暇もないほどに、
せかせかこそこそと小突き回される日々の中で、
ふと見れば頭上に光る赤い光。
それはさに、HAL。
スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」において、
自身を全能の神と錯覚した人工知能。
その底知れぬ悪意に満ちた視線に晒されるままの、
この雁字搦めの管理社会。
コンプライアンス、レギュレーション、セキュリティ、
コストパフォーマンのクオリティ・コントロール。

脳内のアドレナリンの全てを放出し尽しても尚、
我武者羅なまでの疾走を要求されるこの究極の競争社会。

この末期的な資本主義社会の中にあって、
人々はすでにそのホメオスタシスの限界を遥かに越え、
もはや狂気に満ちたブロックダンスを踊り続けるばかり。

この止めることのできないジェットストリーム、
一度乗ったが最後、その錐揉みの中で疲弊に疲弊をされつくされては、
ボロ布どころか、その体液の一滴残らず絞りに絞り尽くされる、
まさに、産業資源としての労働力、そのもの。

ただ、そんな狂騒からひとたび転げ落ちた途端、
まるで井戸の底にひとり放り込まれたかのような、
絶望的なまでの隔世、その孤独の底の底に叩き込まれる訳で、

そして、時世の溺れ谷の中に淀んだ人々、
その末期的な徒労感の中、
まるで、ガンが内蔵を食い荒らすが如く、
ストレスという魔物が、脳内から神経細胞の全てを侵食を始め。

現代社会の産廃としてすっかりと使い捨てられた人々、
ついには身体中を病魔に食い荒らされたまま担ぎ込まれた病室のベッドの上。

モルヒネか。まさに、最強最高の℃ラッグ。

パステルカラーの幻影に包まれたまま、月明かりのシャワーに洗われながら、
現代人の行き着く先は、結局ここ、この殺伐とした緊急病棟のベッドの上、
腕に刺さった点滴から流し込まれるモルヒネの夢幻の中で、一人勝手に夢心地。
そう、これこそが、現代人の行き着く先、その唯一の、安息の地なのだ。

そしてそれ以外に、この世にはもう、逃げ場はない、のかもしれない。







「FACT-11 フェン太ニルという史上最凶の医薬品」

その薬の名前は、フェン太ニル:FENTANYL と言う。

ご存知であろうか。

幸運にもいまだにこの悪魔の名前をご存知ないようであれば、
その教訓と、事前回避の意味を込めて、
ためにしグーグル、あるいは、ようつべ、
そこでひとたび検索、などをかけた途端、

これまで上げ連ねてきた、この現代社会の摩訶不思議なFACT、
その謎の答えが、あっけからんと赤裸々に、
これでもか、とばかりに、転がり出る筈である。

改めて、ご紹介しよう、このフェン太ニル、別名、オピオイド、
列記とした、プレスクリプション・℃ラッグ、
つまりは、医師によって処方される、鎮痛薬、列記とした医薬である。

この品行方正な医薬品が、いま、世界を完膚なきまでに席巻し尽している、
その禍渦の根源となっている。

今朝乗った地下鉄、ワールドトレードセンターから、
川向うのニュージャージー、エクスチェンジ・プレイスに向かうパス・トレインの中、
さりげなくなにげなく掲示された、その地味な地味過ぎる広告の文字。

  あなたの子供はいまなにをしていますか?
  すぐに電話をしなさい。いますぐにです!

  今年に入って4月までの間に、
  去年一年間の、高校生の℃ラッグ中毒死、
  すでにその四倍に当たる死者を出しています。

  ヘ炉インはたった五分で、
  あなたの子どもは二度と帰らぬ人にしてまいます。

  子どもたちが危ない。
  いますぐに子どもたちを悪魔の元から引き戻しなさい。



「FACT-11 100発の花火を一度に打ち上げるその愚行」

そんな広告を見るともなく見ながら、
あの憐れなシングル・マザーたちの、その生命の礎であった愛娘を奪い去った、
ヘ炉イン、ならぬ、このフェン太ニルという医薬品。

ただ、と俺はまだ、その死を悼むには懐疑的でありすぎた。

ただ、そう、ODだろう。
つまりは、ポンプ、静脈注射。

高校生がそんなものに手を出して、
生きて帰れると思うほうがどうかしているのだ。

誤解の無きように改めて言わせて貰えば、
麻薬をやったからと言って、すぐにでも中毒になる、
なんてことは、少なくともいままではなかった。

だがしかし、そこに罠がある。

麻薬の本質は自堕落であり、そして、それは快楽と密接にリンクする。

その麻薬を、快楽の為の道具として見いだした時に、
麻薬は初めて、その本質である悪徳の牙を剥く。

一度麻薬を使用してのセックスを経験してしまうと、
並大抵のことでは、麻薬なしのセックスに満足を得ることは不可能だ。
恋が愛が、限りない上昇の中で、燃えに燃え上がっていく宿命にある以上、
一度でもひょんなことから使用したモーター、
そのあまりの快楽の中に我を忘れては、より一層の愛の燃焼を求めて続け、
次から次へと、より強力なモーターに手を染めることにもなる。
愛がなお一層の燃焼を必要とし、昨日より今日、今日よりも明日の、
より一層のクライマックス、そのエスカレーションを宿命とする以上、
一度手を出してしまった麻薬は、その後、なし崩し的に必携ともなっていく。
恋と愛を混同し、愛と悦楽を同一視したところ、
つまりは、映画からテレビから、そのメディアにのってこれでもかと垂れ流される、
資本主義の根源となるところの欲望の扇動、その行き着く先こそが、
この、恋と、愛と、そして、欲望のすべてを追い求める為の、℃ラッグという魔法の杖。
そんな愛し合うふたりの熱狂の、その飽和の果てが、このアメリカ。
すでに欲望の屍と化した、その姿なのかもしれない。

そう、俺にだって経験がない訳じゃない。
ヤクを使ってのおまんこはまさに別格だ。
一度ヤクを使ってまうと、それの無いおまんこはまさに、気の抜けたビール、そのもの。
そこには酔も熱狂もなく、白けた思いに滲んだ汗までもが冷え切っていく。

敢えてその、人間としての一種、極限なまでの悦楽を捨ててまで、
再びあの、クソ喧しいだけの普通人たちの世界、あのバカバカしいちーちーぱっぱの中に、
戻らなくちゃいけない義理もへったくれもない。

そう、俺達は川を越えた人々、つまりは、人智の極限を極めた特別な人間なのだ。
俺達は知っている、人間のその叡智の果ての、常人達は決して知ることのできない、
その人生の最上たる、悦楽の極みという世界を。

それこそが、ジャンキー達がジャンキー足り得る、ジャンキーの本懐とも言える優越心の真髄なのだ。

ただ、若き体力と精力と、その全てが全てが成長の真っ只中にある、そんなティーンエイジャーたちが、
まさかこの、麻薬を使った極限的な悦楽、なんてものを知ってしまった日には、
本来であれば、その人生のすべての時間を使って、少しづつ少しづつ、
まるで、噛めば噛むほど味が出ては、味わい続ける筈のささやかなる生きる歓びを、
その人生の駆け出しの一瞬の中で、全てを一挙に燃焼させては浪費し尽してしまう、
それはまるで、60分の間に打ち上げる筈であった100発の花火を、
いっせのせ、で、100発同時に打ち上げてしまった、そんな大失敗花火大会、
そのあまりの茶番的なまでの大失態、そのものではないか。

それはまさに、俺自身のこの人生の、苦い失敗。
その反面教師という意味も込めて、ロックを失った子どもたち、
セックスとそして℃ラッグ、それ以外にはなにもない、セックス・アンド・マネーな資本主義の餓鬼たち。
その悲しい宿命を思わずには居られない。
その最後の餞に、心からの別れの言葉を送ってやろう。

ガキども、ODだと?ばかが、自業自得だ。








「FACT-12 禁煙用ニコチンガムというこのあらたな中毒」

そんなことを思いながら、
そう、それはしかし、明らかに嫉妬、の感情も入り乱れた上で、
若くしてセックスと℃ラッグ、
その悦楽の全てを味わい尽くしてしまった、それこそがこの世で最も幸せな悲劇。
まあそう、無駄に長生きしたからと言って、だからなんなんだ、という気がしないでもなく。
生き急いだ男が死に損ねた末のこの体たらく。
ガキどもの、こうはなりたくねえなあ、の、
その生き恥の最もたる悪い見本にされているような気もして、
そう、ばつが悪い、悪すぎる、そんな居心地の悪さを感じながら
ああ、またタバコが吸いたくなってきた、と苦い舌打ちを繰り返しながら、
ポケットの底に転がるピルケースから、ニコチン入りのチューインガムを口に放り込む。

そう、俺はタバコを辞めたのだ。
あれはどんな理由であったのか。
そう、そう言えば、そうそう、あのベビーメタル。
去年の夏のツアーの最中にユイちゃんが腰を痛めた、
そんな勘違いの中で、願掛けがてらに、タバコを辞めた、それがきっかけであった筈。

そんなこんなでタバコを辞めたのは良いのだが、
いまとなっては、そのタバコの代わりに、いつの間にかすっかりと、
このニコチンガムの中毒に成り果てている訳で、
タバコと違って、わざわざ外に出て、一服吹かして、
というその仰々しいまでの儀式性を省略した分、
仕事中から会議中から、朝から晩まで、それはのべつ幕なしの一日中、
徹底的にニコチンガムを噛みしだいて暮らすことにもなって、
少なくとも血中内のニコチンの濃度だけで言えば、
タバコを吸っていた時代とは比べ物に成らないほどにまで、
徹底的なニコチン漬けになってしまっている、
その弊害の皮肉には呆れてものを言う気も起きてこない。

ただふと見れば、そんな俺に、妙にものありげな視線を飛ばす人々。

なんだ?これか?これ、ただのニコチンガムだよ。
タバコ辞めたんだ、偉いだろ?褒めてくれてもいいぜ。

そう、そう言えばそう。そう言えばそうなんだよ、このニコチンガム。
ポケットからピルケースを出してニコチンガムを口に放り込むたびに、
地下鉄の中の乗客たちの中にふと、
妙に意味ありげな視線を送る人々がいることには気づいていた。

ニコチンガム、そんな悪いものなのか?



「FACT-14 ニコチン用パッチのその悪用法」

そう言えば、禁煙用のグッズの中に、二つの種類があった。
このガムと、そして、パッチ。
歯の悪い人、あるいは、ガムを噛むことに、ちょっとした、品位の抵抗のある方々。
そんな人々に向けてのパッチ、というもの。
トクホンではないが、肌に直接貼り付けては、皮膚から徐々に吸収されるニコチンによって、
血中のニコチン量を加減しながら、少しづつ少しづつ、喫煙に対する欲求を遠ざけていく。
たかが禁煙、されど禁煙。
このニコチンの中毒症状が、実は実は難敵の大敵。
下手をすればヘ炉インの禁断症状さえも上回るほどの、
ニコチンには強烈な中毒症状があるらしい。
そのニコチンの呪縛から逃れるために、
このニコチン入りガム、あるいはパッチ、という代替品が処方される訳だが、
当然のことながら、このガムにもそしてパッチにも、
ニコチンが、それも、タバコとは比べ物にならないぐらいに、
ピュアなニコチンが、下手をすればタバコのそれを遥かに凌駕する濃度で、
ばっちりと含まれている訳で、
だとすれば、ニコチンガムを噛みながら、
あるいは、パッチをした状態で、その上からタバコを吸ってしまったりしたら、
それはまさに、一撃でOD、そんな危険さえもある、まさに諸刃の剣。

そして改めてこのパッチという奴である。

皮膚からの吸収を前提としている為、
実はそこに含まれる濃度と言うやつが、まさに半端ではない、と聞く。

あのニコチンパッチ、
あのニコパッチ、通常であれば、一ヶ月分のニコチンの含まれるこのニコチン凝縮パッド。
あれを誤って、ガムと間違えて口の中に放り込んでしまったが最後、
それはまるで、昔の駅の吸い殻入れにあったような、あのニコチンが溶け込んだバケツの水、
あの茶色い液体を一気飲みするような、とてつもない量のニコチンを一挙に摂取することにもなる、
まさに自殺行為となりはしないか?

そう、すべての間違いはそこから起こった。

このタバコと、ニコチンガムと、そしてパッチの関係。

それと同じことを、考えついた奴がいた、のである。

それがすべての間違いのもとであったのだ。







「FACT-15 パッチというこの新たなる悪魔の形態」


さあ、そろそろ種明かしである。

このまさに、爆発的なまでに全米を震撼させる高校生のOD死、
その理由。

イニシエの℃ラッグ体験の浅知恵から、
高校生が注射器使ってヘ炉インぶち込んで、
そんなことやって、死なないほうがどうかしている。
自業自得だ馬鹿野郎、そんな暴言を呟きながら、
しかし、心の底に渦巻いていたあの疑問。

それほどまでに多くの高校生たちが、
あの、ろうそくつけて、腕を縛って、消毒したスプーンの上に蒸留水を垂らして、
なんていう、面倒くさい行為を、わざわざやるか?
しかも、あの、痛い痛い、見るからにヤバそうな注射針から、
いったいどれが動脈でどれが静脈で、
そしてないより、高校生の腕に注射だこ?
それってあんまり、ありえなくないか?

そんなあったり前田の疑問の答え。

そう、その答えこそが、パッチ、なのである。

パッチ?

フェン太ニルという史上最凶の医薬品、
モルヒネの数百倍と言われる鎮痛効果のあると言われる、
この超絶的なまでの、化学薬品。

始終、壮絶なる痛みと向かい合わせて生きるがん患者たちの為に、
肌に貼り付けたまま常時、休みなく処方され続けるこの鎮痛パッチ。
その効用は一ヶ月分。
錠剤として処方される経口用の、胃の保護を考慮したその滑らかな効用に比べ、
一ヶ月分を一枚のシートに凝縮されたパッチ、
その濃度の濃密度は半端ではない筈。

通常であれば、鎮痛剤として使用されるこの強力な科学の粋を、
よりによって、とてつもない方法で使用する輩が現れたのである。

パッチを噛む。

錠剤にして数百個分の濃度の集約されたこのニコチンパッチ、
これをあろうことか、ガムのようにして噛みしだくことによって、
通常の鎮痛用の効果、その用途を遥かにぶっちぎった、
とてつもない分量の成分が一挙に身体に吸収される、
それによって巻き起こる、凄まじいばかりの鎮痛効果、
成らぬ、それはまさに、俺の体験したあの印象派的世界、
その数百倍数千倍。

あの甘く優しい薄紫の闇が、一挙に身体中を持っていっては、
まさに天国の果てのそのどん詰まりにまで運び去ってしまう、というのである。

まさにそんな奇跡を生む、このなんてことはない、たった一枚のトクホン・パッチ。

ねえこれ、ちょっと舌の上に乗せるだけで、すごくリラックスできるのよ。
まるで、お花畑の上でちょうちょのようにひらひらして、
満月の浜辺で月の光のシャワーを浴びるような、
そんな素敵な気持ちになれるの、勉強疲れの気分転換に最高なんだから。

それはすでに、麻薬、という概念は微塵もない。
チューインガム、あるいは、錠剤、への罪悪感ほどさえも感じさせない、
そのなんの変哲もない、一枚のトクホン・パッチに、
あろうことか、モルヒネの、ヘ炉インの、数百倍の陶酔効果が含まれているのである。

そう、高校生たちは、麻薬をやる、その気構えも覚悟もないままに、
それはまるで、キャンディ、あるいは、ガムの代わりに、
このとてつもない濃度を含有したパッチを、
何の気なしに口の中に放り込んでしまっていたのだ。

なにこれ、なんか、まずい、そう思って吐き出したとしても、それは後の祭り。

下手をすればその五分後に、脳は、そして呼吸器は、
その運動を止めてしまうのである。



「FACT-16 虫国の白い粉」

このあまりにも安易な、そしてあまりにも強力な、
フェン太ニルという合成医薬品。

本来であればがん患者の鎮痛剤として用いられる筈の、
由緒正しき厳然たる医薬品が、
その用途をちょっと変えただけで、
世界最強最凶の℃ラッグへと姿を変えてしまう。

もちろん、この医薬品の製造会社に罪はない筈である。
そう、これは列記とした医薬品なのだ。
そしてそれを、正真正銘の医薬品として必要としているがん患者の方々もいる。

ただ、それはプレスクリプション、つまりは、医者の処方箋があって初めて入手できるもの。

その医薬品が、何故にこれほどの氾濫をみるに至ったのか。

フェン太ニル、別名を、チャ井ナ・ホ和イト、という。

名前の通り、それは虫国を原産とするケミカル、つまりは、合成薬品である。

その薬が開発された当時、そのあまりに強烈な効用から、
使用した者がすべてOD死を遂げ、ヤクザ世界からさえも、
呪われた薬として恐れられた、そんな理由があった筈なのだ。
そんな因縁から長らく封印されていたこのチャ井ナ・ホ和イトが、
なぜいまになって突如の氾濫を見るに至ったのか。

そう、そこには、パッチ、という新素材の存在がある。

そのパッチの使用しては、より強力な℃ラッグを作り上げ、
あるいは、それを流用しては、既存の麻薬の水増し用に使う、
そんな無茶をやる輩が現れることも必然と言えば必然。

この超高濃度のパッチを、電子レンジで温めることにより、
パッチに染み込まされていた成分が熔解しては一挙に流出する。
それを水に溶かして、既存のヘ炉イン、
あるいは、それと称したなんらかの粉末に染み込ませる、
それによって、これまでのヘ炉インの数百倍の水増しが期待できるのである。

錠剤を砕いて粉末にしては鼻から吸い上げ、
あるいはそれを水に溶かして静脈注射。
そして、パッチをガムの代わりに噛みしだいて。

ただ、人々はまだ自覚がない。
これは、自然界に存在した、あのキング・オブ・℃ラッグ、
あのヘ炉インの、数百倍の効果を持つ、まさに当然変異もモンスターなのだ。

そんなものが混入された粉末を、そうと知らずに、ヘ炉インと間違えて注射した途端、
あるいは、錠剤数百個分の濃度の雫を、ぺろりと舌の先ですくい取るだけで、
脳は、血液は、そして、神経機関は、一瞬のうちに機能を遮断されてまう。
その死はあまりにも簡単過ぎる。あまりにも即効過ぎ、あまりにもあっけなさ過ぎる。

その蔓延は、地方都市から起こった。

時世に疎い田舎街の、長閑な診療所から、
なんの気もなしに処方された医薬品が、ひょんなことからちょっとした悪戯心、
そのパッチとやらを、ためにし口の中に放り込んだ、その五分後。

麻薬を麻薬という自覚もないまま、注射器も吸引器も使用せぬままに、
たた、開けた口の中にそれを放り込むだけ、ただそれだけで一瞬のうちに天国から地獄へ。

マサチューセッツから、ニューハンプシャーから、
イリノイから、ミシガンから、オハイオから、インディアナ、
米国中の地方都市という地方都市が、
この安易過ぎる毒牙に一瞬のうちに足をさらわれては、
中毒症状の泥沼の中で、パッチからスニフ、スニフからポンプへと、
その坂道を面白いように転がり落ちていく。

そしてカナダ。
嘗ては、退職後の余生を過ごす、
その人気ナンバーワンであった風光明媚な平和な楽園が、
週末の夜ともなれば、救急電話が鳴り止まず、
病院の救急車が間に合わないままに、
瀕死のOD患者を二人三人とかき集めては、
ベッドの尽きた病院では運び込まれる患者たちを床に並べて、
そんな野戦病院さながらの地獄絵図が展開されていると聞く。

そしてシカゴ、そして、デトロイト、そして、ニュージャージーから、ニューヨークへ。

全米中の高校生たちが、まさに、一夜にして一瞬のうちに黄泉へと旅立つ、
そんな悪夢が、今日も繰り広げられているのである。



「FACT-17 思わぬ怪我の功名」


そんなチャ井ナ・ホ和イト旋風の中、
妙なところで、妙な弊害、ならぬ、怪我の功名を知らされた。

これまで、米国とメ木シコとの国境、
どこぞの脳天気な馬鹿大将が、鳴り物入りで壁を作るだなんだと囃し立てる、
その渦中にあるはずのメ木シコとの国境が、ここにきてパタリと、その活動をやめたのだそうだ。
これまで、南米からのコ毛イン、あるいは、マリワナなどの依存していたトラフィッキング、
その℃ラッグカルテルを訪れたひとりの虫国人科学者。
わずか三万ドルの条件で、このチャ井ナ・ホ和イトの製造方法を伝授した、らしい・笑

嘗て、米国を席巻した人気ドラマシリーズ・ブレイキング・バッド、
あの、メタ亜ンフェタミンを、クック:お料理しては、売りさばく高校教師、
そのものの光景が、メ木シコ中の廃屋の中で繰り広げられては、
合法の薬品、として、正々堂々と米国、そしてカナダに輸入されている。
そして、その僅か一滴で、ガンジャを満載したトラック何台分もの利益を産んでしまう、
このまさに夢のような医薬品。
という訳で、いまやメ木シコ中が、フェン太ニル・ラッシュであるそうだ。

もう、国境を挟んで密入国を繰り返す、そんな必要はまったくない。
嘗ては血で血を洗う抗争の中、残虐非道を極めた極悪な℃ラッグ・カルテルの面々が、
いまや和気あいあいと化学の実験に勤しんでいる、その不思議。

因みにこのチャ井ナ・ホ和イト、原産国である虫国においても、
当然のことながら大盛況であるらしい。

これまで鉄のカーテンの中で、資本主義の恩恵から隔絶された、
それと同時に、その底知れぬ毒からも守られてきたこの遅れてきた大国。
いま、バブルの狂騒からそのあまりにも儚い崩壊を迎えたその末に、
これまで資本主義世界を蝕んできた、この裏の経済のその真髄、
つまりはそう、米国をカナダを、欧州をオーストラリアをこれでもかと腐敗させる、
℃ラッグというシロアリの大群が、
いまや大挙としてあの前時代的な大陸を席巻していることであろう。

エク酢タシーが、メ亜アンフェタミンが、不落下が、そしてこのフェン太ニルが、
好き放題に虫国大陸の隅々までに浸透しては、
それはまさに未曾有の伝染病のように、億万の民を食い滅ぼしていく、
そんな地獄絵図が透けて見えてくるようだ。

そしてその渦から、日本も無縁では居られない筈だ。

改めていう。

これは、行き着くところまで行き着いた資本主義、
その暴走の果ての当然の末路の姿である。

競走の理論だけが目的化しては、
闇雲な拡張主義の中で、すっかりとゴールを見失っった、
この煮詰まりきった資本主義社会の迷走の果て。

産廃として使い捨てられた人々を待ち受けているのは、
救急病棟のベッドの上か、あるいは、廃屋のダニだらけの板間の上か、
いずれにしろ、資源として搾取され摩滅されられた人間たちは、
遂には、モルヒネ、あるいは、フェン太ニルの甘い霧の中に迷いこんでは、
偽りの多幸感の中で、薬浸りのままで天国に送り出される運命なのである。

こんな世の中に誰がした!?

その自暴自棄な絶叫が、いまや世界中を包んでいる。

寅ンプ、構うことはねえ、すべてぶっ壊してしまえ。

つまりはそう、この医薬品会社も、病院機構も、
その裏役として暗躍する悪の牙城である保険会社も、
そのすべてを、完膚なきまでに叩き壊してくれ。
どうせ、明日のない命だ。
毒を糧として毒を集めて大統領の座を掠め取った毒ガス男。
その毒ガスで、ありとあらゆるものを徹底的に叩き潰しても、
罰は当たらないかもしれないぜ。





♪ ♪ ♪

という訳で、なんかまじで、ちょっと肩の荷が降りた、といよりは、
肩口から塩をぶっかけた気分だ。

この妙なFACTの集積の中で、
なんとなく、あたりいちめんを悪い気が覆い尽くしている、
そんな気がしていたのだ。

この愚痴の糞溜めは、
ストレス発散用の罵詈雑言の掃き溜めであると同時に、
厄払いのための除霊所でもあるわけか。

ただ、こんなもの読まされる奴がいたとしたら、
溜まったもんじゃねえだろうが、
これがアメリカの現実、そのひとつの顔であることだけは確かなのだ。

そしてそれは、明日の日本でもあるんだぜ、と。

そしてそう、あのTPPなんてものが施行されていたとしたら、

こんなとんでもない悪禍のすべてが、一挙に日本中を席巻することになっていた、
その事実を、いったいどれだけの人々が気づいているのだろうか。

そしてこれは、まだ、序章に過ぎない。

この世界中を吹き荒れる禍の嵐。

今後いったいどれだけ酷いことになっていくのか、乞うご期待というところだろ・笑。





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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