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情けに生きるニホンジン

Posted by 高見鈴虫 on 18.2017 嘗て知った結末   0 comments
そのひねくれ者に言わせるところ、
佳奈子ちゃんは、ただのデブ、である。

上だけみればムチムチ巨乳Gカップ、とは言いながら、
そのお尻からお腹から、
まるで夜更けから人知れず降り始めた白い雪、
しっかりと、たっぷりと、積り続けた
その見るからに白く柔らかそうな柔肌、ならぬ脂肪、
それが許せねえ、のだそうである。

ただ、そんな佳奈子ちゃんは、
しかし、このひねくれ者を除いた世の男たち、
特にあの外人連中には、まさに強烈な磁力を発揮する。

そんな、ただのデブ、の佳奈子ちゃんは、
しかして遠目に見れば、その、露骨なほどにまでやばいカーブ。
バーンと張り出したお尻と、きゅっとしまったウエスト。
そして、それからするとまるで奇跡のように伸びる足。

そのまるで、ちょっと潰れたコカコーラの小瓶を思わせるような、
言いようによっては日本人離れ、
ちょっとハリウッド的な体型と言えないこともない、
らしいのだが、
悲しいかな、そう、その男は、ひねくれ者、である。


しかし、男はひねくれ者である。

世間がなにを言おうが、
そんな世間が佳奈子ちゃんにどんな視線を送ろうが、
ひねくれ者の男にとってはどうでも良い。
そんな佳奈子ちゃんが、妙な視線を集めれば集めるほどに、
ひねくれ者の視線は佳奈子ちゃんから遠ざかるのである。

このひねくれ者にとって、
佳奈子ちゃんのその言ってみれば見事なほどにグラマラスなカーブ、
どうしてもどうしても、その余りにもに肉感的な、
つまりは、結婚式の時に、すんなりと抱えあげられないであろう、
その体積量、
そしてその、見るからに柔らかそうな、
その魅力の源泉であるところ、甘い母性、
或いはその原因であるところの、自堕落、
いう奴が
どうしてもどうしても、許せない、のである。

そう、ひねくれ者の男はニホンジン、なのである。
もののあわれ、
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
いまにも折れそうな撫で肩に、鞭のようにしなやかな柳腰、
知的で美的で可憐で繊細で、
その恥じらい勝ちな奥ゆかさの中に、
凛として煌めく芯の強さ。
クールに優しく、焼けつくように涼やかに。
その日本女性の美意識だけは
どうしても曲げられない、らしいのである。

そしてひねくれ者は、ロッカー、なのである。
敢えて故郷に背を向けて、
流れ流れて摩天楼のコンクールジャングル、
天涯孤独のアウトロー、と言わんばかり。
女なんかに、かまっていられねえよ、な何か、
いつ何時でも、それこそが唯一絶対の最重要課題、なのである。

という訳で、囲んだ男たちから一身に視線を浴びる、
そんな佳奈子ちゃんを放っておいては、
バーテン相手に音楽談義にふけるひねくれ者の糞男。

ねえ、ちょっと、と声をかけるたびに、
だから、来んなって言ったじゃねえかよ、
と邪険な言葉を返されて、
だったらとっと早く帰れよ、と、
そんな言葉までぶつけられては、
そんなひねくれ者の背中を睨みつけつつ、
そして、カウンターの上に頬杖をつきながら、
あぁあ、つまらないな、とため息をついては、
ふと見れば目の前に並ぶドリンクの列。

このビールは、ほら、あの人、
で、このカクテル、カミカゼ、って云うんですが、
それが、あの、ほら、あの人、
で、これが・・

バカな男たち、と佳奈子ちゃんが思わず舌打ちを響かせる。
バカな白人。
女とみれば、おっぱいばっかり、そればっかりの、男たち。

どこから来たの?ニホンジンでしょ?
俺も日本に行ったことがあるんだ、日本の女の子、本当に最高だよ。
なんてったって・・・

そう、佳奈子ちゃんだってこの街に来たばかりの頃は、
そんな男たち、週末のバーに足を踏み入れた途端、
まさにハエ・カのように群れ集まってくるあの男たちに囲まれて、
思わず、ちょっと有頂天、になっていたこともあった。

まるで、ハリウッドの映画、あるいは、そう、
あの日本のテレビの、CMに出ていた、あの絵に描いたような白人の男の子。

そんなまるで夢のような、つまりは、現実感に欠けた男の子たちに囲まれては、
思わず、いいわ、ならちょっと付き合ってあげる、と席を立った途端、
あれよあれよ、と、手を引かれ、
その津波のように押し寄せてくる英語、英語、英語の渦に目を白黒させたまま、
YES? YES?YES?、オッケー、はい同意。
で、ふと気がつけばベッドの上。
え、なに?なんなのこれ、と言う間もなく、
あれ、あれ、あれ~、と、まったくそんな感じ。

挙句の果てに、お尻に入れていい?なんて、こいつら、いったいなに考えてるの?

なにも考えてねえんだろ、と一言。

なにもって?

だらかなにもさ。

つまり?

つまり、そう、ぶっちゃけ、そうやってこました女が、どうなろうが、なにを思われようが、そんなことさえも、なにも考えてないんだよ。ただそれだけの話。

ふーん、と佳奈子ちゃんはちょっと不満そうである。
でも、好きって言ったのよ。愛してるって。その後、なんども電話してきて。

だから?

だから?

で、私は愛されていた、と、それを確かめたいと、それだけの話なんだろ?

だって、遊ばれたって思うの悔しいじゃない?

悔しいからまた遊ばれる、ってほうが、もっと悔しくないのか?

判らない、と言いながら、いいのよ、そんなこと、終わったことだし、とふっとため息。

そして気を取り直して、ねえ、だったら、とちょっと挑むような眼差し。

だったら、あなたはなにを考えているの?

なにも、と笑う。

なにも考えてねえな、改めてそう言われてみると。

うそよ、と、佳奈子ちゃんはそのときばかりは鬼の首を取ったように顎をしゃくる。

うそよ、あなたがなにも考えてないなんて。
あなたは考えてる。でも、考えすぎなのよ、そう、考えすぎよ。

まあどうでもいいけどさ。そんなこと。

じゃな、と席をたとうとした途端、

ねえ、とちょっと、とトーンの上がった佳奈子ちゃんの声。

わたし、別にいいんだよ、なにも考えてくれなくても。だから・・

だから?

だから、判るでしょ、ひとりで帰りたくないのよ。そこまで言わせないでよ。

と、そんな時、さあ、チャンス到来と、目ざとく割り込んでくる白人の男たち。

やあ、カワイコちゃん、ねえ、こっちに来て、一緒に飲まないかい?

うるさいわね、と日本語を吐き出す佳奈子ちゃん。

うるさいわね、他人の会話の邪魔しないで。

じゃな、と構わず席を立つひねくれ者の男。

じゃな、まあ、よろしくやってくれよ。

歩き始めたバーの中に、ねえ、と、切なげな声が響き渡る。

ねえ、いいの?わたし行っちゃうよ、本当に行っちゃうよ、この人たちのところ。

そのときばかりは、好きにしろよ、とちょっと毒を込めた笑いで返すひねくれ者。

好きにしろよ、お前の自由だろ、なにがあっても。なにがなくても。

そんなものなの?そんなもので、あなた、それでいいの?

俺の知ったことかよ。

なあ、と、ちょっと苛ついた声で白人の男が、佳奈子ちゃんの肩に手を置く。

なあ、ねえ、彼女、聞いてるんだぜ、来るのか来ないのか、
イエスだろ?なあ、来るんだろ?そうだよな。
日本人なんだろ? だったらNOとは言わせないぜ。

背後から、ねえ、と、悲痛な声が響く。

ねえ、わたし、行っちゃうよ、それでもいいの?それで本当に良いの?

知るかよ、そんなこと、と、バーを出たところで、ぷっと、ガムを吐き出す。
ちっ、外れたよ。
ゴミ箱の縁に弾かれて、高く飛び上がったガムが足元に転がってくる。

だから日本の女はいやなんだよ。

と歩み出す、夜更けの舗道。

タバコは、と、辞めた筈のタバコを胸に探して、
ちっ、と思わず、思い切りの舌打ち。

だから、日本の女は、嫌なんだよ。どいつもこいつも。

そしてふう、と腹の底からの長い溜息をついて、
ふと見上げる、摩天楼の街。
ミスター・ロンリー・ムーンシャイン
思えば遠くへ来たもんだ。

そして、再び引き返すバーの入り口。

ゴツゴツとわざと、これ以上なく不機嫌にブーツの踵を響かせながら、
背後に響く、おい、やめろ、のバーテンの声を振り切って、

そして辿り着いた奥のテーブル。

双方に座った男たち。その両方から両肩に腕を回された、佳奈子ちゃん。

イッキ、イッキ、イッキ、と囃し立てる、その見るからになにも考えていない赤ら顔の白人たち。

ジョッキーのグラスを飲み干した佳奈子ちゃん。

プハーと、長い長い吐息を吐き出して、そしてふと見上げた、その顔と顔。

あ、ごめん、とよろめきながら立ち上がる佳奈子ちゃん。

あ、ごめん、ソーリー、アイム・ソーリー、と小脇のバッグを抱え上げ、
立ち上がった拍子にテーブルがよろめいては殻のボトルが床を転がり。

ソーリー、ソーリー、ソーリー、そう繰り返しながら、立ち上がった佳奈子ちゃん。

へい、と、思わず掴まれたその二の腕を、
なにするのよ、とその時ばかりは邪険に振りほどいて。

GET THE FUCK YOUR HAND OFF ME!ASSHOLE!

あらら、と思わず。変な言葉、教えるんじゃなかった・・

何だとこのやろう、と立ち上がる男たち。

こいつら、と思わず。こいつら、本当に、なんにも考えてねえんだな。

放してよ、警察呼ぶわよ、と日本語の絶叫。

なんだなんだ、と面白がって立ち上がった酔客達の中で、

ポリス、ポリス、と騒ぎ始めた佳奈子ちゃんの腕を引っ張って、

バカやめろってば。

ビッチ:メス犬! と響き渡る怒声。

ビッチ、ファッキン、ビッチ!ジャップス、サックス!

なんだとてめえ、と目尻がピクリとしたところを、

いいからほっといて、と逆に手を引かれて連れ出され。

ジャップ!死ね、クソ女。お前らが誰にでもやらせるって知ってんだぜ!

なんだとてめえ、いま何て言った?

思わず戻りかけた背中に、必死にしがみついて来る佳奈子ちゃん。

だからやめなってば、お願いだからやーめーてー!

サヨナ〜ラ~と素っ頓狂な声に、いきなり弾ける酔客たちの笑い声。

うるせえ、ルーザー、なんとでも言ってろ、と振り返りざまに、中指を一本二本。


そして転がり出た雑踏、さっき吐き出したガムを思い切り踏んづけて、ったくよお、と思わず本気で舌打ち。

やっぱね、知ってたよ、帰って来てくれるって。

送らねえぞ。

ねえ、あいつら、追いかけて来るかな。

来るわけねえよ、とは言いながら、ふと肩越しに振り返る。

だったら、と、手を引っ張って、だったら、お前、早くあそこでタクシー拾え。

あなたは?

俺? 来ちまったとしたら、そん時はそん時だろ。

そん時って?

だから・・

バカよね、と佳奈子ちゃん。バカなのよね、ほんと、まったくなにも考えてないし。

あんたみたいなバカ、本当の本当にどこ探しても居ないのよね、悔しいことに。

そして拾ったタクシー。

ねえ、やだ、家まで一緒に来て、あたし、お金無いし。

そんな佳奈子ちゃんを、頭からシートの上に叩き込んでは、ふと目の前に突き出されたまん丸のお尻。
やばいやばい、俺なにを見てるんだ、と慌てて目を逸らし。

ねえ、わたし、飲みすぎちゃって、ゲロ吐きそうだし。

いまさら、ビールで酔っ払うタマかよ、と。

ちゃんとまっすぐ帰れよ。

知るもんか、ばか、死ねばいい。

家に着いたら電話よこせよ。

知らないわよ。

しろよ、電話。

しないわよ。

三回鳴らして、すぐに切れよ。

取ってくれるまで鳴らし続けてやるから。

バカ女。

バカ男。

という訳で、摩天楼の狭間を走り去るタクシー、
見送った、と思ったら、ふと停まる、そのタクシー。

開けた窓から、思い切りの金切声で、

ねえ、ありがとう!

はあ?

ありがとう!すっごく嬉しかった!

バカ言ってんじゃねえ。早く帰ってクソして寝ろ!

ばーか、サイテ〜!あんたなんか大嫌い!

思わず笑ってしまって、消え行くタクシーにそっと肩を竦めて。

そして一人、また一人。
ふと振り返るバーの入口。

なあんだ、あいつら、来ねえのかよ。
来たとしたらもしかして、タバコ持ってたりとかしねえかな。

そんな馬鹿なことを呟いては、歩き始める深夜の舗道。

ったくもう、と思わず、佳奈子ちゃんのその口調で。
まったくもう、俺たちって、本当に、ニホンジン。

この性分、本当の本当に、悲しくなるぐらいに、俺達ってやっぱり、ニホンジンなんだよな。

情けに生きるニホンジン 
情けのないのは、情けないニホンジン・笑

おしまい


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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