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ベビーメタルを巡る幾つかの寓話 ~ CREEP アメリカの行き着く先

Posted by 高見鈴虫 on 19.2017 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
朝の地下鉄で古くからの友人にばったりと出くわした。

よおよお、元気だったか?と言うだけ野暮。
その姿、よれよれのジャケットに、しわくちゃのシャツ。
まだらに生えた髭に、そして脂ぎって黒ずんだ顔。
見るからに身体全体から、行けてない、
そんな気配がむんむんしている。

寝てなくてな、と友人が言った。
いまかみさんが日本に帰っていて、一人暮らしで、
こう見えてもいろいろ大変でさ。

なんかどこかで聞いたことのある話だな。
で、思わず、事情を聞いてみた。

いや、だから、かみさんと娘が、日本に帰っててよ。
俺もついこの間からようやくいまの仕事にありついたばかり。
ウォールストリートの金融屋とは名ばかりで、
やってることと言ったらその辺りのシャーク・ローン:サラ金とかわりない。
ただまあ、つまらねえ仕事でもなんでも、
無いよりはマシだろ、とまあそんな程度。

その何から何までが、嘗て知った友人の姿とは信じがたい。

友人はジューイッシュである。
以前、いくつかの現場でパートナーを組んだ。
見かけは悪いが、つまりはジューイッシュ特有の鳥の巣頭にでかい鼻。
これで黒縁のメガネをかければウディー・アレンそっくり、な訳なのだが、
ただ、その見かけ通りに、凄まじく頭の切れる男であった。
口八丁手八丁、おまけに日本語もべらべらである。

いつか俺が勝負をかけるようなことがあれば、
いの一番にこいつを誘おうと思っていた、
そんな輩である。

で、ところで、なんでお前がこの電車に乗ってるわけ?と聞いてみる。
たしかお前、あのアップステートの豪邸・・・

ああ、事情があってな、と薄く笑う友人。
まあ、色々あって、いまはハーレムに住んでるんだ。

ハーレム?なんで?黒人の女でもこしらえたのか?

お前、相変わらずだな、と友人。
まあそう、女か、そう、女でも作ったんならそれでも良かったんだが、
あいにくそんな冗談も言う気力もなくてよ。

と訳で、なんだよ、せっかく久しぶりに会ったというのに、
随分と景気が悪そうである。

お前、まじで、大丈夫か?顔色悪いぜ。

それには答えずに、ふと、地下鉄の暗い車窓。
そこに並んで立った俺と友人、二人の姿。
スーツにネクタイ、馬鹿でかいキャッツアイでこれ見よがしに顎を突き上げた俺と、
そして、友人のそのくたびれ切った姿。
俯いた顔が影に隠れて、その表情には生気というものがまるで消え失せている。
こいつ、見るからに疫病神、そのものじゃないか。

タイムズスクエアに着いてどっと人が降り、
新たな乗客が乗り込んでくる隙、
開いたシートに友人がドサリ、と、まるで崩れ落ちるように座りこんだ。

奴の隣りの椅子は、遅れて乗り込んできたラテン系の老婆に譲り、
そして、座り込んだ友人にかがみ込むように、で、なにがあったんだよ、
と話の続きを促した。

ああ、シェアなんだよ、シェア。
安かったんだよ、ベッド付き、机付き、
便所とシャワーは共同で、WI-FIはないが、家賃は月1000ドル以下だ。
お前の言うとおり、黒人の家族、
プロジェクト(低所得者用集合住宅)の中なんだけどさ、
息子が死んで、その部屋を間借りしてるって訳なんだ。

死んだ息子の部屋、か。

ああ、いまだにろくに掃除もしてなくて、
戸棚からクローゼットの奥から、
まだまだ色んなものがぼろぼろ出てくるぜ。
まだそんなものに興味があるんなら、
安く分けてやってもいいんだがよ。



友人は、俺の友人というだけあって、
奴も元々はバンドをやっていたらしい。
まあ、その見かけからして頭でっかちのブレイン・ミュージック。
その演奏技術はとりあえず、
そのセンスだけは、聴いている音楽、
そのセレクションだけは通の中の通、
奴はまさしくそんなタイプ。
いまであれば、完璧に宅録おたくのカルト的教祖、
なんてものにでもなっていたのだろうが、
幸運なことに、あの時代は、
そうそうとひとりあそびの道具も揃ってはいなかった。

大学卒業と同時にあっさりと音楽活動に見切りをつけた友人は、
そしてこれまでのつけとばかりに、大学院に入り直してMBAを取得。
ウォール街の大手金融会社で割りと良い金を稼いでいたらしい。
例のリーマン・ショックでレイオフを食らってから後、
独立してはフリーのコンサルとして数々の拠点を渡り歩き、
そう、奴に会ったのはそんな時だった。

全ベンダーを集めた定例報告会とやらの会議室での待ち時間、
人気の失せたボードルームで放ったらかされたまま、
退屈まぎれに何気なく、机と椅子と床で、リズムを取っていたところ、
それに奴が鼻歌を合わせて来たのである。

RADIOHEAD の CREEP だった。








俺的には、RADIOHEAD なんてのを叩いていたつもりはまるでなく、
(今更ながらあそこのドラムは最悪だ)
どちからと言えば、STONE TEMPLE PILOTSの方にしてほしかったのだが、
まあ、そう、そんな訳で、俺達は友達になった。

一度招かれて、彼の邸宅に遊びに行ったことがある。
サブプライム・バブル当時に購入したものか、
年若く四十前にしてアップステートの一等地に、
庭付き一戸建てを購入した、その負の遺産。

その頃はまだ子供もいなかった夫婦は、
4ベッドルームの一軒家に二人きり。
奥さんは見るからに気立ての優しそうな日本人で、
珍しい週末の来客に大袈裟にはしゃぎまわっては、
テーブルに並ばないほどの手料理で歓待してくれた。

緑の芝生の中に張り出したサンルームで食後のお茶を頂きながら、
こんな大邸宅に二人きりや、なんかちょっと淋しいなというと、
ふと、ふたりは顔を見合わせて、実は、と。

そろそろもう歳だしな、今度の人工授精がだめだったら、
もうこの家も売ってしまおうか、と思っているんだ。

なんかね、この家、気味が悪くて、と奥さんが笑った。
お客さんでも来なかったら、二階に上がることなんてほとんどないのよ。
フォークロージャーの家なんか買ったからよね。
子供ができないのも、そのせいかなって。

そんな訳あるもんか、と奴が言った。
日本の女ってなんでこうなのかな。
江戸時代からメンタリティが変わってないんじゃないのか?
おい、と奴が俺に言った。
上の部屋で草でも吸わないか?

帰りの電車の中で、妙に疲れていた。
話し疲れたのか、あるいは、そう、食い過ぎであろう。

凄く美味しかったね、奥さんの手料理。
ああ、まあ、そう、あんな田舎に住んじまったら、
もうなにもやることもねえんだろうな。
いいなあ、ウエスト・チェスターにバックヤード付きか、
いったい幾らしたんだろ。
そんなこころにもないことを呟きながら、
ふっと、長い溜息をついたかみさんは、
それからなにを話かけても、
暗い車窓に顔を向けたまま、返事を返さなかった。



実はさ、ワイフの両親が具合が悪くてな。

ご両親?

そう、義父は相当まえに脳溢血をやってから、
入退院を繰り返していて、それをひとりで世話をしていた義母が、
ついに倒れてしまったんだ。
で、兄と、妹、も聞くところによればなかなか大変らしくて、
で、仕方なく、うちのワイフが日本に帰ることになったんだが、
ほら、うちの娘、日本語ぜんぜん喋れないだろ?
かと言って、インターナショナル・スクールって、入るのなかなか大変らしくてさ。

なんかそう聞いただけでも随分と大変そうだな。

そしたらさ、なんと、こんどはうちのおふくろが・・・

おふくろさん?あの、ユダヤの母?

いや、実は、アルツハイマーらしくてさ。

あれあれ。

まあそう、兆候はずっとあったんだが、
それがなにかの拍子にいきなり悪化したらしくてさ。
で、うちの兄貴がずっとその世話をしていたんだが、
いやはや、アルツハイマーの世話、半端じゃないよな。
で、そのおふくろの看護が理由で夫婦喧嘩が絶えず、
ついには離婚。

おいおい・・

したところ、離婚したとたんに今度は兄貴が倒れちまって。

え、あのギターの上手いお兄さんどうしたの?

癌だよ、癌。
発見が遅れてすでに全身に転移していて、
いまもケモを繰り返しているんだが。
ということで、
俺が仕事を辞めて実家に帰って、
で、おふくろの世話をすることになったんだが、
はっきり言って、24時間つきっきりなんて普通の人間にできることじゃない。
で、その間も仕事も断り続けているうちに、だんだんと先立つものが細りはじめて。
で、仕方なしに、おふくろをケア・センターに入れることにしたんだが。
そのケア・センターっていうのが、酷いところでな。
なにからなにまで、金、次第、なんだよ。
入院者の中で、その契約の種類、つまりは金額によって等級が分かれていて、
部屋はもちろん、家具からベッドから、シーツの質から取り替える頻度まで。

ナースコールの対応時間にも差があったら、目も当てられねえな。

食事とか言うと、もうそのあまりの露骨な格差、酷いものがあってな。
まあでも、ほら、うちのおふくろ、アルツだしさ。
だったら、もうそういうことも良く判っていないだろう、
と思っていたら、
見舞いに行くたびに、帰りたい帰りたいって泣くんだよ。
生まれてこの方、こんな惨めな思いはしたことがない。
人生の終わりにこんな目に合わされるなんてあんまりだってさ。

地獄の沙汰も金次第って言う訳か。

まさに、地獄だな。そう、地獄。
アメリカの社会、なにがあっても、行き着く先は地獄なんだよな。

で、どうしたんだよ。

ああ、帰りたいと言われても、俺も仕事を辞める訳にも行かず、
ということで、家を売った。

あの家をか? おお、凄いな、億万長者じゃないか。

ただ、売った途端に、やれ税金だ、支払いだ、やらで、
いつのまにやらそれもすっからかん。

おいおい。

一ヶ月、1万だぞ。老人ホーム。
そう、一万ドル。一ヶ月百万円。

保険とかきかないのか?

だから、保険のカバーするレベルではまさに奴隷小屋なんだよ。
24時間ケアで、つきっきりで看てくれるなんてところ、
有り金のすべてをはたいてそのサービスを買うか、
あるいは家畜小屋に押し込まれて死ぬのを待つしかないんだよ。

アメリカの悲劇、そのものだな。

お前だって笑ってられないぞ。
この国に暮らすということは敢えてそういう地獄を選択したってことなんだから。

まあそう、俺もそう思って、いよいよな時には日本に帰ろうかと思ってたんだが。

で、そう、うちのワイフの話なんだが。
まあ確かに、
日本はここアメリカに比べてはなんぼかまし、
国民健康保険とかもあるぐらいだし、
とは思っていたんだが、
よくよく聞いてみるとそういうことでもないらしい。

つまり?

満員らしいんだよ、その病院やら、ケア・ハウスが。
どこもかしこも老人だらけで、国の対策もまったく追いついていないから、
自治体やらのボランティアとかが動いているらしんだが、
だからと言って、毎日来てくれる、という訳でもないしな。

で?

ああ、だから、ワイフはもう半永久的に帰ってこれない、というか。

おいおい。

いっそのこと、俺が日本に行ってしまおうか、とも思ったんだがな。

ああそれはいいアイデアだな。

したらこんど、うちの娘がいじめに合いそうだ、なんて話で、

いじめ?日本の小学校で?

ああ。俺に似てブスだしな、うちの娘。
それに加えていまだに日本語が判らないって言うんで、
帰ったときからずっとひとりぼっちらしい。
で、こっちで引き取れないかって言うんだが、
こっちはこっちでそんな状態じゃねえしな。
もうなにもかもが、キャッチ22。
なあ、そういうの日本語でなんて言うんだ?

四面楚歌?

いや、そうじゃない、なんかもっと、英語っぽい奴。

絶対絶命、一巻の終わり、あるいは、万事窮す。

ああ、それだそれ、BANGーJEEZ EXCUSE それだそれ。

お前、笑ってる場合じゃねえだろ。

笑うことしかできないぜ、ここまで来ると。

まったくな。

どこで間違えたんだろうな?

間違えてなんかいないだろ。お前は上手くやっていたほうだ。

ああ、俺もついこの間までそう思ってたんだがな。

奥さんはどのくらい?

最後に会ってからもう二年ちょっとになる。
最近ではもうLINEどころかメールの返信も来ない。

これがいつまで続くのか。

つまり死ぬまで、だろ。

誰が?

つまり、みんなさ。年老いた父も母も、そして、俺もワイフも。

結局、そういうことだな。

結局、そういうことだ。

なあ、と友人に言った。

あのさ、前によく考えてたんだが、
この老人化時代の人生って奴、
そもそも、終わりの時間が確定してないってところに、問題があるんじゃないのか?
だってさ、仕事だってそうだろ?
いついつまでの期限で、お尻が決まって、それに合わせて予算が組まれる訳でさ。
そう、終わりが決まってるから初めて計画ってものが立てられる。
で、その終わりってのが判らない、っていうんじゃあ、
はっきり言って、計画も予算も立てようが無いわけでさ。

で?だったらどうするんだ?

だから、終わりの予定を自分で決めちまうんだよ。
このプロジェクトは、何年何月何日を持ちまして、終了とさせて頂きます、と。

つまり?

つまりはそう、自分で自分の終わりの日を決めてだ、
ちゃんとスケジュールと予算を組んでだ、
遺産の整理、と言ってもあったら、の話だが、
で、前祝いから、死体検察から、
葬式代から、棺桶代からの予算も確保して、

で?

で、その日が来たら、12ゲージを口に咥えて、ロックンロール、と。

なあ、と友人が言った。

それ、俺がいま、さっき、お前と会う直前まで、考えていたことなんだよ。





その夜のことである。

夜更けにおかしな夢を見て目が醒めた。

これ以上なく年老いたキース・リチャーズが、
似合わないダブルの革ジャンを着ては、
手の平を翳して、笑いかけてくる。

大きな穴の開いた手のひらからは、いまも血が滴り、
ほら、これもだぜ、と翳した足の甲からも、
生々しい血が流れつづけている。

キース、俺のキース。

そう言うとキース・リチャーズは、あのいつものしゃがれ声を響かせながら、

ははは、なあ、判ったろ?という訳で、そろそろ死なせて貰えねえかな、

と力なく笑った。

死ぬ?キースが死ぬ?だめだよ、そんなことだめだよ、絶対に。

俺はそんなキースにすがりついては、力いっぱいに抱きしめて、
まるで子供が母の胸に顔を埋めるように、
キース・リチャーズにしがみついては、声の限りに泣き続けた。

キース、死なないでくれ、キース、お願いだから、お願いだから・・・・死なないでくれ。

おいおい、とキース・リチャーズが笑う。
まったくもう、困ったもんだぜ、お前らと来たら、
おちおち、死なせても貰えねえってことかよ。

キース・リチャーズの胸に顔を埋めて泣きじゃくりながら、
俺は駄々っ子そのままに、いつまでもいつまでも声を上げて泣き続けた。

泣き続けながら、このキース・リチャーズ、
まさに、ロックの殉教者、なんだな、と身に沁みた。

俺のジーザスは、キース・リチャーズだ、
そう嘯き続けた俺の人生、であったのだが、
そうやって勝手にジーザスに祀り上げられてしまったキース・リチャーズ。
死ぬに死ねぬまま、血だらけの両手両足を持て余しては、力なく笑うばかり。

ははは、これも、身から出た錆、自業自得って奴なのかよ。皮肉なもんだよな。
ブライアンやニッキーに会えるのは、いったいいつのことになるのやら。

ただ、そんなキース・リチャーズの嘆きが判っていたとしても、
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
キース・リチャーズにだけは、なにがあっても、死んでほしくはない。

そう、死んでほしくないんだよ、キース、
あなたにだけは、永遠に生き続けてほしいんだよ。




改めて、人間がなんのために生きるか、なんて、
そんなこと、今更、知ったことじゃねえんだが、

で、そう、友人との会話にもあるように、

そうだな、もう、そろそろ、死んじまってもいいかもしれねえな、
実は、そんなことを思っている人がほとんど、なのではないのだろうか。

そう、このどん詰まりの時代。
マイナス成長がこれだけ続いて、
そしてこの、降って湧いたようなバブルにしたって、
喜んでいるのは一握りのインサイダーな人々、ばかり。

もうすでに、あれだけ騙された俺達だ、
そんな糠喜びのカラクリから、
ともすれば、親の総取りを狙っているその悪の権化、
その、胸の内だって、ミエミエ、であったりもする訳でさ。

そして、行く末に待ち受けているのが、
予定通りの大恐慌であったり、仕組まれた戦争であったり、
あるいはそう、
あの老人ホームであったり。

そんなものを観てしまったら、もう、いつ死んでも同じ、
そんなことを考えてしまっても、無理はねえ、とは思うんだよな。

という訳で、先の友人との会話に戻る。

で、お前はどうなんだよ、と聞かれた。

いったい、いくつまで生きるつもりなんだ?

別に、と俺は答える。

別にいつ死んだって、構うことじゃねえ、
とは、思っていた。

いた?

そう、いた。ついこの間まで、つい、そう、去年の今頃まで。

去年の今頃?なにがあったんだよ、去年の今頃。
まさか若い女にベビーでも生ませたのか?

そう、その、ベビー。つまりは、ベビーメタル。

ベビー、メタル?

そう、ベビーメタル。

なんだよそれ、ベビーメタルって。

ベビーメタル。凄いんだよ、
日本から来たバンドでさ。
ティーンエイジャーのアイドル三人娘と、
そして、スタジオ系凄腕ミュージシャンがさ、
ばりばりのスラッシュ・メタルをやるんだが、
それが、もう、とんでもねえパワーでさ。

おいおい、おまえ、いくつになってそんなこと言ってるんだよ。

だから、そう、お前も聴いて見ろよ、ベビーメタル。

で、去年の今頃に、お前はそのベビーメタルってのを知って?

そう、去年の今頃、そのベビーメタルってのがニューヨークにやってきて、

観たのか?

そう、観たんだよ、ベビーメタル。

で?

だから、凄かったんだよ、まさに、人類史上、最高で最強。

おやおや。

で、思ったんだよ。こいつらが世界を取るまでは、絶対になにがあっても死ねねえな、って。

そういうことか。

俺もついこの間まで、お前と同じ。
なにもかもが四面楚歌。
こんな状態がいつまで続くんじゃあ、
別にいつ死んだって構うものか、とは思いながら、
ただ、いちいち手間ひまかけてわざわざ死ぬってのも面倒だしさ。
そう、死ぬのが面倒くさいから生きていただけ、それだけ。
もう俺の人生、それぐらいにしか考えてなかったんだが、
そう、ベビーメタル。
生き返ったぜ、まじで。
死ねねえよ、ベビーメタルが居る限り。
その行く末を見届けるまでは、なにがあっても死ねねえって、
そう思ってるんだよ。

どうせ鼻で笑っているだろう、と思った友人が、
ふと見れば隣りに居ない。

降りた駅のホームの雑踏の中に立ち止まったまま、
呆けたようにじっと佇んでいる。

どうしたんだ?お前の会社も、ウォール・ストリート、だったよな?

ミュージック、と、友人が言った。
そう、ミュージックだよ、ミュージック。

ミュージック?

あの家を買ってから、俺の頭の中で、ミュージックが終わってしまった。

つまり?

つまり、そう、音楽が終わってしまったんだよ、あれ以来。

そして?

そして、そう、音楽だよな、と。ライブなんてしばらく行ってねえな、と思ってさ。

だったらベビーメタル、聴いてみろよ、凄いぜ、まじで。生きるパワーのすべてだぜ。

日本のアイドルの、メタル、かよ。

そう、日本のアイドルのメタル。徹底的に訳の分からない、
ただ、凄いんだよ、まじで、すぅめたる、っていうボーカリスト。
何度聴いても涙が滲む。

泣く?音楽を聴いて、泣くのか?

ああ、泣いちまうんだよ、思わず、電車の中でも仕事中でも。

おいおい、大丈夫かよお前。うつ病の薬、分けてやろうか?

凄いぜ、ベビーメタル。
うつ病の薬?そんなものベビーメタルがいればみんなぶっ飛ばされちまうぜ。



別れ際、改札を抜けて右と左、その雑踏に向けて歩き始めた時、

なあ、と友人の背中に声をかけた。

なあ、おい、死ぬなんて言うなよ。

人間はよ、生きているんじゃねえよ、生かされているんだよ。

死んだら悲しんでくれる奴がいるから、仕方なく、生かされている、それだけなんだよ。
ただ、
それだけでも、良いじゃねえか。
死ぬなんて言うなよ。少なくとも、俺は、お前に死んでほしくはないぜ。

ああ、と曖昧な答えを返す友人。
ただ、そう言った途端に、またあの暗い影がべっとりと表情を覆い始める。

なあ、騙されたと思って、ベビーメタル、聴けよ。
お前のその背中に張り付いた疫病神、
追い払えるのは、エクソシストでも祈祷師でも妙な薬なんかでもないぜ。
ベビーメタルを聴け、リンク送ってやるから、いくらでもリンク送ってやるからよ。
だから死ぬなんて言うなよな。
俺たちは、そんな終わり方だけはしちゃいけないんだよ。意地でも。

ベビーメタル、か、とふっと笑う友人。つくづくおかしな名前だな。
ベビーメタルで、厄落としか。それもいいかもしれない。

ベビーメタル、世界で一番ウィアードで、世界で一番、ハッピーなバンドだ。
な、騙されたと思って、約束だぜ、ベビーメタル、聴いてみてくれ。
そんな疫病神、一撃で追い払えるぜ。

友人はそれには答えず、ふっと笑うと、
力なく右手を上げては、じゃな、と一言。
朝の雑踏の中に、ゆらゆらと消えて行った。

そう言えば、去年までの俺も、実はあんなだったよな。

その痩せた背中を見ながら、俺はそう思っていた。

そうか、俺はベビーメタルで、生き返ったのだな。

そして転がりでたダウンタウンの街、見上げる空に摩天楼。

馬鹿野郎、ぶっ飛ばしてやるぜ、ベビーメタルだ。

そう、ベビーメタルが居る限り、俺は死ねない、死ねないんだ。
そうである以上、せいぜい、ジタバタさせて貰うつもりだ。

忘れないうちに、奴のメアドに、
あの、LATESHOWのギミチョコのリンク、
送ってやったぜ、ニューヨークの朝。




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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