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ベビーメタルを巡る幾つかの寓話 ~ PLUSH ゲトーの底の底から

Posted by 高見鈴虫 on 20.2017 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
サルは、猿と言いながら列記としたラテン野郎である。
見るからにこの世において、これだけどうしようもねえ奴はいねえ、
一目会ったときからそう直感する、生きるゲトーそのもの、
そんな輩である。

今回のこのプロジェクト、不幸にもそんな野郎を紹介されることになって、
で、出会った途端、顔を合わせたときから、なんでまた、こんな野郎がこんな会社に、
とは思った。

サルはまったくもって困った野郎である。
その道ではスペシャリスト、ということなのだが、
なんと言ってもその口のきき方である。
ゲトー生まれ育ち特有の、それもあのラテン系のコテコテのアクセント。
それを凄まじいばかりの早口で、
聞いている相手が判っていようがいなかろうが、
怒涛のように喋りまくっては、喋り終えた途端に、
じゃな、後は宜しく、とプイと横を向いてしまう。

強い髭に覆われた面構え、二の腕どころか、手首まで、
ぎっしりと埋め尽くした入れ墨。
そしてなにより、その目つき、である。
嘗て、ヒッピー旅行者として世界中のスラムを渡り歩いた経験から、
俺には出会う人間、その過去から、そして犯歴からが、
まるで透けるように目にみえてしまうことがある。
そしてこのサル。
その見開いた眼の中で、
そのガラス玉のように妙に光の失せた黒い目玉、
その中心の瞳孔だけが、まるで針のように引き絞られている、
つまりは俗にいうところの、蛇の目という奴。

こいつ、コークでも食ってやがるのか、
あるいは、人でも殺ってるんじゃねえだろうか。




嘗てこんなことを聞いたことがある。
絞殺犯ってのは、その目を見るだけですぐに判るな。
銃殺、あるいは、刺殺と違って、絞殺はほら、こうやって、
相手の面を眺めながら、こうやって、そう、こうやって首絞める訳だろ。
で、そう、人間、首を絞めただけじゃ、なかなか死んでくれない訳だよ。
もがき苦しむ相手を絞めて絞めて絞めつけて、
で、ようやく動かなくなった相手、その相手の、瞳の奥を覗き込みながら、
その生の光が吸い込まれていく瞳の奥を、じっとじっと覗き込むとだな、
そう、その瞳の奥に、瞳孔が吸い取られてしまう。
そういう訳で、絞殺犯の瞳孔ってのは、決まってその目はガラス玉。
で、その瞳孔の中心が、まるで針の穴みたいに、引き絞られているんだよ。
つまり、そう、絞め殺した相手の、その最後の最後の生、
その死にゆく者の瞳を、そのまま吸い取っちまう、そういう訳だ。
どうだ、納得が言ったか?

という訳で、このサル、まったく持って最悪の最悪。
仕事とは言え、奴のデスクに向かうたびに、
その口調からその面構えから、そしてなによりそのあまりにも強烈な視線から、
思わず目を反らしたくなる、そんな野郎であった。

ただ、おかしなことに、そんなサル、
まわりの奴らの話を聞いてみると、どういう訳だか妙に、評判が良い。
つまりはそう、このサルこそはスペシャリストの中のスペシャリスト。
その見かけが、面構えがどうあろうと、こと、その仕事ぶりに関してだけは、
まさに、誰からも太鼓判を押される、働き者、である、らしい。

サルは役無し、である、つまりは、ぺいぺい、の、平社員である。
入社して15年、と言うのに、そしてこれだけの人徳、
そしてそのスペシャリティ、でありながら、
いまだに名刺の肩書は、エンジニア、のまま、である。

サルは高卒、であるらしい。
いや、実のところ、その高校さえも、ろくに出たとは言い難い。

後になって、そう、いまのように、お互いなにからなにまですべてを打ち明けられる、
そんな関係になってから判ったのだが、

本人でも認めるところのトラブル・キッズ。
悪という悪は、すべて、やった、やり尽くした、そんな輩であった、と聞いた。

サルは実はエクアドル系の移民の子孫である。
このバカなラテン野郎、どうせまた、あのドミニカあたりのできそこない、
と思っていたのだが、そうか、エクアドルか。

どんな事情でか、サルの両親が幼い子どもたちを抱えながら、
着の身着のままで辿り着いたここニューヨーク。
ビザもなく、ソーシャル・セキュリティもなく、
つまりはタックスも払わなくて良い代わりにろくに医者にもいけない、
そんな家族が転がり込んだ先は、川向うのニューワーク、
つまりはこの世の地獄。
ラテン系の移民ばかりの寄り集まった、このニューワーク。
米国の中でも、誰もが知る、凶悪犯罪ダントツナンバーワンの、
スラムの中のスラム、でありながら、それほどまでに世間の注目を集めないのは、
空港に隣接するこのゲトーの中のゲトー地域。
つまりはそう、このラテン系の移民、ばかりが寄り集まったドブの底。
どうせなにがあったとしても、アメリカ市民などひとりもいやしない、
そんな不法移民のより集め。
という訳で、ここニューワーク、アメリカの中にありながら、
それはつまりは、グレーゾーン。
飛行機を降り立って、正式な入国審査の前の検閲所、
その仮の場所に吹き溜まったままの、異国地帯。
警察さえもがすっかりとさじを投げては、完全な無法地帯と化したまま放置された、
そう、ニューワークとはそんな場所である。

プリモ、と呼ばれる上の兄貴、は、ずっと刑務所に入ったまま。
ろくに会ったことも無いし、あったとしてもどうせ英語もろくすっぽ喋れねえから話も通じねえ。
で、セグンド、つまりは次男。
これもまあ、出たり入ったり。この間出てきて、出所のパーティをやっているその席で、
ふと見れば窓の向こうに赤と青のキラキラ星がちーかちか。
トントントン、手を上げて、はい、お迎えが参りました、と、まあそんな感じ。
で、俺、まあ、そう、そんなものだ。
そんな家族の面々はいまだに一言も英語を喋れないらしいのだが、
そういうサルは、スペイン語がまったく判らない。

なぜ?そう、つまり、サルは「施設」で育てられたのである。

悪と言われることはなんでもやったさ。
喧嘩強姦万引強盗、餓鬼の頃から塀をまたいで施設から施設を出たり入ったり。
そう、つまりはそういうことだ。奴のこの眼光、まさに犯罪者のそれ。俺の眼光に間違いはない。

ただ、そんなサルが、どういう訳だか、この会社においてはすこぶる評判が良い。
苦情受付から深夜呼び出しからと、クソ仕事の中のクソ仕事のすべてを押し付けれて、
朝から晩まで、そして深夜にいたっても、まさに息を付く暇もないほどにこき使われながら、
その見るからにヤバげな風体と、
そして、いまにも噛みつかれそうな狂犬のごときその口調にさえ目を瞑れば、
彼こそは、この会社における、ありとあらゆるトラブルを魔法のように解決してくれる、
まさにスペシャリストの中のスペシャリスト。

その仕事ぶりを見れば見るほど、この男、その見かけとは裏腹に、仕事ができる、そう出来すぎる。

施設でな、社会復帰の為の更生プログラムってなところで、
そう、これ、これな、こいつを渡されたんだよ。

その、システム業界においては聖典とさえもされる資格試験の参考書。
でそう、その更生プログラムの中で、これをやらされて、だ。

なんと驚く事に、この、見るからに、極道者の中の極道であるところのサル、
もしかしたら、いや、十中八九、どこか人に知れないところで人を殺めているであろう、
この、針の瞳孔を持った男が、よりによって、こともあろうに、
システム屋の中では、神、の称号さえも与えられるであろう、
その最高資格、の保持者、なのである。

どうやって?どうやってって、ほら、この本、これに書いてあること。

それを?

それを?なにを言ってるんだか判らねえな。つまりこれ、だろ?

元々、施設を行ったり来たり、であったサルは、
その新しい施設であるところの更生プログラム用の学校に、
これ幸いと、住み込んでいた、らしい。

ああ、俺にとっては、忍び込む、なんてお手の物だからな。
どうせどこに居てもろくなものじゃなし。便所もあれば、シャワーだって使えるし。
あの実習室、生まれて初めて、ひとりの時間がもてた、そんな感じだったよな。

という訳で、あろうことかこの、出たり入ったりの絵に描いたようなトラブル・キッズが、
その不良少年の更生プログラムの期間中に、
業界云十年の猛者たちでさえ二の足を踏むその最高資格とやらを、なんなくクリア。

まじかよ。それが本当なら、お前、天才なんじゃねえのか?

今更おめえに嘘言ってどうなるっていうんだよ。

そう、ここまで腹を割って話して初めて判った。

この極道者、トラブル・キッズの出たり入ったりのエクアドル移民の倅、
そんな輩。
つまりは、俺とは似ても似つかない筈の、そんな社会の底辺の底辺に生きてきたこの男が、
どういう訳だか、なにからなにまで、この俺と、趣味が合う、のである。

奴のデスクを訪ねて、いつまで待っても鳴り止まない電話、
そして、そんな俺の後ろからも、次から次へとやってきては行列を作る困ったちゃんたち。
そんな人々に追い立てられながら、さぞかし、いまにもブチ切れ寸前なまでにカリカリしているのか、
と思えば、そんな奴が、ふと見れば、なんと鼻歌を歌っている、のである。

その鼻歌、待てよ、どこかで聞いたことがある。

それは、こんな曲・・・








あの頃、俺はアメリカ南部の片田舎、
バンドがばらけた後、さすらい続けたアジアの混沌の中を出たり入ったり。
そしてようやく辿り着いた日本は東京においても、
もはや、どこにも、どうしても、その居場所を見つけることができなかった、
その挙句、ついに精も根も、生きる気力から意味さえも尽き果てて、
とは言いながら、果ててる暇もないままに、その筋からあの筋から、
ありとあらゆるトラブルを背負い込んでは、
まさに夜逃げ同然に辿り着いたアメリカ南部、この殺伐茫漠たる荒野の果て。

地平線まで一直線に続くフリーウエイと、そして、ただただだだっ広く広がるばかりの空。

いったい俺は、こんなところまで流れ流れて、この先、どこまで逃げ続けろというのか。

それはまさに、四面楚歌。
絶体絶命なんていう、そんな状態も疾うに通り過ぎ、
地の果て空の果てのミドル・オブ・ノーウエアのそのど真ん中で、
貧民の中の貧民住宅のそのまた底の底、
リオ・グランデの国境の川を泳ぎ渡ってきた、
俗に言う、ウエット・バック、と呼ばれるメキシコからの不法移民、
そんな奴らの吹き溜まりに暮らしながら、
この人生、落ちるところまで落ちきって、
そしてこの先、どこまで転がり落ちれば良いのやら、
そんな奈落の縁にぶら下がりながら、
そして俺は、貧民アパートの窓から見えるこの風景、
地平線まで、なにひとつとしてなにもない、
そんな見捨てられた工事現場のような風景を眺めながら、
この身体を、いまにも引き裂いては俺の血で世界中を真っ赤に染めてやる、
そんな末期的な自暴自棄の底の底で、
そして俺は、この歌、ストーン・テンプル・パイロッツのPLUSHを、
繰り返し繰り返し、聞いていたのである。



ストテンか、懐かしいな。
そういう俺を、ふと振り返ったサル。

知ってるのか、ストーン・テンプル・パイロッツ。

知ってるもなにも、と言いかけた途端、

おい、と立ち上がったサル。
おまえ、ストーン・テンプル・パイロッツ、知ってるのか?

この歌、何度歌ったかしれねえよ。施設の中と外と、
寝る場所もなく、居場所もなく、食い物もなく、やることもなく、
路地裏のゴミ捨て場の横で、ありとあらゆるドラッグにぶっ飛びながら、
この曲、この、プラッシュ、ばかりを、聞いていたんだ。

そう、ストーン・テンプル・パイロッツである。

俺の知る限り、これ以上にヤバイバンドはない。

そしてスコット ウェイランド、
無軌道の上に無軌道を積み重ね、
この世におけるありとあらゆるものに中指を突き立てながら、
そして、ヤツの謳い続けたこの魂の叫び。

行先を失った男たちの、その無道の底を這いずり回り、
そして遂には、なにもかもを失ったまま、
胸が張り裂けるばかりに歌い続けたその歌詞、そのままに、
ミドル・オブ・ノーウエア、ゴミだらけの駐車場の片隅で、
誰に看取られることもなく、
まさに、野良犬そのままに、ひとり死んで行った、
この、未曾有の天才の中の天才・ボーカリスト。

そうか、お前も、スコット・ウェイランドが、忘れられない、
そんな野郎なのか。

俺、観たぜ、ストーン・テンプル・パイロッツ、
スコット・ウエイランド、この目で、この目で、何度も何度も。

そしてサルは話し始めた。いつものあの口調で、
まさに、聞いている人間が判っていようが判っていまいが、
そんなこと、知ったことじゃねえよというばかりに、
まるで怒涛のように、あのスコット・ウエイランドが、
いったいどんな男であったのか、その魅力を、その存在の意味を。

この鼻、俺のこのひん曲がった鼻、これな、喧嘩だと思うだろ、違うんだよ。
ストーン・テンプル・パイロッツのライブでな、ステージの上からダイブしてな、
したら目の前の野郎のその頭にごっつんこ。血だらけさ。でもそんなこと気にしちゃいねえ。
最高のライブ、本当に最高の中の最高のライブだった。
このタトゥー、ほら、これ、これも、これも、これも、
これすべて、すべてが、スコット・ウエイランド、その詩、なんだぜ。

ストーン・テンプル・パイロッツ、
80年代から90年代、全米を席巻したグランジ・ロック・ブーム、
その徒花。

いまとなっても、骨董品にさえも成りきれない、
あの、何から何まで無茶苦茶のままに、
ついにはロックそのものに引導を叩きつけることになった、
あのグランジ・ロックのムーブメントの中で、
ストーン・テンプル・パイロッツ、
これほどまでに自暴自棄で、なにからなにまでがヤケクソなばかりに、
あのフラストレーションと、あの無力感と、その焦燥と、
そしてあの、まさに、奈落の底の底を覗き込むような絶望感、
あの、心象風景を、まさにここまで克明に歌い尽くした、
スコット・ウエイランドという男の抱えた、見事な程の破滅の美学。

ロックという音楽における、セックスとドラッグと、そして、暴力性。

男という生物の持つ、その最後の最後に行き着くところの、
無謀なまでの野獣性。
そのやるせないまでの自虐性を、血の出るような思いで歌い尽くした、
そう、スコット・ウエイランドこそは、ロックの打ち止め、その最後の最後の、
絵に描いたようなロック・ヒーローであった訳だ。

そうか、お前も、ストーン・テンプル・パイロッツ、
あれを聞いていた、そんな時期があったんだな。

思わず、顔を見合わせては笑ってしまった。

わかったぜ、お前って奴は、つくづく、どうしようもねえ奴、そういうことなんだろ?







改めて、このスコット・ウエイランドという、
正真正銘の天才の中の天才ボーカリストを、
いったいなにが、ここまで追い込んでしまったのか。

それは多分、この時代というもの。

つまりはこのスコット・ウエイランドが体現した、男の野獣性、
セックス、ドラッグス、そして、バイオレンス。
その野獣の中の野獣性に彩られた破滅の美学、
つまりは、ロックという音楽の体現した破壊力そのものが、
この時代というものから、徹底的に疎まれた、その結果なのだろう。

そしていま、この茶番的なまでに煮詰まりに煮詰まりきった管理社会の中で、
改めて、そう、このスコット・ウエイランドを敢えて聞き続ける意味。

俺は、そしてこの、サルという、
この世でもっともどうしようもない底の底から這い上がってきた、
この野獣の中の野獣を体現する男と、
図らずも志を共にする、そんなどうしようもない共感で結ばれしまった訳だ。



日々、会社内の様々な人々との会合を繰り返しながら、
ふと、訪れた担当者、その机に、妙な絵が飾られてあることに気づいた。

この絵、これ、誰が描いたの?

それは、海の底の絵。
深海魚と、そして、サンゴ礁に囲まれた、海底の絵であった。
嘗て愛した、スキューバダイビングで訪れたカリブの島々。
そこで観た、あの誰も知らない楽園の風景。
ただ、その絵にあるものは違っていた。

この絵、ミスプリントの裏側に、鉛筆だけで描かれたこの絵。

そのディテールのひとつひとつ、サンゴ礁の、その花びらの、欠片の、
その隅から隅までが、ぎっちりと、まさに、偏執狂のように、
ひとつのこさず、くっきりと描かれている。
その筆跡に伺われる、なにひとつとしてなにも躊躇することのない、
確信に満ちた曲線。
その一つ一つのオブジェが、まさに、浮き上がるように、立ち上がるように、
強烈な存在感を持って、紙面いっぱいにはじけ飛んでいる。

これ、あんたが描いたのか?

だとすれば、と俺は思っていた。だとすれば、あなたは天才だ。

はは、とその経理部長は判った。

これ、あの人よ、サル。サルに貰ったの。

サル?サルってあの、サル?

そう、あのシステム部のサル。

思わず、その足でサルの机に直行した。

おい、サル、お前、こんなことやっている場合じゃねえぞ。
絵をかけ、絵を。お前は、天才なんだぞ、知らなかったのか?

ああ、あれな、つまり、これだろ?とサルの持ち出したその大学ノート。

ほら、これも、これも、これも、これなんか、凄いだろ?

そのページの一枚一枚が、めくればめくる程に、
まさに、とてつもないパワーを秘めた細密画。

これ凄いな、とんでもねえぞ、これ。

これな、息子のなんだよ。

息子?

そう、俺の息子。



サルの息子は、俺に似て、と称されたように、トラブル・キッズ、であるらしい。

餓鬼の頃からどうにもこうにも落ち着きが無くてな。
学校でも鼻つまみの乱暴者で、なんど呼び出されたか判りはしない。
ただ、そう、俺には判る。

ほら、この絵、観てくれよ、凄いだろ?
俺には芸術の才能なんてまるでないんだが、そんな俺でも判るよ。
この絵は凄い、本当に凄い。

凄いなんてもんじゃねえよ、これは、まさに、天才だよ、天才。

うちの息子、そう、この絵な。
水族館に連れて行ったんだよ。
海に連れてけというから、連れて行ったら、着いた途端に帰りたいと言い出して。
で、仕方がねえ、そのあたりで飯でも食うか、と寄った先に小さな水族館があってよ。
で、その後、閉館まで、ずっとその水族館の水槽にへばりついたまま。
で、家に帰ったその途端に、描き始めたんだよ、その絵を。

三日三晩、寝ないで描き続けて、そして描き切った途端、
それ以来、絵なんかさっぱり興味もなくなって。

ああ、なんか、そういう子供、聞いたことがあるな。

そう、バカじゃねえんだよ、それは俺が一番良く知っている。

ピアノの天才だって言われてな。学校でいきなりピアノを弾き始めたらしいんだが、
ピアノなんてもの、それまで一度も弾いたことどころか、観たこともなかった筈なのに、
いきなりそのピアノの前に座って、ちょんちょんちょん、と指先で遊び始めてから、
なんといきなり、自作の曲、とやらの弾き始めたらしくて。

それで?それでどうなったんだよ。

で、いつまで経ってもそれを辞めなくて。

で、また学校から呼び出しさ。

で、ワイフが迎えに行ったらしいんだが、その音楽の教師とやらが、
泣きながら、この子は天才だ、天才だ、と。

すげえな。凄い話だ。

まあただ、それ以外のことにはまったくなにも興味を示さず。
授業中にふっと席を立っては、勝手にどこかにばっくれちまって。
した途端、いきなり学校中にドラムが響き初めて。

ドラム?

そう、ドラム。また音楽室にしけこんだところ、ピアノを使っての授業中だったらしくてな。
で、ちょっと目についたドラムとやらを叩き始めたと。

そのときの録音かなにかあるのか?

そんなものあるわけねえだろ。お陰でまたまた呼び出しだよ。

こんど俺のところに連れてこい。もしかした、ものになるかもしれない。

一頃は週末のたびに楽器屋に連れてってな。
したらもう、一日中朝から晩まで、ギターからシンセからドラムから。

一日中?

ああ、一日中。閉店です、と言われて、
いや俺は帰らない。ずっとここに残る。ここに泊まる、ここに住むって駄々こねやがって。

とんでもねえ餓鬼だな。

ただ、それもいきなり、パタリと。

で?

で、そう、実は野球が好きでな。

野球?なんだよそれ。

学校の授業で野球をやったらしいんだよ、したら、

したら?

バットの握り方を教わって、で、こやって打つんだ、と教わった途端に、
いきなりホームランを打ったらしい。

野球も天才かよ。

で、驚いたコーチが、さっそく野球のチームに入れたんだが、

で?

それで、守備の天才とか言われてな。いきなり、ショートストップ。

ははは、お笑いだな。

そう。守らせればファインプレーを連発。で、打席に入ればいきなりのホームラン。

おいおい。

ただ、やっぱりそこがうちの息子なんだが、試合の途中でいなくなってしまったらしい。
つまりなんといか、野球って、実は待ちばかり、だろ?
やっているのは、ピッチャーとキャッチャーと、打者、ばかり。
で、他のメンツは、珠が来るのを待っているか、あるいは、打順がまわってくるのを待つばかり。

確かにそうだな。

で、その待ち時間がばかばかしいと、帰っちまったらしんだよ。試合放棄して。

やれやれだな。

したらその野球のコーチっていのが、いきなり、お前、テニスやれ、と。

テニス?

そう、テニス。つまり、待ちがないから、と。

野球からテニスかよ。ジム・コーリアって選手が、プロ野球を蹴ってテニスに転向して、途端にグランドスラムを取ったぞ。

ああ、なんか、動体視力ってなものに、異常な才能があって、で、その動体視力ってのと、距離感覚ってのが異常に敏感、

とかで。

よりによってテニスかよ。

ああ、で、まあそう、いまはそのテニス。朝から晩まで、学校にもろくすっぽ行かねえで、テニスばっかりなんだよ。
朝一番にその辺りの市営コートにひとりで出かけて、そこにやってくる奴らを相手に、朝から晩まで、テニステニス。

おいおい。

な、笑わせてくれるだろ?

おい、サル、お前、まじで、その息子、ちゃんと考えてやった方がいいぜ。

判ってる。よく言われるんだよ。美術の先生やら、あのピアノ教師やら、そんで今度は野球コーチから。
お前の息子は正真正銘の天才だ。特別な学校に行かせるべきだってさ。

ああ、俺もそう思う。いまのうちから、ちゃんとしたトレーニングを受ければ、まじで、化けるぞ。

ああ、俺も、そう、ここまで色んなやつから言われてみると、そう思わないわけでもねえんだがな。
いかんせん、先立つものがよ。
つまり、金がかかるんだよ、そういう特別なトレーニングって奴にはさ。

そう言えば、うちの犬も、子犬の頃にはアジリティの天才、世界を取れる、とか言われたものだが、
なにょり俺に先立つものが無くて、そしてこの体たらく。ただの鼻つまみの猛犬と成り果てている。

そう、それも判るんだがな、現実問題として、だ。まあ、無理だな、可哀想だが。

どうにか成らねえのか?この絵、見ろよ、これ、これ、天才だよ、賭けてもいい。この子は天才なんだよ、正真正銘の。

ああ、ありがとな、ってか、そういうのもう、聞き飽きてるんだが。ただ、で、俺になにができるかって問題でさ。

実はよ、とサル。

実はよ、我が家にとっては、こんな話、今に始まったことじゃねえんだよ。
うちの兄貴、プリモ。なんか刑務所の中でいきなり絵を書き始めたらしくてさ。
で、にわかタトゥーアーティストとかなんとかで、ムショの中で大層な人気らしい。
で、セグンドなんだが、こいつ、どういう訳か、数学の天才でよ。
ありとあらゆる数字を暗記しては、刑務所の壁いっぱいに数字の落書きなんてことをしていて、
出所日が近づくと、わざと悪さを繰り返して、塀の中に居残っているってらしい。

という訳で、そう、うちの倅、あの、バカ息子。そんな呪われた血筋の、まさに吹き溜まり。

吹き溜まりどころか、そういうのを天才ってんだよ。
そういう餓鬼を、社会が率先して、拾い上げて、育て上げられなかったら、
こんな社会に、いったいなんの意味があるっていうんだよ。

はは、と薄く笑ったサル。

あのな、ニューワークだぜ。判ってるだろ、ニューワークなんだよ、所詮は。
つまりは、掃溜め、つまりは、ゲトー。そんなところでいくら、天才だなんだと言われたって、
良くて刑務所の彫物師、下手すれば、
そうやって、一生塀の中、それぐらいのものでしかないんだよ。



という訳で、今日も今日とて、長い長い不毛な残業の後、
深夜近くの地下鉄に崩れ落ちて、そしてようやく、ベビーメタルにたどり着く。

ここ数ヶ月間聞き続けていたTOKYO DOMEのライブから、
ふと、聞き直してみた、ウェンブリー・アリーナ。

その出だしから、あり、なんかすぅちゃん、ちょっと調子が悪かったのかな、
とは思いながら、そして訪れる、ブラック・ベビーメタルの四の歌。

そう、このウェンブリー・アリーナ、この四の歌で、すべてが一転する。

それはまさに、神降ろし、その奇跡の瞬間。

ブラック・ベビーメタルの、あの弾けきったラブラブパワーによって降ろされた神々に乗り移られて、
そして続く、AMORE、そのすぅめたるの歌声。

まさに、この奇跡の大逆転、その瞬間。
そう、この奇跡の瞬間が、またしても音楽史上に刻まれることになった。

と、そんな時である。
ふと、思いついたのだ。

インターネット?

このベビーメタル。
今となっては、まさに、誰もが認める、天才中の天才、そのスーパーバンド、
であるわけなのだが、
このベビーメタルが、世界に認められたそのきっかけ。

それって、つまりは、YOUTUBE。
それって、つまりは、インターネット、というこの、新しきコミュニケーションの潮流、その申し子、という奴だろう。

果たして、このインターネットがなかったら、ベビーメタルはいったいどうなっていただろう。

そして、もしも、この稀代稀な天才の中の天才である、中元すず香、
これがもし、いまの時代でなかったら、彼女はどんな人生を送っていたのだろう。

改めてそんなことを思う時、そう、この21世紀、この超情報化社会。
その立役者であるインターネット、これを使わない手はない。

という訳で、取り出したIPHONE、電車の中から、サルの携帯にメッセージを打ち込んだ。

おい、インターネットだよ、YOTUBEだよ、KICKSTARTERだよ。

お前の、餓鬼の、サル・ジュニアの、そのノートの落書きを、すべてスキャンに撮って、
そして、インターネットにばらまけ。
楽器屋での演奏を、動画に撮って、YOTUBEにアップしろ。
で、テニス、その草テニスでのプレイも、そのなにからなにまでを、記録に取って、
そして、KICKSTARTERで、援助を募れ。

俺だって気がついたんだ。世界中のどこで、お前の息子の、その糞ガキの才能を、
認めてくれる奴がいないとも限らない。

そしてお前の兄貴、プリモの、そのタトゥー・アートも、
そしてセグンドのその訳の分からない数式を、すべて、インターネットにアップしろ。

信じろ。人類を信じろ。どこかできっと、判るやつが出て来る。
そして、そんな奴らが、どこでどんな形で、救済を申し出るか、判らないじゃないか。

所詮ニューワーク、なんかじゃねえよ。
ニューワークだからこそ、お涙頂戴でもなんでも、
インターネットによって、移民たちの吹き溜まりのスラム街から、
世界を震撼させるアーティストが発掘された、
どうだ、それだけでも、ドラマ性、十分じゃねえか。

既存の社会、そんなものになにも期待するな。
そんなものに勝手に切り捨てられて、才能を勝手に諦めてくれるな。
人間はな、そんなものじゃねえんだよ。
人間の才能ってのはな、社会やら、金やら、身分やら、人種やら、
そんなものに好き勝手に左右される、そんなものであって良い筈ねえんだよ。

いまからでも遅くねえ。少なくともお前の餓鬼、お前の餓鬼だけは、救い出してやれる。
それがお前の、使命なんだよ。

という訳で、そんなメッセージの最後の最後に、

おまけ、とばかりに、BABYMETALの、紅月、貼り付けてやった。

スコット・ウエイランドの亡き今、
魂の叫びを歌に込められるのは、世界でもこの人、ひとり。
この子しかいないんだぜ。

そう、時代は変わったんだ。
ただ、その時代を変化ってやつを、
このベビーメタルに出会って、初めて、ポジティブに受け入れることができた。
そう、俺は、ベビーメタルで、生き返ったんだ。

聞いてみてくれ、このアカツキ。
もしかして、スコット・ウエイランドに感じた、あの、魂の震えを、
感じたり、しないか?

少なくとも、賭けてもいい、お前の息子には、それが判る。
天才にしか判らない、その天才性。
そう、お前の息子なら判る筈だ。

そんな確信を込めながら、金曜の深夜の地下鉄、
チコチコとうち続けていたIPHONEのテキスト・メッセージ。

ふと見れば、すっかり乗り過ごして川向うのブロンクス。
トンネルを抜けた車窓から、闇に沈むスラム街を眺めながら、
いまこうしているこのときにも、このゲトー街のどこかから、
世界に羽ばたくそんな才能が、世界に向けて発信されているかもしれない。

なあ、そうだよな。人類、まだまだ捨てたものじゃないぜ。

蘇れ、人類。

愛で地球を救うベビーメタルの歌声が、
このゲトー街に響き渡る、その時まで。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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