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ニューヨーク 夜の果ての旅 ~ 八月の雨に叩かれて・・

Posted by 高見鈴虫 on 11.2017 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments
夜更けの驟雨に叩かれながら、傘もささず。
出張用の巨大なバッグをゴロゴロと転がしながら、
ヒューゴボスのダークスーツもぐしょぐしょぐしょと濡れそぼり、
夏の雨だ、濡れて行こう、
なんてキザを気取るのもバカバカしく、
とめどなく込み上げてくる、
この憤怒と怨念の津波に揉まれながら、
思わず怒声を上げそうになる呪いの言葉。
見上げる目に雨粒が染みるレンガ色の摩天楼の谷底、
その底の底。
この半年間に渡る不毛な葛藤の末、
身体中から生気という生気がすべて流れ出していく、
そんな無力感打ちひしがれるばかりの夜の雨。

という訳で、まったくのご無沙汰である。
以上の様からご想像頂けるように、
まあそう、ぶっちゃけ、ちょっとまじで、
シャレにならない、ならなすぎる怒涛の日々が続いていたのだが、
ここに来ていきなり、幸か不幸か、
呪いのどら猫屋敷ともおさらばすることとなり果てた。







不毛な雨の午後をやり過ごした後、
今日の成果と明日のやることをリストにまとめ、
会議の招集者リストからアジェンダからを確認した後、
さあ、そろそろ帰ろうか、と立ち上がったところ見計らったかのように、
また例によってあの意味不明なニヤニヤ顔をちらつかせた男、
あの、ちょっと良いですか?と灯りの落ちた会議室を指差す。
ちょっと良いですかって、こんな時間に?

で、調子はどうですか?とまたいつものニヤニヤ笑い。
調子もどうも、申し上げているように、この雲を掴むような話では。
はいはい、そうでしょうね、ご苦労お察しします。
ただ、私は私としてやるべきことやらなくてはいけないことを、着々粛々と行ってはいますが。
はいはい、存じています。何人かの方々からは、実に熱いご評価を頂いてます。
ただ・・
ただ?
はい、ただ、本件の直接のご担当者である、あの方。
あの・・
はい、あの方からは、ちょっと・・
ちょっと、と言うと?
はい、ですから、ちょっと、と。
まあご存知のように、あの方、まったく現場、というか、実作業には関わってこないので。
はい、そうですね、そういう方です。
なので、細々としたレポートは必ず、
はい、それなんですがね。
細か過ぎる、と。
はい、そのように仰せられていて。
概要だけお送りしたこともあったのですが。
はい、そのケースでは、
大雑把すぎる、と。
はい、そうですね。
ぶっちゃけ、なにも知らせるな、言ってくるな、ただ、仕事は終わらせろ、と。
はい、そういう方、そういう方です。
なので、終わらせるように、着々と、粛々と。
はい、なのですが・・
なのですが?
ぶっちゃけ、そのやり方がお気に召さない、と。
お気に召さない?
はい、お気に召さない、と仰っております。
では、お気に召すよにするにはどうしたらよいのか、と。
それがそれが、そういうことも仰られない方ですので。
探せば不在。見つけ出せば疎ましがられ、報告を送れば不要だと言い、出さなければ怠慢だ、と。
はいはい、そういう方ですよね。あの方、まさにそういう方。
正直、こうやって逃げ回られてばかりでは、話もできない会議には出ない報告書は読まない。
はい、そういう方です。ご存知のように。
で、どうすれば良いのか、と。
まあ正直なところ、今回はこれを持って・・
これを持ってって、それどういう意味ですか?
ですから、今回は、もう良い、と。
もう良い?仰ってる意味が良く判りませんが。
はい、ですから、今回の件はこれを持って・・
なんですって?
取り急ぎ、この書類にご署名頂き、そして、社員証とアクセスカード、そしてVPNの・・

その間、この男、その張り付いたようなニヤニヤ笑いに、なんの変化もなく。

つまりは、クビってこと?
クビ、というか、ポジションがクローズになった、と。
で?
で、と仰りますと?
で、これからはどうするんですか?これからの予定だって盛りだくさんなのに。
はい、それはまあ、先方でどうにかなさる、と。
誰がどう、どうやってどうにかするのでしょうか?
ですから、もう、ここまで来たらそう言ったこともご心配なさらずに。
交渉の余地はない、ということですか?
はい、ありません。ああいう方ですから。

とまあ、そんな中、唖然とするままに、
この場所におけるすべての存在証明をもぎ取られた後、
机の引き出しに残された備品の数々、
そのすべてを出張用のコロコロカバンに詰め込まされて、

はい、どうも、ご苦労様でした。
ご苦労様・・?ご苦労様って・・・こんな無茶苦茶な話、聞いたことがない。
まあ、そう、ああ言う方ですから。
ああ言う方って言っても・・
まあ縁が無かった、と。
縁が無かったから、チェンジ、ですか?・・ デリヘル嬢じゃあるまいし・・・
は?なんですか?
いや、良いんですよ、こっちの話です。。

という訳で、いきなり放り出された雨の夜。
いまだに呆然としたまま。
ロビーを出た途端にいきなり雨脚を増した土砂降りに、
これでもか、と叩かれながら、
いったい、ぜんたい、なにが、起こったのか、
その気持の収集が、まったく、追いつかない。

ついさっきまでの、あれやってこれやってそれやって、
あのすべてがすべて分刻みであったこの人生が、
いきなり、まるで穴に落ちたように、スコーンと、雨の中。

いやはや、これぞまさにアメリカ。
アメリカで働いている限り、そういうことが度々ある、
とは、話にだけは聞いていた。

あのね、あの部署のなんとかさん、
バケーションから帰った朝、両手いっぱいにお土産を抱えたまま、
ふとロビーからの会社のアクセスキーが動かない。
はてさて、それほど長い休暇でもなかったのに、と、窓口に言えば、
いきなり進み出てきた屈強な警備員。
まるで、犯罪者でもあるかのように、
そのまま両脇を護衛されたまま嘗ての席へ。
その慣れ親しんだ机から、これとこれとこれを、とダンボール箱に詰めて、
あれもこれも、これはいったい誰から借りたものか、とやっているうちに、
はい、それまで、タイム・アウト。
驚愕に目を瞠る同僚たちと、あまりのことに緊縛したまま凍りついた社内から、
まるで、引きずられるように、出口を促され。
振り返る同僚たち。
いやいや、そんな訳ない、そんな訳ない、と頭を振りながら、
しかしあの、上司だけは、じっと背中を向けたまま、顔さえも見せず・・

そう、そんな悲喜劇の光景を、これまで、何度、聞かされてきたであろうか。

ただそう、そんな事態が、まさか俺の、この身に起ころうとは・・

ただ、正直なところ、これまでの長い人生において、
これほどまでに一方的な理不尽に襲われたことはなかった。

いったい、どうして、なぜそんなことに?

その止めどもなく湧き上がってくる疑問の中で錐揉み状態になりながら、
いやしかし、ここに来ていくらそんなことを考えても、
なにひとつとしてなにも生まれて来やしない、変わりはしない。
その理由はどうあれ、
あるいは、例え真実がわかったとしても、
そんなものは糞の役にも、
あるいは、気休めにさえならないに違いない。

そう、判っている。理不尽な世の中である。
それは重々承知の上。
承知の上、でありながら、
このあまりに一方的な理不尽を前に、
この俺が、この俺でさえもが、
思わず絶句を通りこして苦笑いしか出ない、
この理不尽の中の理不尽。

いやはや、ったく、やってくれるな・・・

そう、やられたのである。
徹底的にやられ、やられ尽くし、
そして、なんの挨拶のひとつもないままに、
いきなり、その眼の前で鼻の先で、バタンとドアを閉められた、
とそんな感じ。

正直なところ、これまでにも、
実に様々なさままざままな人々と悶着を繰り返してきた
そんな自負もあったのではあるが、
いやはや、今回のこの顛末。
これまでの常識のすべてを凌駕しちゃぶ台返す、
まさに宇宙人的なまでに訳の分からない日々であった。
そう思えば、そう、こんな結末、予想がついていなかった訳でもないのだが・・

まあ良い、そう、良いのだ。
世の中は不条理なもの、そう、そうなんだろ?

朝の通勤ラッシュがこの数十年間、
まったく改善されないのと同じように、
この世の不条理さも、
世の中そんなもの、という言葉に括られては、
じっと我慢を耐え忍ぶ、そういう世の中であるのだろう。

だがしかし、改めて言わせて頂ければ、
この世の不条理さ。
それが日々、増々と、その不条理さに拍車がかかっては、
まさに暴走機関車と言えるほどに、
その不条理さ、その理不尽さが、アップグレード、
あるいは、シン・ゴジラ的な進化を繰り返している、
そんな気がしてならないのだが。

そう、21世紀である。
1%の超大金持ちと、そして99%のド貧民、
その縮図が、大手を振ってまかり通っては、
大資本の大資本による大資本の為の、
その雲の上の利潤の為に、
この世のすべての不条理に、
まあ世の中そんなもの、
と肩をすくめる以外に方法がない、
そんな世の中なのである。

そしていまこういった事態に陥って初めて、
普段からの三面記事を賑わすあの目を覆う殺伐の数々。
あの意味不明なまでの修羅狂乱の、
そのほとんどの要因が、
実はこの世の不条理、
この不均衡と不平等と、
倫理も正義もすべてを銭金、
あるいは既得権益者の胸先三寸で推し量る、
そんな殺伐の底をついたこの世に対する、
やんごとなき怒り、ではなかったのか。

そう言えば、と、最近妙に耳につく言葉を繰り返す。
ファシズム・・・
そう、この世の不条理に対する、
止めるに止めれない怒り、
その怒りの受け皿になるのは、
民主主義の原則に基づいた牛歩のごとき社会改革や、
自由と平等、愛と平和の理想論、などではなく、
まさに、電光石火の爆発的な変換こそが、
求められているもの、なのではないのだろうか。

つまりは熱狂、つまりは、信奉
そして、盲信の猛進と、
発狂的な教条主義による新秩序の幕開け。

そうか、これだったのか、とふと思う。
世の不条理、その毒気の全てを吸収していく
ファシズムの甘い囁き。

幻想の中にすべての毒を浄化し、
そして熱狂の中に昇華させるその魔術。

そうかつまりはこれ、だったのだな。

そして旅路の果てに辿り着いた我が家。

ドアを開けた途端に走り出てきたバカ犬が、
背後の巨大なスーツケースが目に入った途端、
なぬ!?かあちゃん、帰ってきたのか?
とばかりに、廊下からエレベーターへと一直線。
わけも判らずぐるぐる回りを繰り返しながら、
どこだ、どこだ、かあちゃん、どこに行った?
と振り返るこの健気にも澄みきった瞳に、
思わず、渡る世間の世知辛さがしみじみと身に染みる、
そんな夜。

そのあまりにも殺伐とした投げやりの中で、
濡れそぼったネクタイの先から、
まるで切れの悪い小便のような水の雫を滴らせたまま、
裸電球を点けたけどまた消して、と呟いた古えのメロディ、

あなたの顔を思い出しながら、
終わりかなと思ったら、泣けてきた・・

だがそう、そんな昭和のノスタルジアとは違い、
我が家は裸電球にあらぬ怪しげなフロアランプ。
この狂乱地下の煽りを食っては、
月々の家賃30万を下らないこのオンボロアパート。
フロアランプと、特大ディスプレイの下がる壁と、マティスの絵。
ブルーレイ・プレイヤーに、ホームシアター仕様の直立スピーカー。
そんな21世紀的なさまざまなアイテムに囲まれながら、
そう、青春の心を奮わせたあの昭和の哀愁も憐情も、
その溢れるばかりの情感もセンチメンタリズムもノスタルジアも、
この21世紀の世には、
なにからなにまでが徹底的にそぐわなくなってきている。

そう、この世に求められているのは情感ではない。
いまとなってはそんな情念さえもが、
徹底的に白々しく思えてくる、
そんな清潔且つ殺伐として無機質な世であるのだから。

という訳で、これ以上無く打ちひしがれて辿り着いたひとりの部屋。

濡れたスーツをそのまま床の上に脱ぎ捨てては、
引きちぎるようにネクタイとワイシャツをその上に叩きつけ、
そして聴こえて来たのは、実にこんな曲。

電気を消して、元気をチャージ、
こりゃ始まるよ、ウキウキ・ミッドナイト!





このあまりにも罰当たりなルンルン・モード。

そろそろ本気で、と、ここまで来たら、
もう、踊るしかねえだろう、と。

そう、時代はあげぽよなのだ。
情念も憤怒も怨念も哀愁も、
はっきり言ってそんなものにすがっていられるほど、
世の中は甘くはない。

あるいは、そんなものに拘って貰えるほどに、
人間なんてものが、重要ではなくなってしまっている、
そんなご時世なのである。

そう、所詮は人間なのだ。
たかが人間、どうしようもなくちっぽけな、
まるで虫のような人間の一粒に過ぎない。

だがしかし、ただそう、ひとつ言えることは、
どんな一分の虫であったとしても、
そこには五分の魂があり、
情念も憤怒も怨念も哀愁も、確かに存在する。
世界がどう変わろうが、社会がどうアップグレードされようが、
人間が人間であるかぎり、
この情念も憤怒も怨念も哀愁からは、
逃れられない、その筈なのだが・・

なにもかもがコスパの損得で切り貼りされるこの時代。
情愛があればあるほどに、
そんな時代から振り落とされていくそのギミック。

ただそう、時代は既にベビーメタル、なのだ。

電気を消したら、また点けるのではない、
この暗闇の中で、元気をチャージ、
問答無用に、あげぽよ~で、
ピカピカのミラーボール、なのである。

とまあ、相変わらず訳の判らない戯言を綴っておるが、
ただただ、このいきなり叩き込まれた人生最悪の夜。
すでにボロ雑巾と化したスーツ、
もうしばらく着ることもないだろう、と、
そのまま無造作に床の上に脱ぎ捨てたまま、
携帯に届いていたお悔やみやらお祝いやら、
状況説明要求やらやらの糞メールに、
これでもかと呪いの言葉を叩きつけては、
そして冷え切った身体をシャワーの中に叩き込んでは、
なぜかこの脳内に響き渡っているのは、
電気を消して元気をチャージ、
こりゃ始まるよウキウキ・ミッドナイト!

改めて、この状況とこのBGMのあまりの隔絶。

どうしたのだ、俺はいったいどうしてしまったのか。
この絶望のどん底のその底の底、
なんて状態に甘んじている暇もなく、
今日明日にも進展を見極めなければ、
夏の終る頃にはすっかりとホームレス、
そんな末期的な危機的状況にある筈のこの俺が、
電気を消して元気をチャージ、と、
ウキウキ・ミッドナイト、と浮かれている、のでああある。

まあそう、これぞ寄る年波の、利点でもあり欠点、
つまりは、これぐらいの最低最悪な状況を、
これまで何度となく積み重ねるうちに、
その絶望や焦燥さえもにも、慣れっこ、
になってしまっているのかもしれない。

ただそんな経験からも判る。
今回はやばい。まじでやばい。
まじな話、トランプ・ショックのこの方、
元気が良いのは株価ばかりで、
米国の経済、その根本はまさに、ガッタガタである。
まさかと思ったH1Bバッシングに全米が大混乱。
これまで全米のIT業界の底を支えていた筈の印度人たちが、
一切合切雲隠れ、あるいは、狂気のパニックに打ち震えながら、
そんな印度人を厄介払いしては、
しめしめとその空席が転がり込むのを待っていた失業者たちが、
え?プロジェクトが中止?
このH1Bバッシングによって、新たな雇用が見込まれるか、と思いきや、
全米で、予定されていた新規事業の企画が次々と頓挫に追い込まれ、
つまりは全米規模ですべてのIT業務が凍結の状態を呈している。
そんな中、富豪連中の間でかわされる秘密のサイン。
株を売れ債権を売れ。紙はもうだめだ。形のないものに価値はない。
ゴールドだ、不動産だ、絵画だ、とにかく形のあるものにシフトをする時なのだ。
そんな八月の大恐慌説、その壮大なちゃぶ台返しの陰に怯えながら、
果たしてこの世界がどこに向かっているのか、
誰一人として誰も判っていない、そんな闇鍋の乱痴気騒ぎばかり。
十中八九、この先、相当にやばい状態が待ち受けているであらう、
それを確信しながらも、降り注ぐ熱いシャワーの中に顔を向けながら、
なぜか罰当たりに、深夜の一人カラオケ大会。

そう、そう言えば、こんな絶対絶命のハイパー状態、
まえにも経験があったな、と思い浮かべる。

そう、俺はかつてアフガニスタンの砂漠の真ん中で、
地雷を踏んだ、のである。

あの時、回りの騒ぎを他所に、
俺はあろうことか、ブラウン・シュガーを歌いながら、
そして頭上に舞う、岩鷲の姿を眺めていたのだ。

そしていま、改めて思い知る、
このブラウン・シュガーからドキドキ・ミッドナイトへの移行の過程、
その長き年月を経ては、
ふたたびこんな危機的な窮地に追い込まれながら、
深夜の風呂場でただひとり、
電気を消して元気をチャージ、
と歌い踊るこの初老の男。
中年太りにせり出した太鼓腹も、
水を吸ってはすだれ状態になったこの斑ハゲ、
ただしかし、こんな無様な齢になるまで生きさらばえたのも、
業と言えば業、恩と言えば恩。
ただ、そう、本来であれば俺はあの時、
既に死んでいた筈、だったのだ。

風呂場からの妙な嬌声に誘われて、
シャワーカーテンの間から鼻先を覗かせた犬。
あれから本当に色々いろいろイロイロなことがあったが、
そして結局、俺のもとに残ったものは、
この太鼓腹と簾ハゲ、そして、この、老いた猛犬だけ、
という奴か。

という訳で夜更けの部屋。
そうか、もう明日の起床時間を気にする必要もなくなった。
そんなまるで井戸の底から空を見上げるような気分のまま、
そう言えば、とまた罰当たりな思いが胸をつく。

もしもこんなことになった時、
せめてもの自分へのご褒美として、と溜め込んでいた、
あの、極道株屋のリュウからの積もり積もった糞メール。
つまりは、おすすめAVシリーズ。

まあそう、こんな夜だ。
黙っていても、湧き上がってくるのは怨念ばかり。
であれば、そう、元気を出さねば。
と、つもりつもったメールに貼り付けられたリンクを辿っては、
いきなり飛び出る夢のような美少女たちのアラレもない姿。
そのあまりにも仰々しい悶絶の演技を前に、
いきなり興奮に目が真っ赤、どころか、
思わず苦笑ばかりが込み上げてくる。

最近の娘ってほんとすげえよな。
これとか、これとか、これとか、
ほら、こんな普通の娘が、
こんな清潔精錬なお嬢様風情が、
ほら、これだぜ、これ、おいおいおい。

そんなリュウのはしゃぐ様を思い描きながら、
あらためて、おいおい、どうしちまったんだよ、この日本って国は・・

清潔で知的で、礼儀正しくいついかなる時にも冷静沈着、
その上辺ばかりの取り澄ました表面のその裏には、
万人の元に裸体を晒しては、その口から秘部から尻の穴にまで、
次から次へとあるものなにものありとあらゆるものを突っ込まれてはぶっかけられる、
そのあまりにも現実離れした恥辱の果てのその果て。
ただ、誰一人として、こんなことを好きでやっている女は、
ごくごくわずか、である筈だ。
こうまでしなくては生きていけなくなってしまった、
そこまで追い詰められた女たちが、
これほどまでにわんさかわんさ存在している、
その事実に改めて目を見張りながら、
そんな女たちの断末魔からの大いなる開き直り、
その見事な肢体ののたうつこの阿鼻叫喚の様、
その白々とした照明に照らされた裸体の陰に潜む、
その残酷な種明かしに気づいては、
心底ぞっとしてしまったりもしたものだ。

おいおい、この世の中、いったいぜんたい、どうなってしまっているのだ・・

だがしかし、例えそれがどんな状況であろうが、
あるはそれはもしかしてまた質の悪い罠、
であるかもしれないのだが、
生きている限り、とりあえず朝はやって来る。

昨晩、あのくだらないAVを横目に、
この半年間の間に溜まりに溜まっていたヘッドハンター、
つまりは派遣屋からのメールに目を通していたのだが、
さぞや、朝にはまさに許容量いっぱいのヴォイスメール、
あの耳障りな印度人の人材派遣屋からのメッセージに溢れかえっているか、
と思いきや・・・

え?なにもない?
なにも、なにひとつとして、入っていない。

そう、そう言えば、あのH1Bの騒動からこの方、
日々、100や200では足りないほどの、
あの、人材派遣屋からのメールが、
日に日に先細っては、今朝見る限り、
新着メールは一本も入っていない。

まさか、いったい、なにが、起こっているのか・・

という訳で、逸る犬に急かされては、
小雨の残るセントラルパーク。
いきなり顔を出した俺の姿に、
嘗ての犬の散歩仲間からは
お悔やみともとれるウエルカムバックのご挨拶。

ただそう、この犬、この駄犬だけは、
そんな俺の苦境が嬉しくて堪らないらしい。

まあそう、犬にとって最高の飼い主っていうのは、
大金持ちでも大スターでもなく、ホームレスなんだから。
つまり、24時間一緒にいてくれて、
寝る時も一緒。同じ食べ物を分け合って、
つまりは最高のバディ。

その食べものを奪い合うなんてことにならなければ良いけど。

そんな冗談を交わしながら、
さあて、今日一日、いったいなにをして過ごしてやろうか、
と考えていたのだが。

そしていま、俺は図書館に居る。

数年前、あの米系の巨大企業を追い出された後、
まるで藁にでもすがるように、
あるいはひと知れず深い山の奥で即身仏を目指した乞食僧が、
狂気の果てに石の礫にかじりつくように、
日々この場所で資格勉強を続けていた。
あの頃は、資格さえ取れば、試験にさえ受かれば、
そればかりが目的化していた、のではあるが、
晴れてその難関を突破した後、
俺の身に待っていたこの現実・・・

経験がない、資格がない、とこれでもか、と求職者を買い叩きながら、
経験と資格を積んだら積んだで、年齢が、ご要望が、とそっぽを向く。
その繰り返し。それはまるでないものねだりの禅問答。

言わせて貰えば、この経験、そしてこの資格、
俺は、本当の本当に、苦労に苦労を重ねてきた、
その自負だけは誰にも負けない、その筈ではあるのだが、
その自負が、その経歴が、資格の看板が、
採用担当者には、邪魔くさいものであるのか。

努力の報われない社会、そう、そんな言葉がふっと、湧き上がってくる。

この老いぼれの失業者野郎、この後に及んで下手な知恵つけやがって。
てめえらは一生、臭い奴隷をやっていればそれで良いのだ。

正社員という立場を、既得権益と思い違いをしている
そんな人々からの、これでもか、という皮肉と中傷を浴びながら、

一度も山に登ったこともない、山を登ろうとしたことさえもない人々が、
山で死んでいった人々を、蔑む資格はどこにもない筈なのに、
そんな呟きが聞こえてくる、それはまさに、遭難者の独り言・・

あの試験が終わって以来、そんなことばかりを考えていたのだが、
そう、あれからでさえ、既に長い月日が流れた。流れてしまった。

そしていま、俺は再び、同じ図書館の同じ場所に座り、
そして、あの頃、について考えを巡らせたりもしている。

あの頃、あの切羽詰まったギリギリの中で、
俺はいったい、なにを追いかけていたのか。
そして、ようやく掴んだその紙ペラ一枚の勲章が、
実は、なんの役にもたたない偽札であったとしても、
俺は果たして、あの半年間の間にいったいなにを得て、
そして、なにを失ったのだろうか。

というわけ、いきなり転がり込んで来た、
この自分の自分による自分のためだけの時間、という奴。

昨日までのあの分刻みの日々。
朝一番にメールに目を通しながら、
今日やることと明日やるべきこを書き連ねていた、
あの日々でさえ、いまとなっては遠い昔のように思えてならない。

この空白がいったいどれくらい続くことになるのか、
いまとなってはまったく見当もつかないのだが、
そう、どれだけジタバタしようが、
この世がこの先、どうしようもない状態に転げ落ちるのは目にみえている。

どうせ落ちるなら、思い切りジタバタしてやろうじゃねえか。

そう、思い出せよ、とつぶやく。
思い出せよ、あのアフガンの禿山を。
戦乱の地を逃げ惑う女子供たちを。
路端に打ち捨てられた死体に集るハエたちを。
そんなどうしようもない現実の中で、
しかし、懸命に、死に物狂いに、
明日をも知れぬ命に縋りつづける人々。

そう、所詮人間はその程度のものなのだ。

起きて寝て、物を喰らい糞を垂れ、
そして死んでは川に流される、その程度の生き物。
それ以上でも以下でもない。

それはまるで、嘗て読んだ、あの、セリーヌの毒舌。
夜の果の旅から、そして、なし崩しの死にいたる、
あの、どろどろとうねった、貧困という泥沼の世界。

そして俺だ。
所詮はどうせ一度死んだ命である。
そして俺は既に、渋みも、男の道も、大人の品性も、
すべて、どうでもよくなった、そんな枯れ果てた中年男である。
今更なにを格好つけてもしょうがねえじゃねえか。

そしていま、俺はベビーメタルを聴いているのだ。

そう、俺はあれからの月日の中で、
そしてついに、ベビーメタルを知ったのだ。

なんだかんだ言って、それがあの頃からに比べての、
一番大きな出来事であったのかもしれない。

電気を消して、元気をチャージ、
ほら始まるよ、ウキウキ・ミッドナイト!

いまになって気がついたことがある。

ちゃりんこでかっ飛びながらベビーメタルを聴くと、
ものすごくはまる。

嘗て、自殺バイクだ、暴走機関車だ、と並べていたが、
そっか、自転車か。

この風を切るスピード感、ウキウキらんらんのこの疾走感、
まさにこれ、ベビーメタルじゃねえか、と。

なんでそれに気が付かなかったのか。

つまりは、そう、俺は自転車に乗ることさえ、忘れていたのだな。

次に見つける仕事は、自転車でオフィスに行ける、
そんな仕事にしようと思っている。
金など、社会的ステータスなど、もう、心底、どうでもよくなった。
誰にどう思われようが知ったことか。

俺は自転車に乗り、テニスをやり、ドラムを叩き、
そしてベビーメタルを聴く。その為に生きているのだ。

なんとなく一皮剥けたヤケクソ気分、なのである。





という訳で、幸か不幸か、いきなり空白の中に叩き込まれた事情から、
これまで溜まりに溜まり続けた、あることないことのネタのすべてを、
この機会に一挙にぶちまけてやろうか、と考えている。

ただ、そう、それは所詮、失業者の戯言、
夜の果ての、なし崩しの死に至る、遺言代わりの暴言に過ぎない。
そんなもの、この世の誰ひとりとして読みたがってはいない筈だ。
そう、このクソブログは、そもそもそんな夜の果ての旅の毒舌、
その中での細やかな自己浄化のためであったのだから。

この旅がいったいどんななし崩しに至るのか、
自分で自分に、戦々恐々とする、そんな思いであある。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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