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JFK国際空港:到着ロビーの人々

Posted by 高見鈴虫 on 23.2017 ニューヨーク徒然   0 comments
ニューヨーク、JFK国際空港。

ここ小一時間、俺はニューヨークの空の玄関口たる、
この巨大空港の喧騒の最中を、為す術もないままに、ぼんやりと眺め続けているばかり。

今回の里帰りは、全日空であったらしい。
成田からの出発が遅れたことは知っていたのだが、
なにがあるか判らない、と普段通りにやってきて見れば、
それに加えてなおさらの遅延とある。

改めてこの全日空の到着ロビー、
普段から使用しているJAL、つまりは、ターミナル1と比べ、
今回のこのターミナル7、そのシャビーさが、ちょっと半端ではない。

それはニューヨークというこの世界有数の大都市への到着口、
というよりは、
どことなく、どこかのデパートの化粧室の前。
ねえ、ちょっとおトイレ行ってくるから、この荷物見といて、
と言われては待ちぼうけを食わされる、
あの感覚に、似たり寄ったり。

このターミナル7を使用する他の航空会社。
英国航空を初め、イベリア航空、アルゼンチン航空、
あるいは、クアンタス、カタール、なんてのの利用者が、
次から次へと到着してはこの出迎えエリアに溢れ出て来るのだが、
改めて人種の坩堝であるニューヨーク、
この到着口に往来する人々の顔も、まさに千差万別。

いかにも心もたげに待ちわびる人々。
始終そわそわと落ちつかず、
時計を眺めてはため息をばかりを繰り返しながら、
そのトイレの入り口を思わせる到着口に向かって、
いまかいまかと、首を伸ばしている。

そしてまた新たな便が到着しては、
その狭き扉の向こうから、恐る恐るあたりを見渡しながら、
寝ぼけた顔を覗かせる人々。

それはまさに、穴から出てきた人、そのもの、である。






と、そんな中、一際高く響き渡る甲高い声。

おかあさーん!

どこの国の言葉であろうか、
その歓喜に満ちた声を張り上げては、
人混みの中を、一目散に走り出す子どもたち。
とその姿を見た途端、
あらあ、と両手を広げる到着者。
まさに、幸せが迸るよう。

やあやあ、良かった良かった、無事に着いて本当に良かった、
と満面の笑みを讃えては抱擁を繰り返す家族、その絆。

で、改めて、この世界各国からの千差万別の人種の人々、
その喜び方にもかなりの違いがあって、
ラテン系、あるいは、アメリカ人たちのその手放しの大抱擁、
ひとりひとりハグを繰り返しては、涙さえ浮かべながらキスの嵐。

荷物を放り出して駆け寄っては、ひしと抱き合ったままの恋人たち。

或いはそんな中に、頭からスカーフを被ったイスラム教徒の人々さえ、
それを出迎えた見るからに厳しい顔をした髭面の男達も、
この時はとばかりに、満面の笑顔を浮かべては、手を取り、抱きしめ合い、
そして控えめながらも、
そのほっぺたに、額に唇を寄せては、
アッラーの思し召しに感謝を、とあからさまな愛情を振りまいている。

とそんな中で、ちょっと、不思議な浮き方をしている、
この見るからに陰気な東洋人たちの姿。
仏頂面のスーツ姿の、あるいは、
合格発表の掲示を待つ受験生、
はたまた何事か無性に不服そうに、
それはまるで檻の前でただ右左を繰り返す
鬱病の猫のような人々。

そう、この日本人。
見るからに日本人、という、日本人な方々。
仕事関係のお出迎えの会社員達。
あるいは、仕事の途中を抜け出しては、
家族を出迎えに来た、俗に言う、お父さん、という種族。

で改めて、この日本人という方々、
ここニューヨークで犇めき合う世界中のありとあらゆる人種たちと比べても、
その喜怒哀楽の表現に、バリエーションがない、
その感情表現、あるいは、存在そのものに、華やかさが、あまりにもなさ過ぎる。

まあそう、仕事関係の、同僚が、部下が、あるいは取引先から、
空港についたとたんにいきなり抱きしめられては羽交い締め、
というのはあまりぞっとしないが、
まあそう、満面に歓迎の笑み、そんな笑顔ぐらいなら、
こういうときだ、そんな出し惜しみをする必要もないではないか、
とも思うのだが、
そう、この空港の到着ロビーという場所、
この世でも、手放しの歓喜に満ち溢れるべき場所においてさえ、
日本人という人種は、その、感情の起伏を、表に出すことを許さない、
そんな不思議な不思議な風習を守り続ける民族のようだ。

と、そんな中、さっきから俺の回りを、
ウロウロうろうろと、
いかにも心無げに落ち着かない、
初老の男がひとり。
その油気の無い白髪頭、ちょっと見、
やつれ果てた坂本龍一、と言った感じのお父さん。

このお父さん、俺がここに着くそのずっと以前から、
この場所で待ちぼうけを続けているらしく、
その所在無げさがちょっと半端ではない。

多分このおっさん、単身赴任の島流し、
家族から離れては、このニューヨークにおいて、
慣れない一人暮らしに四苦八苦、
そんな暮らしを続けているに違いないその風情。

一面にシワの寄ったシャツから、踵の擦り切れた靴から、
裾の丈の合わないズボンから、そんなヤモメ暮らしの侘しさが、
全身から香り立つようなこの坂本龍一。

で、俺はと言えば、まさに気楽な失業者そのもの。
擦り切れたジーンズに臍のあたりまで肌蹴たシャツ。
全身これ、真っ黒に日焼けした上に、
どでかいキャッツアイのグラサンをカチューシャがわり。
その見るからに世間に斜を構える、絵に書いたようなチンピラ風情。
どう考えてもカタギの人間、あるいは、日本人にはまったく見れない、まさに別人種。
到着口が見渡せる窓際のサッシの段差、なんてところに勝手に腰を降ろしては、
これでもかと両足を投げ出して、くそったれ、ちょっと早く着きすぎたな、
とさっきから舌打ちばかり。
で当然の事ながら、そんな俺の周りには少なくともまともだけが取り柄のような日本人たちは、
一人として、寄り付いては来ない。

とそんな虚ろな孤高に浸りながら、
片手に持ったIPHONE、
次々と届くスパムのような求人関連のメールを見るともなく、
或いはそう、こんな時だ、
たまにはこの糞ブログに寄せられていたコメント、
なんてものを洗いざらいに斜め読みしては、
おお、XXさん、お元気そうでなにより、
おっさん、相変わらず口は悪いが、毎度ながら鋭い視線だ、やら、
下手をすれば俺の心理のその奥底をぐさりと掘り下げるその千里眼ぶり。
あるいは、最初から最後までなにが言いたいのかさっぱり判らない、
なんていう秀悦且つありがたきメッセージに読み耽りながら、
改めて、そんな日本という国との間の、
この不思議な親和性を噛み締めたりしていた訳なのだが、
とそんな中、全日空便の到着が告げられて早三十分。
ここに来てようやく、見るからに日本人という人々が、
次々と顔を覗かせるようになった。






で、改めて、その到着口に顔をだす、見るからに日本人な人々。

その姿、まさに、穴から出てきた人々、そのもの。
一様にその寝起きそのままのボサボサの頭に、
白く血の気の引いたぱさついた肌。
見るからにぽーっとして、あるいは、ぽっかりと口を開け、そのあまりの間の抜けた様に、東京とニューヨーク、半日以上に渡るその長いフライト、そのあまりの遠さを、改めて思い起こす事になる。

三々五々に顔を覗かせるそんな穴から出てきた人々に向けて、
控えめながらも、物静かながらも、そこに溢れ出る喜び、というよりは、
まさに、心からの安堵の表情。

お疲れさま。
はい。
大丈夫だった?
ええ、はい、うん。

そのあまりにもさりげない言葉の中に、隠すに隠しきれない深い深い愛情が偲ばれる、
そう、日本人とはまさに、そのような奥ゆかしい民族なのだ。

とそう、そんな中、かみさんからメッセージ。
着いたよ。まだ飛行機の中。
おk。ごゆっくり。
そんな手短なメッセージを取り交わしながら、
ふと眺める、この、日本人という人々。

出迎えの会社員たちから、いやあどうもどうも、お疲れ様です、
と盛んにお辞儀を繰り返されては、うん、出迎えご苦労、とふんぞり返るざんばら髮のオヤジさん。
あるいは、お勤めご苦労さんです、ああ、長かったぜ、と来ればもはや出所祝い。
子供たちは、喜び勇むどころか、はにかみながらもじもじと荷物の陰に身体を隠し、
やあ、お帰りの声に、長い長い溜息を着くおかあさんの姿。

とそんな中、女性の二人連れ。初老のご婦人と若いお嬢さん。
カスタムでカートを入手できなかったのか、両手に大きな荷物を引きずりながら、
鼻先までずれたメガネを押し上げることもなく、
大きく口を開けたまま、ここどこ?とばかりに、見るからにぼんやりとしているばかり。

とふと見れば、そんな二人を遠越しにじっと見つめる、
そう、先程からのあの挙動不審の坂本龍一の姿。
ただ、いまのいままでのあのそわそわいそいそから、
まるで、凍りついたようにじっと立ちすくんだまま動かない。

と、そんな坂本龍一の姿に、ふと目を止めた女性二人連れ。

あ、ほら、と指差す娘。ああ、ほんとだ、と振り返る母親。
で、その巨大な荷物を引きずるようにして、
坂本龍一の元へと歩みをすすめるのだが、
そんな二人を、手を上げるでも歩み寄るでもなく、
ただじっと見つめ続ける坂本龍一。
そしてようやく目の前に辿り着いた母と娘、その姿を見た途端、
抱き合うでも手を差し伸べ流でも、荷物を手に取るでもなく、
遠路はるばるようやく到着したばかりの母娘、
その脇をすっとすり抜けては、
そのまますたすたと、歩き始めた坂本龍一。

とそんな、あまりにも無愛想な出迎え人の後ろから、
再びえっちらおっちらと巨大な荷物を抱えて続く、この母と娘の姿。
その間、たった一言も言葉を交わさず、視線さえも通わせず。
ただその、なんというか、あうんの呼吸、
つまりはそう、うちのお父さんって、そういう人、というこんな状態に慣れきっている、という奴なのだろうが、

ただそう、そんな一種日本においては、
割りと当たり前であるかもしれない無骨でぶっきらぼうな風景が、
ここアメリカにおいては、まさに異常、
あまりにも異常すぎるぐらいの、無礼さとして目に映ってしまうのではあるが、
そう、さっきまでのあの坂本龍一の、
あのそわそわドキドキのあの狼狽え方を知っている俺としては、
そんなお父さん、
胸の内ではもう張り裂けんばかりの喜びに打ち震えながら、
それを素直に表現できない、
その仕方が分からない、或いは照れ臭過ぎる、
そんなあまりの不器用さが、
堪らなく可愛く思えてならない、
あああ、こいつら日本人、本当の本当に日本人!
なんて、ちょっと妙に感心すらさせられたのである。

とそんなおかしな家族の姿を目で追っていたところ、
あれ、しまった、マナーモードにしたままだったIPHONEに、
いつの間にか着信履歴がふたつみっつ。

やば、と見れば、その慌てふためいた俺の姿を、
人混みの間から、ちとーっと見やる、謎の日本人女性の姿。

おお、悪い悪い。
なにしてんの?ずっと電話してんのに。
ああ、だからさ、ほら、あの人達、なんか、ちょっとおかしくて。
いいのよそんなこと、他人のことなんか。
ねえ、それより、あんた仕事見つかったの?
あ?仕事、いや、まだ、ってか、こんな八月に求人なんてねえし。
だったらどうするつもりなの?
どうするもこうするも、探すしかねえだろ?
探してるの?
探してるよ、色々とね。
そうなんだ。

一カ月ぶりに再会した夫婦がいきなりそんな不愉快な会話を始めては、
ものも言わずにその手から荷物をふんだくり、
で?
でって何よ。
だから、タクシー拾うか?バスに乗るか、或いは地下鉄で帰るか。
お金無いんでしょ?
ない訳じゃないけど、まあそう、無駄な出費は・・
だったら地下鉄しか無いんじゃない?
まあそういうことか、と。
ウーバーでも頼んでてくれれば良かったのに。
お前こそいつものリムジン頼んでなかったのかよ。
とかなんとか言いながら、
AIRTRANからそして地下鉄へと乗り継いでは、
クィーンズからブルックリンを越え、ようやくマンハッタンに辿り着いた頃になって、
帰宅ラッシュに犇めき合う車内、荷物の山にいちいち舌打ちを浴びながら、
その長き長き地下鉄の旅の間、始終無言、無言のまま。
この混み合った地下鉄、世界各国からの人種という人種が鬩ぎ合い犇めき合う、
まさにニューヨーク、その体臭が鬱積に鬱積を重ねる、まさにドブの底の底。
とそんな時、ふと見ればこの大混雑の最中に、
よりによってかみさんが居眠りをしている。
長旅によほど疲れたのか、あるいはそう、このニューヨークの末期的な喧騒の中にあって、
ようやくホームタウンに帰ってきた、そんな気がしていたのかもしれない。





そして一時間半に渡る地下鉄の旅の後に、
ようやく転がりでたアッパーウエストサイド。
いきなり出くわすご近所の連中の前では、
まるで取ってつけたように満面の笑顔を振りまきながら、
やあ、お帰り〜! どもども、ただいま〜!
日本はどうだった?ああ、もう疲れたわ、いろいろと、
ねえねえ今度食事でもしましょうよ、詳しい話聞かせて、
なんて取ってつけたような挨拶を繰り返しながら、
そして、辿り着いたアパートのドアの前。

準備は良いか?
ちょっと待って、この服仕舞ってから、
なんてやりながら、
行くぞ、
うん、どうぞ。
1-2-3、で開けたドア。

とその途端、まるでジェット噴射のように飛び出してきた白い弾丸。

おい、ばか、やめろ、の声を振り切っては、
いきなりかみさんに飛びかかっては、胸から顔のあたりまでジャンプを繰り返す。

ああ、ブッチ、ただいまあ、帰ってきたよ。

全身をくねらせるだけくねらせては、
ひゃんひゃんと鳴き声まで響かせて、
そして飛びつく飛びつく、前から後ろから全身に飛びついては、
舐めに舐め、舐め続けては、これでもかと走り回る。

この喜び方、今更ながらちょっと異常、とは思いながら、
おい、お前も手伝え、と狭い玄関からスーツケースと、
そしてお土産の山をよいしょよいしょと寝室に運び込んで。

元気そうね。
ああ、まあ相変わらずだな、とは言いながら、
かみさんの里帰りしていたこの一ヶ月間、
俺の前で笑顔なんて、一回だって見せなかったこの馬鹿犬が、
それがどうだ、このあまりの豹変ぶり。

そしてようやくベッドの端に腰を下ろしたかみさんの、その背中から肩から頭からに飛びかかっては押し倒し、
その胸の上からにのしかかっては、羽交い締めにしたまま、
顔から顎からを舐めに舐め、舐め続けるこのバカ犬の姿。

ここまで、手放しに感情の爆発をさらけ出すこの犬という生き物。
ちょっとし羨ましい気もしないでもなく。
そう言った意味では、この犬、
まさに、日本人的感性の真逆な生き物、という奴なのか。

で改めて、そんな犬とかみさんの隣に長々と身を投げて、
ああ、疲れた、と深い深い溜息。
さあ、そろそろ本気で仕事探すか、と思ったりもしたものだ。

いつまで経っても止むこと無い、
この馬鹿犬の大はしゃぎの様を横目に見ながら、

ねえ、
なに?
こないだ、エレインが旅行から帰って来て、
ああ、モルジブに行ってたのよね、一ヶ月ぐらい。
そう、そのモルジブから帰って来た時に、
チェシーは喜んでいたの?
それがさ、玄関のドアの前までやってきて、
チェシー、帰ったわよ、って手を広げたら、
したら、そんなエレインの姿をちとーっと見つめて、
そのまま、なにも言わずにくるりと後ろを向いて、
で、すたすたとひとりで寝室に引き上げちゃったんだって。
なにそれ。
エレイン、凄くショックだった、と言っていた。
なんか、チェシーらしい、というか。
ああ、いかにもチェシーとエレインらしいだろ。

という訳で、帰国早々気を取り直してまずは犬の散歩である。

夕暮れの深まる川沿いの遊歩道。
ああ、疲れた、とため息を続ける飼い主たちの間を、
これ以上なくはしゃぎ周りながら歩くこの犬の姿。
そうやってつつがなく、このニューヨークでの暮らしが再開された訳である。







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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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