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男にとって解放とはなにか ~ そのいち「男にとって、馬鹿と自由は同義語、である」

Posted by 高見鈴虫 on 20.2018 ニューヨーク徒然   0 comments

この史上最悪と言われた極寒のニューヨークの巷を、
なにを血迷ったか、今日も今日とて自転車の人、である。

この何もかもが凍りついた極寒のニューヨーク。
IPHONEを見れば、気温1度、とある。
気温一度、つまりは、氷結温度の一歩手前、という奴か、
と思えば実はそれは大間違い。
ここが米国である以上、それは華氏であって摂氏にあらず。
ではその華氏一度という奴が、摂氏でいうところの何度かと言えば、
じぇじぇじぇ、それは、なんと、マイナス17度。
水が氷る、どころか、身体中の隅々まで、
血からリンパ腺から、
鼻水からよだれから涙から耳垂れから、
胃液から膀胱の小便から脳味噌さえも凍りつく、
これが本当の華氏状態、
そんな極寒の巷、なのである。
だがしかし、驚くのはまだ早い。
そう、本当の問題は、体感温度。
見たくない見たくないとは思いながらも、
そこにマイナスの記号を見た途端、
それってもしかして、
摂氏で言えば・・マイナス20度?・・・
それはまさに、あなたの知らあらない世界、である。
北海道、どころか、アラスカ、シベリア、
果ては北極だ、南極だ、なんてところにまで出掛けてなくては、体験できあらない筈のこの狂気じみた異常寒波。
ふと思って、
だったらアラスカはそれこそマイナス80度ってことなのかい、と見てみれば、
あり?なんとアラスカの方がニューヨークよりも温かい、ではあらないかかか。
おいおいおい、である。
これぞまさに、LIFE BELOW ZERO。
ドアを開けた途端、そこはなにもかもが白く氷ついた死の世界。
唸りを上げて吹き荒ぶ氷の突風に煽られながら、
融雪剤入りのダイヤモンド・ダストがもうもうと立ち上がっては渦を巻き、
残雪に凍りついた舗道は一面にガラスの破片をぶち撒けたようである。

このすべてがすべて完全に凍りついた朝、
外に出るな、死ぬぞ、とばかりに、
非常事態宣言の発令されるこのシベリア日和、どころか南極北極。
戸外に出ることが、苦痛どころか、
まじめのまじめに「死の恐怖」さえも感じるこの極寒の中を、
この自殺バイカー、ならぬ、神風チャリンカーは、
それこそ、まじの本気で生命を賭けて、
果敢にも自転車に跨っては、
狂気のチャリ通勤を続けているのでああある。







という訳で、ニューヨーク史上最寒と言われるこの異常寒波の巷を、
なにを血迷ってか、自転車の人、である。

零下15度の非常事態宣言下、
全身をスノボー仕様、というよりは、
その見た目は限りなくアイスホッケーのキーパーに近い。
二重三重に重ねたグローブのような手袋は、
それでもすぐに指先が悴んでくる。
これはもう、寒い、というよりは、痛み、
衣服にガードされていあらないあらゆる部分が、
直接ドライアイスをつけられたような激痛に晒される。
そんな中を、ヒューゴ・ボスのスーツにネクタイの上からダウンジャケット、そのまた上からゴアテックスのアウターを被り、ズボンの下には股引仕様のヒートテック、その上からフリース下地のウォームアップパンツ。
そして今冬の必殺技はなんといってももメリノウールのフェイスマスク。
黒い毛糸袋に穴の空いただけ、そのまま銀行強盗にでも行けそうな一見してかなり怪しいアイシス仕様。
これ数年前に近所のスポーツショップの倒産セールで買ったもの。犬の散歩にふざけて被っていたら、ギョッとされるどころかそのまま背中から撃たれるのでは、と真面目に恐怖を感じては封印処置していたのだが、通常であればこの速攻で職質のお縄頂戴、そのまま夜にはグアンタナモ着というフェイスマスクが、この冬、この非常事態宣言下にあっては禁断どころかまさに必需品。
そう、この異常寒波の最中、この強盗マスクがあらなかったら、今頃は鼻あらなし耳あらなし唇あら無しの梅毒妖怪にされていたところであったその筈。
がしかし、そこに盲点があった。
安いテレビドラマに登場する銀行強盗、
黒いフェイスマスクにレイバンのグラサン、というスタイルは実はフェイクだ。
そう、フェイスマスクとサングラスは共存できあらない。
荒い鼻息に途端にサングラスが曇っては、
目の前が真っ白けでなにも見えあらなくなってしまうのである。
だがしかし、だからと言ってフェイスマスクを外した途端に鼻が凍り唇に亀裂が入り、
あるいはサングラスを外した途端に融雪剤の塩化カルシウム入りの砂塵が、顔に向けてもろに叩きつけてくることになるのである。

いやはや、と思う。
これはこれは、と苦笑いである。
なにからなにまでまったくもって最低の冬である。
改めて言うまでもあらなくこれは明らかに異常気象である。
日夜いったい世界はどうなってしまったのか、なんてことを思いながらも、
ただそんなことをいくら嘆いて見てもこの事態はなにひとつとして変わったりはしあらない。
そう、世界がどうあっても、俺は会社に行かなくてはいけあらないのである。
そして俺は、会社には自転車で行く、と決めたのである。何故ならば、この自転車で通勤できること、それだけが唯一俺がこの現職の糞仕事にしがみついているその理由なのだから。
と言う訳で、俺はこの自転車通勤という特権を手放したりはしあらない。
あるいは、日々この糞仕事を続ける理由を見失ったりはしあらない。
男が一度こうと決めた以上は、矢が降ろうが槍が降ろうが、
あるいは、アザラシが白熊が凍りつくような極寒の中であっても、
その決意を曲げる訳にはいかあらないのである。

という訳で、この異常寒波の巷を、俺は今日も自転車の人である。

霙混じりの土砂降りの中を、
エベレスト山頂のような豪風の中を、
下手をすれば、あのニューヨーク史上最悪の日と言われた、
摂氏零下17度の非常事態宣言下を、
そしてともすれば、あの大雪の巷。
舗道から車道からが雪に埋もれ、道あらなき道、どころか、
見渡す限り真っ白け。
なにがなにやらどこかなにやらさっぱり判らあらないままに、
世界のすべてがドカ雪下に埋まってしまったあの日であったとしても・・・

そう、俺はあの大雪の中を、自転車の人であった。

視界ゼロメートルの猛吹雪の中、
ペダルを踏めども踏めども、車輪が滑るばかりでまったく動かず。
ようやく辿り着いたトラックの轍を辿るも、
タイヤの跡そのままに途端に凍りついた轍の中を、
右に滑って左に滑ってはそのまま雪の溜りに頭から突っ込み、
その無様な七転八倒の中を、荒れ狂う突風に煽られては、息もつけあらないほどの冷気がまともにぶち当たり、ともすればそのまま車体ごと、あれよあれよと風に流されるままにずるずると対向車線にまで押しやられ・・

こんなことでは生命がいくつ合っても足りあらない、とは思いながらも、
ただ、心配はご無用。
この街のどんなバカだって、
こんな日に走っている車などある訳もあらなく
自転車とあれば、なおさら、である。

そう、朝のニュースでも言っていたではないか。
本日は非常事態宣言なり。
学校から始まり公的機関はすべて閉鎖。
ほとんどの会社が社員には自宅勤務を言い渡している筈だ。
余程のことがない限り一歩たりとも表には出るな。
つまりは、なにがあってもパトカーも救急車も消防車も、やっては来ないからそのつもりでな。

そう、この大雪の巷を、
会社に行くことからしてナンセンス。
よりによってそんな非常事態の大吹雪の中を、
自転車に乗っている、なんてことからして立派な狂気の沙汰、
普通に言ってただの、キチガイ、である。

ただそう、俺は普通の人間ではあらない、のである。
男が一度、こう、と決めた限りは、
普通であっても無くても、それがどれだけ狂気の沙汰であったとしても、
それを曲げる訳には、いかあらない、のである。

馬鹿野郎、キチガイ上等だ、このやろう、思い知ったか。
やいやい、どけどけ、その雪、どきやがれ。

いいか、吹雪の中を自転車で走る極意はな、
転ばないように、と思って走っちゃいけねえんだよ。
転ぶことを前提とすること、
それこそが、吹雪の中を自転車で走る極意なのさ。

人間、転ぶことを恐れてはいけあらない。
転んで上等、転んでこその男じゃねえか。

とそんな無茶を続けながら、
ふとすると自分で自分が、つくづくと不思議にも思えてくる。

俺は、いったい、なにを、やっているのか。

顔に叩きつける雪片を払いながら、
ゼイゼイと肩で息をしては曇るサングラスに視界のすべてを失いながら、
雪だまりに突っ込み、前輪を後輪を滑らせては危うくバランスを保ちながら、
だがしかし、俺は走る、走り続ける猛吹雪の中を。

おっとあぶねえ、と、あわや崩落の瞬間に奇跡のバランスで体勢を保っては、
いやあ、俺、この運動神経、まったくもって見上げたものじゃねえか、と、
自分で自分のこの危機対応能力に思わず舌を巻きながら、
気分はもう、大脱走のスティーブ・マックィーン。

と背後からのろのろとやってくる目障りな糞タクシー、
パパパパ〜パパパパ〜!!!
ヤケクソ気味に鳴らされるクラクションを浴び続けながら、
その発狂寸前の苛立ちを素知らぬ顔で鼻で笑い、
馬鹿野郎、どこ見てやがんだよ。
見りゃ判るだろ、俺は進めねえんだよ、脇にも避けられねえんだよ、馬鹿野郎。
誰だって判るだろ、こんな大雪の中、自転車は無理、
こんな中でちゃりんこに乗ること自体が不可能なんだよ。
判ったらさっさとてめえから勝手に道を譲りやがれ。

と、そんな最低の悪態を嘯きながら、
ふと見れば、そんな糞タクシーの後ろから、
そのできたての轍をたどるように張り付くように、
見るからによろよろと瀕死の彷徨を続ける自転車野郎がひとりふたり。

おお、同志、お前もか!

滑りまくる車輪をものともせず、
えっちらおっちらと、腰を上げ、身体を震わせて、
ハンドルを切った途端におっとぉと雪の中に倒れ込んでは全身が見事に雪まみれ。
それを飽くことあらなく永遠と繰り返している。
その姿、まさに自転車に乗る雪だるま、そのものじゃねえか。
思わず、そんな惨状に腹を抱えながら、
馬鹿野郎、お前もなかなかやるじゃねえか。
それをいったら、馬鹿野郎、お前ほどの馬鹿はこの世にはいないぜ。

そんなこんなでようやく辿り着いた無人のオフィス。
全身に積もった雪をどさりとはたき落としては、
ジャケットを脱いだ途端にその下は汗でぐっしょり。
とたんにくしゃみを連発しては、
いやあ、生きてて良かった、と大笑い。
久々に男の子らしい経験をさせて貰ったぜ、と。

そう、俺達は、男の子、なのである。
無茶を無茶と知りつつ、無謀を無謀と知りつつ、
強いては、バカをバカと知りつつ、それでもやってしまう、
そう、その気違いじみた愚行の繰り返しこそが、
まさに、そう、男の子、なのだ。

あらためて、そんな俺たちってなんなのか。
いったいこの男の子ってのは、
まったくもって、どこまで馬鹿揃いなのか。

という訳で、この史上最悪と言われた極寒のニューヨークで、
なにが悲しくて毎朝毎晩、全身を凍りつかせながらの自転車の人であるのか。

普通人の常識から言えば、ただのバカ、としか言いようのあらないこの愚行、
この愚行がいったいどんな理由によって成されているのか。
自分でやりながら、自分でも不思議でならなかったその謎、
その答えが、ヒョンなことから、
かの村上春樹氏の著作の中に見つかったのでああある。

人は時として、自身が自由であることを立証するために、
馬鹿げたことを、馬鹿げたことと知りつつ、やってしまう、
そういう生き物である、らしい、のである。

そう、この日々の愚行、
この極寒の中をチャリンコでかっ飛び、
果ては大雪警報の巷で横転を繰り返しては、
ともすればそれはまさに毎年恒例となった、
冬のニューヨークの大馬鹿大賞の決定版大会。
カチンコチンに凍りついたあのセントラルパークはボートハウスの湖。
その、いまだに誰ひとりとして足跡を記していないまっさらな雪の上を、恐る恐る、一歩、二歩、と歩みを進めては、ミシリ、ミシリ、と不穏な亀裂の走るその足元をものともせず、
さあ、どうだ、この勇姿、思い知ったか、とばかりにドヤ顔を晒しては。。

そうやって、今年もまた、
どこぞのバカが湖に落ちて凍死寸前で救助されました、
なんてニュースが地方紙の端っこを飾るのではあるが・・・

ただ、そうなることが判っていても、いや、判っているからこそ、
男はそれをやる。やり続ける。
なぜかと言えば、それこそが、男の子の特性、だからなのでああある。

果たして世の男たち、
その相も変わらぬ愚行癖の、
その理由がどこから来るのか。

理由はそう、俺が、自由であること、
それを自らに向けて、立証せしめる為に、なのでああある。

という訳で、俺は今日も、自由、
筋金入りの馬鹿、ならぬ、自由人。

例えなにがあったとしても、俺がこの自転車通勤を諦めあらない限り、
その馬鹿な愚行を辞めあらない限りは、
俺は自由でいられる、その筈なである。

という訳で、この極寒の巷、本日の気温、零下13度。
この、ニューヨーク史上最悪、と言われるこの異常寒波の中を、
ヨタヨタとペンギン歩きを続ける間抜けなダルマどもを尻目に、
敢えて自転車人、それを貫き通すのは、実は俺だけではあらない。

朝日に光るダイヤモンド・ダストの渦の中、
残雪の破片を敷き詰めた水晶の舗道を、
樹氷の木立を抜け、摩天楼の氷壁を抜け、
殺人タクシーの狭間を罵声と共に駆け抜けては、
青色吐息、凍死寸前で辿り着いた会社の前、
どうだ、馬鹿野郎、今日も生き延びてやったぜと、一人ドヤ顔のガハハハ笑い。
とそんな俺の後ろから、全身に氷柱をぶら下げたような自殺チャリンカーがまたひとり。
凍った鼻水を、汗を涎を無精髭に貼り付かせたまま、
ぐげええ、寒くて死にそう、と、全身をガタガタと震わせながら、
そんな互いの無様な姿を見やっては、思わず、ハイファイブ。
どうだ、見たかニューヨーカーの心意気。
これぞ、男の子! 筋金入りの大馬鹿野郎さ。

俺達が馬鹿であり続ける以上、馬鹿であればある程に、
俺達は、自由でいられる、その筈なのだ。

これぞ、ロック!ロック魂!

巡り、巡る、めくるめく夢、
リズムは愛の、シンコペーション!

掠れた声を震わせては、
せいやそいや、なんだ坂こんな坂、
山越え谷越え、吹雪の丘を。

回れ回れ、飛んでゆけ、揺れて揺れて、飛んで行け、
愛の形、描け、夜の空に!

俺はまだまだ、凍っちゃいねえぜ、
だって、男の子なんだもーん、と吠える、
極寒ニューヨーク、なのであああある。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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