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前髪を失った俺たちに明日はない

Posted by 高見鈴虫 on 13.2018 今日の格言   0 comments

眼の前に長く垂れた前髪を、
さも邪魔くさそうに苛立たしげに搔き上げる少年たちよ、
思い上がるのもいい加減にしろ。

その邪魔臭くも苛立たしき前髪の意味するものを、
そのあまりに麗しき価値を、君たちはまだ知らないだけなのだ。

いつか君たちがその前髪を失なうことになる、
その時になって初めて、
その邪魔臭き前髪の象徴していたものがなんであったのか、
その価値に気づかされることにもなるのだが、
そんな当たり前の事実にさえ、
君たちはまだ、想像さえもできないに違いない。

そんな君達を日夜悩ませ苛立たせる
その邪魔臭き前髪の象徴するもの、
それはつまりは、日々君たちを脅かす不確実性という悪魔たち。
その不安から葛藤から、欲求から不満から、
怯えから恐れから、疑問から怒りから、
そんな苛立ちに今も身を引き絞り続けている少年たちよ、
ただ忘れてはならない、
君たちは日夜君たちを悩ますその不確実性という苛立ち、
その代償として君たちが日々当たり前のように享受しているもの。

少女たちの甘い髪の香りが、その不穏なほどの胸騒ぎが、
突如として突き落とされた失意のどん底から、
みるみると心に満ち満ちて行くメロディが、
時として唐突に湧き上がってくる意味不明なまでの熱情が、
身体の芯を震わせるそのビートが、
新たなる発見の喜びと、それを見失った落胆と、
その破壊と想像と、興奮と失意と、苛立ちと救済と、不満と充足と、
その七転八倒の限りなきアップ・アンド・ダウンの中で、
しかし日々当たり前に感じているであろう、その甘き季節の香り。
その全ての幻想が、儚い夢が、細やかなドラマが、
そんな君たちの邪魔くさくも麗しい前髪に象徴される
その不確実な未来に対する不安の、その大いなる見返りなのだ。

そして、そんな不確実性という悪夢からようやくと解放された時、
君たちはその解脱の、その心の平穏の代償として、
その麗しくも邪魔臭かった前髪を失ってしまった事実に気づく筈だ。

前髪を失ってしまった世界、
そうなった時になって初めて、
君たちにその邪魔臭い前髪の象徴していたもの、
そのあまりにも大きな価値に気づく。

そして少年たちよ、
その邪魔くさくも苛立たしい前髪の象徴する、
君たちを日々苛むその不確実性という不安こそが、
君たちの持ち得る、その全ての甘い幻想の、
儚い夢の、細やかなドラマの、その源泉なのだ。

その不安を恐れてはいけない。
その苛立ちを憎んではいけない。
その怒りを、失望を、悲しんではいけない。
その不安や、苛立ちや、怒りや、失望こそが、
君たちの持つ若さという財産のその全てであるのだから。

だがそれに気づいた時こそが、
君たちがその邪魔くさくも苛立たしい前髪を失ってしまった時、
でもあるのだが。

そして忘れないで欲しい、
前髪を失ってしまっても、朝はやはりやってくる。
シャワーからあがった濡れた髪をかき揚げ、
その哀れにもすだれ状になった前髪を前に、
前に流し後ろにか掻き揚げ、右に左に撫で分けながら、
そしてふと、そんな前髪との葛藤に心底うんざりしていた、
あの不確実性の季節を、思いやりながら。
前髪を失ってしまってもなお、春はやはりやってくる。
不安も葛藤も欲求も不満も
怯えから恐れから、疑問から怒りからも解放されたと同時に、
春の風に潜む、あの不穏な程に甘く切ない予感からも見放されたまま。

そうなった時になって初めて、
あの、邪魔くさくも苛立たしかった前髪の、
その真の価値に気づかされるのだ。

眼の前に長く垂れた前髪を、
さも邪魔くさそうに苛立たしげに搔き上げる少年たちよ、
思い上がるのもいい加減にしろ。

いつの日にか、そしてそれはそれほど遠くない将来に、
君たちは確実に、それを失うことになる、
その事実を、忘れてはいけない。

その日まで、君たちがなにをするべきなのか、
それを改めて、考えてみるべきなのだ。
その邪魔くさくも苛立たしい前髪の象徴する、
君たちを日々苛むその不確実性という不安こそが、
君たちの持ち得る、その全ての甘い幻想の、
儚い夢の、細やかなドラマの、その本当の価値を。

ただ、そう、いくらそんな事を言っても、
お前らにはそんなことさえ、気が付かないよな、
想像もつかないよな、そう、その通りだ。その調子だ。

という訳で、そんな迂闊なガキどもが、
その邪魔臭くも苛立たしい前髪の価値に気づかない以上は、

こんな前髪さえも失ってしまった俺にさえ、
まだまだ、チャンスはある、ということだ。

糞ガキども、せいぜいその邪魔くさきもうざったい前髪に、
無駄な舌打ちでも繰り返していろ。

例え前髪を失ったからと言って、
糞ガキども、まだまだお前らには負けてはいないぞ。
お前らがその前髪の本当の価値に気が付かないうちはな。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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