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ジェットラグ・ドッグ 〜 時差ボケの犬

Posted by 高見鈴虫 on 12.2018 犬の事情   0 comments
という訳で、
突如として深夜の一時間がふっと消えてなくなる、そんな真夜中の怪に見舞われたニューヨークシティ。
毎度のことながら、
忘れた頃にいきなりとしていつのまにか始まっているこの夏時間という奴である。

いまだ残雪に覆われたニューヨーク・シティ。
この冬の最中から夏時間ってのも悪い冗談のようだが、
今日はなんだか仕事の進み具合が良いぞ、
だってまだ、空が明るいじゃないか、
などと油断してふと時計を見れば、なぬ?7時?
なんでやねん?と。

YAVA! 犬の散歩に遅れた!

慌てて飛び跳ねては自転車に飛び乗り、
くそったれ、まんまと騙された、と。

という訳この夏時間と言うやつ。
まったく以って迷惑千万、
調子が狂ってしまうこと甚だしい。

そしてなにより、その迷惑を被っては一番機嫌が悪いのが、何を隠そう我が家の犬、なのである。




生まれてこの方、一度も飛行機に乗ったことのない我が家の犬にとって、
かみさんが日本から帰るたびに患うこの難病であることろの時差ボケ、というのは、
まったく以って想像だにできない未知の病、の筈なのだが、
いや、実はこの時差ボケ、という奴、
そう、この夏時間だ、冬時間だ、というたびに、
我が家の犬はこの時差ボケという重病をこじらせるのである。

見かけに拠らず意外なことに、
犬というのは実は、とてもとても時間に厳しい動物である。

嘗て、自宅勤務を続けていた時代、

六時半に起床。7時に散歩に出発。
帰って朝食。少し仮眠の後、12時ジャストに昼の散歩に出発。
1時ジャストに帰ってオヤツの後に午睡。
3時に起きてオヤツの後にまた午睡。
5時ジャストに夕方の散歩へと出発。
帰って7時に夕食。
休憩を経て9時半に猛犬パーティ。

この一日のサイクルを、一分一秒の狂いもなく、
きちりきちりと守り続けていた、のである。

その当時から、果たしてまったくもって謎であった、
この犬の時間感覚という奴。
時計を持たない犬という動物が、
いったいどうやってこの時間というものを知りうるのか、
とは常々思っていたのであるが、
その謎が解明されないまま、しかし、それは確固たる既成事実として、
我が家の犬は誰に教わることもなく、
この決められた時間を、まさに、一分一秒も違わず、
さあ、起床だ、散歩だ、飯だ、オヤツだ、また散歩だ、
まるでストップウォッチで測っているかのように、
きちりきちりと守り続けては、
ふとすれば、電話だ、メールだ、会議の変更だ、と、
何かと予定の狂いがちな飼い主の足元から、

おい、おい、おい、
もう時間、三分二十秒も過ぎてるのだぜ、
と、決められた予定の強要を繰り返す、
まさにこの地球上の誰よりも仕事熱心なタイムキーパーぶり、
その天才的な才覚をこれ以上なく発揮し続けたのである。

という訳で、
そんな時計じかけのバカ犬であるところの我が家の犬にとって、
今更ながらのこの、季節ごとの時間の変更、という奴。

いきなり始まったこの人間社会の時間の変更が、
いったいなんの理由でなされているのか、
そんなことは知ったことではあらない、のだろうが、
そう、そんな犬にとって、
この毎年二回、春先と、そして秋の訪れとともに繰り返されるこの時間変更という奴、
その一時間の行ったり来たりは、まったく以って、迷惑千万、遣る方無し!

朝も暗いうちから起こされては、おい、散歩に行くぜ、と促すたびに、
その見るからに不機嫌な不愉快そうな顔。
なんだ?なんだってんだ、まだまだまだまだ、一時間も早いじゃないか!

地獄のように正確無比な腹時間に生きる犬たちにとって、
散歩から朝食からオヤツから昼の午睡から夕食からが、
すべて一時間づつずれていくこの不思議、
それはまさに、天変地異にも等しい大異変、なのである。

えええ!?なんで、なんでいまから飯なのだ?なにかおかしくないか?
と、いちいち首を傾げては、
そのむくれきった顔つき、プンプンと露骨に不愉快を顕にしては、
そんな一時間も早い飯など、食いたくもない!
と、夕飯を前にして不貞寝を続けていたりもするのである。

というわけで、空の明るさにすっかりと騙されては、
慌てふためいて帰り着いた我が家。

あああ、ごめんごめん、本当にごめん、と平謝りに謝る俺に、
寝ぼけた顔のままで首をかしげる我が犬。

は?なにが?まあ、そう、お前らにはお前らの事情があるんだろが、
とばかりに、さあ、そう言うならつきあってやるか、とばかりに、
お帰りも言わないまま、無言で足元をすり抜けては、
ドアの前から、おい、なにをしてるんだ、散歩に行きたいんじゃないのか?
と迷惑そうに振り返って見せたりもするのである。

というわけで、あれええ、と響き渡るかみさんの素っ頓狂な悲鳴。

あれえ、どうしたの?ブーくん、ご飯食べてないじゃない。
どこか身体でも悪いのかな、ねえねえ、どうしたの、どうしたんだろう・・・

とそんなかみさんに、ああ、夏時間に変わっても、
まだ夕飯の時間じゃない、とそう言い張ってるんだよ。

なあんだ、そういうことか。

だったら、私達だけでも先に食べちゃおう、と言いながら、
テーブルに並んだ夕食を前に、そう言えば、俺もそれほど腹が減ってないような・・・
そう言えば、わたしも・・・

というわけで、世界がどう変わろうが、
我が家は我が家の時間を貫く!
そんな俄な独善的犬の時間を貫く我が家なのである。





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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