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Try A Little Tenderness ~ 一難去ってまた一難のが~がらがら狂騒曲 

Posted by 高見鈴虫 on 25.2018 犬の事情   0 comments
つい先日のピーピー騒動も束の間、
今度はよりによって咳である。

いつの頃からか、妙に喉に痰が絡まるような、
そんな嫌な咳をすることが多くなった。

がーがらがら、かーっ、ぺっ!

なんだよ、どうした、それ。
どうでも良いけど、なんか、ジジ臭いにも程があるな。

そう、我が家の犬もすでに十歳も間近。
人間で言えば、つまりは60歳?
それってまさか立派な老犬。
もしかしてお前、いつのまにか俺たちの歳を追い越していたのか?

思い起こせば九年半前のクリスマスを過ぎた雨の朝。
濡れないようにとジャンパーの胸に抱いてはこいつを迎え入れた、
あの日のことが未だに昨日のことのようだというのに。
あの子犬、まるで縫いぐるみそのものだったあいつが、
いつの間にか老犬の域に近づきつつあるこの不思議。

という訳で、この、がーがらがら、かーっ、ぺっ!
聞けば聞くほどに嫌な咳である。
ただその聞こえの悪さは別として、
特にこれと言って具合が悪いというのでもなさそうなのである。
それが証拠に今日も今日とて朝の6時、
目覚ましラジオが鳴り始めるその寸前に飛び起きては、
おい、朝だぞ、起きろ起きろと顔中を舐め回し、
腹の上で胸の上でいつもの大運動会。
ああ、判った判った、もうちょっとだけで良いから寝かせてくれ、
そんな切実な願いも知ったことかと、
俺とかみさん、その双方の健やかなる寝顔を代わり番こに、
舐めて舐めては舐め続けるこの非情の目覚まし野郎。

ただ、そんな時、ぐ、と喉の奥から不穏な呻きを漏らしては、
が~が~が~、が~がらがら、かーっ、ぺっ!

なんだ!?と思わず飛び起きる俺とかみさん。
なんだよそれ、喉になにか詰まったのか?
まさか、また変な物でも食べたのんじゃないの?
あんたが早く起きないからよ。
それならなんでお前が起きない!?
とそんな騒ぎも知ったことかと、
すたすたとひとり玄関に走っては、
おーい、まだかまだか、と繰り返すその不届き者。

という訳で、夜明けのセントラルパーク、
朝露に濡れた草原をこれでもかと走り回っては、
家に帰り着いた途端に、足も拭かないうちから朝食をねだる、
まさにそう、いつもながら元気元気、
問答無用に罰当たりなほどに、元気いっぱいいっぱいすぎる、
この馬鹿老犬、でもでもあるのだが、
ただその朝食を一心不乱に平らげた、その途端、

が~が~が~、が~がらがら、かーっ、ぺっ! 

なんだなんだ?と目を丸くする飼い主の前で、
は?なにが、とあっけらかんと尻尾を振る、
この相変わらずの可愛い老悪魔ぶり。

ただ、なにかなこの咳。
なんだろう、喉になにか詰まっているような。
まるで死にかけた爺さんのような、
言っちゃなんだが、ジジ臭いにも程がある・・
まさか風邪でも引いたのかな。
風邪っていうふうにも見えないけど。
だったら、
だったら?
だったらもしかして
もしかしてなによ。
もしかして、喉になにか詰まっているとか。
魚の骨とか?まさか、小骨のついた魚なんか食べさせてないわよ。
だったら?
だったらなんだろう。

とそんな飼い主の困惑を前に、
まるで嘲笑うように、ソファの上にゴロンと寝転がっては、
よりによって、ぷーっと、おなら一発。

大丈夫なんじゃない?こんなんだし。
どう考えてもこいつが病気だなんて思えないよな。
まあ、そのうち治るんじゃない?
この間の下痢もそうだったし・・
そう言えばあんたの下痢は治ったの?
いやあ、それがさ・・・








という訳で、このなんとも耳障りな、
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
そうこうするうちに、散歩の途中でも食事の前でも後でも、
信号待ちの交差点でもアパートの玄関でエレベーターで、
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
ともすれば、昼寝の途中でもふっと起き上がっては、
大あくびのついでにちょっと思い出したように、
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
そのあまりの耳障りな音、ジジ臭いにも程がある、と言うか・・

ただ、ふと覗いたネットのページ、
その中で、見るともなく検索した、犬の咳、その原因。

犬の咳を軽視してはいけません。
気管虚脱から、心臓の欠陥、ともすれば大病の予兆かも・・

そんな不穏な暗示に思わず、大病?ありえねえ~。
でもなあ、あいつ、あの通り、
元気元気、元気過ぎるぐらい罰当たりなほどに、
病気の気配なんて微塵も見えないのだが・・
ただそう、あのマギーにしたってペニーにしたって、
そしてなにより、去年のサリーにしたって、
予兆どころか、死ぬ直前まで、
元気元気、元気いっぱいであった筈なんだよな・・

とそんな中、夜更けを過ぎた頃になって、
リビングのソファの上から、
あの耳障りな、が~がらがら、かーっ、ぺっ!

ねえ、またやってるよ。
ああ、まあそのうち収まるだろ・・

ただそれが、三十分おきから十五分おき、
ともすれば、五分おきにも繰り返し初めて。

なにかなあれ?
わからん、さっぱりわからん。
でも晩ごはんも全部平らげたし、どころか、
もっとなにか寄越せってうるさいぐらいだったし。
さっきの夜の散歩の時にもも思いっきり走り回ってたしさ。
ただ、とかみさん。
ただ、一晩中これをされたら、うるさくって眠れない・・

と、そのまま眠ってしまったのだが、
明け方になって、ふと、おいおい、枕元に犬の気配。

なに?どうした?また下痢か?

とそんな俺の鼻先で、
がーがらがら、かーっ、ぺっ!
がーがらがら、かーっ、ぺっ!
がーがらがら、かーっ、ぺっ!
と三連ちゃん。

なんだよそれ、と言う俺に、
またいつものどんぐり目で照れ笑いをしながら、

ねえ、ねえ、これ、なにかな? 
この咳が出て眠れない、と。

という訳で、一難去ってまた一難。
下痢の次は今度は咳か。

ただ、公園に走ってことを済ませれば一息つける下痢と違って、
この咳、その煩さも然ることながら、原因がわからない不気味さ。

もしかして、とまたいつもの不穏な悲観論が頭をもたげてくる。
もしかして、喉にポリープでもできているんじゃないのか?

とそんな俺の目の前で再び、が~がらがら、かーっ、ぺっ!
おい、なんだよそれ、うざったいにも程があるぜ、
と舌打ちしながら、
ふと見れば、喉の奥から吐き出された痰が、
あれ、妙に、赤っぽい・・

これ、まさか、血・・・!?

という訳で、その時点、つまりは朝の5時に、会社にメールをした。

家族の緊急事態にて、本日は会社を休ませて頂きます。

そう、所詮は犬、とは言いながら、俺にとっては大切な家族。
ともすれば、俺自身なんかよりも、ずっとずっと大切な命の源である。
この犬の身になにかがあったら、俺は仕事どころか、
真人間だってさっさと投げ売ってしまうに違いない。
そう、この犬こそは、俺の正気を、社会生活を、どころか、
この存在を、命を繋ぎ止める、唯一絶対の命綱。

という訳で、朝一番に飛び込んだ獣医さん。

咳が止まらなくて、
なんだか喉の奥に痰が絡んだような、
妙にしつこい咳を繰り返していて・・
まさか・・ 癌なんかじゃ、ないでしょうね?・・

ただ、いつもながらもこの馬鹿犬である。
診察前の早朝の散歩の時には、
問答無用に終わりなきボール投げをせがみ続けていたものの、
診察室に連行された途端につむじを曲げては不機嫌の塊り。
せっかく無理を言って予定を開けてもらったというのに、
その見かけぬ若い獣医さんを前にしては、
ろくに身体を触らせないどころか、
ともすれば唸り声さえ響かせては、
無理強いするたびに診察台を飛び降りてはまた飛び乗って、
なんてことを繰り返している。

まあ、大丈夫でしょう、と獣医さん。
ご覧のようにこのように、ほれ、これだけ元気なようだし・・
そんな曖昧な診断を前に、

いやでも、とかみさん。
昨日も朝まで咳が止まらなくて。

でもいまは大丈夫。
はい、いまは確かに大丈夫。

だったら、とその若い獣医さん。
だったらたぶん、精神的なもんなのではないか、と。
精神的?精神的って、この犬が?
まさかぁ、と俺。
この犬に精神なんて高尚なものがあるなんて、
とてもじゃないが信じられない。
そうそう、そのとおり、と犬。
だからとっとと帰ろうぜ、と勝手にすでに診察室のドアの外。

だったらまあ、とりあえず、抗生物質でも処方しておきますので、
それで暫く様子を見て・・

抗生物質、と聞いて、やおらに眉を吊り上げるかみさん。

理由も判らず薬を与えるなんてできません。

ただ、理由がわからないどころか、診察もろくにできないのでは・・

あの、とかみさん。

あの、いつもの院長先生は?

ああ、いつもの院長先生はちょっと本日は生憎予約が詰まっていまして。

とそこに来て、犬の、そしてかみさんの不機嫌な理由に気がついた。

そう、その、院長先生、なのである。

この院長先生、近所の犬どもは元より、
その飼主であるところの御婦人連中には、
まさに不動の人気を誇るカリスマ獣医さん。
ぶっちゃけそのルックスが、男の俺でさえ思わず見惚れる程の超絶な二枚目。
ピアース・ブロスナンの洗練と、
ジョージ・クルーニーの渋みと、
そして、ジェームズ・フランコの知性を合わせ持った、
その辺りのセレブリティが腰を抜かすほどの、
甘い甘い甘いマスクの名物獣医さん、なのである。

おまけにそんな飼い主の気持ちを知ってか知らずか、
犬どもにしても、この人じゃなくちゃ嫌だ、と言い張られては、
その患者のほとんどが、院長先生の直々のお得意様ばかり。
そんなこんなでこのセレブリティ院長先生、
常時超のつくほどの大人気で当然のことながら予約はいつもいっぱい。

ただ、近所の犬連中において、
72丁目のドッグ・ウィスパラーの異名を誇るこの俺である。
その噂は当然のことながらこのセレブリティ獣医さんの耳にも入っていて、
そんな関係からひょんなことから、
この院長先生の個人用携帯の番号とそのメアド、なんてものを、
しっかりちゃっかりとゲットしていたりもしているわけだ。

という訳で、せっかく仕事の休みを取ったと言うのに、
日がな一日、間の抜けた昼のソファに犬を枕に寝転がっては、
音の消されたテレビでワールドカップの消化試合を眺めながら、
そして忘れた頃に繰り返される、
が~がらがら、かーっ、ぺっ!

思わず、ほとほとに参りきっては途方にくれてた溜息を繰り返すばかり。

翌日、もしものことを考えて、今度は交代でかみさんが仕事を休み、
でも、別に、いつもと変わりはなかったみたい、と拍子抜けした様子。

だったらもう、大丈夫なのかな、と覗き込む表情。
え?なにが?と惚けて尻尾を振っては、
ねえねえねえ、なんか頂戴、と右手を上げる犬。
まさにこの可愛い老悪魔、小憎たらしいばかり、である。

ケンネル・コフなんじゃないのって。
ああ、なんか最近流行ってるらしいしな。
だからまあ、抗生物質も与えているし、そのうち良くなるんじゃないのかな。
とそんな希望的観測の中で、なにもかもが有耶無耶のままであったのだが。

そしてその翌日の午後、かみさんから、帰りにちょっと集まりがあって、のメッセージ。
代わりにあなた、夕方のお散歩行ってくれる?

先日の
無駄なSICKDAYのしわ寄せで青色吐息の中で、
思わず舌打ちをしながらも、そうこうするうちに時間はすっかりと7時過ぎ。
さすがにヤバイか、と家に帰り着いたとき、
そのドアの奥から、

が~がらがら、かーっ、ぺっ!
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
が~が~が~が~、がらがらがら、げぇ。

あまりにも不穏な声が響いてくる。

思わず走り込んだドアの奥。

廊下の暗がりの途中に立ち尽くしては、
胡乱な瞳で俺を見上げながら、
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
が~がらがら、かーっ、ぺっ!
と際限なく繰り返している我が犬。

お、お、おまえ、大丈夫か?本当に大丈夫なのか?
もしかしお前、それを、今日一日中繰り返していたんじゃないのか?

とそんな俺の驚愕を知り目に、
ひとりすたすたと寝室に消えた犬。
そして見るや、ベッドの中にどすんと横たわる。

なんだよ、お前、いったいどうしたっていうんだよ。
見れば朝食も食べていない。
それどころか、おやつのトリートさえも手付かずのまま。

ベッドの中に身を横たえたまま、
ぜ~ぜ~と喉を鳴らしては、浅い呼吸を繰り返す犬。

そんな姿を前に、しまった、と思わず。
しまった、仕事なんて行っている場合じゃなかった。
こいつがこんな状態なのに、俺は一体、一日中なにをしていたっていうんだ。

くそ、と思わず。
くそ、お前、なんで携帯に電話してくれないんだよ?
ああ、犬にも使えるIPHONEがあれば・・

と言う訳で思わず取り出したIPHONE、
その禁じ手の電話番号、院長先生のその個人メアドを探しながら、
やばいな、これ、もしかしたら、救急病院か?・・

とそんな時、IPHONEを持つてに掛かった手。

ねえ、僕、どうしちゃったのかな?
あ?判らないよ。待ってろ、いまお医者さんに電話するから。
と、そんな俺に、ねえ、と、力を込める犬。
ねえ、一人にしないでね、僕をひとりにしないでね。
そのあまりにも意地らしい視線に、
思わず狼狽えながら、
馬鹿野郎、なに言ってるんだよ。
死ぬときは一緒だって、そう言ってるだろうが。
お前は死なせない。お前が死ぬときは俺も死ぬときだ。
お前をひとりにはしない。俺たちは一心同体。
なにがあっても、いつでも、いつまでも、一緒だ。

という訳で、ようやく見つかったその禁断の個人用メアド。

先生、助けて下さい。
咳が止まりません。
先日お伺いした際に、別の先生に見ていただいたのですが、
あれからも一日中、咳が止まらず・・
もしかして、喉に妙なポリープでもできていたとしたら・・

すぐに返答が来た。
8時に最後の診察が終わりますので、
その後に診させてください。
スタッフには伝えて起きますので、
ご心配なようであれば、
今すぐにでもいらしてお待ち下さい。
終わり次第に、診察いたします。

そのメールを転送したかみさん、
判った、すぐ行く、とメッセージ。

おい、行くぞ、と犬を急き立てるも、
いや、お散歩は今日はパス、と上げた頭をすぐに枕に戻しては、
ぜ~ぜ~と胸を鳴らして目を瞑ってしまう。

ああ、やばい、これ、まじでヤバイかも・・

と、そんな時、手元のIPHONEから鳴り響く、夜明けの道、フランダースの犬のテーマ。
つまりは、かみさんからの電話。

とした途端、むむむ、と飛び起きた犬。

ねえ、どうしたの?
いやあ、実はさ、とやっているその横で、
ぶるぶるぶる、と身体を震わせては、
おい、と肩に手を置いて、

かあちゃんはどこだ?と。

ああ、だから、いまから先生のところに行って、
判った、もう近くまで来てるから、私は直接先生の所に行って待ってる。

と、そんな会話は先刻承知とばかりに、
勝手にベッドを飛び降りては、いの一番に玄関に走る犬。

という訳で、さっきまでの重病モードもどこへやら、
どこだ、どこだ、かあちゃんどこだ、と引っ張って引っ張って、
辿り着いたのは獣医さんの前。

すでに灯りを落とした受付から、
は~い、ぶっちくん、お待ちしてましたよ、と、
かみさんと、そして先生一同。

という訳で、院長先生以下、
助手の方々も合わせて総勢四人の先生方に助手さん方、
そして、飲み会途中のほろ酔い気分のかみさんと、
そんな面々に囲まれた我が老犬。

で?どうしたました?という院長先生に、
咳が、咳が止まらずに・・
今日も一日中咳をしていたようで、ご飯も食べず、おやつも残して・・
iPhoneで動画とか無いんですか?と助手さん。
いやそれが、カメラを向けるとすぐに薄ら惚けて逃げ出しやがって。
その横ではふむふむ、とカルテを覗き込む院長先生。
ケンネル・コフ、で、抗生物質を処方。
で、抗生物質は飲ませてますか?
はい、とかみさん。
朝と夕、一日二回。ちゃんと飲ませてます。
そうですか、それで進展は見られない、と。

と、その間にも、やれ体温計だ、やれ触診だ、と、
まさに四方八方から診察攻めの我が駄犬、
思わず目を白黒させては、いつもの照れ笑いが完全に凍りついている。

で、その咳、なんですが、いまは収まっている?
はい、と俺。
今日帰って来た時には、ドアの前でずっとガラガラやっていて、
もしかして、一日中これをやっていたのか、と。

ガラガラ、というのは例えば、どんな感じで、
と、言った院長先生の横で、

あ、はい、そのガラガラっていうのは、

が~が~が~が~、がらがらがら、げぇ、と実演を観せるかみさん。

こうやって、が~が~が~が~、ってやって、その後に、
がらがらがら、と、そして、げっと、と。

いや、それ違うだろ、と俺。

もっとなんていうか、乾いているっていうか、そう、なんか痰が絡んでる見たく、

が~が~が~が~、がらがらがら、ぺっ、と。

ぺっと、ぺっと、なにか出している風な。

そうです、ぐげえ、っていうじゃなく、か~ぺっと。

が~が~が~が~、がらがらがら、ぺっ、って感じで。

ふん、だとすると・・ と院長先生。

ちょっと待ってください、と、軽い咳払いの後に、

が~が~が~が~、がらがらがら、げぇ、と、思わず犬が飛び上がりそうな、超リアルな実演。

良いですか、この、が~が~が~が~、がらがらがら、から、最後の、げぇ。
これが、げぇ、だとすると、

だとすると?

はい、この、最後が、ぐげえ、っていう感じだと、もしかしたらそれは、胃液の逆流。

胃液?喉じゃなくて?

そう、胃液が逆流して、それが喉に絡まって、それをクリアにしようと、ぐげえ、と。

あの院長先生、と、隣から、若い研修医風の女性。
この方、いやあ、さっきからちょっと気になってはいたのだが、
ちょっと見、若い頃のアンジェリーナ・ジョリーを彷彿とさせる、
なんとも艶めかしいばかりの妖艶な白衣の美女。

そのアンジェリーナ・ジョリーが、

先生、私の所見では、胃液の逆流の場合だと、

グェ、グェ、グェ、グェ、グ~ゲゲゲゲゲェ、と、もっとこう、お腹の底から吐き出す感じで。

うんそうだね、と院長先生。

が~が~が~が~、というよりは、もっとお腹の底から、
グゲ、グゲ、グゲ、グゲ、ゲ~と、まあこんな感じかな、ちょっと上手く真似できないけど。

いや違います、とかみさん。

グゲ、グゲ、グゲ、グゲ、ではなくて、もっと、やっぱり、喉につかえたような、

が~が~が~が~、がらがらがら、げぇ、と、こんな感じかと。

いやだから、違うって、と俺、

もっともっと、乾いた感じで、

が~が~が~が~、がらがらがら、ぺっと、そう、駅のホームでおっさんが痰壺に、ぺっとやるような。

いや、だとすると、もしもこれがケンネル・コフであれば、

か~か~か~、かっかっか、ケフケフケフ、

いえ、院長先生、と、また違う獣医先生。

ケンネル・コフであれば、もっともっと、なんというか、こんな感じで、

ケフ、ケフ、ケフ、ケフ、か~、ケフ、ケフ。

いやいや、そういうケースもあるけれど、
私の見解ではもっともっと、か~か~か~、かっかっか、と。

いや、ですから、この子のやってるのは、ケフケフではなく、
が~が~が~が~、がらがらがら、であって、
いや、違う、もっともっと、こう、乾いた感じで・・

という訳で、夜更けの動物病院の診察室に、
ピアース・ブロスナンかジョージ・クルーニーかのカリスマ的二枚目と、
白衣のアンジェリーナ・ジョリーから、メリル・ストリープから、
そして、若き助手さんたち、
つまりは、アリアナ・グランデもどきから、カーディ・Bもどきからが、
一同に声を上げては、
が~が~が~が~、がらがらがら、
ケフ、ケフ、ケフ、ケフ グゲ、グゲ、グゲ、グゲ・・

と、そんな人間どもの騒動を前に、
右に左に首を傾げては目を白黒さえていた我が犬が、

そこでいきなり、突如として、

が~が~が~が~、がらがらがら、か~、ぺっ と。

おおおおおおっ!と一同、思わず目を見開いては顔を見合わせ、

これこそまさに、真打ち登場!

と、その途端、なあんだ、と先生一同。

なあんだ、これ、ケンネル・コフ。

は?

ケンネル・コフですよ、いまのは、ねえ。

はい、いまのはケンネル・コフです。間違いありません。

でも先生、あなたのさっきやったのは、

か~か~か~、かっかっか、ケフケフケフ、

そうそう、ケンネル・コフ。
いまみたいに、か~か~か~、かっかっか、ケフケフ、けっ!と。

え?でも、いまのって、もっともっと、なんというか、
が~が~が~が~、がらがらがら、か~、ぺっと。

はいはい、そうそのとおり。これ、ケンネル・コフです。間違いない。

とそんな一同を前に、どんなもんだい、と胸を張った我が駄犬。

で、思わずもう一度、
が~が~が~が~、がらがらがら、か~、ぺっ!

途端に、パチパチパチ、と、一同の拍手。

はい、ご明答。これ、ケンネル・コフ。

最近流行っているんですよ。
でも大丈夫、熱も無いし、元気もあるし、
まだまだ軽症、かかりかけでしょ。

だったら、癌とか、ポリープとか?

ははは、と笑う一同。

もしもポリープなんて出来ていた、
それこそ、四六時中どころか、寝ても覚めても、
が~が~が~が~、がらがらがら、か~、ぺっ、
二四時間その繰り返し、となる筈。

魚の骨でも刺さっているのか、と。

だったら、それこそ、が~がらがら、どころじゃ済まない筈。

つまりは?

つまりは、ケンネル・コフ。軽い風邪です。間違いない。

という訳で、気は済んだのか?と我が駄犬。
和んだ空気を感じ取った途端、いまがチャンス、と診察台を飛び降りては、
そのままドアの向こうに遁走を企てる。

まあ、この間の抗生物質、あれを終わりまで飲んで見て、
それでも治らなかったら、また、ご連絡をください。
抗生物質を飲んでいる間、ちょっと食欲が落ちますが、
消化の良いものを与えておけば、そのうちに元気も出てきますから。

という訳で、へいへいのていでおいとま申し上げた獣医さん。
いやはや、人騒がせと言ったらこれほど人騒がせなこともない。
とそんな我家の老犬、ではお大事に、とご挨拶した途端に、
いきなりのジェット噴射のように走り出しては夜の街。

急げ急げと駆け込んだ公園から、またいつものびっくり下痢か、と思えば、
そのまま芝生を通り越して川沿いの遊歩道から、
キャンドルライトの灯った防波堤のカフェテリアのテーブルへ。
さあ、ここに座って、そしておやつをください、と右手を上げてはご挨拶。

あのなあ、お前、と、思わずへなへなと崩れ落ちそうになりながら、
いはやは、まったくもって、この可愛い老悪魔、
憎むに憎めないながらも、思わずその頭、
思い切り掻きむしってやりたくもなったというものである。

という訳で、夜風の通るカフェテリアで、
今頃になってから夕食のチーズバーガーにフレンチ・フライ。
飲み会の途中で駆けつけたかみさんも、
飲み直しとばかりに特大のマルガリータ。

まあ良かったじゃない、大事にならなくて、と肩をすくめながら、
思わず、が~が~が~が~、がらがらがら、か~、ぺっ。
いや、そうじゃなくて、と、繰り返しては大笑い。

だってさ、ワンワン、を、バウワウ、ウフウフ、っていう人たちだからね。
牛のモーモーは、こっちじゃ、ムームー。
コケコッコなんて、コッカドゥードゥルドゥー、なんだぜ。

でもまあ、ガラガラでも、ケフケフでも、が~が~でも、
取り敢えず、大事じゃなくて本当に良かった。

あなたねえ、と改めてかみさん。
いまさらだけど、大げさすぎるのよ。
ちょっと咳しただけで、癌だ、ポリープだって、
いまごろ笑われてるよ、絶対に。

まあな、と俺。
やっぱり、話が通じないと、色々と心配でな。

通じているだろ、と犬。
だから、大したことないって、ずっと言っていたじゃないか。

だったらなんだよ、さっきは、
ねえ、僕をひとりにしないでね、なんて、涙目しやがって。
だから、あれは、と我が駄犬。
かあちゃん、帰ってこないのかなって。
またあの、ビーフジャーキー食べたいなって。
ビーフジャーキー?
ああ、そうそう、とかみさん。
ビーフジャーキー上げたのよ。たまには栄養の付くものどうかなって。
で?
だから、あのビーフジャーキー!あれ以外は食べない。
そういうこと?

だって、と犬。
だって、犬の一生って短いんだぜ。
そう、毎日毎日同じもの食わされたら、
こっちだってたまらないぜ。
だから早く、そのチーズ・スティック、もっとくれよ。
判ってるだろ?犬の一生は短んだよ。
生きているうちに、美味しいもの、たくさんたくさん、食べたいんだよ。

という訳で、夜風に吹かれる川沿いのカフェテリア、
キャンドル・ライトに照らされながら、
思わず身体中から、力という力が、へなへなと風に飛ばされるように。
ただ、まあ、そう、そういうことか、と、
思わず犬の代わりに、が~ガラガラ、か~っペ。
さあ、そろそろ帰って、お薬の時間だよ、と、
重い腰を上げたのであった。

めでたし、めでたし。







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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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