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ニューヨークの地下鉄に狂犬の恐怖!

Posted by 高見鈴虫 on 30.2018 犬の事情   0 comments
今日はじめて地下鉄に乗った。
もちろん俺のことではない。
そうこの犬のことである。
実は晴れて我が家のこの狂犬が、
エモーショナル・サポート・ドッグなる資格を認定されることとなった。

果たしてこのエモーショナル・サポート・ドッグと言う奴、
通常のサービス・ドッグ、つまりは盲導犬やらセラピー・ドッグなど、
なんらかの特殊な技能を所持し、人間様のために働く労働犬向けの、
というものでは勿論なく、
このエモーショナル・サポート・ドッグ、
得てして精神面で不安定なる問題を抱えた飼い主が、
この犬がいなくなった途端にいきなりのパニック発作、
不安に駆られて通常の生活もままならない、
とまあ、そんな障害を抱えた飼い主をサポートをする為の犬、
と言うのは勿論ただの建前だけ。

ぶっちゃけニューヨークに於いては、
まだペットを連れての公共交通機関の利用が許可されていない、のであるが、
特例として、正式な労働犬であるサービス・ドッグと、
そしてこのサポート・ドッグなるものに限ってはそれを認める、
つまりは犬を連れて、バスやら地下鉄に乗る為の、
その許可証、ぶっちゃけ免罪符、あるいは、口実、なのである。

というわけでじゃんけんぽんの末に、というよりは、
あなたがメンタル・ヘルスの、なんて言うとマジで洒落にならないし、
ってな理由から、
我が愚妻、不安神経症の発作で片時でもこの犬が居なくては生きてはいけない、
ってな適当な症例をでっち上げては、
先の独立記念日に半額セールのプロモーション期間、
えいやあとお!とばかりに、このエモーショナル・サポート・ドッグなる、
なんともいかがわしい資格を申請した訳だ。

というわけで、ようやく届いたそのエモーショナル・サポート・ドッグなるもの認定書と、
もっともらしいメダル、
そして仰々しくもまったくそれらしくも
「サポート・ドッグ認定犬」と大書きされた赤いベストが届いた訳なのだが、
そんな事情から本日始めて、
晴れてサポート・ドッグとして、
地下鉄に乗り込んではダウンタウンの友人を訪ねる、
なんていう大冒険が敢行されることと相成った。










というわけで、改めてこのエモーショナル・サポート・ドッグ、
もっともらしい名前をつけながらも、
だからといってこの犬に何ができるわけでもなく、
そして何より、
そんな尤もらしい資格を認定されたからと言って、
そんな資格を保持した特殊犬であれば、
当然なされている筈の通常の訓練、或いは躾というものが、
この犬に限ってはまったく為されていない、と言うのは周知の事実。

言わずと知れたぶっち切りのブッチ様、である。
ぶっちゃけ、アッパーウエストサイドのドッグランに置いても、
此れほどまでにたちの悪い犬は見たことがないと勇名を馳せた、
ご存知、猛犬の中の猛犬、バカ犬の中の馬鹿犬。

そんな輩を地下鉄なんてところの連れ込んでは、
いったいどんな事になるかなど、
少し考えれば安易に想像がつくと言うものを、

ねえねえねえ、グリニッジ・ヴィレッジに犬を連れて入れる
すっごく素敵なハンバーガー・ショップを見つけたから、
今度の日曜日に一緒に遊びに来ない?
なんていう誘いに乗っては、
そうだね、せっかくエモーショナル・サポート・ドッグの資格もとったことだし、
と二つ返事でOKしてしまった、のではあるが、
ぶっちゃけその時の頭の中には、
ハンバーガー食いたい!
そのことだけ、そのことだけしか、考えが及ばなかったのである。

という訳で、普段から駅の改札、
多くの人々が日々出たり入ったりを繰り返すこの謎の建造物その奥に、
いったいなにが待ち受けているのか、と、
興味津々であったところの我がぶっち君。

改札を通っては階段を降るまでは、
まさに全身から意気揚々であったはずが、
一度プラットフォームに降り立った途端、
な、な、なんだこの、暑苦しくも薄汚い洞窟は、と、
ぎょっとしたのもつかの間、
突如として通り過ぎた回送車両、
その勢いと轟音に度肝を抜かれては腰が抜け。

おい、大丈夫かよ、とその情けない様を冷やかしながら、
そしてようやくやって来たダウンタウン行きの急行列車。

念の為一番空いているであろう最終車両に乗り込んだものの、
そのあまりに騒々しい轟音から、この冷房の壊れたムッとする熱気から、
そしてなによりこの、地下鉄の乗客という異様な人々。
思わず目を見開いては、
そのガタゴトと始終揺れ続ける振動に、
力いっぱいに両手両足をつっぱりながら、

なあ、これはいったいなんだ?と、振り返るその視線のあまりの切羽詰まり方。

どうだ、これが人間様専用の地下鉄という奴だ。
いいか、俺たち人間は、普段からのドッグランやら公園やらで、
お前ら犬どもの相手をしているのは世を忍ぶ仮の姿。
本当の人間様の生活というのは、まさにこれ。
これこそが、人間の人間による人間専用の、人間社会、その真の姿、という奴なのだ。
いいか、人間というものを、朝6時に起きて野原でボールを投げるだけの、
足の遅い鈍くさい奴ら、と思っていたのだろうが、
そう、これこそが人間様の本来の姿。
お前を家に寝かしつけたその後、
俺たちはまさに、こういう生活をしていたのだぞ、とくと思い知れ。

とまあ、そんなちょっとした優越感を感じないでもなかったのであるが・・

列車が42丁目タイムズスクエアを過ぎ、
周りの乗客たちがガラリと入れ替わり、そして新たなる乗客たちが、
恥も外聞もなく椅子取り合戦を繰り広げては、
そして一挙に空いたその車内。
改めて周囲を見渡す余裕が生まれたその時に、
ふと見ればその表情。

なんだ、どうした?気分でも悪いのか?

と伺った時にはもう遅かった。

そのひっしの睨んだ視線の先、
つまりは、閉まりかけたドアからよろよろと乗ってきた、
まさしく全身これゴミの塊りのようなホームレスの黒人。

グルグルグル、と喉の奥を震わせていたかと思えば、
その黒人ホームレスが、電車の揺れによろけて、
迂闊な一歩を踏み出したその途端、

オンオンオンオン!

まさに火の点いたように吠え声を響かせ始めた時には、
正直、全身に戦慄が走った。









しまった、そう、そうであった。

我が家のこの駄犬。
なにが嫌いと言って、黒人と、そしてホームレス、
加えて、酔っぱらいと、変な歩き方をする奴と、
はたまた、ヘルメットを被ったデリバリの兄ちゃんから、
スケボーのガキから、歩道を走る自転車から、

そう、我が家のこの猛犬、まさにこれ偏屈者の鑑。
曲がったことがどうしても許しておけない、
視界の中にひとりでもそんな不届き者を見つけた途端、
一撃必殺に襲いかかっては電光石火のジャンピングズボン裂き攻撃、
そんな鉄壁の番犬気質、その鑑。
そんな輩と通りで出くわすたびに、やにわに大太刀周りを繰り広げては、
そんな悶着にこれまでどれだけ付き合わされて来たであろうか。

しまった、この犬、この馬鹿犬の超猛犬、
こんな輩が、そもそも地下鉄なんてところに、
足を踏み入れられる筈がない、踏み入れるべきではない、
だってなによりこのニューヨークの地下鉄は、
そんなブッチが大嫌いな、まさに妖怪人間たち、
その巣窟のような場所ではなかったのか。
そう、そんなこと、少し考えれば判っていたことなのに・・

と今更気づいてもすでに後の祭りであった。

よりによってこの馬鹿犬、
いつの間にか、この車両そのものを自身の領分と早合点しては、
その乗客の一人ひとりに、これでもか、とガンを飛ばしながら、
その膝下から、じっと相手の顔つきを睨みつけては射竦めるように、

おい、おい、おい、てめえか、おい、
この、クソ喧しい騒音と、そしてなによりこの匂い、
この思わず吐き気を催すこの悪臭の、
その、原因は、もしかして、てめえじゃねえのか?
おい、おい、てめえだよてめえ、なんとか言ってみろ、こら。

そう、これはまさしく、無法者、
この世で最もたちの悪い、無法者そのもの、である。

通常であれば、乗客の中に犬の姿を見かけた途端、
あらあ、可愛いわね、とつかの間の笑顔が溢れ、
その頭を撫でようとと、行列までできる、
そんな風景をこれまで何度も観たことがあったのだが、
悲しいかなそれこそが公的なサービス・ドッグと
このなんちゃってサポート・ドッグの資質の違い、格の違い。
ことこの馬鹿犬、
愛嬌を振りまくどころかその全身から、
その顔つきから、その視線から、
一触即発の臨戦態勢、不穏な殺気の塊りと化している。
思わず微笑みかけて頭を撫でる、どころか、
あ、やべ、こいつ、完全に逝っちゃってる、
そう、つまりは、深夜の地下鉄でゴロツキの酔っぱらいと居合わせてしまった、
まさにそう、まさに、その雰囲気の中で、
この狭い車内に、ピンとばかりに緊張が漲っている。

それはまさに、この現代社会、
その洗練の中にいきなり乱入した野生の獣性、
つまりは、狂気そのもの。
やばい、この犬はやばい、その本能的な危機感の中で、思わずたじろいでは、
じっと口を噤んでは、目が合わないようにと、さり気なくも確信的に顔をそむけながら、
そんな怯えた乗客のひとりひとりを、じっと睨みつけては、次からまた次へ。

そして次の駅に着き、そして賢明な乗客は、
恐る恐ると席を立っては、
隣の車両へと移動をしていってくれるのではあるが、
そんなことなど想像だにしなかった幼気な乗客たち、
開いたドアから足を踏み入れた途端、
いきなり目の前に、これでもかと殺気を漲らせた狂犬が一匹。
思わずギョッとして凍りついては、
二の足を踏んでたじろいでいるうちにドアが閉まります。

そして我がバカ犬、新たに乗り込んで来た乗客たち、
その一人ひとりを、これでもかと睨みつけては、
その中に、一人でも不穏な姿を見つけたとたん、

オンオンオンオン!と火のついたように吠え立てる。

駄目だ、お前は駄目だ、俺が許さねえ、
この俺の列車の中でちょっとでも可笑しな事をして見やがれ、
とばかりに、今にもリーシュを引きちぎっては襲いかかりそうな剣幕である。

いやはや、これは困った。まさに、困り切った。

ヤバイ、駄目だこれは!次の駅で降りよう、
思わず怖じ気づいたかみさん。

だから無理だって言ったのよ。
こんな犬が地下鉄に乗るなんて、
土台無理な話だったのよ。

うるせえ、と俺。
今更ガタガタ抜かすな。
ここまで来たら強気あるのみ。
全てをシカトして知らんぷりの寝た振りをしているぐらいしか、
やりようがねえじゃねえか。
と言う訳で、連れた狂犬まるでそのままに、
この世で最もたちの悪そうな顔をした飼い主。
馬鹿でかいサングラスにガムをくちゃくちゃやりながら、思い切り踏ん反り返って足を投げ出し、
俺の犬に文句のある奴はこの俺が相手だ、
とばかりにこれぞ狂犬の二乗三乗。

バカねあんた、これで誰かを噛んでしまったりしたら、
それこそ一発でシェルター行きの殺処分じゃないのよ。

うるせぇ!
だからこうやって、誰も乗って来ないように、
飼い主からして思い切りの狂犬モードで
頑張っているんじゃねえか!


という訳で、
地下鉄に乗ったら目の前にいきなりの狂犬。
しかもその飼い主からして、
その狂犬を上回るど狂犬モード。
犬は飼い主に似ると言うか、
この飼い主にこの犬ありとはよく言ったものよね。

車内中からそんな大顰蹙の視線を浴びながら、
うるせえ、文句があるなら俺が相手だ馬鹿野郎、
とばかりに、
次第に混み始めた車内の中、
ただ微妙な緊迫に包まれたこの車両だけは、
ガラガラのすっかすか。

そんな白い目の嵐の中で、
ざけんな、誰に何を思われようが知ったことか。
狂犬ブッチここにあり。
下がれ下がれ、頭が高い。
この桜吹雪の刺青、ならぬ、
エモーショナル・サポート・ドッグの赤いベストが、
目に入らねえのか!

てやんでえ、
ここまで来たら、世界一の鼻摘まみになってやらあ!

とは言いながらも、
正直その内心はと言えばまさに針の筵。

そんな飼い主の断末魔も知ったことかとばかりに、
よりによって我がバカ犬、
そんな俺達の間のその座席の上に、
ひょいと飛び乗ってはしたり顔。

その人間様の視点から周囲を睨め回しながら、
こいつらどいつもこいつも気に入らねえ、
とこれ以上なくドヤ顔を晒していやがる。

まったくこいつ、この馬鹿犬、
思った通りというか、
あまりにもこいつらしいというか、
ただ、今度という今度は・・・
正直、その内心では、
笑い過ぎて腸がよじれそうになっていたのは
勿論言うまでもない。

ねえ、あんた、なに笑ってるのよ、
いまにも泣き出しそうに恐縮しまくっているかみさんから足を蹴飛ばされながら、
だってよ、こいつ、と俺、
だって、こいつ、そっくりじゃねえか。
つまりはそう、俺たちのガキの時分にも、
ちょうどこうやって思い切りふんぞり返っては、
乗ってくる乗客たちにいちいちガンくれてさ。
犬って本当に人間に似てるというかなんというか・・
バカバカしい。
犬も人間もバカのやる事は似たり寄ったり、
それだけの話じゃないの。
もう今度という今度は・・・












という訳で、そんなバカ犬を脇に抱えながら、
改めて見渡す、この人間の人間による人間のための人間社会。

明らかに挙動不審の酔っぱらいのラテンのチンピラから、
尻の間際まで引き上げたショートパンツにこれでもかと足を剥き出しては、
場末の娼婦を気取ってみせるタンクトップのティーンエイジャーたちから、
髪を虹色に染め上げたゲイのカップルから、
世間のすべてに憎悪に満ちた黙殺を決め込むラップの兄ちゃんから、
禅の修行でもするようにむっりと目を閉じたままの休日出勤のセールスマンから、
全身だるま妖怪のように太り切った田舎からの観光客の一団から、
そしてそんな人間世界からはすでに影のように消し去られてしまった、まるで床に張り付いたチューインガムのようなホームレスたち、

ガーガーガー、と壊れたスピーカーから訳の判らないアナウンスが繰り返され、
そして思わず頭を抱えたくなる轟音と、
気の触れたホームレスの寝言と、
投げやりな急停車と急発進を繰り返す車体の振動から、
そして辺り中に満ち満ちた思わず吐き気を催す悪臭の中で、
誰もが誰もこれでもかと互いが互いを憎み合い黙殺しあっては、悪意ばかりが充満するばかりの、
このあまりにも不愉快な地下鉄という密室。

改めて、果たしてこの人間という生物、
いったいなぜ、ここまで、不愉快にあらねばならぬのか、
そんな根源的な疑問に満ち満ちた、そんな犬の視点とシンクロしながら、

改めて、人間ってさ、
不幸になりたくて自ら不幸になっているとしか思えない、
本来そんな邪悪な邪悪な生き物なのでは、
なんてことを、思わなかった訳ではない。

そんな不機嫌な空気をこれでもかと吸い込んでは、魔の憑いたように猛り狂う我が狂犬どのと相成って、
わんわんわんわん、このクソ地下鉄のこのクソ人間ども、もう少しなんとかせんかいと
またまた性懲りも無くも、憤怒と怨念の雄叫びをあげたくもなってくる。

オンオンオンオン!
馬鹿野郎、いい加減にしろ!
と、必死に犬を抑えつけながら、

犬じゃなくても俺が吠え立てたいぜ、そんなことを呟きながら、
そう、それこそが誰もが抱いている本音のホンネなんだよな、と。

改めてそんな事に気付かされた、
狂犬モードの地下鉄初乗車体験、であった。






という訳で、へいへいのていで辿り着いたグリニッジ・ヴィレッジは、
夏の日差しが燦々と降り注ぐ木漏れ日の中、
待ち合わせたバーガーショップで絶品のベーコン・チーズ・バーガーを頬張りながら、
夏の休日の午後、道行く人々のその弾けきった表情。
その後の午後を、ワシントンスクエアの芝生の上で、
幸せいっぱいの犬の頭を代わる代わるに撫でながら、

こんな日に、地下鉄なんかに乗ったのがバカだったな。
それを言ったら、地下鉄なんか、そもそも犬を乗せるためのものではない訳で。
変な乗客に噛み付いたりしなくて本当に良かった、
まったく生きた心地しなかったぜ、と。
ブッチ君も、ご苦労だったね。
御免な、変なもの見せちゃって。
せっかく取ったサポート・ドッグの資格なのに、
これがトラウマにならなければいいけどね、
なんて話から、
なあ、帰り道でまたあの不愉快な地下鉄に乗るぐらいなら、
二時間かけてでも歩いて帰ろう、
と、そんなことになってしまった夏の日曜日の午後。
見渡すかぎりのニューヨーク、夏一色の摩天楼のその輝き。

という訳で、いやはやまったく、いかにも夏のニューヨークの休日らしい、
そんな一日であった。










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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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