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新年厄祓い年越し蕎麦de危機一髪

Posted by 高見鈴虫 on 06.2019 大人の語る怖い話   0 comments
この男やもめの年の瀬の中、
また例によって死にかけた、
というとあまりにも大袈裟ながら、
ちょっとした小事件があったのでご報告。

実は、妻が旅立つ直前から、
ねえ、わたしの留守中、くれぐれも気をつけてね、
と普段になく、そんな不穏な言葉を繰り返していたのである。

気をつけるってなにを?
なにをって、いろいろよ。
いろいろって、例えば?
とにかく、気をつけてね、と。

生まれながらの南国気質、
こっちが心配になるぐらいのお気楽さんであるところ妻が、
そんな妙なことを繰り返すのがちょっと気になって、
で、ふと聞いてみれば、
ねえ、この部屋、なにか居ない?と。
なにか居る?どういう意味?
つまり・・なんか妙なものが憑いていたり、とか。
妙なものが憑くって、もうここには10年近く住んでるんだぜ。
いまさら出てくるにはちょっと間が抜け過ぎてねえか?
なんかさ、と愚妻。
なんか、気分が悪くなるんだよね、この部屋にずっといると。
気分が悪い?
そう、ここのところずっと風邪を引いたみたいに。
風邪?
そう、ずっとずっと頭が痛くて、身体が怠くて、気分がすぐれなくて。
つまり、更年期障害?
いや、実は私もそう思って、
なんどもお医者さんで検診を受けてるんだけど、
お医者に行く度に、問題ないです、の一点張りなのよ。
で?
で、そう、だからいつも窓を開けてるの。
窓を開けてる?
そう、窓を開けてると気分が良くなるの。だから。
だから、寒くて仕方がない。具合が悪いのはそのせいじゃねえのか?
だから、気をつけてね。
気をつけるって言われても、なにを?
まあ、あなたなら大丈夫だとは思うけど。
いったいなんのことだよ。お前らしくもないなあ。
一応、みんなにも言っておいたの。
毎日とは言わなくてもちょくちょく連絡をしてって。
なにかあったらすぐにって。
だから、なにかって、なんだよ。
あなたにも判ると思う。
この部屋にはなにかあるの。なんか妙なものが・・
呪い?悪霊?怨念?馬鹿馬鹿しい。
来るなら来い、いつでも倍返しにしてやらあ。
だから、と妻。
だから、あなただけじゃ済まないのよ。
ブーくんまでそんなリスクを負わせたくないのよ。
呪怨?この部屋に?馬鹿馬鹿しい・・





そんな妙なセリフと残して旅立った愚妻。
その伽藍堂の部屋の中で、
さあこれで鬼の居ぬ間の洗濯とばかり、
仕事納めと同時に思い切り羽根を伸ばしては、
独身貴族のお気楽モードを大全開か、
と言えばさも非ず。

実はさ、かみさんが里帰りしてからと言うもの、
ちょっとした睡眠障害に陥っていてさ。

ああつまりは一人寝の寂しさに耐えきれず、
なんてわけでは勿論なく、
実は以前に綴った覚えのある我が犬の咳、
あれが、かみさんの出立と共に再発。
前回の発作時には、レントゲンから精密検査からと、
大騒ぎをした挙げ句、原因不明との診断。
つまりは、五体ともにピンピンしてますよ、と。
んなこと見れば判る。
判らないのは、そんなピンピンしている犬が、
何故に咳を繰り返しているのか、という事で。
→ Try A Little Tenderness ~ 一難去ってまた一難のが~がらがら狂騒曲 

とまあそんな意味不明なまま、
埃かなにかのアレルギーであれば、
取り敢えずは窓を開けて換気を良くして、
なんていう安易な対応策でお茶を濁し、
そして夏が過ぎてクーラーの季節が終わり、
そして秋から冬へと移り変わる四季折々。

言わずとしれたここニューヨーク、
この地においては暖房はすべてライフラインとのことで、
部屋の窓際には巨大なラジエーターを思わせる、
温水型ヒーターが設置されているのであるが、
この調節がままならない事情から、
冬は逆にこのヒーターが効きすぎてかなり暑い。

普段から乾燥肌に悩まされる我が愚妻は、
なによりもこの冬のヒーターが大嫌いで、
どんな極寒の日であろうとも、
窓を開けたままにしたがるのには、
常々閉口させられていたのだが・・

という訳で、かみさんが里帰りした伽藍堂の部屋。
そのスカスカ感がなんともやりきれず、
ついでに普段から部屋にいる時にはフルチン主義の俺様である。
流石にこの真冬に窓を開けてのフルチンは薄ら寒いものがあって、
鬼の居ぬ間の冬のフルチン三昧、窓を閉めた部屋でぬくぬく、
どころか下手をすれば一種のドライサウナ状態。
とそんな中、二日と待たずに、犬の喘息が再発したのである。

最初の頃、夜更けに起き出した犬が、
ゼイゼイと息を荒くしながら部屋中を彷徨いていたに気づいては、
その度に窓を開けてはそのまま寝入り、
ふと気がつけば部屋中が氷の館。
おっと、と身体中が強ばっていまにも凍死状態。
犬も流石に寒いらしく、ともすればそのまま布団の中に丸め込んで、
なんてことを繰り返しているうちにすっかりと互いに睡眠不足。

まったくこの鬼の居ぬ間、生命の洗濯どころか、
こんなことをしていたら新年を前にしてぶっ倒れるなんてことにもなりうる。

そうこうするうちに午後の散歩をお願いしているドッグウォーカーさんからも、
なんだかブーくんまた喘息が酷くなったみたいで、
獣医さんがクリスマスの休暇から帰ったらすぐに診てもらった方が良くないか、
とのありがたくも頭の痛いご指摘。
くっそお、なにからなにまで頭が痛いことばかり。
と、痛む頭を抱えながらようやくと年末の休暇に転げ込んだ訳なのだが・・

でまあ、この犬とひとりと一匹ぼっちの寂しい年の瀬、
まあのんびりと犬の散歩をしては、部屋でまったりと本でも読んで暮らすか、
などと思ってもいたのだが、
実は犬の散歩から帰って部屋で寛いでいると、
ともするとなんとなくすぐに眠くなって来ては、
どうにもこうにも無気力にもなにもする気が起きてこない。
まあそう、これもいままで溜め込んでいた疲れだろう。
この機会だ、誰に気兼ねすることもなく思い切り昼寝を続けるというのも悪く無かろう、
などと、広げた参考書を枕代わりにうつらうつらを繰り返していたのだが、
どういう訳かこの昼寝をすればするほどに、
身体が怠くなり、そして鈍い頭痛が酷くなるばかり。
きっとまた風邪でもひいたのか、と、再び毛布を被って昼寝ばかり。

夜更けを過ぎて、ゼーゼーと荒い息を繰り返す犬に起こされては、
そして暗い部屋の中を見渡しながら、
この寝静まった夜の底の不穏な空気。
そう言えば、と出立前の妻のセリフが蘇る。
なんか、この部屋、なにか居ない?
なにかって言われて、俺そういうの全然鈍い人だしさ。
ただ・・
ただ確かに、なんだろこの思い空気。
この身体のだるさと、この無気力と、そしてなにより、この頭痛・・



とまあ、そんなこんなで迎えた年の瀬
確かに、呪いだ悪霊だ?とそんな迷信じみた戯言を、
今更信じる気にもならないが、
妻の言ったように、確かに、ここのところ休暇に入ってから、
妙に体調が優れない、そんな気はしていたのだ。

そして迎えた大晦日。
さすがにこのままなし崩し的昼寝三昧で新年を迎えるというのも気が引けて、
しかしながら見上げる空は朝から土砂降りの雨続き。
であれば、家でまったりと蕎麦でも茹でて、
ひとり年越しそばでも喰ってみるか、
と、普段はあまり長居することないキッチンで、
大鍋に注いだ湯が沸騰するのを待っては、
と、ようやく煮立ち始めた鍋の中に、
えいやあとおと叩き込んだ十割蕎麦、
茹で時間は六分か、七分ぐらいか、
と中を覗き込んでいたその時、
ふと、意識が、薄らいだ。

なんだなんだ?

思わずキッチンをよろめき出ては、
あれ、俺、いったいどうしたのかな、とこめかみをトントン、
としたところ、なんだよこの、うざったい頭痛は。
ここ数日、慢性的に悩まされてきた頭痛、
そのねちねちとしたしつこさに顔をしかめながら、
ああ、どうしたんだろう、いきなり身体中が重く重く、
思わずそのままソファに倒れ伏しそうにもなったのだが、
糞ったれ、蕎麦を煮たまま寝るわけにも行かず、と、
無理やり身体を起こしては、
キッチンに向かおうとしたその足が、いきりぐらり。

そしてこの頭痛、そしてこの身体のだるさ。
そしてなにより、この目眩にも似た意識のぼやけ。

これ、風邪じゃねえぞ、と。
これ、貧血でもねえぞ、と。
これ、もしかして、酸欠?・・・
あるいは、もしかしてもしかして、
まさかまさかの、なにかの祟り?

取り敢えずは窓を開け、
そして壁を這いつくばるように辿り着いたキッチン。
取り敢えずガスの火を止めて、
取り敢えず玄関のドアを全開に開けては、
おい、と呼びかけた犬。
おい、どこ行った?おい、ぶー!
と叫べでも犬の姿はどこにもなく。

廊下に出て深呼吸を繰り返し、
部屋の中に走り込んでは、窓という窓を全開にし、
吹き込む雨風の中で、おい、ブー!ブーくんどこだ!?
と叫び続けていれば、

ん?トイレ?

寝室の一番奥のトイレから、
呑気に大あくびをしては、
またゼイゼイと息を荒立てては、あれ?どうかしたの?
とニカニカ笑いで首をかしげるばかり。

取り敢えず犬は無事だ、とそのまま玄関に連れ出しては、
1-2-3で駆け戻ったキッチン。
コンロから下ろした鍋に冷水を注ぎ込んでは、
吹き込む雨風に踊るカーテンを眺めながら、

で?で?で? さっきのあれ、いったい何だだったんだ?

という訳で大晦日の夜のひとり年越し蕎麦。

家中の窓という窓のすべてを全開に開け放ち、
これでもかと雨風の吹き込む凍えた部屋で
ダウンジャケットを被ってはざる蕎麦を啜る、
というまったくもって情けないことにもなったのだが、
改めて見回すこの部屋。
てめえ、この怨霊野郎、いつでも出てきやがれ、
とむかっ腹を立てては睨めまわしながらも、
だがしかし、確かにこうしているうちに、
つまりは窓を開け放ってしばらくするうちに、
不思議なことに先に感じたあの悪い空気、
目眩も、身体のだるさも、頭痛さえもが、
そしていつのまにか拭いさられている。

という訳で、五分も経たずに一瞬のうちに食い終わった年越しそば。
喰った喰った、と汚れた皿を流しに叩き込みながら、
ふと、何気なくも顧みるその古ぼけたガスレンジ。
普段はかみさんの手によって徹底的に磨き込まれているそのガスレンジも、
この男やもめが始まった途端に脂ぎっては煮溢れがこびりつきと燦々たる惨状。
新年を迎える前に、この汚れぐらいは落としておこうか、と上部のカバーを外した時、
むむむ、なんかこれ、ちょっと、ガス臭い・・

思わず、なあ、とかみさんにテキマ。
あれ?もう年明け?いまセントラルパーク?
いや、こっちはずっと大雨で今年は家に居るつもり。
でさ、キッチンがなんかガス臭いみたいなんだけど、気のせいかな。
とやってるそばから、おっ、いま花火が上がった。
あけおめ!
あけましておめでと、ってこっちはとっくに昼だけど。
でさ、キッチンなんだけど。
だから、とかみさん。
だから、ずっと言ってたじゃん。
なんかキッチンにいると気持ち悪くなるって。
やっぱり?
ずっと言ってたでしょ?その部屋にいると頭痛くなるって。
だから窓を開けてたの?
そうだよ。最初は風邪かと思ってたんだけど、頭がぼーっとしてきてズキズキしてきて・・
それだよ、それ。いま年越し蕎麦を茹でてたら気を失いそうになった。
キッチンで火を使う時には窓を開けて玄関のドアも開けて。
なんだよそれ。なんでそれを言わないんだよ。
なんでお蕎麦なんか作ったのよ?あなたどうせ料理なんかしないだろうと思って。
おいおい、危うく死にかけたぜ。
ねえ、もうそのアパート出ない?
ニューヨークの不動産、狂乱家賃もやっと下がって来たしさ。
ずっと言ってたじゃない。その部屋に居るとなんか気持ちが悪くなるって。
変なものでも憑いてるじゃないかと思って、ずっと気味が悪かったのよ。
ねえ、もうその部屋、引っ越さない?
なんかわたし、そこに帰るのが憂鬱で憂鬱で。
その部屋、絶対になにかあるよ。
絶対になにか悪いものが憑いている、ずっとそんな気がしてたのよ。
こっちで、魔除けの御札でも買って帰ろうかな・・

という訳で、新年早々きな臭い、というよりは、このガス臭い話。

元旦の休日の開けた新年二日目。
さっそくアパートの管理人に連絡をとったものの、
クリスマスからこの方、ずっと後回しにしていた仕事が溜まりすぎて、
と新年早々の言い訳三昧。

ただ、と一度気になりだしたこのガス臭さ、
犬の散歩から帰るたびに、ドアを開けた途端に、
なんだこれ、やはりガス臭い、確かに、ガス臭い。

一時間おきに管理人電話をしては、
ガス漏れだ、緊急事態だ、と告げる度に、
判った、すぐ行く、と言いながら、
待てど暮せど連絡ひとつしてこない管理人。
そうだよなあ、この対応の遅さこそがニューヨーク。
それになにより、新年早々、という訳だしさ。
ただ、この極寒の中で、窓という窓を開け放ったまま、
ドアも開けっ放しという訳にはさすがに行かない。

という訳で、また例によってニューヨーク在住云十年の強み。
こういう時の為の、必殺の魔法の呪文。

判ったよ、そっちがそうならこっちも考えがある。
いますぐ、311に、電話させて貰う。

そう、この311 非緊急時ホットライン。
事故だ火事だ爆発だ、というときが911、
で、この311は、ガス漏れ等の住居系緊急時の救急番号。

311、と聞いていきなり慌てふためいた管理人。
おいおい、ちょっと、待ってくれ、すぐに行く、すぐに行くから。
ばーろー、さっきからなんどおんなじセリフを繰り返してるんだよ。
悪いがもう311にいま電話してるんだよ、
ああもしもし、311ですか? 緊急事態です。
ガス漏れです。アパートの大家はずっと酔っ払っていてなにもしてくれません・・

ようやくのことでやってきた管理人。
ガスのコンロを一目見るや、OMG。
なんだって?このガスコンロ、20年もの?つまり前世紀の遺物?
まだこんな古いコンロが残っていたなんて気づかなかった。
日本人は掃除が好きだからな。
こんなにいまでも新品みたいに磨き上げていたら、
まさか旧式の20年物とは誰も気が付かないだろ、と。

で?
で、ああ、これな、実は曰く付き。
曰く付き?
ああ、この上蓋を外して、ここ、ここにな、本当なら種火がいつもついていて。
種火?
で、このレバーを回したら、すぐに火がつくはずが、
そう、点かねえんだよ、その火がさ。
それでどうしてたんだ?
だからこうやって、ライターで火を点けてたのさ。
OMG、おいおいおい。そうやってどのくらい使ってた?
まあこの半年、ぐらいかな。
おい、なんで火がつかなくなった時点で電話をしてこないんだよ。
電話しても待てど暮せどやってこないのはお前の方じゃねえか、と。
火災報知器、鳴らなかったのか?
あ、あれなあ、料理するたびにピーピー鳴ってうるせえからさ。
うるさいから?
うるさいから、外しちまってたんだよ。
思わず唖然呆然の管理人。
よく、おまら、死ななかったな、と。
ああ、ずっと窓を開けてたからな。
窓を開けてた?
ああ、かみさんがさ、ここにいると気分が悪くなるとか言って、いつも窓を開けてて。
OMG・・・この旧式ガスレンジな、
この種火が消えてガスが漏れ始めて、それでも使い続けると・・
なぬ?一酸化炭素?カーボンモノキサイド?
そう、ガス漏れだったらすぐに匂いで気づくんだが、
この一酸化炭素が・・
おいおい・・だったら、この頭痛も目眩も、なにもかもが・・
気がついて良かった、このアパートで、また、死人を出すところだった・・
また?またって、それ、どういう意味だよ、と・・・

という訳で、新年早々にガスレンジの交換。
今日中に注文して、明日の朝一番に届けるから、
なのでそれまでは、念の為にガスの元栓を切っておくから。
と言い残しては巨体を揺すりながら帰っていった管理人。

で、そのガスの元栓を切った途端・・
なんだよ、部屋の空気そのものが、
いきなり洗い清められた、そんな気がしたものだ。

そして改めて、犬の散歩から戻った時、
ドアを開けた途端、むむむ?と。
むむむ、部屋の匂いが、空気が、まったく違う・・
まったくなんてこった、と。

ここ半年ばかり、かみさんが悩まされていたという、
その頭痛が目眩が身体のだるさが、
まさかキッチンの旧式ガスレンジからの一酸化炭素が原因だったとは。

そしてなによりその夜、そして翌朝、
なんか今朝はやけに静かだな、
とふとそんなことを思っては、
思わず寝坊をこいた、その理由が、
おい、お前、そのゼーゼー、
つまりは、犬の喘息が、一晩のうちにすっかりと治っている、と。

それもこれも、実はこの旧式ガスレンジ、
その、ガス漏れと、そして、一酸化炭素が原因だったのか、と。

下手をすれば、呪いだ、地縛霊だ、怨霊だ、と、
また妙な迷信まで持ち出されかけた、
この部屋の怪異現象。
その原因が、なんとなんと、こんなバカげた簡単な理由だったとは・・

ただ、と思わず。
ただ、この一酸化炭素、という奴。
ガス漏れと違って無味無臭。
ただ、その致死率は、毒ガスと大差の無い、
まさに現代社会の魔物、その筆頭である。

ニューヨークにおいて、古いビル、
それも、一等地にありながら家賃が妙に安い、
なんていうビルは、調べてみればすぐに判る。
そういう物件に限って、過去に、必ず、死者、
それも、自殺だ、殺人だ、孤独死だ、なんてのはまだ可愛い方で、
下手すればこのガス漏れ、
それも、この一酸化炭素の中毒死、
そんな忌まわしい過去が、必ず隠されている筈、なのである。

改めて、安いものには、必ず、必ず、必ず、なんらかの理由がある。
その理由が、悪霊だ、怨霊だ、なんてのならまだ可愛げがあるが、
こと、毒ガス的な、一酸化炭素、
目に見えず、匂いを立てないままに、
密かに密かに充満しては、はっと気がついた時には、
手が痺れ、身体が麻痺して声も出せず。
暗闇の中にひとり、じりじりと忍び寄る死の気配を前に、
為す術もないままに窒息死の沼の底へと引きずり込まれていく、
そんな最低最悪の最期を迎えることになる、この現代の悪夢。

やれ、悪霊だ、怨念だ、と馬鹿なことを騒ぎ立てる前に、
まずはこの、ガス漏れ、と、一酸化炭素、
そんなところを疑って見るに、越したことはない、と。

とまあそんな具合で、この年越し蕎麦から端を発した悪霊祓い。
旧式ガスレンジが新しくなった途端、いきなりそれはまさに魔が落ちたように、
空気が変り匂いが変り差し込む陽の光さえもが違って見える。

犬の喘息も日に日に回復に向かい、
なによりいままでになく頭がすっきりのこの爽快感。

ただ、この犬の喘息が始まったのが確か五月末のメモリアル・デイのあたり。
おいおいってことは、下手すれば半年間も、
俺達はこの有毒ガスである一酸化炭素を吸い続けていた、ということなのか。
まじで、後遺症大丈夫だろうか、と、ちょっと本気で心配にもなりながら、
つまりはこの俺の、この若年性アルツハイマーにも似た健忘症と暴言癖。
つまりはこの、一酸化炭素が原因であったのか、と今更ながらに。
だがしかし、もしもあの時、年越し蕎麦を茹でてみよう、
などと馬鹿なことを考えなければ、
ともすればあれからずっとずっと、
下手をすれば、なにかの弾みでそのまま御陀仏、
そんなことさえも起こっていたのかもしれない、と考えれば考えるほど、
ちょっと心底ぞっとしないではいられないこの大都会の片隅の不気味な罠。

そんなこんなで、妙な具合の厄払いとなったこの年越し蕎麦、
なにひとつとしてなにもろくなことのなかった2018年も終わり、
ようやく悪い気を祓えた、そんな気がしている新年なのである。





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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