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うなぎ

Posted by 高見鈴虫 on 16.2012 日々之戯言(ヒビノタワゴト)
妻の友人たちが日本から訪ねてきている関係で、
ここのところ、夕飯は一人である。

男一人でなにを食っているか、と言えばウナギである。

妻はウナギが嫌いだ。
嫌い、というよりも、食べたことがないそうだ。
そしてこれからも食べる気はない、という。

これだけおいしいものを、とは言いながら、
食いたくないものを無理に食わせてもはじまらないわけで、
そういった事情で、普段の妻との夕食では、
ウナギを食べることがない。

俺はウナギが好きである。
これまで世界中でいろいろなものを食べてきたが、
全人生を通して、俺はこれが大好物だ、と言い切れるものは、
やはり、ウナギ以外にはない、と思っている。

という訳で、一人飯のウナギである。

なぜ一人飯でウナギか、といえば、
それはもう簡単だからである。




俺は食通ではない。

食べ物に文句を言うな、という教育を受けてきたからだ。
食べ物に文句を言うな、そして残さず食べろ、
といわれ続けてきた。

という訳で、
俺はなんでも食べる。
どうせ食べるなら美味しいに越したことはないが、
まずくても我慢して食べる。
相当に、ゲロが出るくらいにまずいものでなければ、大抵においてそれを最後まで、残さず食べる。

という訳で、
インドにいる時には1年間、毎日朝から晩までカレーばかりであってもなんの支障もなかった。
中国で中華料理ばかり食っていたし、
タイではカオパット、インドネシアではナシゴレン、
その後の中東ではマトンばかり食べていた。

アメリカに来てからしばらくの間はシリアルしか食べなかった。
一月を過ぎたあたりでだんだんドッグフードの味がしてきたのには閉口したが、
それでも構わずシリアルを食べ続けていた。

多分、俺は食事に文句を言わない、のではなく、
ただたんに、食事に手間をかけたくないのである。

あるものを食べる。食べたら食器を流しにぶち込んで、そして働く。あるいは寝る。
男にとって食事はまさに燃料だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
言わずもがな、
男一人で食べる食事は、食事でさえない。
男一人での飯、それはまさに餌だ。

という訳で今回の餌はウナギである。

幸い、先日、お得意様である食品会社に出張った折、
日本から届いたばかりの冷凍のウナギの蒲焼を山ほど貰ってきた。
浜松のなんたらの有名ななんたら専門店の名物のうなぎ、とやらで、
冷凍物とは言え、食通を唸らせた最高級、であるらしい。

とは聞いていながら、
ウナギを食べない妻の手前、
貰ってきてからずっと冷凍庫に放りこんだままであったのだが、
今回晴れて、その最高級冷凍ウナギを食する機会に恵まれた、という所な訳だ。

しかしながら、
食通でもなんでもない俺は、この最高級らしい冷凍ウナギにも手間暇をかけたりはしない。

凍ったまま包丁でガツンとぶった切る。
皿に乗せ、蓋を閉めて3分間。
チンと鳴ったら、滲んだ油もろとも飯の上にぶっ掛けて、
で、パック詰めのウナギの蒲焼のタレ、と、山椒を、それこそ山のようにぶっ掛けて、
そして食う。食うというよりは、掻きこむ。
準備1分、制作3分、作業2分。合わせて6分。
汚れたどんぶりを流しに突っ込み、そしてそれを多分明日も使う。

という訳で、ここのところ毎日、そうやってウナギばかり食べている。

ウナギばかり食べ続けていると、さすがの俺でも、
食べる部分や、それぞれのウナギにもさまざまな個性があることが判って来る。

ちょっと泥臭い奴。皮の厚い奴、柔らかい奴。ほとんどただのゴムのような奴。飯の上にぼそぼそと零れ落ちるほどに柔らかいやつ。

身の薄い柔らかい一品に出会えば、こいつはもしかして、若い女の子かな、とかと思う。
脂の乗った奴に会えば、おっと熟女系。
味気ないゴムのようなやつに会えば、こいつはちょっと歳を行き過ぎたおばあちゃんか、と思う。

不思議に男のウナギを食べている気にはならない。
そう言えばウナギにもオスメスがあるのか、と思ったとたんになにか口いっぱいが生臭く思えて慌てて飲み込んだ。

という訳で、
これまで、ウナギはウナギ、美味いもまずいもない、と思っていたのだが、
ここにきて、ウナギにも美味い不味いが存在する、という事実に気づいてから、
どうしたことか、あれだけ好きだったウナギがだんだん美味くなくなってきた。
つまり、まずいウナギは食うに値せず、と思えて来たのだ。

という訳で、どうもおかしい、と思う。

今回、ウナギを食い始めてからずっと思っていたのだが、どうもあまりおいしく感じられないのである。
なぜだろう。最高級の筈なのだが。

要はありがたみ、の問題なのかな、とも思う。
これだけウナギばかり食べていれば、飽きてもくるだろう、とも思うのだが、
いや、と俺は首を振る。
普通の人はそうかもしれないが、こと俺に限ってそんなことはない。
この俺に、食い飽きるなんて感覚は存在しないのだ。

作り方だろうか、とも思う。

確かに、炭火でパタパタ焼いたその焼きたて、というわけにはいかないことは判っているが、
過去に同じようにして食べてきた冷凍ウナギに、美味い、はとりあえずとして、
不味い、あるいは、美味くない、と思ったことなど、一度としてなかったのだ。

もしや、と思う。
もしや、放射能の影響で、ウナギそのものが不味くなり始めているのではないのか。

確かに、養殖物だ、日本産だ、中国産だ、といろいろ言われているのは知っていたが、
これが食品屋のプロが言う以上、最高級品と思って間違いないのであろう。
とすると、だ。
日本のウナギが不味くなった、と言わざるを得ないのではないだろうか。

ウナギがまずくなった、と呟いて、そしてそんな自分の言葉にはっとして耳を疑った。

ウナギがまずくなった?ありえない。

それが真実だとしたら、俺はいったい何を大好物、と定めてこの先を生きればいいのか。

という訳で、ここに来て、パタリと、ウナギへの食欲がなくなってしまった。
今日はりんごを3っつ。晩飯はそれで終わりである。

やれやれ、と思う。

歳をとっておいしいものがたくさん食べれる、というのを、心の支えにしてきたのだが、
現実は逆だ。

昔、初めてそれを食ったときのほうが確実においしかった。

舌が肥えてきてしまったのだろうか、とも思う。
去年の秋に胃をやられてから体質が変わったのだろうか。

なんて考えながら、それにしても腹が減った、と思っていたら、妻が帰ってきた。

珍しく酔っ払って心なしか赤い顔をして潤んだ目が妙に色っぽい。

なにたべたの?またウナギ?
いや、ウナギは食い飽きた、といいそうになって、なんとなく辞める。
りんご。
りんご?それだけ?具合でも悪いの?
いや、なんか、腹減った。
なら、なんか食べればいいのに。ご飯炊いてあるでしょ?
ああ、なんか疲れちゃって。

なんて話をしながら、さっさかと裸になってさっさかと部屋着に着替えた妻は、
ああ、私もなんかお腹減っちゃった。みんなお酒好きでしょ?飲んでばっかりでつまみもあんまり頼まないし、結局ほとんどなんにも食べなかったの、
といいながら、納豆と佃煮と冷奴。
テーブルに並んだ納豆と佃煮と冷奴を見て、あ、俺も、と思わず。
なに、食べる?ほんとに?
と言いながら、いつのまにか二人分の茶碗とお箸。
味噌汁はインスタントでいいよね、と言いながら、ならお湯ぐらいは俺が沸かす、と台所に入って、
あのねえ、やっぱ日本は大変なんだって、この間ね、なんて話を聴きながら後ろから抱きすくめて、
おっぱいおっぱいとやりながらどさくさにパンツの中に手を入れて、耳たぶを齧りながら、
うんもう、やめてよ、危ないでしょ、と身をよじられてそのまま唇にキスをして、
とやっているうちに、お湯が沸いて一時中断。

でさ、日本ではね、と何事もなかったかのように納豆をかきまぜながら、
すごいでしょ?なんで日本の会社ってそこまでアコギにできるのかしらね、それを聞いたらこっちのほうがまだましだな、とか思っちゃった。
と、いいながら、はい、いただきます。

飯に乗せた納豆を熱々のご飯と一緒にかきこみながら、思わず、うーん、と唸ってしまう。
うーん、美味い。
納豆おいしいよね。あたし納豆だけでもいいわ。
玉子焼きは?
いまから?食べるの?本当に?なら自分で作って。わたしはもういいから。玉子焼きぐらいなら自分で作れるでしょ。

辛子のきいた納豆のねばりを冷たい冷奴が洗い流し、佃煮のしょっぱさに思わずご飯をかきこみ、思わずおかわり!
あら、そんなにお腹減ってたの?ならウナギ食べればよかったのに。
ウナギ、ときいて思わずげんなり。

ああ、と答えながら、どうして、と思わず。
どうしておまえ、ウナギ食わないんだよ。
一人で食べてもあれだけおいしいんだから、ふたりで食べたらもっともっとおいしい筈なのに。

お茶碗一杯のご飯と納豆と冷奴を半分こっこで夕食も終わり。
洗い物明日でいいよね、と、二人並んで歯を磨いて、
ああ、疲れた、とベッドに横になった時にはすでに1時過ぎ。
灯りを消した時、妻はすでに寝息を立てていて、
薄く開いた口からこっそり舌を滑り込ませてみたら、酒の匂いにまじって納豆の香りがした。

という訳で、俺は食通でもなんでもない。
何を食ってもなにも気にしない。

問題はなにを食べるか、ではない。誰と食べるか、なのだ。



プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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