Loading…

超長文「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」 その1~「ベビーメタルのミッション・インポッシブル」

Posted by 高見鈴虫 on 20.2019 BABYMETAL☆ベビーメタル   0 comments
「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」
その序章~「伸るか反るか2BORNOT2B 天使の街の光と影~LA THE FORUMを前にして」
その1~「ベビーメタルのミッション・インポッシブル」
その2~「ベビーメタルの注目すべき人々との出会い」
その3~「それはまさに考えうる限り最高最上最強の瞬間だった!」
その4~「友よ:そして新たなる旅立ちの時」



♪    ♪    ♪    ♪    ♪


「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」

序文 「BABYMETALのPTSD」


いやあ、どうもどうもです。
ご心配頂き誠にありがとうございます。

じゃ、またあとで、とバックれたまま、
なんか妙に間が開いちゃって。
え?本当に?
死亡説まで流れちゃってたの?
おいおいおい・笑
いやはや大変失礼を致しました。

大丈夫、生きていますよ、お陰様で。
はい取り急ぎ無事に帰って来ましたここニューヨーク。

ただ、あれから確かにおかしいんですよね、
自分で言うのもなんですが・笑

そう、言わずと知れた10月11日 
あのロサンゼルスへの旅。

あの旅から帰って来てからと言うもの、
確かに俺、ちょっとおかしい。
なにかがかなり、確実にずれてしまっているような、
そんな妙な違和感に包まれておりまして。

いや、だからと言って、
いきなり虫になってしまったとか、
口が耳まで裂けて身体中が毛むくじゃら。
尻にはしっぽまで生えてきた、
なんてことは勿論なくて、
表面上は多分まったく変わりないつもり。

相も変わらず普段のまま代わり映えもしないまま、
何食わぬも素知らぬ顔でここニューヨークでの暮らし、
さり気なくも恙無くも、続けてはいる、
そのつもりなのですが・・

ただ、なんでしょうか、この妙な違和感。
なぜか目の前の風景が、
妙に余所余所しくも嘘くさく、
そんな遊離感の中にあってしかしどうにも、
心と身体が噛み合わないまま妙にふわふわと浮かぶように漂うように、
そんな奇妙な感覚から、いつになっても抜け出すことができないでいます、

つまりは、そう、心ここに在らず、と言う状態かと。

果たして、と思っています。
果たして、あの旅、あのロサンゼルスの地、
そこでいったいなにがあったのか。
俺はそこで、いったいなにを見て、なにを感じていたのか・・
ただそれを考えれば考えるほど、
そのすべてが混沌とした記憶の海の中で混じり合ったまま、
いまだになにひとつとして整理ができず収拾がつかず。

だがしかし、あの瞬間を境に、
俺の中のなにかが、確実に変わってしまった。
ともすれば、
既にまったく変わってしまった自分を自覚しながら、
その中身がすっかりと入れ替わってしまっているにも関わらず、
素知らぬ顔で何気ない様子を装いながら、
以前の自分をそっくり真似ては下手な演技を続けている、
そんな気がしてならないのですが。

そんな遊離感の原因となっているのが、
何を隠そうこのフラッシュバック。

このニューヨークの風景、
このさりげなくも何気ない日常の中に、
突如として何の予兆も無く何の脈絡もなく、
いきなりと眼前に広がるあの深蒼の世界。

巨大なサファイアかラピスラズリーか、
その中核に佇んでは、
天から響き渡るあの聖なる声、あの天使の歌・・

その強烈なフラッシュバック。
その凄まじくもリアルなデジャヴ、
その異次元の中にすっぽりと包まれたまま、
目の前の世界がみるみると現実感を失っては、
俺はただひとり異次元のベールに閉じ込められたまま・・

これってまるで嘗て患ったPTSD、
まるであの症状そのものじゃねえか・

前回のが地獄の沙汰の修羅しゅしゅしゅ。
血塗れ泥塗れ砂塗れの極限のダークサイドであったなら、
今回のはその真逆、
超絶極楽の桃源郷、聖なる声の響く宝石色の万華鏡、
その究極のライトサイド・バージョンであったのか。

そう妙なんです。
おかしいんです。
俺なんか、本当に本当に変なんです。
あの旅を終えてから、
あの場所から帰り着いてから。
それはまるで、
身体だけ残して中身がすっかりと入れ替わってしまったかのような、
或いはこの現実に古き躯だけを残したまま、
その心は意識は感覚はまったくの別世界、
天使の歌声に包まれたまま、
泡立つシャンパンのプールに浮かんでいるような・・

10月11日 ロサンゼルス、
果たしてあの時あの場所で俺の身に一体何が起こったのか。

そればかりを考えて考えて考え続けている、
この死亡説さえ流れた長い長い沈黙の期間、
俺は実はそんな日々を送っていたのです。

そして改めて、スーツの袖の奥に隠した、
この捩れたピンク色のリボン。

THE FORUM・・・

そう、そうなんです!

10月11日 LA THE FORUM
そこでいったいなにがあったのか
未だ左手首に結ばれたこのピンク色のリボン。
これこそが記憶の確証、その動かぬ証拠。
彼の地で迷い込んだ異次元世界、
あのサファイア色の桃源郷、
この夢幻的極楽の今浦島の龍宮城、
そこでの出来事を紐解く、
唯一の手掛かりとなる筈なのですが・・

そうまだまだ混乱が続いています。
あのLAでの夜以来、
ずっとずっとまるで身体が浮き上がっては風に流されるかのような、
そんな惚けた至福感の中で、
ただただフラバの海を揺蕩うばかり・・

果たしてこの俺はどうしてしまったのか?
果たしてこの俺にいったいなにが起こってしまったのか。
あれ以来、そればかりを考えているのですが、
ただ、こんなことをいつまで続けていても、
いつになっても正気に戻れそうにない。

いや、そう、気がついています。
このPTSD症状、
この魂抜けの、混乱の、その本当の理由。

俺はあの時の迷い込んだ極限的至福世界、
あの壮絶な光景の中から抜け出すことを躊躇している、
このPTSDの理由はまさにそこにあるのだ、と。

それが証拠に、この腕に残ったピンク色のテープ。
THE FORUM
その刻印を、いまになってもどうしてもどうしても
外すことができない、その気になれない。

ただ、判りました。
すっかり諦めました。
考えるな、感じろ、でしたよね。
であれば、
頂いたご忠告に従って、
判らないものは判らないまま、
その謎解きは、後日、その遠い未来、
あるいはともすれば、後世に譲るとして、

いまは取り敢えず、
その混乱したままの記憶の断片を断片のそのままに、
なんの説明も解説もないまま、
無秩序に羅列するに留めておく、
それに越したことはないのでしょう。

という訳で、お待たせしました。

いまや、すっかりとPTSDを患うまでの衝撃的体験となった、
10月11日 LA THE FORUM。

そこで見聞きした記憶の断片、
思うがままに、見たまま、そのままに、
ここに、暴露させて頂ければと思います。

改めて、

I am a Camera with its Shutter open,
Quite passive, Recording, Not Thinking...


そう、それこそがまさに、

DON’T THINK, FEEL 考えるな、感じろ。

あの謎のメッセージ、
その意図を探る、手がかりになるかもしれません。

そして改めて、10月11日 LA THE FORUM
いったい、そこで、なにが起こっていたのか、
その謎解きをするのは、他ならぬメイトの諸君、
皆様の手に委ねさせて頂ければと存じ上げる次第でごじゃります、と。

では、能書きはこれまでにして、

そろそろ始めさせて頂きましょう。

ベビーメタル THE FORUM その現場体験記。

副題としては、こんなものはどうでしょうか?

ベビーメタルのTHE FORUM で10回泣いた男の話・・・

その10の記憶の断片、そのアンソロジー・・・

♪    ♪    ♪    ♪    ♪


「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」

一つ目の涙 「 ベビーメタルのミッション・インポッシブル」 ~ 開演時間に泣かされた男の話



改めて前述したように、
俺が今回のLA行きにこれほどまでに躊躇したその理由
俺ににとってLAは言わば曰く付きの場所。

LOS ANGELES  天使の街 ・・

俺の人生の既に半分以上となったここアメリカ合衆国での流浪の日々。
その出発点となった因縁の場所であり、
そして、その後の体験のそのすべてが、
その到着時にこの街で見聞きした諸々の事、
その基本的な認識の上に積み上げられて行ったことである。

今から思えば、その出発点がもっと別の場所であったら、
それが別の形で、別の登場人物達と、であったとしたら、
その後の俺の人生は、まったく違ったものになっていた筈である。
と同時に、
このLAでの経験があったからこそ、
今になっても尚、ここ米国にしがみついてはなんとか生きさらば得ている、
ここ米国において人生の再出発を試みた、その礎となったここLAでの体験。

その詳細に関しては、後に改めて、
気が向いた時にでも、とは常々思ってはいるが、
その主観的な心情吐露に関してだけは、
かつてこのブログに綴った覚えもある。

→ 伸るか反るか 2BORNOT2B 天使の街の光と影~LA THE FORUMを前にしてのこの不穏な葛藤・・




「秘密のシンデレラ・フライト」

改めて俺にとってこのLAという街。
かつて、この街を離れることになった時、
もうここには二度と戻らない、
そう、心に決めた街であり、
あるいは、それをより正直な形に言い換えれば、

もしもこの街に戻ってくる時には、
それなりにそれなりの覚悟と準備を持って帰りたい、
そう、心に誓った街でもある。

今回、なぜ俺がこれほどまでにこのLA行きを躊躇したのか、
その理由がまさにそこに集約されているのである。

そう、俺にはまだ、あの街に帰る覚悟ができていなかった。
心の準備も、ともすれば、先立つものさえも。

こんな状態では、あの街には帰りたくない。
つまりは、そう、あの街に暮らす人々に、
こんな姿では会いたくない、
それこそが、俺の偽らざる本心だったのだ。

長く故郷を離れては、
天高く錦旗を掲げて帰郷することを夢見ながら、
それが成し得ぬままに10年20年、
思えば遠くへ来たものだ、
今日も異郷の地で日々を過ごす都会の藻屑たち。

そう、俺にとって、LAという街は、
まさに、そんな街、つまりは、故郷に錦を飾る、
その、夢の終着点でもあった筈なのだ。

こんな状態では、あの街には帰りたくない。
そしてなにより、こんな姿では、
まだまだあいつらには見せられたものではない。

だがしかし、今回のこのベビーメタルの究極の土壇場公演。

俺自身のちびたプライドなどというものが、
つくづくチンケに思えるほどに、
このベビーメタルのフォーラムでの公演だけは、
なんとしても、なんとしても、例えなにがあったとして、
行ってやりたい、その晴れ姿を、見てやりたい、讃えてやりたい。

それはともすれば、幼き頃に生き別れた娘の結婚式の披露宴を前にした、
やさぐれ男の心境にも似たものがあったかもしれない。

俺なんかのことよりは、
なににもましてこのベビーメタル、
彼女たちの幸せを優先すること、
そのことのほうがずっと重要である、

そう気がついた時、心は決まった。
決まったのではあるが、

で、あれば、と考えた。

であれば・・・

思い余って御相談申し上げたその道のプロ。

え?LAまでの日帰り?
と、この業界20年以上の海千山千の筋金入りのプロフェッショナルが、
俺の旅程を聞いた時に思わず絶句。

LAまで日帰り?
朝の便でNYを発って、
そして、その日の最終の夜行便:レッドアイで、
翌朝までにニューヨークに帰ってくる?

念の為、ニューヨークとLAの距離、
どのくらいあるか、ご存知なの?

この北米大陸の東の端から西の端。
その全長にして四千キロ。
地球一周が四万キロであるからして、
この距離、ちょうど地球一周のその十分の一にもあたる。
そのフライト時間にして、六時間あまり。
それを一日で往復?
ねえ、いったい、LAでなにがあるの?
なぜそこまでして、LAに行かねばならないの?
そしてなぜそこまでして、LAという場所に居たがらないの?

いや実は、と俺。
いや実は、まあ、いろいろな事情があって。

はいはい、わかりました。
だったら、その事情は聞かないことにしておきましょう。

ではその御予定。
LAに午後3時に到着。
そして、その夜、午前0時ジャストの便で、
LAを後にする、
その究極の格安便。
こんな感じでどうでしょう、
と差し出されたその旅程表と、その金額・・・

え?
え?え?え?え?えぇぇぇぇ!?
俺が調べた時には、既にもう早買い割引の期限は疾うに過ぎて、
ともすれば日本行きの航空運賃と変わらぬほどの高値に跳ね上がって居た筈。
これ、本当にこの料金?

内緒ですよ。絶対に内緒。
こんな料金があったこと、
誰にも言わないでくださいね。

ただ、条件があります。

このチケットは、変更ができません。

つまり、この帰りの時間。午前0時。
いったいどんな事情で、LAまでの日帰り、
そんな無茶な旅程を考えたか知らないけれど、
このチケット、この料金。
一度発券したが最後、予定の変更はできません。
なので、
なので?
もしも、帰りの便に乗り遅れた場合。
乗り遅れた場合?
改めて、新たにチケットを買い直して貰うことになります。
で、それ、例えばいかほど?
それ、例えば・・
え?1000ドル?片道で?

まあただ、その時には、改めて御相談ください。
経由便なり、
あるいは、どこぞの街に降りたって、
そこから例のチャイナタウン・バスという手もあるし。

まるで、シンデレラですね。
午前0時を過ぎたら、かぼちゃの馬車か。

そう、これってまさに、シンデレラ・フライト、そのもの。

では、良いですか?発券しますよ。
で、もしよろしければ聞かせてくれない?
どうしたの?いったいLAになにをしに行くの?
それも、こんな、無理な日程で・・

LAで、と俺は答えた。

結婚式があるんです。
とてもとても、大切な人の。
それに、どうしても、どうしても、出席せねばならない。
そのパーティに参列して、
そして、誰にも会わないうちに、その日のうちに帰る。

例え、ひと目だけでも、という奴なのね。
そう、例え、ひと目だけでも、その姿を見てやりたい。
そのために、そのひと目だけの為に、
遥々北米大陸の向こう側、
LAまで、飛んで、そして帰ってくる、という訳ね。
それって、まさしく、シンデレラ・ボーイ、そのものね。

まったくあなたという人は、とその古くからの知人が笑った。

まったくあなたという人は、
不思議な人、というか、無茶な人というか、
まあ、いまに始まったことではないけれど。

という訳で、出発直前であるというのに、
いきなり転がり込んできたこのシンデレラ・フライト。
破格値の中の破格値、であったものの、
帰りの時間が変更できない、その条件付き。

で、と改めて。
で、この出発時間、午前0時。

これが果たして、可能なのだろうか、と。



当初の予定であれば、
それは十分に余裕がある。
その目論見であった。

発売と同時に衝動買いしたチケットに、
こう書いてあったからだ。

開演時間:7時30分。

改めてベビーメタルである。
ステージそのものが事前にプログラミングされたガチガチにセットした構成。
これまでの経緯を見る限り、
ライブハウスの小箱で1時間15分。
そして、アリーナクラスの大箱においては、1時間40分。
それがお決まり的な通例であった筈。

であれば、7時半に公演が始まるとすれば、
その終了時間は9時10分。
航空便の搭乗手続きが1時間半前、とのことであるから、
その空港への到着時間の10時半までには
少なくとも1時間以上の余裕がある筈。

しかも今回の会場であるTHE FORUM
イングルウッドという聞いたこともない住所ではあるが、
地図を見ればその距離にして4マイル、つまりは7KM。
車で走ればたかだか15分。
もしも何らかの事情に陥っても、
三十分と言わなくても一時間あれば
楽勝で走り切れる距離。

余裕じゃないか、と思った。
ライブ後の余韻に浸りながら、
夜空に次々と飛び立つ機影を眺めながら歩く星空のLA。
それはそれで、格別な思い出になるやもしれず。

と、そんな安易な目論見に悪雲が立ち込め始めたのが、
なにを隠そう、日本におけるLVの告知であった。



「開演時間9:00? それっていったいどういうこと?・・」

このTHE FORUMの公演、
日本においても全国各地53カ所の映画館で同時中継。
改めて随分と張り込んだものである。
コバメタル、及び、チーム・ベビーメタルの運営側が、
このTHE FORUMの公演に向けたその並々ならぬ気概、
感じない訳にはいかない。

これはこれは、と思っていた。
このTHE FORUM公演、
まったくもってとんでもないことになるぞ、と。

その期待と不安に胸を焦がしながら、
ふと見ればそのLVの開演予定時間。

日本時間午後1時開始・・
ってことは、LA時間で、と計算するまでもなく、夜9時。

もしかして、10月11日は夏時間が終了した後なのか、
いやそんな筈はない、と。
であれば、と思った。

ははは、つまりは、同時中継とは実は名ばかり。

例のNBCのオリンピック中継のように、
あるいは、ブッシュの時代のテレビ中継のように、
ライブ、とは名ばかりの時間差攻撃。
その微妙な微妙な時間差の中で、
ともすれば思わぬ失言、
あるいは、政権にとって思わしくない、
その批判的危険発言の上からピー音を重ねる、
その姑息な墨塗り加工の為に、
テレビというテレビが一斉に嘘ばかりを報道し始めては、
そのリップシンクが尽くずれ始めた、あの抱腹絶倒の暗黒時代。

つまりはこのベビーメタルの世界同時放映というのも、
実は回線の都合等もも考慮しては、
その映像データをすべて一旦ダウンロードした後に、
もしかすれば、時として編集を施した上で、
改めて全国の映画館向けに放映すると、
つまりはそういうことなのか、と。

世の中の仕組みというか常識というのかが、
いったいどうなっているのかは良くは存じ上げはしないのだが、
へえ、あのベビーメタルも、つまりはそういう姑息なことをするのだな、
なんてことを思ってみなかった訳でもなく。

という訳で、米国側開始が7時半。
その1時間半後の日本側LV公開。
つまりは、その演奏時間は実質1時間半、
ということなのだろうか。

いや、だとすれば、ちょっと微妙に短すぎるのではないだろうか。

とそんな思惑が交錯する中、
その衝撃の事実が判明したのが、
実に出発の前日となる10月10日。

仕事の合間にふと覗いてみた
他ならぬベビーメタルのオフィシャルサイト。

" 明日(11日)LAフォーラムにて、US初アリーナライブ
& AL「METAL GALAXY」世界同時発売DEATH!!"

DOORS: 6:30
DJ SET: 7:30
BABYMEATL: 9:00

ベビーメタル 9時!?・・・・

これはいつたいどういうことなのだろうか・・
日本時間、というにはあまりにも素っ頓狂だ。
GMT でなど、表記する意味もない。
であれば・・・これ、もしかして、米国LA時間・・・

米国LA時間の、夜9時に開始、ということなのか・・・

思わず高鳴る動悸と震える指。
落ち着け、と自身に繰り返す。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、
でありながら・・

もしも9時に開始、とすれば、
その公演時間を前例に沿って1時間40分、とすれば、
その終了時間は、まさしく、10時40分過ぎ。

空港での搭乗手続きが一時間前の11時から始まる。
だとすれば公演終了と同時にタクシーに乗り込み、
ぶっ飛ばしてぶっ飛ばして、ぎりぎり、ということなのか。

いやはや、これはこれは。
さすがの俺も、このあまりの綱渡り的予定には苦笑いを浮かべさるを得ず。

であれば、事前にそのタクシーの乗り口ぐらいは、
確認しておいたほうが無難であろう、
と、ふと検索をかけた現地事情。

すぐに目に飛び込んで来たのがこんな記事。

”THE FORUM:公演終了後の混雑はまさにHELL:地獄のよう”

イベント終了後のTHE FORUMの
その末期的な大混雑は地元でも有名で、
駐車場口に殺到する2万人の人々に、
路から階段は戦場さながら。

そしてようやく車に辿りつけたとしても、
その長蛇の列は遅々として進まず、
時として駐車スペースを出て、
最寄りの幹線道に辿り着くまでに一時間二時間。

早々に車のピックアップを諦めては、
混雑の終わる幹線道に出てウーバーを拾うために、
深夜のゲトー街を歩く死の行進が始まることになる。

地獄?
戦場?・・

万事休すであった。

事態を甘く見すぎたのか、
あるいは、LAまで日帰りのシンデレラ航路。
その計画がそもそも無理が有りすぎたのか。

しかしながら、今更ながら、
なぜ今回の公演、
よりによって7時半から1時間半もの間、
DJ SETなんてものを挟まねばならないのか?

つまりは、日本向けのLVに、その時間を合わせている、
そういうことなのか・・

であれば、そこで対処しうる可能性とはなにか?

最悪の場合、と考えた。
最悪の場合、公演の終了するそれ以前、
少なくとも最後の二三曲を諦めては、
公演が終了し人々が出口に殺到するその直前に、
会場を抜け出しては、客待ちタクシーのその一台目をゲットしては、
渋滞の始まるその直前に空港に向けて走り始める以外に方法はない。

だがしかし、もしもその計画の一つでも間違いが起こった時、
俺は、LAから、帰って来れなくなる。
ともすれば、かぼちゃ馬車のチャイナタウンバスで大陸横断・・

やれやれだな、と流石に苦笑いであった。
伸るか反るか、どころか、
よほどの奇跡でも起こらない限り、
どう考えてもこんな計画が予定通り行く筈がない。

ラストの二曲か、と改めて。

つまりは、THE ONEと、そして、ROR。

なんだよ、それこそがコンサートのクライマックスじゃないか。

いやしかし、待てよ、とまた新たな確信的な悪い予感。

このライブ、つまりは新譜の発表会。

であれば、その最後の二曲、
あるいはともすれば、そのアンコール曲として、
新譜からのこの珠玉のエンディング・テーマ、
あの、SHINEを、そして、ARCADIAを、
持ってくる、そのつもりではないのか?

そして当然のことながら、
このアンコールで演奏される二曲こそが、
この公演の真の意味でのクライマックスであり、
強いては、この公演の目的そのもの、ともなる筈だ。

つまりは前回のアリーナ公演であったLEGEND-M。
あのラスト、その復活戦となる筈だろう。

よりによって、俺は、そのクライマックスを見ずして、
会場を離れることになるのか。
そんな事が、果たして、俺に、可能なのであろうか?

いや、とかぶりを振った。

もしも、SHINEと、ARCADIAを聴かずして、
会場を離れねばならない、その事態に陥った時、
俺は多分、帰りのフライトを捨ててはかぼちゃの馬車を覚悟して、
そしてその最後の瞬間を見届ける、
その決断を選択することになるだろう。

ってことは、よりによって、LAに沈没か・・

万事休すであった。
思い切りの、絶体絶命、であった。

そうだったのか、
このLA THE FORUM、
そのチケットを購入した瞬間に聞こえたあの悪魔の高笑い。
つまりは、そういうこと、であったのか、と。

帰宅しての夕食の後、
ねえ、出発は明日でしょ?もう用意はできたの?
そういう妻に、思い切りの自嘲を浮かべては肩を竦めて見せた。

えええ!?
LAを日帰り?
そして、わざわざそこまでしながら、
そのクライマックスが、見れないの?
今更ながら、それ、馬鹿みたい、なんじゃない?
だったらわざわざ、LAまで行く意味が無いんじゃないの?

まあ、普通に考えて、そういうこと、だよね。
返す言葉もないというか・・

なんで当日に帰って来ようなんて馬鹿なこと考えたの?

LAに一泊したくなかったからさ。

なぜ?

だって。

逢いたくないの?

逢いたくない訳じゃないが、逢ったらまた面倒なことになるだろ?

面倒って?どういう意味?

だから、お前には判らないよ。

馬鹿みたい。

ああ、まったくもって馬鹿みたいだな。

今度という今度は、自分の馬鹿さ加減にほとほと愛想が尽きた。

ねえ、知ってる? 日本は台風なんだって。

台風?

そう、超大型台風が東京を直撃するかもなんだって。
関東地方一帯に避難勧告が出るかもしれないんだって。

え?だったらLVは?

LVって?

だからTHE FORUMのライブを日本中の映画館で同時中継する予定なんだよ.

それどころじゃないんじゃない?
だって、それこそ東京中が水没、
下手をすれば、日本沈没、なんてことになるかもって言われているのに・・

やれやれだな、ベビーメタル。
まあこんなこと、いまに始まった訳でもないのだが、
こいつらがなにかを企む時、必ずなにかが起こる。
そう、地球の基軸が、磁場そのものが狂ってしまったように、
世界中が、狂騒を始めるんだよな。

で、この期に及んで、日本沈没かよ、と。
果たしてこのベビーメタル。
まったくもって、運が良いのか、悪いのか・・・

ねえ、相談してみれば?と妻が言った。

誰に?

だから、その逢いたくない人たちに。

馬鹿野郎と笑った。

そもそも俺がこんな無理な予定を立てたのも、
元はと言えばあいつらに顔を合わせなくなかった、
それが理由だったんだぜ。
それを、わざわざあいつらに相談することになったら、
それこそ本末顛倒じゃねえか。

だったらどうする気?

だったら?・・





「 LAのミッション・インポッシブル 」

んなことはわざわざ言うまでもなく、
人はそれぞれ色々な事情を抱えている訳だ。

つまりは俺は俺で自分の人生を生きている訳で、
その色々な事情をよく知らぬ輩から、
良いの良いのと要らぬ口をきかれても、
いちいち相手にせねばならない義理もへったくれもない。

ただこのLAに棲まう連中だけは、
そんな俺の人生に口出しのできる数少ない輩たち。
俺が嘗てわりと真剣に対峙してきた、
しいては俺自身の人格形成に多大な影響を及ぼし、
そしてなにより俺のこれまでのこと、
そのひた隠しにしてきた過去、
その真実を、ともすればその恥の集積の、
そのすべてを知る男たち。
つまりは、言うなれば幼馴染、という奴なのだが。

死ぬなよ、お互いにな、と別れてから早十年と言えども、
会った途端に、よお、とも、久しぶりとも言わず、
で?と話の始められる、そんな輩たち。

ただ、そんな輩であるからして、
俺は敢えて、逢うことを避けていた。
そう、このLA行きがなにより気が進まなかった理由が、
そんな輩と顔をあわせるのを避けたかったのである。

だがしかし、皮肉なことに、
そしてまた必然的帰着として、
こういう事態に陥った時、
頼れるのは、そんな最も厄介な輩しかいない。

で?と奴は言った。
で?なんなんだよ。話ってのはよ、と。

事情があって明日、THE FORUMという場所に行く。
遅くとも11時ぐらいに用が終わる筈だ。
その後、12時にLAXから出る便に乗らねばならない。

無理だな、と奴は一蹴した。
THE FORUMってのは曰く付きの場所でよ。
古くからの黒人ゲトーの真ん中にあって、
イベントの終わった後の車の混在には定評がある。
出口が少ない上に、そこからつながる幹線道までの道が片側一車線。
二万人もの人々が一度に出てくるんだ、
一度嵌まり込むと、にっちもさっちもいかなくなる。
それが空港までの幹線道と言えば尚更だ。

で?

それを見越した連中は、THE FORUMのパーキングエリアの外、
そこかしこのレストランやらモーテルやらの駐車場に車を隠して置くのだが、
さっきも言ったようにゲトー街だ。
目ぼしいところはそうそうに一杯で、あるいは法外な金をふっかけられ、
あるいはそれを待ち構える車泥棒やら強盗やらの良いカモにされることになる。
悪いことは言わねえ。一泊を覚悟して次の日の便に変更するんだな。

やっぱりそうか。
なので、

なので?

なのでお前に頼んでいる。

まあそんなことだろうと思ったが。

で?どうしたら良い?

まあできることと言えば、

言えば?

SHOWが終わる直前、人の津波に巻き込まれる前にばっくれて、
で、時間を合わせてパーキングの外の待ち合わせ場所で落ち合って、
後はまあ、ぶっ飛ばすのみだがな。

判った。だったら時間と、場所を決めてくれ。
その時間のその場所に行けるようにする。

フライトの出発時間は午前0時って言ったよな?
だとしたら、搭乗開始は45分前。
緊急時の最終ボーディングが15分前だな。
ってことは、11:45がデッドエンド。
この時代、セキュリティチェックやらなにやらでいろいろあるからな。
まずはニューヨークからLAに着いた時点で、
事前に搭乗券を発行して貰うことだ。
で、セキュリティを簡単にする為に、
事前にポケットの中のものをすべてバッグに移し、
金属探知機に引っかかるものはすべて事前に捨てておく。
そうすれば、30分もあればセキュリティと搭乗手続きを抜けられるだろ。

ってことは逆算して、11:15には空港に着いていなくてはならねえってことだ。
THE FORUMから、どれだけすんなりと行って最低15分はかかる。
ってことはだ。
まあ色々考えて、10時45分には落ち合わねえとアウトだな。

10時45分か。

そう、10時45分。それが考えうる限りのギリギリのところだろ。

という訳で、改めてベビーメタルのスケジュールである。
9時から初めて90分。
だとすれば10時半には終了する、その筈。
その後、走って落ち合い先まで、15分で辿り着けるか。

で、その場所なんだが、と奴が行った。
地図を見れるか?

ああ、グーグル・マップ、いま開けた。

THE FORUMを囲んだパーキング、
その四角いエリアのその対面に、シズラーがあるだろ?

シズラー?ステーキ屋か。
ああ、安い屑肉専門のな。
で、そこはダメだ。そこはいつも混んでいる。
FORUMの従業員の溜まり場だそうだ。

で、場所はその先。
その先を西にちょっと行ったところにソウル・フードのレストランがある。
ソウル・フード?
そう、その辺りは古くからの黒人ゲトーでな。
で、そのソウル・フード。
古くからのなんだかんだと曰く付きの場所。
あまり地元の奴らも近寄りたがらない理由がある。
なので、いつも、駐車場が空いている。
そこに10時45分だ。判ったな?

で、目印は?

着いたらこの番号に電話しろ。

お前が来るのか?

あのなあ、と奴が言った。
こんなこと、誰に頼めるっていうんだよ。
昔のダチがニューヨークからわざわざLAまで、
ベビーちゃんメタル、なんてのを観にやってきて、
で、その後、すぐに空港に取って返してニューヨークに引き返す。
5分でも遅れたらアウトだ、
そんな馬鹿な話、聞いたことがねえぜ。

ベビーメタル、知っていたのか?

知ってるもなにも、FORUMだぞ。
こっちで言う、マジソンスクエア・ガーデン。
昔の、武道館、みたいなものなんだぜ。
言うなれば、ロックの殿堂だよ。

そこに日本のバンドが出演する、なんてことは、
前代未聞のこと、なんだよ。

お前がなにを考えてベビーなんちゃら、
なんてのの追いかけをやってるかは知らねえが、
10年ぶりに電話をかけてきた理由ってのが、
まあそのベビーメタル程度のことなるのなら、
まあお安い御用だ。

悪いな。

本当に泊まらないのか?
お前がいいならいつまで居てくれても良いんだがよ。

まあこっちにも色々事情があってな。

まあそういうことなんだろうな。
判った。10分でも5分でも、また会えるってのは良いことだ。
10時45分、楽しみにしてるぜ。

あ、それからな、と奴が言った。
荷物は、少なめにな。

え?なんだって?

と言う前に、電話が切れていた。

なんだって?と妻が聞いた。

来るってよ。

でしょ?

荷物は少なめにって言ってやがった。

え?まさか・・・

そう願いたいんだが。
まあなにがあっても文句は言えた義理じゃねえし・・

でしょ?そうだろうと思ったよ、と妻が言った。

あなたはいくつになっても、
本当に頼りにしているのは、実はあの人たちばかり。
あの人達以外は、本当の友達とは、認めたくないんでしょ?

なんとでも言ってくれ。

でも乗り遅れたらどうするつもり?

その時はその時だろ。

その時には私も行こうかな。ブーくん連れて。

おいおい。

良いんじゃない。
ここに来ていきなりのLA移住。
ブーくんの喘息も、空気の良いところに移ったら治るかもしれないし・・

おいおいおい・・・



とまあ、そんなことがあったか無かった。
という訳で、すべてが丸く収まったというよりは、
なるようにしかならない。
そのなるべくして落ちるべくして落ちるべき穴に落ちた、
つまりは、元の鞘に逆戻り、と。

ただ言わんこっちゃない。
ベビーメタルのコンサートに行く筈が、
もう頭の中はあいつらのことばかり。
そう、これだから・・・
いまになってようやくその本当の理由、
あいつらに逢いたくなくてわざわざ日帰りの予定を組んだ、
その真相ってやつにに辿り着いた訳である。

いつの間にかこの旅の目的が、
ベビーメタルを観に行くことよりも、
それが終わった後の15分。
例え15分であってもあいつに会える、
それだけで胸が一杯なってしまっているこの体たらく。

まあそれもこれも、ベビーメタルの思し召し、
という奴であったのだろうか・・

クソったれ、と呟いた。
クソッタレが、よりによって、こんな時に、こんな姿で、こんな事情で。

ただ、と正直、思っていた。

それが例え、10分であっても、
それが例え、どんな事情であっても、どんな姿であっても、
あいつに逢える。
そうか、逢えるのか・・

逢いてえな、と、思わず呟いてしまった。
逢いてえ、あいつに、あいつらに、ひと目だけでも、逢いたい・・・

もうそれだけで、胸が一杯で、はち切れそうで。

逢えるのか、ついについに、あいつに、逢えるのか・・・

知らぬ間に、涙が滲んでいた。

BGMはいつの間にか、BRAND NEW DAY に、変わっていた。


♪    ♪    ♪    ♪     ♪    ♪    ♪    ♪    ♪    ♪


「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」

ふたつ目の涙 「 カリフォルニアの絵に描いたような青い空 ~ SOLDOUT に泣いた男の話」



「天使の街の光と影」

また例によって、乗ったとたんに爆睡こいては、
ふと目が覚めて転がり落ちた、その白き閃光の只中。

LAか、さすがに日差しが違うな・・

その見上げる空。
雲ひとつ無い青。
その、あまりにも単調な、真っ青な青。
ただそれ一色の青。

また例によって大した荷物もなく、
手ぶらに近い状態であっけらかんとその空港の待合ロビーを抜けては、
タクシーの待合場。

手元のIPHONE、
閃光に晒されて見分けのつかない画面から、
UBERの画面を広げては、
乗り合いのプールで18ドルと破格値。

運転手は、KAREN、とある。
まさか、ビキニの美人運転手か、と思えば、
やって来たのは、なんてことはない、
土瓶ハゲのインド人のおっさん。

あれ、でも、この運転手の名前のところには、
カレン:KAREN と書いてあった筈だが。

そう、私はカレン、とそのインド人のおっさんが言った。
ゲイなのよ、と、わりとあっさりとカムアウト。
家の都合で結婚はしたものの、
女になりたいという夢がどうしても忘れられず、
家庭を離れた時にだけはこうして本来の姿に戻る、のだと言うのだが・・・
ああ判った判った、とそのままスルー。
何だか知らないがまあ好きにやってくれ。
あんたが何者であろうが俺の知ったことではない。
取り敢えず俺が行きたいのはTHE FORUM。
あんたはそこに俺を無事に送り届けてくれること、
それ以外に君に望むものはなにもない。

判っているわよ、とカレンおじさん。
誰も他人のことなんて知ったことじゃないわよね。
でもその前に、空港でもうひとりだけピックアップするのだけれど良いかしら、と。
ああプール:カーシェア、ということだな。
安かったのもそういう訳なんだろ。
OKだよ。時間はまだ4時前。開場の6時半までまだまだある。
LAX内のコンコースをぐるぐると回ってようやく次の客をPICKUP。
もしかしてその乗客も同じようにFORUMに向かうなら、
やはりBABYMETALに行くのだろうか、
と思えば、乗ってきたのは見るからに育ちの良さげなチャイニーズの大学生。
果てはまた虫国からの遊学生かと思いきや、
その英語を聞く限り完全なるネイティヴ、つまりはアメリカ生まれ育ち。
はい、そうです。生まれも育ちもここLA。
と言うよりは、イングルウッド。
イングルウッド生まれ育ちのチャイニーズ?
イングルウッドって黒人ばかりのゲトー街じゃないのか?
で、そんな地元民がなぜわざわざUBERなんて呼んだのか?
ああ、ボクは車を持たないUBER生活者なのです、と。
UBER生活者? でも、LAで車がないと不便じゃないの?
いいえ、とそのチャイニーズ君。
行きたいところがあればUBERを呼べば良いから。
車のローン、ガス代、それに保険代、それと事故のリスクを考えたら、
UBERを頼んでしまった方がずっと安あがり、と。
最近増えてるのよ、とカレン、つまりは土瓶ハゲのインド人のおさん。
いまやLA中がUBERウーバー。
聞けばこのカレンおじさんもUBERは副業。
定職とは別のアルバイトだと言う。
普段は男の顔をして男の仕事をしているのよ、と。
ただこのUBER運転手の収入、なかなか馬鹿にならないの。
自分の車とそれにGPS、つまりはIPHONEさえあれば、
空いた時間を見つけて好きな時に好きなところでアルバイト。
実はいまLAは不景気なのよ。
と言うよりも超インフレ状態。
家賃から生活費からが鰻登りだというのに給料は一向に上がらず。
その穴埋めに誰もが副業を持たざるを得ない、と。
なので最近は猫も杓子もUBERの運転手になっちゃって。
そう、乗客よりもUBERの運転手の方が多いぐらい。
よってその飽和状態から値崩れが起こってね、とカレンおじさん。
そう、安いんですよ、とそのチャイニーズ君。
自分で車を買うよりもずっと安い。
だったら君も車を買ってUBERの運転手をすれば良いじゃないか。
車の運転などする暇があったらボクはその時間を他のもっと有意義な時間に割り当てたい。
LAの交通渋滞って大変なのよ。どこへ行っても渋滞ばかり。
裏道を走ればすぐに当たり屋のホームレスが飛び込んでくるし。
当たり屋のホームレス?
UBERを頼めばその無駄な時間に
無駄な時間に?
本を読んだり、IPHONEでFBやらグラムやらもチェックできるし
あとは?
そう映画が見れたり、あとはまあゲームができたり。
つまりはそれか。
つまりはそれよ、とカレンさん。
無駄だと思いませんか?とチャイニーズ君。
車を運転している時間って本当に無駄だと思いませんか?
もう何十年も前、前世紀の半ば、それ以上前から、
この街の渋滞は末期的。
なのに、この21世紀になっても、
なにひとつとしてなにも改善されない。される気配さえない。
人間って本質的に、ものすごく馬鹿な生き物。
どんな理由で世の中にこれほどの多くの車が必要なのか。
その抜本的な解決を誰も考えることなく、
昨日と同じように、今日も明日も、
同じ馬鹿げたあやまちを繰り返すばかり。
人間って馬鹿なんですよ。
基本的にものすごく、馬鹿な生き物なんですよ・・
とまあそんなチャイニーズ君の憤りを聞くともなく聞き流しながら、
とふと見れば空港を抜けて街中へ。
車窓からの眺め。
ああさっきまで、きっと青色の看板かなにかなんだろうと思っていたその部分が、
ああ、これかそう、これこれ、この絵に描いたような青い空。
ほんと、雲ひとつないというか、まるで思い切り手を抜いた下手な絵のように、
青い絵の具でだーっと塗りつぶしただけの、見事、というよりはあまりにも単調な青い空。
そしてこのパームツリー。そう、パームツリーなんだよな。
初めてこの街に着いた時にも、
そのなんともあっけらかんとして間の抜けた空に向かってヒョロヒョロと伸びた伸びすぎた
そのあまりにも絵に描いたようなパームツリー。
その姿に思わず笑ってしまった覚えがあるのだが。
そして眺めるその町並み。
空港沿いの寂れたモーテルや、潰れかけた酒屋から、
そして目につくのは、PAWNSHOP、つまりは質屋ばかり。
そんなバラックとも思えそうな平たい家々の上に、
この絵に描いたような青い空と、そして、空高くに浮かぶパームツリー。
パームツリーか。よりによってまたパームツリーか、
そのあまりにもあっけらかんとしたアイコン的な存在。
取り敢えずの記念にと、今日最初に気がついたそのパームツリーの写真をパシャリと一枚。
と、そんな俺の挙動に目ざとく気がついたチャイニーズ君。
なに写真に撮ってるの?
え?ああ、あのパームツリー。
パームツリー?と聞いて、チャイニーズ君とKARENおじさんが大爆笑。
LAでパームツリーの写真を撮るなんて、
撮るなんて?
まるで日本で電柱の写真を撮るような。
ニューヨークでならビルの写真を撮るようなものよ。
つまりは?
つまりはどこにでもある、と。
日本にはもう電信柱はないぜ。
そうなの?ボクのよく見る日本のアニメにはいつも電信柱があるよ。
そう、LAのパームツリー。まるでインドのハエぐらいどこにでもある。どこにでもいる。
インドのハエ?どういうこっちゃ。
だから、それだけありふれてるってこと。
あなたはいま、インドに着いた観光客がまずは目の前にとまった蝿の写真を撮ったようなものなのよ。
LAのパームツリーはインドの蝿か。
LAにはね、青い空と、パームツリーは、蝿ぐらいどこにでもあるの。
そういうものなんだな。
ニューヨークにはパームツリーはないの?
ニューヨークにパームツリーはないね。
どこにも?
どこにも。
信じられないな、パームツリーの無い世界があるなんて。
蝿の居ない世界があるようにね。
ボクの家系は元々シンガポールの出身なんだ。
ああ、シンガポールには蝿がいない、蚊もいない。
居るには居るけどね。でもあまりいない。
ノルマがあるのよね?とカレンさん。
国民ひとりひとりが、一日ハエを何匹、蚊を何匹、殺さなくちゃいけないっていう法律があって。
まさか、とチャイニーズ君。
いや本当、本当、と俺。李首相が存命の時、
そういう法律を作ってそれを国民全員が義務付けられた。
税金みたいなものね。
税金と一緒に蝿何匹と蚊を何匹とを月々収めてたのね。なんか素敵。
インドもそれをやれば良いのに。
それをやらない、それができない、ところがインドなのよ。
あなたはインドにもシンガポールにも行ったことがあるの?
ああ、幸か不幸か。
でも、LAには来たことが無かった。
いや、あるよ。ずっと昔にね。日本から来てアメリカにはこの街に着いた。
でも、イングルウッドってところには来たことが無かったな。
イングルウッドになんかわざわざ行く人はいないわよ、と吐き捨てるカレンさん。
昔からあそこには黒人しか住んでいないのよ。街中がゲトー。
そんなところ誰もわざわざ行きたがらないわ。
いまはヒスパニックばかりだよ。
それはイングルウッドに限ったことじゃないわよ。
LA中がどこに行ってもヒスパニックばかり。
だったら君は?なぜチャイニーズが黒人ゲトーに暮らしているの?
ああ、ボクの家族は代々イングルウッドでチャイニーズ・レストランをやってるんです。
ああそういうことか。下流ビジネスって奴だな。
そう。これまで20000回強盗にあって。
それでもやってる?
そう、それでもやってる。儲かるから。そのたびに保険金が手に入るし。
それが目的なのか?
それが目的って訳でもないけど、本業なんてしていなくてもそれだけでそれなりの実入りにはなるんだ。
で、君はその保険屋のセールスマンでもしてるのか?
いやボクはUCLAで経済学を勉強中。
レストラン経営の?
まさか。ご存知ですか?いまイングルウッドの再開発が始まろうとしているですよ。
つまりはビジネスチャンスなんです。イングルウッドがいまゴールドラッシュなんです。
なによ、とカレンさん。
バカバカしい。ダウンタウンの二の舞になるだけなんじゃないの?
LAのダウンタウンは再開発が成功しているんじゃなかったのか?
誰がそんなことを言ってるのよ。
LAのダウンタウン、見渡す限りどこを見てもホームレスばかりなのよ。
SOS=STREET OF SHAMEって言われてる。
それを言ったらLA中がホームレスばかりじゃないの?
COS=CITY OF SHAME。
それを言ったらカリフォルニア中がホームレスばかりだけどね。
SOS=STATE OF SHAME。またSOSに逆戻り。
それを言ったらアメリカ中がホームレスばかりだろ。
COUNTRY OF SHAME。またCOSに戻って来たわ。
これだけダダッ広いんだ。住むところならいくらでもありそうだがな。
景気なんてちっとも良くならないのに地価ばかりがが高騰して、
で、その煽りを食らって家賃を払えなくなった奴らを、
不動産プロパーと政治家と銀行屋とそれに警察がグルになって追い出すんだ。
この街ではいまや誰も彼もひとつ間違えばホームレスよ。
で、その住民が追い出されて空き家になった家は?
立入禁止の看板を建てたまま誰も住んでない。家の中はネズミだらけ。
ネズミが家に住んで人間はホームレスなんだな。
動物愛護もここまで来たら立派なもんだ。
再開発でハイライズのタワーマンションばかりが建ち並んでいるのに、
そんなところに誰も住んじゃいないの。そこにも住んでいるのはネズミだけ。
で、家を追い出されてホームレスの奴らはなにをやってるんだ?
麻薬じゃないかな。フリー・ニードルだけはいくらでも無料で手に入るからな。
フェンタニルか。東部でも大騒ぎになっているがな。
そう、フェンタニル。別名オピオイド。
なにそれ、麻薬?
麻薬じゃないわよ。合法の、鎮痛剤。
スープキッチンでちょっと頭が痛いと言うとそのオピオイドを山のように貰えるの。
この国ではオピオイドとフリーニードルだけはいくらでもただで手に入るからな。
まるでこれでさっさと早く死んでくれと言わんばかりだな。
黒人なんてみんな死んでくれれば良いんだよ、と笑うチャイニーズ君。
死んでるわよ、とカレンおじさん。
早朝にダウンタウンを走ってるとそこら中に人が転がっているもの。
まさに天使の街だな。青い空とパームツリーの下で天国注射か。
ああ、青い空とパームツリーだけはどこにでもある。
あと鎮静剤とフリーニードルとね。
乞食の数だけで言ったらいまはアメリカはインドを抜いたと思うわ。
これで蝿さえ順調に育ってくれれば良いんだがな。

さあ、着いたわよ、あれがお待ちかねのフォーラム。
ねえ、日本人のおじさん、とチャイニーズ君。
おじさんはこのフォーラムのためにLAに来たの?
そう、今晩ここでベビーメタルがコンサートを演るんだ。
ベビー、メタル?
そうベビーメタル。日本のアイドルとヘヴィーメタルを融合させたダンスユニット。
アイドルとヘヴィーメタルとダンス?なんじゃそりゃ、と笑うKARENおじさん。
面白い?とチャイニーズ君。
ボク、日本のアニメの大ファンなんだ。日本のアニメを観て育ったようなものだ。
子供の頃から近所の黒人を見たくないから日本のアニメばかり観てたんだよ。
日本のアニメにはホームレスも黒人ギャングもフリーニードルも出てこないからな。
ベビーメタル行ってみようかな、とチャイニーズ君。
日本人なんでしょ?
ああ、日本で一番カワイイ女の子三人組だ。
それがヘヴィーメタルで踊るのか?夜も末よね。
KPOPみたいな?
KPOPはヒップホップだろ?ベビーメタルはヘヴィーメタルだ。
コリアンは黒人にお尻を振って、ジャパニーズは赤首にネッキングって訳ね。
そう言っちゃうと民主党向けと共和党向けだな。でも俺はトランプは大嫌いだがな。
トランプを好きな奴なんているわけないじゃない。
ボクは好きだよ、とチャイニーズ君。
黒人とメキシコ人をみんな掃除してくれそうだしね。
いまアメリカで一番求められてることでしょ。
よくできました。なかなかLAらしい、シャローで率直な意見だ。
ただニューヨークでそれを言ったらたちまちつまみ出される。
ニューヨークはそうじゃないの?
善人の黒人もいれば金持ちの黒人も居るしな。
なにごともコンプリケイトなんだよ、NYは。
こっちでは黒人でも金持ちのまともな連中はみんなトランプを支持してるよ。
ニューヨークでは白人でも黒人でも頭のまともな連中で、
まさかトランプを支持している奴などひとりもいないがな。
つまりトランプを支持している奴はそれだけで救いようのないアフォってことだ。
つくづく世も末よね。どいつもこいつもアフォばかり。
だんだんインドに帰りたくなってきたわよ。
インドにはインドに、日本には日本に、イギリスにもドイツにもオーストラリアにだって、
似たようなアフォはいくらでもいるさ。
だから言っただろ、人間って本来すごく馬鹿なものなんだよ。
もうそういう時期なんだ。不必要な馬鹿はその数を減らすべきなんだよ。
狂乱地価とオピオイドとフリーニードルでね。
ただそれが目的ならもっともっと手っ取り早い方法がある筈だけどな。
それを、トランプに期待しているんだよ。世界中の誰もが。
さあ、着いたわよ、とKARENおじさん。
ここがTHE FORUM、その入口。
その見た渡す限りに広大な駐車場。
それは海、というよりは、まさに砂漠。アスファルトの大砂漠。
その砂塵の彼方に、まるでテント小屋、というよりは、
まるで月面の探索基地のような、
コロッセウムというよりは、巨大なバースデイ・ケーキのような白亜の殿堂。
それがTHE FORUM
ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンと並ぶ米国のロックの殿堂、
その姿だった。

なんてバカでかい駐車場なんだ。
あの建物まで歩くだけで随分とありそうだな。
まあ良いか、じゃな、世話になった。ありがとうよ。
待って。ここで降ろすと危ないから、
できるだけ駐車場の中に入るから。停められるところまで。
ああ、その方が良い。なるべく通りを離れたほうが良いよ。
ねえおじさん、なにがあってもこの入り口を一歩でも出たらダメだよ。
そんなに治安が悪いのか?
悪いよ、とチャイニーズ君。
人のいないところに行っちゃだめだよ。100%、必ず殺られる。
それで君はアニメばかり観てたんだね。
ああ、世界が日本のアニメみたいななったらどれだけ良いかってずっと思ってた。
これからボクはこれからそれを実行に移すつもり。
つまりこの街から黒人とヒスパニックを掃除するんだ。
オピオイドとフリーニードルが山程必要だな。
それもみんなメイド・イン・チャイナじゃないのか?
じゃあ、日本のおじさん、楽しんで。
その、えっと、なんだったっけ?
ベビーメタル。世界で最高のバンドだ。
良かったボクも行ってみようかな。
ああ、ダメよ、残念ね、とカレンおじさん。
ほら、と指差す、そのゲトー街の青い空とパームツリー、
その隣に忽然と建ったTHE FORUMの広告塔。

TONIGHT BABYMETAL
*** SOLDOUT ***

ソールドアウト?
ベビーメタルがあのTHE FORUMを SOLDOUTした!?

駐車場半ばで係員にSTOPここまでと停められた車。
じゃあ、楽しんでね、とカレンおじさん。
早くUBERでお金が貯まって性転換手術ができればいいな。
そのまえに植毛が必要だとは思うが・・
ねえ、言ったわよね。帰り道には気をつけてね。
UBERに乗り込むまで絶対に夜に外に出ちゃダメよ。
人混みを離れちゃダメ。それから、黒人とヒスパニックに近寄っちゃだめ。

SOLDOUTか。

凄いんだね、ベビーメタルって、とチャイニーズ君。
FORUMがSOLDOUTするなんて、みたこと無いよ。
ジョナス・ブラザーズだってアリアナ・グランデだって売れ残ってるんだぜ。
前代未聞だよ。

でも、とチャイニーズ君。
チケットたぶんどうにかなるよ。
FORUMがいっぱいになるなんて聞いたことがない。
これにはきっと裏がある。だからどうにかなるさ。
会場で会えればいいな。
ねえ、ベビーメタルって本当にそんなに良いグループなの?
決まってるじゃないの、この人はわざわざニューヨークからそれを観に来てるのよ。
つまりそれだけの価値があるってことなんじゃないかしら?
そう、ベビーメタルはわざわざニューヨークから観に来る価値のある人達だよ。
日本のアニメみたいに?
そう、愛と平和とカワイイのコンキスタドールだ。
KAWAIIのコンキスタドール:征服者か。最高だね。
見る価値はあるよ。絶対に損はしないと思う。
今晩なんだね。
そう、俺はその為にニューヨークから飛んできたんだぜ。
見なよ、ほら、あれ日本の人たちだろ?
と見れば、そのSOLDOUTの看板の下で、
日の丸を広げて記念写真を撮る人々。
ああ、あの人達、日本からわざわざ来たんだな。
ねえ、ちょっとあの人達にあんなことを、すぐに辞めさせて。
通りからあんな近いところであんなことやってたら、
まじめに撃たれるわよ、そのうち。
凄い人たちなんだね、ベビーメタルって。
ああ、凄い人たちだ。ローリング・ストーンズよりもレディ・ガガよりも凄いよ。
本当だね?
ああ、120%保証する。これほどの奴らは世界にはいない。
判った。どうしてもそのベビーメタルという人たちが観たくなってきたよ。
世界を日本のアニメみたくしてくれる人たちなんでしょ?
チケットなんとかしてみるよ。ダフ屋でもなんでも、絶対に行くよ。約束する。

と言う訳で走り去って行ったUBER。
閑散とした砂漠の真ん中のような駐車場の真ん中にひとり置き去りにされたまま、
見上げる空にカリフォルニの青い空と、そして、ベビーメタル SOLDOUTの文字。

ベビーメタルが、THE FORUMをSOLDOUT?

その文字を見つめながら、思わず、涙が滲んできた。

TONIGHT BABYMETAL
*** SOLDOUT ***

来てよかった、キツネの神様、これを観ただけでも、
遥々ニューヨークから飛んできた甲斐があったぜ。
それは考えうる限り、最高の歓迎の挨拶であった。



♪    ♪    2Bこんてぃにゅう    ♪    ♪




  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム