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コロナの時代の愛 その拾九 ~ 午後七時の歓声に服わぬ者たち コロナの時代の犬の事情

Posted by 高見鈴虫 on 21.2020 コロナの時代の愛   0 comments

コロナの災禍の中で毎日午後7時、
最前線で戦う医療関係者への感謝を込めて、
街中の人々が窓を開け放っては大歓声を響かせる、
これが日々欠かせぬ日課となっているのだが、
そんなニューヨーカーの誉れ高きこの大歓声を、
ただひとり快く思わない不届き者が存在する。
つまりは我が家の愚犬ブッチ君である。

見た目に寄らず頑固者の一面を持つこのブッチ君。
夕刻の散歩から帰り、さあ飯だ飯だとひとり勝手に盛り上がっている時に、
窓の外から響き渡るこの不穏な大歓声。
なんだなんだ、と訝しげに外を見やっては、
見るからに忌々しげな顔をしかめながら、
グーグルグルグル、と喉の奥を鳴らし始める。

判った判ったと宥める妻に胸を擦られながら、
グーグルグルグルと歓声の鳴り止むまでの間、
そのご機嫌は一向に治らない。

この午後7時の大歓声、
当初はこの沈黙の大通りを、
コロナ戦争の最前線である病院から帰還する、
医療関係者を乗せた送迎バスが走っているのか、
とも思っていたのだが、
どうも聞くところによれば、
これ某広告代理店の企画したことであるらしく、
それを聞いてから、なあんだ、そっか、と、
ちょっと興ざめしたところが無きにしも非ず。
その某広告代理店とやらが、この午後7時の大歓声から、
いったいどうやってどんな利益を得ているのか、
まさか声を上げた人々、その開けた窓のひとつひとつを目敏くカウントしては、
後々になって寄付名目での集金にでもやってくるのか、とも思ったのだが、
その企画力をボランティアした、ということらしい。

という訳でこの午後7時の大歓声、
日々エスカレーションを繰り返しては、
拍手に歓声にモア・カウベルが加わり、
笛にラッパから陣太鼓にクラリオン、
最近となっては車のクラクションなんてのが重なってからは、
さすがにちょっと辟易とさせられるものが無きにしもあらず。

古くからのニューヨーカーたちは、この俄なとってつけた歓声を前にして、
なんとなく、と思っているのだ。
なんとなくこれ、あの、911の時の、U-S-A!に似ていなくもない。

つまりは、お祭り好き、というよりは、
広告会社的な喧伝に騙されやすい人、
あるいは、そういう喧伝に自ら参加することにカタルシスを感じるタイプの人々。
この歓声の主役たちは、実はそういうタイプの方々なのかな、
と、そんな穿った気がしないでもないのである。

ただ、まあ良いか、とは思っている。
率先して参加はしないまでも、
ブレンダさんの例に寄らずとも、
この医療関係者に対する感謝の気持ちが誰もが同じである筈。
なのだが・・
グーグルグルグル・・
その不穏な唸りを響かせる我が駄犬君。
そう、犬たちにとってはそんなことは知ったことではない、のである。
そして五分も経って、漸く俄な喧騒が静まった頃、
また何事もなかったかのように、ニカっと、満面の笑顔を向けては、
口の周りを盛んに舌で撫で付けながら、
つまりは、お腹へった、のサインを送り始める訳なのだが。

改めてこのコロナの災禍が始まって以来、
軟禁状態にある人間様たちの苦労も然ることながら、
実はこの犬猫たちペットの気苦労というのも
どうやら尋常ではないようなのだ。






この非常事態のロックダウンが宣言された当初、
事情を知らぬ同僚たちからは、
良かったじゃないか、と皮肉めいた一言。

良かったじゃないか、このロックダウンで、
一日中犬と一緒に居てやれるなんて。
犬はきっと喜ぶだろうな。
この不愉快なコロナの騒動を喜んでいる奴らもいるなんてさ。
それそれでちょっとした救いにもなるというもの・・

そんな能天気にも図星を得た温かいお言葉を戴いていたのではあるが、
そう、実は俺もそう思った。
このロックダウン、犬たち、そしてその飼主たちにとっては、
不幸中の幸いの、棚からぼた餅。
これで一日中犬と一緒に居てやれる。
お散歩だって、ともすれば一日中。
ラップトップから携帯からを公園の草原の上に持ち出して、
ボール遊びをしながら芝生に寝転びながら、
これでもかというぐらいに一緒に遊んでやれる筈だ・・

その甘い目論見が、その自宅軟禁の一日目から、
ちょっとした肩透かしを食らうこととなった。

ちょっと長めの朝の散歩から帰った後、
朝飯を平らげた犬が、ふと俺の姿に目を止めては、
あれ、今日は会社には行かないの?と怪訝な表情で首を傾げて見せる。
ああ、今日からしばらくニューヨークはロックダウン。
いつまでになるかは判らないが、
それまでの間はずっと家で一緒に居てやるからさ。
ふん、そういうことなのか・・
尚も納得の行かなそうな顔つきで、
かわりばんこに俺たちの表情を垣間見ながら、
はっはっはっ、赤い舌を踊らせては、
曖昧な笑顔を浮かべるばかり。
そしてまたいつものようにソファの上でうつらうつらと始めながらも、
やれ携帯の呼び出しのたびに、電話会議の招集のたびに、
慣れぬ場所に置いた不慣れなキーボードを打つ音に、
お茶だトイレだ息抜きの腰伸ばしにと椅子から立ち上がる度に、
その些細な細やかな不用意な感情の動きを敏感に察知しては、
ふっとして飛び起きて、なんだなんだなんだ、と。
そしていつの間にか忍び寄った足元からふと顔を覗かせては、
まだ会社には行かないんだね、と曖昧な笑顔。
ああ、だから、と頭を撫でる。
ああ、だから、しばらくはこうして一緒に居てあげられるから。
であれば、と犬。
であればボクもここに一緒に居ようかな、と。
この時間、普段であれば風通しの良い寝室のベッドを一人で占領しては、
午後いっぱいをぐっすりと昼寝をして過ごしているだろう、その筈が、
このロックダウンが始まってこの方、
この狭い1LDKの部屋に人間二人と犬一頭が、
二十四時間その雁首を揃えては身を寄せ合うような三密生活。
仕事中の些細なため息から感嘆からさりげない舌打ちから、
その微妙な物音を目敏く察知してはすかさずに走り寄り、
ねえ、どうしたの?なにがあったの?と、膝の間から顔を覗かせては、
その度に、頭を撫で、身体をさすり、
ねえねえそういうことならおやつを頂戴、とせがみ初めて・・

このコロナの非常事態、犬は犬で落ち着かないのである。
そうこうする内に、その気遣いが気配りがおもてなしの思いやりが、
すっかりと日常の惰性の中に擦り切れ初めては、
これまでの通常時においては、
一日中をたった一人の王様として過ごして来たその日常の慣習、
その既得の権利をさりげなくも頑なに主張を始めては、
その曖昧な表情の中に、ともすればちょっとした抗議、あるいは不満、
つまりはストレスの様相を呈し始めて・・

朝一番からのちょっとした難題を無事やり過ごしては、
うっし、終わった終わった、と腕を伸ばしては気晴らしの中休み。
そう言えば、そろそろクオモの会見がと、
ソファに移動してテレビを点けようとした時、
既にソファの上に長々と寝そべっている犬。
おい、ちょっとそこをどいてくれないか?
そんな俺の姿を胡乱な顔で見上げながら、
昼寝の邪魔をされて見るからに不遜な表情で大きく欠伸をしては、
ちぇっと、舌打ちでもするようにソファからマットの上に移動。
そして点けられたテレビの音声に、
見るからに不機嫌そうに肩を落としながら、
トボトボと寝室へと消えていくのである。
なんだよ、どうした?ここで一緒にテレビを観ないか?
そう今ではいつもそうであった。
俺たちがソファに座る度に喜び勇んで飛び乗っては、
その二人の間に身体を寄せて満面の笑みで双方の顔を見やっては、
頭を撫でて耳を掻いて胸をさすって、と催促を始める、
それが慣習となっていたのだが。
そんな犬がいつしか場所を譲らなくなった。
おい、ちょっとそこ、と促しても、
昼寝中の頭を胡乱に擡げてはそのままパタリと頭を落として、
ともすれば、その隅にちょいと下ろしたその腰を、
さも邪魔そうにしては後ろ足でグイグイと押したりもする、
ともすれば、ああ終わった、ちょっと休憩と立ち上がった、
その動作を目敏く見つけては、そそくさとソファに先回り、
なんだよおまえ、そこには俺が座ろうとしていたのに。
そんなちょっとしたイジワルなんてものさえをも繰り返し初め・・
なんだよおまえ、とちょっと憮然としながら、
だったら、ねえ、ブーくん、とかみさんが呼ぶ。
だったらほら、そんな不機嫌なおじさんは放っておいて、
こっちの静かな寝室の方で一緒に涼んでいましょうと促されては、
見るからに忌々しげに俺の姿を振り返りながら、
そして渋々とかみさんの後を追うのではあるが・・

おーい、クオモの会見が始まったぞ、一緒に観ないか?という俺に、
うん、でも、と妻。
ほら、ブーくんのお昼寝の邪魔になるから、と。
お昼寝の邪魔か。まさにお犬様。
一日中涼しい部屋で寝てばかりで、随分と大層なご身分じゃないか。







改めてこのお犬様。
普段からは俺の携帯がいくら鳴っても鳴り続けても、
涼しい顔して無視を決め込んでいるのではあるが、
不思議なことにかみさんの携帯が鳴った途端、
飛び起きてはクンクンと鼻を鳴らし初め、
電話だよ、電話だよ、とかみさんを呼びに走る、
それを一種の仕事だと捉えている風で、
その妙な反応へのちょっとした研究心から、
であれば、俺の携帯とかみさんの携帯、
その着メロを同じにしてはどうだろうか、とやってみたのだが、
不思議なことにそれはまったくもって説明の付かないことに、
着メロは同じでも、俺の携帯と妻の携帯、
モデルも一緒、型番もその中身の設定もほとんど変わらない筈のこの二つのIPHONE、
どんな方法でかその違いを敏感に聞き分けては、
俺の携帯にはいっさい反応せず、
かみさんの携帯が鳴った時だけ、おっ!電話だよ電話だよ!

そのかみさんの携帯が、このロックダウンになってからというもの、
15分置きに鳴り続ける訳で、
その度に飛び起きては電話だ電話だ、と。
さすがにこれはちょっとそんな犬のストレス度が心配にもなってくる。
であれば、とその発信音をミュートしてはバイブレーションに切り替えたものの、
かみさんの机の上でプルプルと携帯が振動を初めた途端、
おっ!電話だ電話だ、で?どなたから?と馳せ参じはかみさんにおやつをせがむ、
その反応を永遠と繰り返す訳で。

そんな話を犬仲間たちに向けたところ、
そうそう、そうなのよ、と。
うちなんか一日中隣に座っては、
遊んで欲しいのかと思えば見るからに不機嫌な顔。
一時も離れず隣にひっつきながら、
じーっと私の動作を見張るようにして、
うつらうつらとうたた寝を初めながら、
電話が鳴った途端にはっと目を覚まして、
グルグルグル、とうなり初めて。

一口に自宅勤務とか言ったって、
実際、仕事になんかならないわよね。
ああ、かなりやり辛い。
座ってばかりで腰も痛いしさ。
なんだかんだで一日中食べてばかりでさ。
なにより眠くて眠くて。
ああ、寝てばかりで腰が痛くなって・・

服を着替えるべきなのよ、と。
一日中家に居ても、9時から5時までは仕事は仕事。
私はほら、ビデオ会議もあるし、
仕事の前にはそれなりに仕事着に着替えてお化粧もして。
見なさいよ、あんたのその顔、と。
またまたそんな無精髭生やし初めてさ。
生やしている訳じゃないよ。ただ剃ってないだけ。
その髪も一日中ボサボサのままで。
だって、うちの会社はその紳士協定から、
極力会議は電話に切り替えて、最近ではそれもチャットが主流だしさ。
ああ、髪を切りに行きたいなあ。
見てよほら、ここ、もう髪の根本がまったく違う色でさ。
テレビのニュースキャスターもみんなそうよね。
ああこの人、やっぱりブロンドは染めてたのかって、モロバレもモロバレ。
そう言えば、上半身はネクタイ締めていながら下はパンツのままだったのを・・
ああ、観た観た、それ観た、傑作よね。
あら、私だってそうよ。一日中下はパジャマのままだったり。
良くないわよね、こういう暮らし。
ああ、なんか、気持ちがさっぱりと切り替わってくれない。
私もヨガやったりとかエアロビやったりとかしてるんだけど。
それ始めるたびにこいつが邪魔をして邪魔をして。
うちなんか猫も居るからさ。
朝起きると早々にキーボードの上を占拠してて、
なにをやっても絶対に動いてくれなくて、
まったくもって仕事にもなにもなりゃしない。
ああ、それ、ティッシュの空き箱を置くと良いらしいよ。
ティッシュの空き箱?
そう、モニターの横に空き箱を置くと
猫は不思議とその中に入ってくれるらしい。
ああ、それ耳寄り情報ね。早速試してみようっと。

という訳で、この非常事態のロックダウンの日々、
それが悪戯に長引けば長引くほどに
人間様のストレスも尋常ではないのは勿論のこと、
このペットたちの心労がそろそろちょっと洒落にならなくなって来ている。






なんだか、うちの子、ちょっと元気がないのよ。
元気がない?
そう、一日中寝てばかりでさ。呼んでも起きても来ないし。
最近ではもうお散歩に出ても欠伸ばかり。
ああ、それ、寝不足だよ。
寝不足?
そう、犬って普段からは寝てばかりいるらしいしさ。
ほら、家に居ない時に犬がなにやってるかってカメラを着けたって人。
見ればいつも寝てばかりで面白くもなんともなくて、
いつのまにか観るのもやめちゃったって。
こいつら、普段は俺達が仕事で家に居ない時は
ずっと寝てばかりいるらしいしさ。
なあんだ。せっかくこのロックダウンで一日中お散歩してあげられると思ったのに。
犬の睡眠時間って一日12時間から15時間。
お散歩と食事中以外はほとんど寝ている生き物らしい。
普段からお散歩中の姿しか知らないからさ。
なんだか一日中元気無いし、どっか具合でも悪いのかと思って、
お医者に行ったほうが良いかとも思ってたんだけど。
そうか、睡眠不足なのね、なんだかなにもかもが拍子抜け。
とそんなおしゃべりの最中、犬どもはと見てみれば、
どれもこれも早々にボール遊びにも飽きては木陰の芝生の上でうつらうつら。
君たち、みんな睡眠不足なんだね。
つまりは俺達が邪魔ってことなんだよな。
邪魔してたのよね、ごめんなさいね、と欠伸をする頭を撫でながら・・

という訳で、このコロナロックダウンの晴天の霹靂の中、
懸念した通り、冬の間に患ったあのゼーゼーの呼吸困難が復活しては、
ともすれば夜更けに起き出して、ゲホゲホと咳を初めた我が犬。
5月から6月を前にして、この気温の上昇が心臓に肺に負担をかけているのか。

そして日々の仕事中、メールを追いながらチャットを続けながら、
おっやった、GJ!そんな些細な呟きを、
あっ、しまったこれ、間違えているな、
そんな細やかなな舌打ちを響かせるその度に、
ねえちょっと、と妻。
ねえ静かにして、と睨まれては、
ブーくんのお昼寝の邪魔をしないで!
この間延びした時間を永遠とやり過ごしながら、
その実、妙に張りつめた沈黙の中にあるコロナのロックダウン。
そんな妻の後ろから、欠伸を繰り返しながら見るからに重い足取りのブッチ君。
ほら、この子、私の行くところにずっと後ろからついて回って。
だって、それが仕事だと思っているんだからさ。
そうなのよ、もう一日中、ずっとべったりで。
そんな事情から我妻は、一日中を寝室のベッドの上。
枕の上にラップトップから仕事の書類からIPHONEからIPADからを広げながら、
ああもう、やりにくい、と舌打ちする度に、
ん?と飛び起きては、どうしたのどうしたの?と顔を舐め始める、
ああゴメンゴメン、また起こしちゃったね、と

改めてこの犬という生物。
このあまりにも純真過ぎる感情探知器、
このあまりにも感度の良すぎる読心機。
万引探知機どころか嘘発見器どころか、
この犬という存在を前にして、
飼い主の、そして人々の、その微妙な微妙な感情の動きの、
そのすべて筒抜けの丸見え。

今更ながらこの犬という生き物の持つその摩訶不思議な能力、
ガン探知から、そして近年のこのコロナ探知犬の実用化から、
人間のその行動の、体調の、その心の全てを聞き取る嗅ぎ取る感じ取る、
それはまさに超能力というぐらいなまでの特殊能力のてんこ盛り。

テクノロジーの進歩なんてものに狂騒を続けるよりも、
街中にセキュリティカメラを設置しては、
四六時中に渡って人々の動向をモニターする、
そんなことなどしなくても、
人類はこの犬という動物との共存の可能性、
その対話能力に熟達すればするほどに、
森羅万象の情報のそのほとんどを把握できる、
そんな可能性さえ秘めている、というのに。

そう言えば、と嘗ての旅の間、
原始生活と変わりない暮らしを続ける素朴な村々を尋ねる度に、
その暮らしに密着しては完全なる共存を遂げていたこの犬という不思議な生物。
赤ん坊のお守りから、子供の遊び相手からその見張りから、
夫婦喧嘩の仲裁から、家畜の世話から、天気の移り変わりに至るまで。
そしてなにより昼夜を問わず村の警護を怠らないその危険察知の能力。
半径数キロに渡る世界の動きのその全てを把握するこの聴力嗅覚そしてその第六感。
人類の進化の歴史とはまさにこの犬と言う生物との一心同体の共同生活、
その特殊能力を最大限に活用することによって初めて成り立っていたのだ、と。

そして改めてこのロックダウンの非常事態。
車の交通量が激減し、人影が消え失せた沈黙の底、
表面上は、いつになく平静が保たれている、その奇妙な静寂の中にあって、
しかし犬たちは気がついているのである。
これはなにかがおかしい。
これはなにか尋常ではないことが起こっているに違いない。
犬たちは人間を遥かに勝るその嗅覚で聴覚でそしてその第六感で、
そこにある不穏な空気の本質、
如いてはその未来さえをも確かに予感しているのである。

もしかしたらこのコロナの軟禁状態は、
この幼気な犬たちの儚い寿命さえもを
一挙に燃焼しつくしてしまおうとでも言うのだろうか。

そして今夜も夜更けになって始まるゼーゼーハーハーのその苦しげな吐息。

なあ、大丈夫か?
そろそろまた、獣医さんに診てもらった方が良いのかも。
でも、このコロナのロックダウンの最中、
医者たちにしたって緊急対応が主で、
飼い主たちは診察室どころか、その玄関からだって一歩も入れやしないいだぜ。
散歩の途中でさえ避けて通ろうとするあの動物病院のドア。
あそこからひとりで連行されては見も知らぬ医者たちに囲まれて身体中を弄くり回されて・・
無理だろうな。
そう、無理だと思うの。
暴れ出すだろうな。
暴れ出してそしてひとりで帰ってきちゃうと思うの。
くそったれ、このコロナのクソ野郎。
いったいいつになったら、ついこの間までのなにげない日常が帰ってきてくれるのだろうか。

なんだか、このコロナの騒動が始まってからたった二ヶ月ばかりの間に、
犬もそして人間も、すっかりと老いぼれてしまったような気もするな。

俄な焦燥に包まれたロックダウンの沈黙の底、
平穏を保って見せているのは実はその表層ばかりで、
こうするいまも、その儚い生命のカウントダウン、
早く遅く、しかしそれは確実に着実に、
その時を刻々と刻み続けているのである。







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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり
実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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