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キングという名のジャックラッセル

Posted by 高見鈴虫 on 24.2012 犬の事情
ドッグランについたとたん、超猛犬サリーがまたやった。

今度はジャックラッセルである。
ジェニーの投げたボールに飛びついたサリーが、
ボールを銜えたとたんにじゃれ付いてきた白いジャックラッセル。
そのとたん、
いきなりうなり声を上げたサリーが、ジャックラッセルを弾き飛ばして大突進。
まさに死にもの狂いのジャックラッセル、
悲鳴を上げながらベンチの下からベンチの下への逃げ回る逃げ回る。

思わずトムとジェリーを思い出して爆笑してしまった訳だが。

という訳で、サリーを呼び寄せて、おいおい、どうしたよ、と気を落ち着かせながら、
やれやれ、サリー、
お前にとってはあんなジャックラッセル、まるで子ウサギか、あるいはそれ以下である筈。

なぜサリーがそんな子ウサギを相手に激昂したのか、
リスやねずみと間違えたのか?

やっぱりサリーはちょっと・・・
という思いがちらほらと漂っていた矢先、

いきなりドッグランの隅から甲高い悲鳴。
慌てて駆け寄ると、目の前に信じられない風景。
優等生であるはずのブッチが、
仰向けに転がしたジャックラッセルを両手で押さえつけ、
首から喉にがっちりと牙を食い込ませたまま、
完全なる羽交い絞め体勢。
これでジャックラッセルがちょっとでも刃向かおうものなら、
ブルブルと左右に振ってあの世行き、という奴か。

思わず全身総毛立ち。

馬鹿やろう、ブッチ!やめろ、てめえ!!

いやはやブッチ、最近は優等生面が板について来て、
過去の悪行千万の数々をすっかりと忘れていたが、
そういえばこいつもつい1年ほど前までは札付きの大猛犬であったのだった。

やめ!おすわり!の大雷りにこれ以上なく身をちぢこめたブッチ。
すてい、そのまま。動くな、と封印。

で、ベンチの下に逃げ込んだジャックラッセル。
いまだに震えながら悲鳴を上げ続けている。

とりあえずは抱き上げ、全身をまさぐって怪我の有無をチェックするが、
まあ問題はなさげ。
まあブッチもいい年だし、いくらなんでもこんな子犬を相手に本気には噛まないだろう、
とは思いながら、
それもそうだが、自分の犬がこんな状態であるのに、
飼い主はどこに行ってしまったのか、
とあたりを見回してみたがそれらしき人影も見えず。

謹慎のお座りから解かれたブッチ、いつものように擦り寄ってきて、
ごめんなさいごめんなさいと顔を嘗め回し始めたのだが、
あれ、とふと拭った手に血がついている。

お前、噛まれたのか?
こいつに?

とふと見るジャックラッセル。
さっきまでの大騒ぎはどこへやら。
いつの間にか掠め取ったブッチのボールを、
両手に抱え込んで夢中で噛みしだいている。

まあ大事にならなくて良かったじゃないか、
ほら、一緒にボールをやろう、
と、手を伸ばしたとたん、いきなりがぶり噛み付いてきた。

うひゃ、と反射的に手を引っ込めるがジャックラッセルは離さない。
幸い、ボールの涎拭きのために軍手をしていからいいようなものの、
それをいいことにジャックラッセル、
俺の指に噛み付いたままぶら下がり、それはまるですっぽんの様。

なんだこいつは!
と慌てる俺を、ちとーっと見つめるブッチ。

おい、お前、飼い主がやられてるってのに、なんで助けないんだよ。

だって・・・また怒るでしょ?・・・ というブッチの困惑が聞こえてきそうで。

という訳で思わず振り落としたのはいいのだが、
振り落とされたとたん、いきなりまた飛びついて来て今度は手のひらをがぶり。
これはちょっとまじめに激痛。
思わずてめえ、と叩き落として、たとたん、再びがぶり。

こいつ・・いったい何者だ。まるでヨーヨーではないか。

という訳で、ドッグラン中を見回して、木陰のベンチのその裏に、まるで身を隠すように座ってあ手元のiPHONEを覗き込んでいるおばはん。

あの・・・この犬、あなたの?
と手にぶら下がったジャックラッセルをそのままぶらぶらと目の前にかざしてみた。
とその飼い主、はいそうです、とにこりと笑う。
この犬、俺のこと噛んでいるですが。
ああ、まだ子犬なもので。
離して貰えませんか?
はあ、それがどうも・・と笑うばかり。
痛いんですが・・
はあ、じゃあ、と手を伸ばすが、恐る恐ると撫でるばかりで、はっきり言って事態がまったく飲み込めてない。
で、思わず、無理やり引き剥がして、ほら、血が出てる、と飼い主に手を指し示してみたが、
こともあろうにジャックラッセル、その手にいきなり飛びついて、思い切りがぶり。
これはもう、激痛に近く、思わず叫び声を上げて、ぶら下がったジャックラッセルを飼い主めがけて投げつけてしまった。

何をするんですか。
何をするって、あんたの犬が俺を噛んでるのあんただってみてるだろ。
まだ子犬なんですよ、
子犬でもなんでも、犬が人を噛んだらその時点でアウトだよ。
あなたの犬だってうちの犬を噛んだじゃないですか。
あんたの犬が噛んだからやり返されただけだろ。

とやってきたサリーの飼い主のジェニー。

あんた、このあいだも言ったよね。結局、誰にだってそうなんじゃないか。
それはあなたのその猛犬がうちの子を噛んだからでしょ?
うちのサリーが噛んだのあなたのその子犬がうちのサリーを噛んだからでしょ。今日だって同じ。他でも同じことやってるんでしょ?
あら、あんたらの犬みたいに凶暴な猛犬、どこにもいないわよ。

とまあ堂々巡り。

で、この手、と血の垂れる右手をかざして、どうしてくれるつもりなんですか?
ふん、お金でも請求しようっていうの?たかが子犬じゃない。馬鹿馬鹿しい、といきなりスタスタと出口に向けて歩きはじめる。
ねえ、あんた、逃げようっていうの?というジェニーの罵声に肩越しに中指を突き立ててファックマーク。
と、ところが、ドッグランを出たが良いが肝心のジャックラッセルが着いてこない。
キング、おいで、キング、おいで、キング、おいで。名前の連呼にまったくなんの反応も示さず。

あんた大丈夫?ちょっと傷見せてごらん。
いや、こんなのは大丈夫だけど、狂犬病大丈夫かな。実はブッチも噛まれていた。
とその頃にはブッチもサリーも駆け寄ってきて垂れた血を舐めようと身を乗り出してきてる。
やれやれ、ブッチも大丈夫か?

という訳で傷口を水道で洗ってボール投げを再開した訳だが、
さあブッチ、行くぞ、と振りかぶったとたん、いきなりガブリ。こんどは手首。
あのなあ、と。
思わず猫のように首筋をつかみ上げたまま、そのまま地面に叩きつけそうになった。

ドッグランの入り口から、いまだにキング、おいで、キング、おいで、と繰り返す飼い主。
このジャックラッセルはとりあえず、あの飼い主もちょっと頭が足りないんじゃないのか?

というわけで、そのまま首筋でぶら下げたままのジャックラッセル。

キング、おいで、キング、おいで、キング、おいで、
とオウムのように繰り返す飼い主の目の前にぶら下げて、
悪いがもうこないでくれ、と言った。
この犬の命の保障はないと思うよ。少なくとも今日と同じことをこいつらにやったら、
もう彼らも手加減はしないと思う。

と言っている傍から、ああ、キング、かわいそうにかわいそうに、と頬擦りを繰り返す飼い主。

へん、ばーか、としたり顔のジャックラッセル。

ボクはキングだぞ、なにをしたって許されるんだ。

やれやれ・・そういうことか。

甘やかすだけ甘やかされて育った馬鹿犬キング。

多分、家では部屋中のどこででもウンチおしっこし放題。部屋中を散らかしまくり飼い主に噛み付き、
ねだればいつでもおやつが貰える、という、まさに馬鹿殿然の暮らしをしているのだろう。

あんな犬を育ててしまって、あの飼い主はいったいどうするつもりだろう。
たぶんあのまま、気の向くままに甘やかし続け、
で、手がつけられなくなった時点で、はい、とシェルターに放りこんで、
で、また新しい子犬を買うのだろう。
あるいは、そうやって育てられて、そして棄てられた犬をあの飼い主がアダプトしたのだろうか。

いずれにしろ、あのジャックラッセル、この先どう転んでもろくなことにならなそうだな、
と思えば思うほど、ちょっと鬱々とした気分にもなってしまった。

で、そうそう、俺ははたしてどうすれば良かったのだろう。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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