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身体に馴染むリズム

Posted by 高見鈴虫 on 12.2012 音楽ねた
なぜニューヨークに来たのですか?
と聞かれるたびに、
それは、つまり、なぜ日本を出ることになったのか、
ということが知りたいのだな、と思う。

で、なぜ日本を出たのか、と云えば、
と言いかけていつも口をつぐむ。

で、その時々で調子をあわせ、
借金鳥に追われて、やら、ドラッグがやめられずに、
あるいは、一度知った黒い肌が忘れられず、
なんて言葉でごまかしていることが多いのだが、

ぶっちゃけ、
俺が日本を出た理由は、
「日本とはリズムが合わなかったから」
と言ってしまってもよいのではないか、と思っている。

人にはやはり、生まれ持ってのリズム、
というものがあるような気がする。

それは楽器を奏でる、のは言うに及ばず、
話すテンポから、歩調から、あれの時の腰の振り方まで、
人はやはり、生まれ持ってのテンポという奴がある。

で、そう、俺に限って云えば、
どういう訳だか、物心ついた時から、
リズムを裏で取っていた記憶がある。

それはドラムという楽器を知るずっとずっと以前から、
とりあえず、音が鳴っていれば踊る、騒ぐ、を常習としていたらしい頃から、
あれまあ、この子はリズム感がいいね、とほめられていた記憶があるのは、
ひとえに、リズムの裏を取っていたことに理由があるのでは、と思っている。

という訳で、俺はリズムを裏で取っていた。
裏で取って気持ちのよい音楽を愛してきた。

生まれ育ったのがもともと米軍キャンプの近くであった頃から、
物心ついた頃から、テレビから流れる日本歌謡、歌謡曲やら演歌やら、
よりも、
ラジオから流れる洋楽に触れる機会が多く、
そのころの記憶をたどると、俺は日本の歌を聴いていた覚えがない。

そんなところもリズムが裏に入ってしまう理由かと云えば言えないこともないが、
日本の歌謡曲が、あるいは、モーツアルトやブラームスが子守唄であった子供たちに比べ、
スティービー・ワンダーやらローリング・ストーンズやらが子守唄であった俺は、
やはりどこか相容れることのできない溝が存在していたような気がする。

という訳で、実のところ、小学校時代はいざしらず、
中学高校と上がるごとに、音楽がますます仲間の間にも浸透するにつれて、
周りとの溝の深さをますます実感するようになっていったものだ。

まずテレビの音がダメだった。
あの鶏小屋をつついたようなガチャガチャとした休むことのないけたたましい騒音の渦がどうしてもダメだった。
それに加えて、日本の歌謡曲がダメだった。
あの甲高い声と、先走ってばかりで前のめりのリズムがどうしても耳障りでならなかった。
それは好き嫌いを通りこして、不快、あるいは、もっと直接的に頭痛や吐き気、と伴うようになった。
そして、日本人の声が嫌いだった。
女どものあの耳障りなキンキン声が、男達のあの湿ってこもったゴモゴモとした話かたが、
なによりも耳障りで深いで、思わず苛立ってその口元にパンチを入れたくなる衝動を抑えるのに苦労していた。

という訳で、ヘッドフォンステレオが手に入ってからは、ほとんど24時間、寝ている時も音楽を聞いていた訳だが、
それは音楽が聞きたいからではなく、外からの音を遮断したかったから、という理由にもなっていた。

という訳で、ここニューヨークに辿り着き、俺は心のそこからほっとしたものだ。

ほとんどすべての人々が毛嫌いするこのニューヨークという街の騒音が、
俺にとってはまさに子守唄、と言えるぐらいに波長が合う。

この街に流れているすべての音楽が、実にすんなりと身体に馴染み、
そしてそんなリズムを共有する人びとに思わず手放しの親近感を感じてしまう。

ジャズが好きだ。サルサが好きだ。ハウスもヒップホップも好きだ。
この街で流れているビートが好きだ。この街に溶け込んだビートが好きだ。

という訳で、俺にとってニューヨークはなによりも、
この街の音が身体に馴染むから、という、それ以上でもそれ以外でもない理由だなのだ。

そして、日本に帰る気がない、そんな気持ちになれないのも、
実はそういう理由だ。

俺が帰っている間、すべてのテレビとすべての街頭スピーカーとすべての喋り声を消してくれる、
というならまあ考えてもいいが。

人にはそれぞれ、向き不向きがあるように、
身体に馴染むリズムというものがあるのだ。

だから、放っておいてくれ、と心底思っている。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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