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DESCRIBE YOURSELF 

Posted by 高見鈴虫 on 14.2012 とかいぐらし
午後、ひょんなことから面接の場に居合わせた。

LAとの間で電話会議を繋ぎ、向こうとこちらで面接をするのだが、
俺はそのIT部門からの立ち会い、という形。つまり、黒子。

マイクをセットし終わったところで、
緊張した面持ちでやってきたキャンディデイト。
若い白人のいかにも大学を出たて、という感じ。
紺色のリクルートスーツがまるでボール紙を着ているように似合っていない。
が、いかにも、ついさっきまでテニスコートでボールを打ってました、
というような、無邪気な笑顔。
テレビを前に、ムースで固めた髪を尚更に撫で付けながら、
高揚した頬ばかりが真っ赤に膨れ上がっているようだ。

テレビの向こうに並んだ面接官、
そんな本人の緊張ぶりとは対照的に、
まさに面接に慣れきったふてぶてしさで一杯。
組んだ足の先をゆらゆらさせながら、
ちょっと意地悪そうな銀縁のメガネの縁を光らせては、
そんな絵に書いたような好青年を前に、
ふん、と鼻の先で皮肉に笑ってみせる。
見るからにいかにも人事部、と言った感じ。

では、始めましょうか、
との声に、ハイ、と元気の良い声。

HOW ARE YOU?
YES SIR,IM GREAT SIR

と、はつらつとした笑顔。
と、さすがアメリカ人、プレゼンやら面接やらお手の物、というやつか、と思いきや。

では、まず最初の質問です。

DESCRIBE YOURSELF あなた自身について説明してください。

ん?


としばしの沈黙。
説明?俺を・・?俺ってなにってこと?・・・
思わず絶句したキャンディデイト。
そのまま・・沈黙・・長い、長い、沈黙。

どうしました?と面接官。
いや、あの、それは、つまり、と再び絶句。
ふと見ると顔中に滝のような汗。
握りしめた拳がブルブルと震え、膝がかくかくとなり始めている。

やれやれ、と俺。
そういう俺も、実はこの間、そんな面接を受けたばかり。

実は面接の前の晩、ドッグランでリハーサル。

公園のベンチで、右にサリー、左にブッチを座らせたジェニーさん、
まさに意地の悪い面接官になりきっている。

では最初の質問。
DESCRIBE YOUSELF。さあどうぞ。

は?なんだって?

だから、あなた自身について説明してください。

は?なんだそれ。
俺ってなにって?ははは、そんなこと知るかよって答えるよ。
聴いてるあんたはあなた自身がわかってるのかって。
判るわけがないだろ。そんなものわかっている奴がいるわけがない。
神様にでも聞いてみたらいい。

ぶー!といかにも嬉しそうに笑うジェニー。
はい、さようなら。ご苦労様でした。

どういう意味?

だからね、と、種明かし。

実はこの質問、面接では常套文句。

あなた自身について説明しなさい、
はい、私の名前はなになに、
で、
通常であれば、
なんとか大学を卒業し、どんな方面で仕事を探しています、
やら、どんな職種でどんな経験のあるなんたらで、
という職業上の説明、がなされるべきところ、
つまりは、レジメで言う、OBJECTIVE、
あなた自身のキャッチフレーズが述べられるべき。

それがいざ実際に、なんの準備もないままに、
いきなりあなた自身について説明しなさい、といきなり言われると、
ついつい、俺ってなんだろう?なんて変な風に考え込んでしまった挙句、
実は。。なんて、誰にも言っていない、俺自身の俺自身の事を言うべきか、
なんて感じに、おかしな懺悔を初めてしまったり、
あるいはそう、
そんなこと判る訳ないじゃないか、なんていう、まっとう過ぎる答えを返してしまうって訳。

つまりこの質問、公的自分と私的自分を分けられているか、
という、実にトリッキーな質問。
つまり、キャンディデイトが、面接そのもの、
少なくともそれに対して、ほんのちょっとぐらいは準備して来ているか、
という、
言ってみればまあ、アメリカの面接では常套文句ってところ。

つまり、まずはちょっと決まり文句でウォーミングアップして、
と、まあそんな感じの質問なのよ。

という訳で、

最初の質問で躓いたキャンディデイト。
そっかあ、こいつ、いい奴そうだけど、いかにもバカそうだしな。多分なにひとつとしてなにも準備していなかったんだな、
というのがもろバレ。

問うわけで、ただただ絶句して凍り付いているキャンディデイト。
で、
面接官も意地悪に、そんな青年をそのままにしてなんの助け舟を出さない。

で、しばらくの後、まあいいでしょう。

では、次の質問、当社を志望した理由は?

え?

だから、当社を志望した理由は何ですか?こちらをどうして知りました?

あ、っと絶句したまま、再び頭がスパーク。

思わず、馬鹿野郎、しっかりしろ、と後ろ頭を叩きたくなる。
まるでダブルスのパートナーがダブルフォルトを連発しているような心境。
が、しかし、ここはテニスコートではなく、会社の会議室。

黒子としては、そこは黙って待つ、以外にはなにもできない。

しばしの沈黙。長い、長い、長すぎる。
と、ふと見ると、青年、すでに目を瞑ってしまっているではないか。

で、ちょっと俺から助け舟。

あの、なんか、さっきから回線の具合が悪いようなので、
一回繋ぎ直してもよろしいでしょうかね?

あれ、こちらからは良好ですよ。

はあ、なんかさっきから音の調子が悪くて、そちらの声が良く聞こえないんですよ。
なので、ちょっとシステム自体の再起動をしたいのですが。

そういうことでしたら、まあ、いいでしょう。
と面接官。どのくらい時間がかかります?

まあ5分程で終わるとおもいますが。

分かりました。では5分休憩。

で、いきなりテレビ会議をブッチ。

振り返って、おい、と一言。

そこの廊下で腕立て伏せ20回やってからトイレで顔を洗って来い。
その後、水を一杯飲んで、思い切り、あーっと声を出してみろ。
5分だぞ、急げ。

途端に走り出すキャンディデイト。
ちょとして便所のドアの向こうから、あーっという大声が響いてくる。

やれやれ素直な奴。アメリカ人だよな、と思わず微笑んでしまう。

という訳で帰って来た青年。

大丈夫か?

はい。

で、改めて、あのな、DESCRIBE YOUSELF ってのはさ、と。
という訳で、お前はレジメに書いてあるここからここまでをそのまま話せば良いんだよ。
あなた自身を説明しろ、
はい、名前はなんとか、仕事を探してます。なんの仕事かというと・・
違うか?

判った、と青年。その通りだな。俺はなにを考えていたんだろう。。
で?
で、そう、俺は仕事を探してる。なんの経験もないが、セールスの仕事ならできると思って。
OK。で、あんたの強みは?
はい、健康で人付き合いがよくて友達もたくさんいて、で、テニスが好きでトーナメントでも優勝して。
おお、どこのトーナメント?凄いな、普段どこでプレーしてる?

なんて話を始めた途端に、るるるる、と呼び出し音。

行くぞ、レディ?
イエッサー。
GO! GET IT!
イエッサー。

先ほどは失礼しました。ちょっと回線の具合が悪かったようで、質問が良く聞こえませんでした。
改めてお答えします、DESCRIBE Yourself とおっしゃいましたよね。

はい、私の名前は・・・

もう黒子も必要ないだろ。
という訳で、息を殺した小さく親指を一つたてて、そっとドアを閉めたのであった。





プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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