Loading…

音楽の悪魔が降りて来た夜

Posted by 高見鈴虫 on 20.2007 音楽ねた   0 comments   0 trackback
ほんと、まじで笑って欲しいいんだけどさ、
俺、こないだ悪魔と話しちゃった気がするんだよね。
いや、まじで、ほんと。

いや実はさ、
今年になってからずっとスランプでさ。
もうスタジオ入るたびに酷かったのよ。
リズムが絡まないのは良いにしてもさ、
あんまり突っかかりすぎてビートが10分も持たない。
おまけに手足がすぐ攣るしさ。
挙句に自分でも眠くなってきちゃったり、とかね。
ほんと、泣きたいぐらいに酷かったの。
でさ、ある日、雨の夜、
さすがにこんな日には11時を過ぎると誰も居なくなっちゃって、
そう、壁を通して聞こえてくる音もいつしか消えていて、
ブルックリンの倉庫街はもう表を通る車の音もしないぐらいしーんと静まり返っていて。
ああ、こんな雨じゃまた地下鉄停まって大変だな、
早く帰ったほうがいいな、なんて思いながら、
ああ、今日も駄目だったな、なんて思いながら
心の底ではほんと、スティックへし折りたくなっててさ。
で、ちょっと気分転換に昔の録音でも聴いてみようか、
なんてドラムを離れて、
ミキサーの所で壁に凭れてヘッドフォン被ってた時、
え!?って。
そう、肩越しから誰かが覗き込んだの。
でも、そう俺、壁を背にしてるから、
そんなことある訳ないじゃない。
しかもスタジオ密室だよ。
しかも嵐の晩の12時近くだよ。
あれまあ、って。またかって(笑




実は俺、昔篭っていたスタジオもその手の話で有名でさ。
だから夜は安くというか、
もうそのうち十二時以降はタダにしてもらってさ、
こりゃラッキーって毎晩通ううちに、
ほとんどそこに住んでるような状態だったんだけどさ、
うん、そう、実は、あの時も、そうだったんだよ、実は。
俺がスーパー鈍いから気が付かなかっただけど、
自称・鋭い奴、とか、もうその部屋入っただけで緊縛してたし、
お前、よく大丈夫だな、なんて、いつも言われてたんだけど、
だってほら、その人、若い女の子だって話だしさ、
俺、ほら、女の子には絶対の自信持ってたから(笑
絶対に嫌われる訳がないから大丈夫、なんて。
おめえ、出てきたが最後、一発決めてひーひー言わせてやるよ、
なんて笑ってたけどさ、
実はねえ、ここだけの話、居たんだよねえ。その人。
まあ目には見えないけどさ、俺、思い切り鈍いから。
でも居た。
そう、管理人のおっさんが帰って、
朝まで居てもいいけど帰る時は戸締り忘れるなよ、なんて話した後にね、
誰もいなくなったスタジオで、やっぱりね、
そう、やっぱり居たわけよ。
っていうか、いつもいるんだけど、
静かになってようやく存在が浮かび上がるみたいな感じだったけどさ。
そう、気のせいとも思ってたし、
ねえ、なんか変な匂いしない?いや別に?そうかなあ、なんて、
そんな感じなんだけど、でもやっぱり、確実に匂う。人の気配が。
そう、よく床に寝転がってたりね、
あ、いまはドアのところにいるな、とか。
或いは、ほらドラム叩いてると割とハイになる、というか、
割と頭からんからんになってる時とかあるじゃない、
その時、割とね、なんていうのかな、思わず同化してたりしてさ。
そう、で、なんか頭の中で会話してたり、とかさえしてたの。
上手ねえ、まかしといて、とか。今のどう? いいんじゃない?とか。
だから俺、判ってた。嫌われてはいないみたいって。
つまり害にはならないんだから放っておいてもいいみたいって。
と言うわけで、
そう、こないだのスタジオ。
なんかいきなり肩越しに覗き込まれた時、
ぞっとするってより、なんか、うわ、久しぶりだなって思っちっち。
でね、あれ、もしかしてあの子、ずっと俺に憑りついてたのかな、
うわあ、ならニューヨークまで来れてよかったね、
なんて思ったんだけど、
うん、今回は別なひと。
男、多分。
で、そいつ、明らかに俺を舐めている感じ。
でも、やっぱり嫌な感じじゃない。
そう、なんか、ああ、あんたもやってたのか、って、そんな感じ。
でね、もうその時、あんまり疲れてたんで、
悪い、俺、もう帰るぜ、とおもてったんだけど、
まあ、いいからいいから、って、促されてる気がしてさ、
だって録音、メモリー杯だぜ、って思ってるんだけど、
まあいいから、録音なんかいいからさ、って。
で、放りだしたスティックもう一度拾って、
外しかけてたフットペダルもう一度セットして、
で、叩き始めたのよ。
またいつものルンバのリズム。
右でシンバルでレガート叩きながら、
ハイハット裏で踏んで、
バスドラでシンコペ打ちながら、
スネアとリムショでサルサのリズム、
うーん、なんかやっぱり決まらない、
そう、スネアのシャドウが絡んで来ない・・
どうしたんだろう、と。
したら、そう、その時、
あれ?って。そう、なんかまるでとちったところがいきなりいい音がした、
みたいな感じで、
あれ、バスドラ抜いてみようか、って思いついたの。
で、あれ、来てる(笑
で、間違って叩いたシンバルのカップが、
4分のONでチーン・チーン、って。
おおおお、これ、来てる・・
そう、このリズムで初めて裏のハイハットが決まり初めて、
したらさ、おおお、なんてことだ、スネアのシャドウ、
ほんと、なにを入れてもバシバシに決まるの。
ああ、そうか、って。ONの音だったんだねって。
回ったぞ、回った回った、って思ってたら、
おおお、踊ってる。
そう、さっきまでそこで俺の肩越しに覗き込んでた奴、
いきなり踊ってる。踊れるほど場所も無いのにさ、
そうか幽霊だからぶつかっても痛くないのか、って。
そう踊り回ってる。俺のリズムも踊り回ってる。
伸びてる伸びてるって、ああ神様降りて来たって。
ほんと久しぶり、ほんと、このポケットな感覚、久しぶりだった。
したらね、いきなり、もっと?って聴かれたんだよ。
俺、もちろん、って答えてたら、
いきなり、そう、まるで夢のようなおかず、
まあでも、俺のできるおかずだからさ、全然たかが知れてる筈なのに、
そう、いつもと同じことやってるのに全然違うの、
決まり方が、流れが、もう惚れ惚れしちゃって、唸り声上げちゃったよ。
すっげーって。
俺もう無我夢中。もうほとんどずっとソロ、ソロ取りながら全然リズムがずれない。
もうビートに嵌りきったまま夢のようにフレーズが出てくる。
これ凄い、凄すぎっていいうか、俺じゃないよ、これって。
だんだん怖くなってきて、で、いきなりスカっとやめたの。
やめてからもずっとリズムが鳴ってる。鳴り響いてる。
ああ、あの、全ての雑音を包み込んでしまう音ってこのことだったんだなって。
これがグレート・ポケットって奴だったのかって。
思わずぞぞぞぞって寒気がしてさ。もちろん感動して。
で、気が付いたら2時過ぎ。
ひええ、2時間近く叩いてたのに全然気が付かなかった。
で、あれ足が上がらない、でちょっと動かしてみたら、
いきなり両足、脹脛と内股がピキーンって強張ってるの。
あれ、俺の足、攣ってる。攣ってるのに全然痛くない。
ためしにちょっと叩いてみたら、いきなりまたリズムにもどっちゃう。
これさ、さすがに怖くなった。なんかおれ、どうにかしちゃったのかなって。
したらね、なんかふっと、昔聞いた話を思い出した。
マークボランの話。悪魔との契約の話。
三十までにスーパースターにしてやるから、三十歳になったら命をくれって。
で、マークボラン、それまで三本指でしかコードを押さえられないから、
ティラノザウルスってバカにされていた男が、
いきなりその3本指で、夢のように格好いいリフを次から次へと発表し始めて、
一瞬のうちに押しも押されもしないスーパースター。
発表する曲全てがNO1!本物の怪獣、その名もT-REX。
そのマークボラン、栄光の絶頂にありながら突然に気が狂いはじめて、
日々ドラッグに沈殿しながら悪魔に殺されるってうわごとばかり。
そんなこんなで、三十歳の誕生日の直後に車の事故でお陀仏。
契約履行、と。嘘のような本当の話。
と言うわけで、おいおい、俺もう三十過ぎちゃってるんですけどって。
でもね、あれまあ、なにを間違えたか、神様、じゃないその逆、
音楽の悪魔さま、降りてきちゃったみたいなの。
で、考えた。
うーん、って。
ドラムのスーパースター、なりたい?って。
うーん、って。
今更なんですけどって。
まあ確かに、ドラムが上手くなるのは嬉しいけどさ、
でもね、って。
なんか命を賭してまでやることかなって。
歳を取ったから、いや、俺、十代の時でも多分そう答えてたかなって。
そう、つまり俺がスーパースターになれなかった理由、たぶんそれ。
でもいいかなって。
スターになれなくても、天才になれなくても、
やっぱり奥さん好きだし、テニスもやりたいし、友達も大事だし、って。
そう、いつもは文句ばかり言ってる癖にね、
いざとなったら、俺、十分幸せだからいいです、なんてね。
そう、悪魔も笑ってた。好きにしなって。
また来いよ、って。また踊らせてやるからって。
今度は本当の俺のビートでって。





  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://shumatsuwotohnisugit.blog.fc2.com/tb.php/64-1f5e2aa8

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム