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「メキシコ人アパート」  テキサスダイアリーより

Posted by 高見鈴虫 on 29.2006 旅の言葉   0 comments   0 trackback
「メキシコ人アパート」
 友人の一人に、メキシコ人アパートの住人がいる。
 メキシコ人アパートと言うのが具体的に何かと言うと、低所得者の中でも、もうほとんどギリギリと言う人達の為の、半ばシェルターに近いアパートの事である。
 ちなみに友人は、家族併せて12人でワンベッドルームに住んでいる。俺が泊まる日には13人になるのだが、縁起が悪いという事でか、その時には誰かが他に泊まりに行く。
 リビングと寝室、それぞれ一部屋6人づつ。ドアを開けるとリビングにまず3つの二段ベッドが並び、そこが子供部屋となる。奥の寝室は夜に便所に行く時に通っただけだが、そこに二夫婦と二人の赤ん坊が寝ている。
 キッチンのスツールに置かれたテレビと、食事用の傾いたテーブル以外、机も本棚もソファさえも無いのだが、そこは考えたもので、身体をずらせばどこのベッドからもとりあえずテレビだけは見れるようになっている。
 一応、今年12歳になった友人の妹のクラウディアと、親戚夫婦の連れ子の今年16歳になるパトリシアが、二段ベッドの上を使っていて、申し訳程度にカーテンで四方を囲っている。
 ちなみに親戚夫婦の連れ子であるパトリシアは俺のファンだ。夜、いい加減酔っぱらって寝ていると、上のベッドのカーテンの隙間からブラジャの紐などを垂らしては、釣りを仕掛けてきたりする。
 そんな時、部屋の全員が俺を見ている。
 陽気なメキシコの子供達は、枕に頬杖をつきながら、そんな俺ににやにやとウインクしたりする。

 このメキシコ人アパートで素晴らしい事はと言えば、草が半ば公然だと言う事だ。
 この友人の家庭に置いても、11歳と7歳の小僧どもを除いて、住人のほとんどは大抵の時間、酔っぱらっているか、さもなくばラリっている。
 日中はアパートのほとんどの階段が住人達で鈴なりになり、のべつまくなしビールを飲んではおしゃべりをして過ごしている。
 俺はよく、そのアパートの階段にガッドギターを持って出かけては、ポットを回しながら、友人とそのご近所さん達の歌に合わせてギターを弾く。
 このアパートの住人は実に陽気だ。
 まあ働かなくても、毎月毎月の生活保護でどうにかなってしまうからなのだろうが、とりあえずの所、俺のギターを見れば、入れ墨だらけのにいちゃんから、下着姿の叔母さんから、車椅子の爺さんまで、誰の彼のと集まっては、何のてらいもなく一斉に声を張り上げて歌う。
 住人達の歌の上手さはまったくピンキリで、オペラ歌手の様に胸を張って喉を震わすものから、最初から最後までまるっきり別の音階で歌い通す者から種々様々だが、取りあえず全員が思いきり歌う事だけは確かだ。
 一曲終わる毎にそこいら中で乾杯の嵐が繰り返され、火のついたジョイントがホイと差し出される。
 夏の夜など、月明かりの中、時には二時過ぎまでギターを弾いている時がある。何人かには簡単な曲を憶えさせてあるから、指が疲れた時には、気軽にギターを隣に譲って、俺はポットを吸いながら、隣に座ったねえちゃんと軽くキスをしたり、受けを狙ってランダバなどを踊って楽しむ。
 別に俺はそれ程ギターが上手いわけではない。
 明星の付録でローコードをいくつか憶えた程度だ。
 それでも俺は取りあえず、このアパートではギターの先生として重宝されている。
 と言うわけで、俺はこのメキシコ人アパートにちょくちょくお邪魔する。ギターの先生はいつも、おみやげに袋一杯のポットを貰えるからだ。

 俺がこのアパートで気に入っている事がもう一つある。
 安全なのだ。
 ほとんどの家々が一日中ドアも窓も開けっ放しで暮らしていることでもそれが判る。
 夜でさえ、そこかしこのドアが開いている。
 中にはドアのノブから電柱まで、洗濯用のロープを渡してきつく縛り付けてある所さえある。
 ここまで貧乏なのだから、誰もガンなど持っていないし、ビールばかり飲んでいたとしても、ビール以上にきつい酒は手に入らないから、アル中もそれほどひどくはならず、同じ理由でポット以上に凄いドラッグも手に入らない。
 ガンとPCPさえ無ければ、貧民街と言ってもそれほど恐れる理由などない。
 しかしながら災難なのは年頃の女の子達で、時として着替えも寝乱れ姿も何もかもが外から丸見えと言う状態なのだが、住人の全てが互いに知り合いである以上、下手に手を出すとそのまま結婚か、あるいは村八分のつまはじきになってしまう為、予想した程レイプ事件も少ないようだ。
 そんな訳で、ここでは何もかもがあからさまだ。
 ギターを弾きながら歌っている間にも、そこかしこの窓から、あからさまなよがり声がオーラーオーラーと洩れて来る。
 まるで近所の人々に、その心地よさを誇っている様な向きさえある。
 さっきまでそこで濁声を張り上げて歌っていたテンガロンハットのおっさんが、自宅の窓から奥さんに呼ばれて退場すると、途端に灯の消えた部屋の奥から、オーラーオーラーの声が響き出すと言った具合だ。
 正直言って、その声が凄ければ凄いほど、あのおっさんやるなあ、などと思ってしまう。
 しばらくして、おっさんは再び登場する。
 俺達は目配せしあって、それとなくおっさんの肩先を小突いたりする。
 そしてその後ろから、風呂上がりの奥さんがおごそかに下りて来る。
 シャワーに濡れた髪の先から、水滴などを垂らしながら、バスタオル一枚を胸に巻いて、サンダル一丁で階段の途中に腰を下ろす。
 休み無く子供を生み続けて、今や樽の様に太った奥さんは、しかし汗の滲んだ肌から噎せる様に石鹸の匂いを立ち昇らせ、その力の抜けきったトロンとした表情はまるで菩薩の様にも見える。
 そんな奥さんは実に幸せそうだ。
 幸せそうだと言うよりも、幸せの極致と言う風にも見える。
 シャワーを浴びずにそのまま出てきたおっさんは、やはりちょっと匂う。
 たまにそれと無く指先の匂いなどを嗅いでいて、そう言う動作をめざとく見つける俺と目があっては、照れて肩をつぼめて見せたりして、実に可愛い。
 そんな時、しかし必ず、ふと、顔を上げるとパトリシアがいる。
 パトリシアはいつも俺を見ている。俺のほんの些細な仕草さえ決して見逃したりはしない。
 俺と目が合う度に、それとなくTシャツの胸元をずらしたり、膝の間を少しづつ広げていったりして、なんとも艶かしい。
 16歳のパトリシアは、しかし実に美しい。
 長い黒髪を横に流し、顔はちょっとグロリア・エステファンに似てない事もない。
 ノーブラでもおっぱいの先がツンと上を向き、肩手で抱いても剰るぐらいに細い腰をしている。もちろん尻は凄い。尻だけはまるで風船の様だが、しかしその下に伸びる足はまるでカモ鹿。足首など今にも折れそうだ。
 シャワーの後など、下着姿のパトリシアをよく見かけるが、ちょっと大きめのお尻の下、深く食い込んだ赤いパンティの端から、柔らかそうな栗色の陰毛がちょっとはみ出てたりしていて、頭がクラクラする。
 彼女は呆然と見つめる俺の前に立ちはだかり、お臍を目一杯に見せつけながら、よっこらしょと二階のベッドによじ登ったりする。
 きつい体臭を含んだ空気が、あとからむっと追いかけてくる。
 香水と若い脂肪と石鹸と髪の油と汗とバニラアイスクリームと尻の穴の匂いが一色たになった、実に刺激的な匂いだ。
 パトリシアは体臭がきつい。
 しかし俺はこの匂いが嫌いではない。
 たまに何の前触れもなく、この匂いがふっと鼻をかすめたりする。
 俺はもうそれだけで、所構わず勃起してしまったりもする。
 オナニーの時には必ず一度は脳裏に登場する。たまに夢に見たりもする。
 俺ははっきり言ってパトリシアに夢中だ。
 やってしまったら、もう逃げられないだろう。
 それは友人からも言われている。
 ご両親は俺との結婚に賛成だそうだ。
 ここに住む限り、生活に問題は無いだろう。まだクローゼットが空いているからだ。
 子供でもできれば生活保護の金額も増える。
 俺は朝からビールを飲んで、日がな一日ポットを回しては、下手なギターをかき鳴らして毎日を過ごす。
 窓から手を振られる度に、いやはや参ったな、などと照れ笑いを浮かべながら階段を登り、奥の部屋であのはちきれそうな肉体を無茶苦茶に楽しんた後、再びギターを抱えた俺の前に、濡れた髪を束ねたパトリシアが、あの刺激的な体臭をむんむんとかぐわせながら登場する。
 俺達は並んだ男達の、今にも切れて弾け飛びそうな嫉妬と羨望の眼差しの中で、舌を絡めてはビールを煽る。
 こう考えるたびに、それはそれほど悪いもんでもないのじゃないかと、ちょっと真剣に考え込んでしまう。
なに、大丈夫。
 パトリシアが太り始めた時には、そのままふっと姿をくらまして、日本なりどこなりにとんづらしてしまえばいいのだ。
 友人一家がその事実を、面倒な書類にいちいち書き込んで、わざわざ遠く離れた役所に持って行かない限り、俺の分の生活費さえ、そのまま猫ババし続ける事ができる。
 そう言う今も、パトリシアのブラジャー紐が目の前にするすると降りてくる。強く引っ張ると、薄く開いたカーテンの間から、赤いペニキュアを光らせた足がダランぶら下がる。弓の様に反り返った指が、おいでおいでと蠢いている。
 この折れそうな足首をそっと掴むだけで、夢の暮らしがすぐにでも転がり込んでくるのだ。
 メキシコ人アパートの暮らしも、それほど悪い物でもないような気もする。

「メキシコ人アパート」終わり


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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