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テキサス 強気でやる男

Posted by 高見鈴虫 on 30.2006 旅の言葉   0 comments   0 trackback
  「テキサス・強気でやる男」

 俺はわりと強気でやっているほうだ。
 強気でやっていると言うのが具体的にどういう事かと言うと、やられたらいつでもぶっ飛ばしてやるぜ、という気概をもって生きていると言う事だ。
 俺はこの街に来て三年になるが、恐るべき強運と言うべきか、まだやられた事がない。
 この街のことはもうほとんど知っているが、はっきり言ってここはヤバイ。
 10分おきに前の通りをパトカーが走り抜けて行く。
 近所が毎週ニュースに出る。
 知り合いがやられる。
 はっきり言って、外に出たくなくなる。
 友達のメキシコ人はここよりももっとヤバイ所に住んでいるが、そこはもうほとんどお巡りさえもいないそうだ。
 お巡りがいなければ、ニュースなどになるはずもない。
 「危ない事はねえな」と奴は言う。
 「ただどこかに消えちまうってだけの話でよ」
 ほんとうにヤバイ所というのは果たしてこういう所かとちょっと関心もするのだが、まあそう言った意味から言えば俺の住んでいる所はテレビに出る分まだましなのかも知れない。
が、しかし、
 そう言っていたメキシコ人の友達も、信号で止まっていた所をいきなり石で殴られた事があると言っていたから、やつの強運もそう長くないような気もする。
多分、俺の住んでいるのは、まともな人間の住める最後の境界線とも言えるかも知れない。

 しかしながら、
 だからと言って、俺が弱気になっているかと言うとそんな事はない。
 俺は空手も柔道もやっていないが、はっきり言ってこの街ではそんな物できたからと言って何の役にも立たない。
 振り向いたらいきなりズドンの世界だからだ。
 振り向いたらいきなりズドンの世界で、いくらブルースリーをやってみたからと言って、結果はほとんどたかが知れている。
 かと言って俺が銃刀器の扱いになれているかというと、もちろんそんな事はない。俺は日本を出るまではまったく普通の日本人だったのだ。まったく普通の日本人が銃刀器の使い方に慣れている訳がない。
 と言うわけで、俺がどうしてやってこれているかと言うと、それは強気でやっているからに他ならない。
 なめられてはいけない。
すこしでも弱気を見せたら、奴らはすぐにやってくる。
やってきて袋叩きぐらいならまだ可愛いが、いきなりズドンではあまりにも出番がなさ過ぎる。
 強気こそが最初で最後の武器なのである。

 しかしながら、いくら強気でやっていても、俺の強気を良く見ないうちからいきなりズドンと撃ってしまう奴もいるだろうから、やはり銃は持っておくに越した事はない。
 「大丈夫」
 と、下の部屋に住んでいる、ベトナム帰りのクラック・ジャンキーであるビリーは言う。
 「22口径じゃあ、よほど狙っても当たる物じゃねえ。38ならまあ20フィートが限界だ。どうせ向こうだってアマチュアだから、そうそう狙って撃てるもんじゃあねえからな。
 だから最初の一発目はよほどのラッキーショット以外は、まず当たらねえって事だ」
 「撃たれた、と思ったらこうやって」
 と言って、クラックでやたら元気のいいビリーは、アパートの前のパーキンロットで、実演して見せてくれる。
 白い閃光に包まれたアパートの前のパーキングロット。
 影という影のすべてが灼熱の中に閉じ込められたまま、
 渦をまいて立ち上がる蜃気楼の分厚いベールの中に、
 枯れた椰子の木と錆びたキャデラックと割れたビール瓶と、
 マクドの空き袋とタバコの吸殻と潰れた空き缶と、
 投げ捨てられた女物のサンダルと、死んだネズミのように黒く染まったテニスボールと、油まみれでせんべいのように固まったシャツの残骸が、
 とりあえず目に見えるものすべてが灼熱の中に焼かれながらピクリとも動けない。
 つまり、10時を過ぎた後の、この街の典型的な風景だ。

 靴の底を通してさえじりじりと熱に焼かれる溶けたアスファルトの上に、ビリーはいきなり「パーン!」と叫んで頭から飛び込んでみせる。
 時間の死んだアパート。立ち並ぶプレハブ作りの二階屋の、その窓に下がったブラインドはすべてがぴったりと閉められたまま。
 ドアの前に車が停められている以上、部屋の中にいるのはわかっているのだが、ねじが馬鹿になるぐらいに締め切ったブレイドのほんの少しの隙間から、息を潜めてこちらを伺っている気配がするだけだ。
 「パーン!いいか、撃たれたと思ったらこうやって」
 と、オイルの垂れた路面を転がりながら、
 「いいか、すぐに伏せろ。そしですぐに腰のハジキを抜いて、右肘をまっすぐに伸ばして、左手を銃身にしてこうして手首を重ねて、しっかり固定するんだ。いいか、しっかり固定しろよ。相手の足元に寝そべっておいて、カウンターアタックが外れましたじゃ、おまえはその場で、100%のお陀仏だからな。この一発で、相手の身体のど真ん中をぶち抜いてやるんだ。いいか忘れるなよ。肘を固める事だ。そんで固めた途端に、ぶっぱなす。それからは、相手が倒れるまで、こうやって、こうやって、ずっと引き金を引き続けろ」
 頼むとビリーは、これを何回でもやってくれる。5回目当たりになるとさすがに全身に汗をかき始めるが、最高18回も続けて実演してみせてくれた事もある。
 そう言うビリーは、しかし銃など持っていない。銃どころか、車も、ベッドも、机も鍋も靴も、最近では電気さえも止められた。
 暗い部屋の中、リビングにはベッド代わりの破れたソファが一つ。そしてテレビ。
 車を売った金も、その金で仕事もせずにクラックばかりやっていたのですぐに使いきり、家の中の物は全て20ドル札と交換してしまい、家賃用に最後まで残してあった金も、たちまち20ドル減り40ドル減りで、結局なくなってしまい、最後に残ったのは、誰も欲しがらなかった臭いソファと、ガンとテレビ。
 そしてある夜、ビリーはそのガンを持って、俺の所に遊びに来た。
 ドアを開けるなり、にゅっとガンを突き出して、
 「このガンやるから、一晩泊めてくれ」
 とビリーは言った。
家賃を延滞して、部屋のドアをロックアウトされたらしい。
 奴はその持ってきたコルトの45オートマチックで、宿泊費プラス、キャッシュ100ドル貸して欲しいと言った。
 「100ドルはないけど、キャッシュなら40ドルある」と言うと、奴はすんなりそれで承諾して、すぐにディーラーのビーパーに電話をかけ、俺の見ているまえで、その40ドル分の二かけをあっと言う間に吸ってしまった。
 結局それで、テレビと臭いソファを残してクラックジャンキーのビリーは全てを失ってしまった訳だが、しかしながら奴は、最後に残ったテレビだけは決して手放さない。
 どこかからかすめて来たのか延長コードを、階段下の電球のソケットから部屋の中に引き入れて、そして暗い部屋の中で一日中テレビをつけっぱなしにして暮らしている。
 ライトでは本しか読めないが、テレビなら、テレビも観れて本も読めるから、と言うのがその理由である。
 そんな訳でビリーは、日がな一日、昼はアパートの前の階段に腰掛け、夜はブラウン管に瞬く青白い閃光の中でソファに寝そべり、そして来る日もくる日も、クラックでぶっとんでいる。
 彼の所によく友達が訊ねてくる。彼らもやはりみんな裸足だ。靴さえも売ってしまったジャンキーが、このアパートにはいくらでもいる。

 それ以来、俺はビリーに貰ったコルトを、決して手放さなくなった。
 ポケットに入れておくと相当に重いが、ラップの黒ちゃんがよく履いているバギースタイルのジーンズなら、それほど目だたないで済む。
 今となっては、コルトはほとんど腹巻き化していて、ないとすぐに風邪を引くどころか、ドアの外に出る気にもならない。
 しかしながら不幸中の幸いか、今だにそれを使った事はない。
 もちろんいつやられてもいいように、弾はいつでもこめてある。

 俺はそのコルトを持って、部屋の中でよく予行練習をする。
 一度間違えて、壁を撃ってしまった事があった。
 幸運にも外に向けていだからよかったものの、このアパートの壁は紙のように薄いから、隣の部屋にでもぶちこんでいたら、お巡りを呼ばれて大変な事になっただろう。
 まずベッドに寝る。ドアで物音。枕元のコルトを掴み、そこで飛び起きる場合。
 すぐにドアに走ってはいけない。マグナムや12ゲージ・ショットガンならばドア越しに撃ってくるだろうからだ。だからそんな時はすぐに、キッチンのスツール陰に隠れる。
 肘を延ばし、左手を添えて、手首を固定し、そしてフリーズ。
 では、既にドアを破られていた場合。
 枕元のコルトを掴み、息を殺して、こうしてベッドの陰に隠れて、下から足首を覗き見て、ベッドごしにいきなり、一発、二発、三発。
 倒れるまで、撃つ。
 もちろん街なかを想定した訓練だって忘れはしない。
 いちばんヤバイのは、やはりパーキンロットだ。
 前から来た場合、後ろから、脇から。
 すぐにその場をはね飛んで、
 横に転がりながらガンを抜き、
 片肘を立てて、
 肩と手首で固定して、ズドン。
 一発。二発。三発。四発。五発。六発。
 息の根を止めるまで撃ち続ける。
 よし最初からもう一度。
 ポットを吸いすぎた夜など、真夜中に突然気配を感じると、俺はもうすっかり本番のつもりで、この動作を繰り返す事がある。
 俺は強気でやっているほうだ。
 やられたら、いつでもぶっ飛ばしてやるつもりだ。
 おそるべき強運というべきか、今だやられた事はない。

  テキサス「強気でやる男」終わり。

 




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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