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BUT NOT FOR ME in TOKYO - 01

Posted by 高見鈴虫 on 01.2012 旅の言葉
朝から何度目かの犬の散歩の後、
不安げな顔でしきりにじゃれついてくる犬を避けながら
荷造りを済ませ、
じゃあな、言ってくるよ、の代わりに、
そんな犬の顔にIPHONEを翳してパシャリとシャッターを押した。
なんだよ、お前、泣きそうな顔して、
と笑いながら、泣きそうな顔をしていたのは俺の方だったのかもしれない。

かつては世界中を飛び回っていた俺が、
こいつと暮らし始めてからつくづく腰が重くなった。
旅をする気がさらさらなくなってしまった。
どこに行ってもなにをやっても、
つくづく、こいつと離れたくない、と思ってしまうのだ。

そんなことではいけない、とは思いながら、
それが正直な気持ちというやつなのだからしかたがない。

アパートの前でタクシーを拾い、
面白くもない、という風に、JFK、と一言。
タクシーの運転手も、
なんにも楽しいこともない、という風に、
無言で頷いた後に、
タクシーのメーターをJFK一括料金の53ドル、に切り替えて、
そして、なんにも面白いことがない、という風に車を出した。

アッパーウエストのシナゴーグの角を曲がって、
セントラルパークウエストからイーストハーレムへ。

くそったれ、ニューヨーク、
世界中探したって、こんなに面白い街はないっていうのに、
なんでわざわざこの街を抜けだして、
よりによって東京なんてところに行かなくてはいけないのだ。

あ~あ、ニューヨークを離れたくないぜ、
と一言つぶやくと、
それまで音楽もかけずに無言のままだった運ちゃんが、
途端に、くそったれ、と舌打ちをした。

くそったれ、
空港にはこれまで100万回でも来た気がするのに、
自分が飛行機に乗ってこの街を出たことは一度もない、と来る。

この街にやってきてからというもの、
なにからなにまで金がかかって、金を貯めようと思えば思うほどに金を使わされ、
稼ごうと思えば思うほどに稼ぎが減って、
いつのまにかこの体たらくだ。

100万回も空港までの道を行ったり来たりしながら、
自分自身は一度もこの街を抜け出せたことがない。

この街は俺にとっては監獄だ。

逃げ出そうと思えば思うほどに絡め取られていく。

このままこのタクシーを飛ばしてそのままどんどん南にいってしまおうか、と、
なんど思ったことか。

くそったれ、この街から出してくれ。

いかにも感極まった、という感じで、
ばん、とハンドルを叩いたまま、そして再び静かになった。

やれやれ、やっぱりリムジンにすれば良かったかな。

トライボローブリッジの橋桁の向こうに
マンハッタンの影に向けてもう一枚写真を撮った後、
ふと、夕日の眩しさに目をとじたまま、
俺もそのまま寝てしまった。


2012-08-19-XIMG_7390.jpg

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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