Loading…

BUT NOT FOR ME in TOKYO - 03

Posted by 高見鈴虫 on 01.2012 旅の言葉
という訳でビジネスクラスだ。
確かに椅子は凄い。
座席というよりはコックピット、
そう、なんとなく、
WALL-Eに出てきた宇宙船で生活する人々の乗っていた
空飛ぶ座席を思わせる。

そこかしこになにのために使うか判らないリモコンがある。
なにのためのリモコンか。どう使うべきなのか。
一切説明がないまま、まあ探せばどこかにあるのだろうが、
もともとマニュアルを読むのがキライなタイプ。
面白がってむちゃくちゃに動かしているだけでも割りと暇が潰せる。

ともすると、矢印をウイーンとやっているうちにあれよあれよと座席が倒れ、
おっとこれはまるで床屋の椅子、とばかりにいつのまにかほぼフラット。
おっと足元のステップに足が届かず、そのままずるずると滑り落ちてしまいそうだ。
おいおい、これはもしかして、飛行機の座席で寝返りが打てる、
という事ではないのか。

そうなんだよ、飛行機で一番いやだったのが、この座った姿勢で寝ることであったのだ。
本来、うつ伏せで寝るタイプの俺は、この座った姿勢で寝ることがどうしても苦手で、
膝を折り曲げたまま右に左に姿勢を捻っているうちに、
ついつい面倒くさくなって通路で寝たくなったりもしていたものなのだ。

うーん、たかがビジネスクラス、されどビジネスクラス、
この違いはやはり大きいかもしれない。

とそうこうするうちに飯。
ビジネスクラスというぐらいだからなにが出てくるのか、と思っていたが、
まあ米系というだけあって、やはりは米系、つまり所詮の機内食だ。
が、どういう訳か俺は機内食をどんな時にもいつもすべて平らげる。
ヘタをすると、すいません、余っていたらもっとください、
とまで言ってみたものだ。
パン、水、コーラ、スナック、
保存できるものはさっさとカバンの中に詰め込み、
と、これ、つまり、つまり、ヒッピー時代の癖なのだ。
次に降りた土地で、何が出てくるか知れたものじゃない。
美味しい不味いは別として、とりあえず衛生的に問題のないものをキープしておくのは死活問題。
が、しかし、待てよ、
そう、今回のこの旅行、目的は仕事、つまり俺はビジネスクラスの人なのだ。
そして、これから俺が行くべきところは、実に日本なのだ。

俺の母国である筈の日本が、
まさか衛生面で問題があるような無茶苦茶な国とも思えない。
思えないのだが、しかし、心のどこかに不安が残るのだ。
日本は果たして大丈夫だろうか。

おいおい、と改めてため息をついた。

頭では判っているのだが、果たして俺の身体は、
日本に帰る、ということに対してまったく気を緩めていないようだ。
身体中が、これから向かう新しい土地に、
なにがあるかわからないぞ、と妙に緊張を残している。

そうか、俺はやはり、もうアメリカ人なのだな、と改めて思う。
俺はもう日本のことはなにも知らないのだ。

改めて12年という月日の長さを思い知るようだ。

気分転換に映画を観てみることにした。
改めてろくな映画はひとつもない。
ないのだが、見ないと損、のような気もする。
米系というだけあって、すべてアメリカ映画だ。
改めて、映画というのは国策の一部、
国家のイメージ宣伝の道具なのだな、と思い知らされる。
スパイダーマン、やら、ミッション・インポッシブルやらを、
試しに日本語の吹き替えで観てみたのだが、
どういう訳か言葉がまったく頭の中に入ってこない。
日本語で語られる米国の風景が、
まったく完全にずれてしまっているのだ。
そうこうするうちに、イライラを通り越して吐き気がしてきたので、
ついに諦めて寝ることにした。

ああ、日本の友よ、悲しいことに俺は、
もう身も心もアメリカンになってしまったようだな。

180度のフラットシート、思いの外に快適で、
毛布を被った途端に驚くほどぐっすりと寝てしまった。

目が覚めると機内の灯りが落とされていた。
真夜中、と言ったところか。
トイレに立つついでに、どうせなら、とエコノミークラスを見物に行く事にした。

仕切りのカーテンを開けた途端、
むっと立ち込めた空気に思わず息が詰まった。
家畜小屋とはよくも言ったものだな、と思う。
ぎっしりと敷き詰まったシートに重なりあうようにして眠る人々。
まるで奴隷船だ。

ふと肩を叩かれ、スチュワーデスから、ちっちっち、と指先をふられ、
そして慇懃にカーテンを閉められた。
ビジネスの方はあちらのトイレを、と指さされながら、
思わず顔を合わせて笑ってしまった。

くそったれのビジネスクラス。
いけすかねえな、と舌打ちまじりに小便をしながら、
が、しかし、
うーん、もう一度あのカーテンの向こう、
つまりはエコノミーの奴隷船に戻りたいか、
と言われれば勿論、NO と言うだろう。
そうか、人間、こうやって絡め取られていくのだな。
とシートに身体を投げ込んで、
あーあ、と手足を広げて思い切り伸びをして、
再び寝入ることにしたわけだ。

2012-09-16-XIMG_7277.jpg

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム