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最初に辿り着いたのは

Posted by 高見鈴虫 on 05.2006 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
最初に辿り着いたのは、
20世紀も終わりに近づいた冬の終わり。
知人に聞いて書き殴ったメモを手がかりに
ようやく探し当てたアッパーウエストサイド
71丁目のウィークリーマンション、
って言うよりはボロボロの月極めアパート。
荷物を降ろしたとたんに眠りに落ちてしまって
ふと目を覚ました夜中の2時過ぎ。
しまった今夜は飯抜きか、と舌打ちしながら
窓から見下ろす通りにはまだかすかに人の気配があって、
ふと誘われるように足を踏み出した深夜の街、
角のピザ屋の灯りの中に吸い込まれると
ドアの向こうはなんと人で一杯。
タバコの煙りの立ち込める中、
店の隅の安いスピーカーから、
ルーリードのサテライトラブだか、
ジョンレノンのマインドゲームだかが流れていて、
カウンターの隅の流しの脇では、
暇を持て余したデリバリの少年が、
ゴミバケツに腰掛けてチューニングの外れたギターを爪弾いていて。
窓際の奥にようやくイスをみつけて、
紙皿からはみ出したピザの先端を一口齧ったとき、
意味も無く、じわーっと、
ああ、ニューヨークにやって来たんだな、
と実感が湧いてきて。
そう思わず涙がにじんでしまったけ。

どうかした?
いや、レッドペッパーかけすぎちゃって。
ああそういうこと。
この店、何時まで開いてるの?
24時間、いつでもオープン。
24時間いつでもパーティか。まるで夢のようだね。
いつ着いたの?
ついさっき。着いたばっかり。
どこから?日本から?
アメリカ南部の、ずっとずっと奥。夜8時過ぎると街中が墓場みたいに静まり返っちゃう街から。
ああ、判るわ。私もそうだったから。ニューヨークはどう?気に入った?
ああ、物凄くね。なんか、帰って来た、って感じがする。
いつまでいる予定?
決めてないんだよ。つまりそういうこと。まずは仕事を探さなくちゃと。
そう、そうね。みんなそう。
あと住むところも探さなくちゃ。
そう、そうよね。みんなそう。
どういうこと?
つまりはニューヨーカーってこと。いつでも職探し。いつでも宿探し。
とりあえず、時間があったらここに寄ればいいわ。
ボイスもあるしニューヨークタイムスもあるし、ね。
ああ、そうしてみる。
そう、みんなそうしてるんだから。そして多分、これからもずっとそうなんだから。
ニューヨークへようこそ。この珈琲を飲み終わった時にはあなたも立派なニューヨーカーよ。

そんなこんなでその翌日、
そんな安アパートで知り合った奴、
ひょんなことから昔の友達と人間違えしたことから始まった縁から、
とりあえずと散歩に出たセントラルパークで、
オアハカ産の種無しガンジャの販売ルート開拓を画策している、
なんておかしなラスタファに知り合って、
下手なガットギターに合わせて一緒にボブマレーを歌っていたら、
いつの間にか連れて行かれたダウンタウンのパーティで、
まるで街中の無法者全員に面通し状態。
その後、
夜な夜なこの街で一番妖しいゲイクラブなんてのを探して彷徨ったり、
潰れかけたジャズクラブを乗っ取って朝までジャムセッションしたり、
ポットとクラックとエックスとコークと
ハウスとジャズとテクノとサルサの間に揉まれ揉まれて、
騙し騙されひっかけひっかかり登って降りて上がって下がって、
なんてことをやっているうちにあっと言う間に1年2年3年。
いつのまにかこの街で知らないものはない、
なんて気になっていたっけかね。

そんなこんなでいったいどれだれけの水が流れたことか。
不思議なことにあの9-11から、
まったく記憶がないのはいったいどうしたことなのかな。
という訳で未だに記憶喪失状態。
地下鉄の駅からの階段を上って、南の空にワートレの影を見ないと、
いきなり方角を見失った気になってしまう、
そんな記憶喪失状態がこの先どれだけ続くのだろう。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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