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ニューヨークの夢と現実

Posted by 高見鈴虫 on 06.2006 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
所詮俺達は蛾みたいなものでさ。
きらきらとまばゆいネオンサインに引き寄せられて、
摩天楼のビルの壁面にへばりついた
つまりは蛾みたいなもんよ。
己のどぶ色の羽根の上に
きらきらと煌めく原色のネオンが反射する様を
まるで自分自身が輝いているいるような
錯覚に陥っているうちに、
そしていつしか風が吹き始め、
必死の思いで壁にへばりつきながら
雨に打たれそれはやがて雪にかわり、
足は萎え爪は折れ羽根は破れ、
いつしか既に飛び立つ力さえなくしていて、
そしていつの日にか
よく晴れた凍てついた冬の朝、とかに、
誰に気取られることさえもなく、
ぽとり、と舗道に落ちて、
そして風に飛ばされ車に飛ばされ
やがて排水溝に吹き溜まった紙くずの中にまみれて
そして名も無い貧しいただのどぶ色の蛾として、
そっと消えて行くのだよ。

ついてすぐに知り合ったニューヨークのセンパイ、
とやらから言われた言葉。

まあ三年ってところだな。
そう、三年は楽しめるよ。
最初の三年は天国だよね。
観るもの聞くもの触るものすべてが珍しく、
街はハプニングに溢れ、きらきらと輝いて、
振り返るとそこかしこで
幸運の女神がウインクしているような気がしてさ。
見上げる窓はまるで宝石箱。
あの窓の一つ一つに秘密の扉が隠されていて、
その中に宝物が埋まってるなんて気がしてさ。
ああ、俺は自由だ、とかね。
ああこの街でついに俺はやりたいことをやるんだ、とかさ。
本当になりたかった本当の自分って奴に
ようやくなれるんだ、なんてね。
そうだれもがやることなんだけどさ。
なんというか、
透明人間感覚というかね。
身体中が透き通って、きらきらと輝いて、
誰でもない自分になれる、なんてさ。
で、とっかえひっかえファッションショー。
外面も内面、つまり人格さえもね。
そう。望みさえすれば何にでもなれる。なんでも手に入る、なんて、
錯覚するわけなんだよ。

それでも三年の間は幸運が続く。
ビギナーズラック、というか、
まあお客様だからね。誰もが親切にしてくれる。
まあ自分自身、ころっと騙されているわけだ。

それが三年経つとそろそろ知恵もついてきて、
あちらさんとてそうそうともう甘い顔ばかりはしてくれない。
金を落とさないならさっさと帰れ、と来る訳だ。
凄いぜ。その豹変。
まるで手のひらを返したようにね。
パタパタパタ、とさ。
誰もが冷たくなりきつくなり意地悪になり、
はっと気づくと騙され毟られる踊らされ歌わされたばかりであった
と、はたと気づくわけだ。
くっそう、そう言うことだったのか、
と気づいてしまったが最後、という奴。
つまり、玉手箱、ぱかりと開いて。
まあそこからが本番だな。
つまりまあ、それが本音の付き合いというかね。
本気の付き合いというかさ。
ニューヨーカーの本領発揮。面目躍如ってところだよな。

まあ五年が限度だな。

その先は辛くなるばかり。
辛さも半端じゃないぜ。
つまりそれが判っているなら、
早いところで出ていった方が身のため。
ここはまあ、そういう街なんだからさ。
そう、いいの悪いの言う前に、
ここはそもそもそういう街なんだよ。
大丈夫。
この街は去る者は追わない。徹底的に追わない。
来るものも拒まない。金を落としているうちはね。
そういうこと。そういうことだったんだよな。
そう、知っては居たんだけれど。
気づいてはいたんだけど、ね。
まんまと騙されたよな。
ああ、判っていたのにね。
という訳でさ、ここの飲み代、授業料ってことで、
ま、せいぜいがんばってよ。
4年経って、まだその元気が残っていたら、
今度は俺がおごってやるからさ。
ってな訳で、それまでの貸り、ってことかな。

では友よ、また会おう。健闘を祈る、と。

と着いた年に言われたよね。
言われたときには、ああこいつは負けたんだな、と思った。
同時に、俺は負けねえ、とも思った。
でも今から思うと、
あのひとは実は、心の底から本当のことを、
思いっきりの本音で言ってくれたんだな、
と身に沁みて思う。

つまり、あの頃の俺に、昔の自分を見ていたんだろう。

という訳でこの教訓を胸に、
幸か不幸か俺はとりあえずまだ生き抜いている。
この先どうなるかぜんぜん判らないけれど、
とりあえず、生き抜いていることだけは確か。
この腐れ毒蛾、ちょっとやそっとじゃへたばらねえぞ、
とたまに思ったりもしている。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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