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「茶番人生 このどうしようもない人々」

Posted by 高見鈴虫 on 28.2006 嘗て知った結末   0 comments   0 trackback
「茶番人生 このどうしようもない人々」

ふと、気づいてしまうと、
周りに起こるすべてのことが、
茶番に見えてくる時がある。

会社内の椅子取り合戦、リストラ劇なんてのは、
まあ茶番というよりスラップスティックに近いが、

たとえばまた、いつもの奴で、
別れるだ、切れるだ、帰るだ、終わりにするだ、
と、いままで何度繰り返したであろう話題を蒸し返しながら、
うじゃうじゃうじゃうじゃ、
喧嘩の真っ最中に、
ふと、鏡に映る自分の姿を見てしまったような気がして、
んだよ、このくだらねえ茶番劇は、
と、いいかげん腰が砕けそうになって、
思わず笑いがこみ上げてくる、という訳だ。

なに笑ってんのよ。
いや別に。
馬鹿にしてるの?
いや、そんなことはないよ。少なくともおまえは馬鹿じゃないし。
そう、馬鹿はあんたよ。
そう、馬鹿は俺だ。それがおかしくてな。
馬鹿。もうやってられないわ。

という訳でかみさんが出ていた夜も、
ひとりでへらへらと笑いながらストーンズを聴いていたのだが、
ふと思い立って古い友人の一人、
永遠のパンクロッカー兼前衛デザイナーのあきらくんに電話をしてみた訳だ。

なんだよこいつ、いきなり電話なんかしてきやがって、何の用件だ、
とあからさまに訝しげな声、
とりあえずは無難な昔話なんてやつにお付き合い頂いていたわけだが、
ふとした弾みで、オンナが出て行きやがってよ、
と言った途端に、
ほうほうほう、と、受話器からシンパシーのオーラがどっと流れ込んできた。

てんぱってるって言えば、まあ誰も似たようなもんなんだろうがよ、
と、まあ昔から、テクは無いが度胸一発、本番勝負、
無口ながら口を開くとかすれたねちっこい声にドスがきいていて
味方だからいいような物の、相手方なら、
おうおう、本気でぶっ刺してくるとしたらたぶんこいつだ、
と思わせるなにかがあったような奴なのだが、

そんな毒蛇みたいな奴が、あのな、実はよ、
と話し出したのは、
じつはここ数年、
駐在員の奥さんとずっと関係していて、
で、旦那の任期が終わって帰国が決まった時に、
なんとその駐在の奥さん、いきなり離婚を申し出たらしい。

おまえが言わせたのか?
まさか。
じゃあどうして。
まあ本人の意思って奴らしい。
止めなかったのか?
止めなかった。
でもおまえ結婚してるじゃねえか。
ああ。
おまえのかみさんどうするんだ。
それも考えてねえ。
ゆくゆくのごたごたは必至だな。
そうかな。
下手するとグロになるぞ。
俺はパンカーだからグロならグロで嫌な気はしねえ、っていうか。
相変わらずよくわからねえところで度胸一発だな。
あのな、
ああ、
駐在の奥さんって言ってもさ、俺たち、同じ年なんだよ。
ああ、なんだそういうことか。
ああ、俺がてんびん座で、向こうが蟹座。
ちょっとお兄さんだな。
同じ年だったんだよ。だからやったんだ。
たしかにそれならまだ救いがあるにはある。
だろ?筋としては割と純愛系なんだよ。俺がパンクだからグロになっちゃうだけでさ。
かみさんは何だって?
いや、まだ言ってない。
おまえのかみさんにとっては洒落じゃすまねえな。
はなから洒落にするつもりはねえけどさ。
洒落にならねえからこそ洒落に落とすんじゃねえか。
落ちなんて考えちゃいねえよ。
お前なあ、グロにするぐらいなら茶番のほうがまだ救いがあると思うがな。
お前はロッカーだからなんでもかんでも茶番で落とそうってんだろ?
てめえは違うのかよ。
俺はパンクだからよ。もっとなんて言うか、対象に突っ込んでるんだよ。
笑って別れるよりは刺しちまうってか?
それを言ったらまじで洒落にならねえけど。
それを茶番だって言ってんだよ、俺は。
確かに茶番で済めばいいけどな。
あのな、悪いこと言わねえから茶番で落としておいたほうがいいぜ。
茶番じゃすまないからこそ茶番なんじゃねえのかとも思ってたんだがよ。
相変わらずだな。判っちゃいるのにやめられねえ、と。
いずれにしろここまで来たらどっちに転んでもろくなことにはならねえってことぐらいは覚悟してるよ。
相変わらずだよな。おまえ。
だからまあ、そこがパンカーと言うかさ。
駐在員の奥さん寝とって、かみさんぶっ刺すことがか?
まあ起こるとしたら逆だろうがな。
ますます茶番じゃ済まねえな。
やっぱりそうか。誰も笑っちゃくれねえよな。
パンクロッカーのあきらです。いま刑務所に入ってます。糞バイカーとヒップホップの糞ガキどもに毎晩オカマ掘られてご機嫌です、なんてメールが来るかもな。
それこそ茶番だな、
茶番で済んでくれればいいだが、ちょっと痛そうだよな。
そうなったらそうなったで、まあ、笑ってる、ぐらいしかやりようがねえよな。
相変わらずだな。あきらちゃん。
ロックンロール・スーサイド、生涯一パンカーって、言ってやってくれよ。

という訳で、ふと見るとMISSEDCALL一件、
もしや、と思って、
押す押す押す、メニューバー、
みしみしと軋むぞカバーが、この安物め。
で、あれ、なんだこれ、ミッシー?なんだよそれ。俺あんな奴に電話したかな、
と首をかしげながらも、
あれまあ、ミッシー、久しぶりじゃねえか、どうしたよ。
うんうん、元気してた?何してるのかな、って思ってさ。
おうおう、実はかみさんが出て行っちまってさ。
またなの?おたくらも懲りないわよね。慰めてなんて言われたってそんな見え透いた誘いには乗らないわよ。
誰が言うもんか馬鹿。おまえも若い頃はズベと呼んで貰ってただろうが、その年でズベってたら唯の色情狂、つまりは、変態ってことなんだぞ、とは思ったがそうとは口に出さずに、
ところでミッシーんところはうまく行ってのる?
それがさあ、
と、昔からちょっと足りないところがある分、隙だらけでいつでもどこでも行ける派だった世界の恋人・ミッシーちゃんは、
実はさ、前歯2本やられちゃってさ、といきなりすごいことを言い始める。
んだって?事故でもやったの?
まあ事故みたいなもんかな。
どこで?おまえ車なんか持ってたっけ?
違うのよ。当たっちゃったの、あいつのパンチが。
パンチ?殴られたの?
そう、がつーんて。
痛え。
そう、もう、びりびり、って痺れちゃってさ、もう痛いとかそういうのじゃなくて、もうぶっとい麻酔打たれたみたいな。
病院行ったの?
それがね、ひどいのはあたしの歯よりもあいつの手でさ。歯にもろに当たっちゃったもんだから、パックリ口あけちゃって、血がだらだら。
うへぇぇ。グロだな。
そうなのよ、もうあんなドバドバ血が出るのなんか見たことないしさ、自分の歯のことよりそっちが大変で。
すごいね。
そうなのよ。もう二人で血だらけでタクシー乗ってさ。
よくタクシー停まってくれたね。彼氏、黒人でしょ、
そうなのよ、それも大変だったんだけどさ、
うんうん。
でね、なんか二人とも血だらけでタクシーに並んで座っててさ、で、バックミラー越しに目があったのよ、
うん、
したらね、なんか、おかしくなっちゃってさ。
うん、判る判る。
判る?そう、なんかおかしくなっちゃってさ、ふたりでけらけら笑っちゃったのよ。
なんかいい話だね。
うん、でね、仕事探すよ、って。
ああそうなんだ。
仕事探して、ちゃんとしたインプラント入れてやるからって。
ああ、まあ、きっかけは何であれ、仕事探す気になってくれたのはいいことだね。
そうなのよ。ほんと、それがうれしくてさ。前歯ぐらいなにさってかんじ。

という訳で、携帯。
鳴らない。そぶりさえも見せない。

ずっと待っているのに。そう、永遠と、こればかりを待っているのに。
鳴ってくれ携帯、鳴らしてくれ麗子ちゃん、
と、携帯に祈り、携帯を拝み、携帯を撫でさすり、
ともすると愛撫して舐めあげて、思わず穴に入れる、わけには行かないから
口に頬張って齧ってみたりもするのだが、
しかし携帯は鳴らずに12時近く。
ああもうだめだ。
普通の時間、つまり彼女が暮らしているであろう普通人が電話できる時間帯を
とおに過ぎてきるのだが、
まだまだまだ、諦めもつかずにもう一分、もう二分、
鳴らない携帯と対峙を続けて。

音を消したAVと、ステレオではストーンズ。
この馬鹿女、またいきやがった、まったくどうしようもねえな、と舌うちしながら、
あの女、俺を小突き回したビッチな女、
いまは俺の言いなり、親指の下、アンダーマイ・サム!
とがなりまくって水曜の朝、午前1時前。
ああ、やめた筈のタバコが無性に恋しい。
もう限界だ。
なにが限界だ。
もう、終わりだ。
なにの終わりだ。
もうこれまでだ。
知ったことか。
神様ごめんね、ああ、これで堅気ともおさらばか、
ふざけるな、セクハラが怖くて男が勤まるか、
ばかやろう、いつでも死んでやる、
とCALLボタンを、
押すか、押すか、押すか、押すか、、、、、押した!押しちゃった・・・
CALLがひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、そして、VM。
すぐに切る。そう間違えたんだ。すいません、すぐ下に入ってる友人の番号と間違えちゃって、
と言えばいいか、見え透いてるな。見え透きすぎ。でもいい。法的にはそれで通る。か?
まあいい。

曲は変わって、I just wanna make a love to you、
俺はおまえとやりたいだけ、
やばい、この歌だけはやばい、で飛ばして次の曲、Stupid Girl、
てめえがなにをいおうとしったことじゃねえんだよ馬鹿女、
いやいや、これも違う、スキップスキップ、
ああ彼女は虹色、これはもっとやばい、火を注いで鼻血が出そう、
で、19回目の神経衰弱、
そう、これ、もしかしたらこれ、あるいは、
そう、俺はもうロックンロールというよりは、そう、もうちょっと、
と大幅に飛ばしてBeast of Burden
ああ、このキースのカッティング、最高だよな、
ところで電話がねえよ。
ああ、あのこ寝てたかな。寝てたろうな。寝てるよな普通。
でもな、あれ、え、待てよ、
なんで、あれ、この携帯、壊れている、なんでOFF?
なんで電源が切れてるんだ?
なんだって、ロー・バッテリー、電池切れかよ、こんな時に。
慌てて手繰る充電器。ないぞないぞないぞないぞ、
コード、あったあったあった、手繰り寄せて、
苛立ちに引きちぎりそうで、馬鹿引きちぎったらそれこそ一巻の終わり。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
そして握り締める携帯。
パワオンが遅いな。鬼のように。この安物、馬鹿やろう、早く早く、
そしてアンテナが、立つか、立つか、まだ立たないか、もうちょっとか、

ヴォイスメッセージ、1件、
いつ、1時5分まえ。
つまり、俺の電話の、前?後?

とりあえずメッセージ。

お電話頂けましたか。
私もちょうど、どうしてるかな、って思って、電話しようかななんて、
やたぁぁぁぁ!
なぁにをいまさら、夜中の1時に、どうしてるかな、も無いものだろ。
いやぁぁぁ、まいったなあ、電話くれてたのぉ?
待て待て待て、落ち着け、落ち着け、
とりあえず落ち着け。咳払い、1・2・3、
いいか、勤めて明るい声で、でも、低い声で、
ゆっくりと、落ち着いて、大人の声で、よしよし。
いけ。CALL、1-2-3、GO!

こんばんは、
こんばんは、
元気?
うん、元気。で、どうしたの?
いや、別に。ただ、声が聴きたくて、さ。
あれまあ。奥さんは?
それがさ、


「茶番人生 このどうしようもない人々」2006-05-28 BryantPark,NY.


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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