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茶々万満

Posted by 高見鈴虫 on 01.2006 嘗て知った結末   0 comments   0 trackback
かみさんが消えたとたんに、
俺を巡る世の全てが茶番と化した。

たとえばの話、
間の抜けた日曜の午後、
思い切りどうでもいい格好をして近所に買い物にでかけ、
そのままかみさんと別れて帰るような時、
ふとショウウインドウに映った己のあまりの無様さに、
あれあれあれ、なんだこの醜態は、
と思わずどぎまぎとしてしまう時の、
あのどぎまぎが、
この先、下手をすると永遠と続く、
という事を意味するのか、
という予感を秘めたまま、
の間の火曜日の朝、
じゃ、行ってくるから、
と挨拶もそぞろに空港に向かわれた直後から、
あれあれあれ、
俺のまわりをぽっかりと非現実のベールが包み込んでしまって、
なんだなんだなんだ、このちぐはぐな空気は、
という訳で、
そしてやることなすこと、
全てが茶番と化してしまった。

そしてソファに一人。
音をしぼったテレビでニュースを見て、
腹が減ったような減らないような、
眠いような眠くないような、
遊びに行きたいような面倒くさいような。

疲れているのかな。
うん、疲れているみたいだ。
多分夜に寝付かれないから。
どうしてなんだろう、
かみさんが居なくなった途端に極端に寝つきが悪くなる。
別に普段からそんな豪勢な性生活を送っているつもりなど毛頭ないが、
隣にかみさんが寝ていないとなんともすーすーとして居心地が悪く、
なんとなくそわそわとしてみたり、なんとなく斜めに寝てみたり。
或いは、ふと夜中に目が覚めて、
そのままもそもそとPCの立ち上げて古い友人にメールを打ち始めてしまったり。

会社の友人が気を使って、
エッチなビデオの入ったCDをいくつもくれたのだが、
どれもこれも、
女の質やセックスそのものよりは、
へえ、あいつこんな女が好みなのか、
なんてことばかり考えてしまって、
挙句に、なんとなくあいつに見透かされているような気さえしてきて、
隠すようににパンツを上げてしまうことになる。

という訳で、腹が減っている。
考えてみると、かみさんが消えてからと言うもの、
そう云えばろくなものを食べていない。

昨日食べたもの、ベーグルとバナナ。
おととい、残り物のピザ一切れ。
その前、サブウエイのサンドイッチ、半分残して捨てた。

どうしてだろう。
かみさんがいなくなった途端に、食い物の味がしなくなる。
普段食い慣れている全てのものが、
なんか薬臭かったり甘すぎたり化学調味料の味ばかりが気になったりで、
とりあえず、全然おいしくない。
おかしいな、たまにかみさんと食べるときもあるのに、
そのときはこんなにまずくなかった筈なのに。
という訳で、首をかしげながら、いつのまにか食いのこしばかりが増え、
そしてじきに、
極端にろくでもないものしか食わなくなる。

しかしながら、
うちのかみさんはできた奴である。
出発の前、俺のやることなすこといちいち文句ばかりを並べていながら、
ふと見ると冷凍庫にはしっかり冷凍ご飯が並んでいて、
ふと見るとちょっとしたおかずやら、
後はまあ、レトルトやらもさりげなく買い込んでいて、
別に俺だって全然買い物ができない訳でもないし、
ともすると、こういう機会に普段かみさんと一緒では食べれないもの、
鬼のように辛い、ただもうそれだけ、というハードコア重慶火鍋やら、
全身これコレステロールの塊、という巨大ハンバーガ、やら、
たまに蝿が混じっている超カルカッタ風インドカレーやら、
そういういかがわしくもいとおしいゲテモノの数々を、
いちいち食い歩きをしてやろうか、などと画策しているのだが、
いざ、かみさんが居なくなった途端に、
そんな無邪気な冒険心も一瞬の内に意味を失ってしまい、
そして、いつしか11時過ぎ。
相変わらず腹は減っているのだが食いたいものはなにもなし。
ふと開けた冷蔵庫の中に正方形のラップに包まれて並んだ発芽玄米パック。
山くらげの漬物とわかめの和え物、卵は無いが卵豆腐があって、
味噌汁が無いのがなんだな、とぶつぶつ言いながら
電子レンジの蓋を開けては閉めて。
という訳でかみさんのいない週末の夜、
あの日以来ずっと廻りつづけている
ローリングストーンズを聴くともなしに聴きながら、
音を消したテレビで同じニュースを何度も眺めて、
ああ、これに味噌汁さえあればな、
と一人ご満悦。
かかってくる筈のない携帯を空いた味噌汁の場所に置いたまま、
あいつ、つくづく俺が判ってるなあ、と今更ながら関心しつつ、
男一人、深夜のアパートで発芽玄米と精進料理に舌鼓を打つ。

ふと頭を上げると窓に映った自分。
あれこんな風景見たこと無いぜ、
ああ、ここは普段、夜になるとかみさんがブラインドを下ろしていたのか。
となんか悪戯を発見したような気になって、
おいおい、このおっさん、ちょっと禿てきてるぜ、
と改めて見る自分の姿に嫌悪を通り越して失笑が浮かぶ始末。
んだこの野郎、恐ろしくみっともねえなあ、
とニヒルな笑いでKISS MY ASS。

ああ、その通り。
こんな俺を取り巻く世界は全てが茶番。
愛も怒りも涙も笑いも。
夢も希望も絶望さえも、全てが茶番。
茶番で何が悪い、と嘯いてみる。
おお、おっさん今度は開き直りかい。
開き直って何が悪い、そう、開き直りこそがおっさんの唯一絶対の武器。

ああ、だんだん腹が立ってきた。
なんだ、この茶番みたいな世の中は。
どうして俺はこんな茶番の中に置き去りされねばならねえんだ。
てめえ、あのいけすかねえ女、ひとをなんだと思っているんだ。
俺が何をやった。
ただ仕事をしていただけじゃないか。
忙しかったんだ。俺はただ忙しかっただけなんだよ。
それをなんだ、勤勉な労働者に対してこの仕打ちはなんだんだ。

そしてかみさんの残した冷凍ご飯。
確かに美味い。おかわりをしてしまおうか。
次は鮭フレークを頂こう。
くそったれ、なんだって俺は週末の夜に
一人で飯なんか食ってなくっちゃいけねえんだよ。
つくづく恨めしくなってくる。

古いアルバム、埃を払って。
そう、こんなアルバム場所を取るばかりで、
といつも文句を言っているが、
前に見た時もそう云えばかみさんが里帰りの時。

せんととーますとじゃまいかときゅーば
スキューバとパラセイリングとテニスと水上スキー。
そうだ、あの時、あいつは水上スキーの上にいきなり立ち上がってしまって、
そのまま入り江の中を一周してしまってホテル中の話題になって、
晩飯の時にはそこかしこから乾杯乾杯と酒を奢られいたそのとき、
俺は道端のジャンキーから貰ったジョイント一本で完全にラリパッパ。
人気の去ったプールサイドのベンチに唯一人置き去りにされて、
ああ、きれいだなあ、とたった一人で夢心地。

そうそう、この時は、ホテルに着いてすぐに、
フロントでみつけたオプショナルツアーのヨットクルーズに行くはずが、
あれ、裏庭の駐車場の隣に裏寂れたテニスコート。
せっかくラケット持ってきたのだから、
とまあ、最初は時間つぶしにと始めた1セットが長引いて、
結局ヨットツアーにもシュノーケルにも晩飯の予約もぶっち切って、
おまけによせばいいのにホテルの従業員達が休憩時間の退屈しのぎに集まってきて、
なんだよ、ナイターか、よし、望むところだ、
と言っているそばから、なんと金を集める奴まで出てくる始末。

にさえ遅れてしまったのだ。
どうせどこに行ってもテニスばかりしてるんだから、
わざわざこんなところまで来ることなったかよね、と笑いながら、
そう、あの時もタイブレークの後にかみさんが取った。
あんた、メンタル弱いから。
そんなことないさ。勝負強いので有名じゃねえか。
じゃああたしには。
うん。お前とのラリーにはいつも負ける。
そう、ラリーはあたしの方が強い。
お前は陰険なんだよ。底意地が悪いの。
あんたが短気なだけじゃない。
サーブは俺。
リターンは私。
フォアは俺。
バックは私。
まあ似たような次元だろう。
そうかしら。
どういう意味だよ、それ。

という訳で、
かみさんが旅立って最初の週末。

床に座りこんで古いアルバムをめくる、
中年男の居る風景。
それはまさに茶番な風景。

ああ、茶番劇終了まであと7日。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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