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ならば、ドッグトレーナーになりなさい、との啓示を受けた

Posted by 高見鈴虫 on 23.2012 犬の事情
先日、古くからの友人のパーティに招かれた。
友人の職業が「獣医」ということもあって、
来ていた客のほとんどが獣医であった訳で、
図らずもペット談義になった訳だ。

その中でも
ハーレムの女赤ひげの異名をとる
某女史にご紹介頂いた。

その時代からスラム化の著しかったハーレムにおいて獣医を開業して早云十年、
貧乏人からは金を取らず、
子供たちが死にかけた捨て猫を拾ってきてもなんの分け隔てなく治療に勤しみ、
哀れシェルター行きになり、殺処分を待つばかりのペット達の救済運動等、
NYの動物愛好家の間では知る人ぞ知る、
一種神がかった人気を保ち続ける女史ではあるのだが、
一見、とっても怖い女校長先生、という感じながら、
話して見るとどこにでもいる気さくな黒人のおばはん、という感じ。

で、そのカリスマ獣医さんの口から
獣医はペイしない、という話を聴かされた。

現在、アメリカにおいて獣医学科の競争率は目に余るものがある。
どういうわけだか、とてつもない人々が獣医になりたがっている、というのだ。
先日もWALL STを辞めていきなり獣医の資格を取ったという50歳を超えた初老の男から、
賃金はいらないから手伝わせてほしい、との申し入れを受けたとのこと。
多いんだよね、転職して獣医を目指す人ってさ、との話。

がしかし、先にも言ったように、アメリカで獣医になるのは並大抵のことではない。
理系の4年生大学を卒業し、大学院がまた4年。
実際の獣医のしたで実地の修行を積んだ後に、その獣医からの推薦状を手にして初めて受験資格ができるが、
晴れて合格してもそれは州単位。
つまり、NY州の獣医免許はNY州を一歩でたら通用しません、ってな話。

なんかアンフェアだよね、確かに。


で、そんな苦労をして獣医になったところで、
その収入たるや、その辺の新卒ブックキーパーと変わらず。
例え獣医を何十年続けていても、
開業医になってよほどあくどいことでもやらない限り、
金に困らない生活は絶対に訪れない、というのだ。

雇われの獣医は週のうちそこかしこの病院を回って回診を続け、
夜中でも休日でも、ほら、こうしている週末のパーティの間にも電話がひっきりなし。
その電話も、犬が喧嘩で怪我をした、猫がご飯を食べない、から始まって、
車にはねられた、血を吐いた、息をしていない、と、それこそ予断を許さないものばかり。

まあ世間的に見れば、たかが犬猫の問題、となるわけだが、
飼い主にしてみればそれは明らかに死活問題となるわけで、
事実、この俺にしてみたって、
自身の犬のためなら金に糸目はつけない、どころか、臓器移植だって厭わないという自負がある。
つまり、犬猫の問題はすなわち、時としてその飼い主の生死の問題にもなるわけだ。

という訳で、カリスマ獣医さん、ビールいっぱいも飲まないうちから、
廊下とテーブルの間を行ったり来たり、
その末に、やれやれ、行って来るとするか、と苦笑いのうちにバッグを抱えてさよなら、となった。

その短い会話の中で、
実は俺も獣医にあこがれていて、できればこれからでも、とか思ったりしてるんだが、
との話をしたところ、
間髪をいれずに、やめたほうがいいよ、なぜならね、という上記の事情を説明された後で、

で、そもそも、あんたは獣医になってなにがしたいわけ?
あ、だから、まあ、犬が好きなので、犬のためになることがなにかしたい、というか。

だったらね、手伝ってほしいことがある、とのこと。

で、事情を聴けば、
現在のシェルター事情。
悲しい現実として、ペットショップの子犬に云千ドル払う人々がいるかと思えば、
NYC中のどのシェルターにも、お払い箱になって殺処分を待つばかりの遣い捨てられたペット達が山になっている、
という話。
まあしかし、シェルターにいる犬は、しかし当然のことながら理由がある訳で、
病気にかかっていて治療費が捻出できない、から始まり、
健康体であったとしても、心の病を抱えたものが少なくない、という話。

で、もしも、動物が救いたい、という気持ちがあるのなら、
フィジカルな治療とは別に、メンタルな治療を引き受けてくれる人材がどうしても必要である、と。

ぶっちゃけ、
心の骨が折れたまま間違ったつながりかたをしてしまったペット達の
心の治療、つまりは矯正作業について勉強してほしいという訳だ。

なんらかの事情で事件を起こし独房行きを食らった前科者たちが、
このまま終身刑、あるいは、死刑、を食らう前に、
更正させる専門的な施設が必要である、という訳なのである。

人気絶頂の獣医よりも、、切実に必要とされているのがドッグトレーナーという訳だ。

少なくとも、飼い主を噛まない、子供を襲わない、他の犬と喧嘩しない、程度まで持っていければ、
あれほどの犬たちが殺処分になることもないのだが、という話。

それにね、と隣りの獣医さんが一言。

ドッグトレーナーは犬を殺さなくて済むから。

獣医の大切な仕事として、見極めの末に安楽死を選択させる、という義務がある。

あなたは犬を殺せますか?

俺にはたぶんできないと思う。

ならば、ドッグトレーナーになりなさい。殺処分から救い出すための仕事なんだからより建設的でしょ。

ただね、と一言。

獣医も金にはならないけど、ドッグトレーナーはそれにもまして金にならない。
大抵がボランティアベース、つまりただ。
しかしながら、ボランティアだからと言って、生半可な気持ちではできないのが実情。
その辺をちゃんと理解している人が必要とされているわけで。

という訳で、パーティから帰った後に、撮りためてあったDOG WHISPELERを山ほど見返すことになった、
という訳である。

取り急ぎ当面の課題としては、サリーとジョージとレミーだな、と。
やれやれ、それではなにも変わらないではないか。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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