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レスキュー・ドッグ・ブルース  びっこのデキシィ

Posted by 高見鈴虫 on 18.2012 犬の事情
雨の土曜日、靄に煙る公園で、
びっこの犬に出会った。

木立の中、
俺たちの姿に気づくと、
耳をピンと立てて目を輝かせながら、
一歩づつ一歩づつ、前足をテコにして、
動かない後ろ足を持ち上げながら近づいて来る。

8ヶ月のピットブルのミックスのデキシィ
飼い主のアニーさんの話では、
シェルターで出会った時には、
生まれながら腰の関節に問題があり、
手術をしなければ後ろ足が2本ともに動かないと言われたそうだ。

誰も引き取り手がなければ、
このまま別の施設、つまりは、
殺処分処理を引き受けるシェルターに
輸送せざるを得ない、のは自明のこと。

で、やっちゃった、とアニーさん。
引き受けちゃった、と照れ笑い。

生育の関係で、手術は7ヶ月を過ぎるまで待たざるを得ず、
それまでは車椅子。
おしっこもうんちも自分ではできないことから、
お散歩は毎日腕に抱えて連れていっていた。

で、漸く晴れて手術を受けられることになり、総費用2万ドル弱。

シェルターと飼い主、及び、動物愛護団体で折半するか、
との申し出もあったそうだが、
アニーさんはそれを断ったらしい。

この子は私の犬。家族だから。

それほど裕福そうにも見えないアニーさん、
2万ドルはやはり痛手であったに違いないのだが。
どうせ、シェルターにも愛護団体にも寄付を続けてるから、
これもドネーションのつもり。彼らにこれ以上の苦労はかけられないわ。

という訳で、見事手術も成功してリハビリの後、
今日が外に出た、まさにその第一日目、であったらしい。

おいで、デキシィ、こっちおいで、と名前を呼ばれるたびに、
思い切り目を輝かせながら、
しかし以前からの癖なのか、
ついつい腰を下げたままお尻を引きずってしまう。

ほら、おいで、デキシィ、さあ、歩いて、

アニーさんの必死の呼びかけに、なんとか力を振り絞るのだが、
困ったように首を傾げながら、ついついよいしょよいしょ、とお尻を引きずってしまう。

で、ふと、ブッチくん。
そんなデキシィにそろそろと歩み寄って、
尻尾を振りながら鼻をくっつけ会い、匂いを嗅ぎ合い、
そして互いの耳やら口元やらをぺろぺろ。
二人ならんで座りながら、へっへっへ、と笑っている。

あれまあ、お前らいきなり仲良しだね。

で、ふと、ブッチおいで、と言ってみたところ、
いきなり2匹の犬が、同時にひょっこりと腰を上げ、
で、尻尾を振りながら、腰をくねらせながら、
満面に笑顔を浮かべて駆け寄って来る。

あれ!あああ、とアニーさん。
あれ、見て、見て、歩いた!歩いた! とまさに絶叫。

ほら、おいで、おいで、と手を叩いて後ろずさりするたびに、
よいしょよいしょ、から、ほっほっほ、と後ろ足を交互に踏ん張り始め、
さあ、ゆっくりゆっくり、と歩く俺の後ろから、
足ももつれさせながら、よろめきながも、歩く歩く、びっこのデキシィ。

感激のあまり絶句したまま涙でぐしょぐしょのアニーさん、

そんなアニーさんに駆け寄って、その涙をぺろぺろ舐めるデキシィ。

見た?見た?わたしが歩いているの見た?

抱きあうアニーとデキシィの姿に、
思わず貰い泣きの涙がじーん、
そんな俺に駆け寄ってくるブッチと、
そしてじきにやってきたデキシィ、
左右から顔を舐められて、舐められればなめられるほどに涙が溢れでてくる。

おお、ありがとう、ありがとう、舐めてくれてありがと。

泣き崩れるアニーさんもサンキューサンキュー、

ブッチくん、私のデキシィに歩き方を教えてくれてありがとう。
あなた、デキシィに勇気を与えてくれてありがとう。
デキシィ、私にこんな幸福な思いを与えてくれて本当に有難う。

立ち上がった俺に、アニーさん、おもむろに握手。そして熱いハグ。
ありがとう、本当にありがとう、今朝この時間この瞬間に、
あなたという人が通りかかってくれたことは、
私とこのデキシィにとって、本当に生涯で一度あるかないかの、ものすごい幸運だったわ。

なにをなにを。
いつもの犬の散歩の途中に、まさかこんなに素晴らしい瞬間に立ち会えるなんて、
本当にありがとう。とても感動しました、と二人でありがとう、サンキュウの叫び会い。

そしてアニーさん、
なによりも、こんな不幸な犬を、あなたの力で命を与えてくれて本当にありがとう。

同じレスキュードッグのオーナーとして、あなたの勇気とご苦労には本当に頭が下がります。
本当の本当にありがとう。犬の命を救ってくれる人は俺にとっては大恩人です。ありがとうございました。

なにをなにを。
私もこの子をレスキューするまでは、実はちょっとむずかしいところにあったの。
でも、この子を貰い受けてから、こんなことしてられる場合じゃないって気づいて。
ダメだった私に勇気を与えてくれて、蘇らせてくれたのはこの子なの。
本当にありがとう、って私いつも思ってる。

ありがとね、あなたは私の命の恩人。
デキシィ、そんなアニーにまさにとろけそうな笑顔で答えている。
いい子だね、デキシィ。可愛いね。

という訳でブッチ。
なんだよお前、と頭を撫でながら、
俺はお前と一緒にいることで人間を取り戻している気がしてたんだよ。

人と人、犬と犬、人と犬。
まさに感謝の連鎖反応。
心と心のすべてのつながり合いが、互いへの感謝の気持ちで紡ぎあっていく。

なんて話をしていたら、二匹の犬がじゃれついてきて、さあ、ボール投げて、と弾けそうな笑顔。

ほら、取ってこい!と高く投げあげたボール。

思わず走りだすレスキュードッグたち。

脱兎のごとく走りだすブッチの後ろから、
まだ足を引きずりながら、でもしっかりと後ろ足を使って歩くデキシィ。
まさに、生きているのが、楽しくて楽しくてたまならい、といった感じ。

がんばれ、がんばれ、もう一歩、あと少し。
良かったな、本当に、良かったな。
戻ってくるたびに、思わず抱きしめて撫で上げて頬ずりして。

良かったな、がんばったな、ありがとな。幸せに暮らせよ。

そんな俺の後ろから、いきなりブッチが飛び蹴り。

おい、早くボール投げろよ!

うっし、もう一発!

土曜日の朝から、思い切り洗い流された気分だった。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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